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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-24℃

遅くなると言いながらもならなかったりしました。


では、お楽しみください。

 カイルについて廊下を歩いてゆく……何気に彼がこちらの歩幅に合わせてゆっくり歩いていた事に気付いた…


『こんな気遣いが憎らしいな……』


 マトリーシェの声にアイリスは同意した…時折見せる彼の優しさはマトリーシェをも惹き付けている事を実感した。

今の彼女からは慈愛と友愛……思慕の感情が感じられた。

実際は昂る感情をアイリスに気付かれまいと抑えるのに必死だったのだが……この感情はアイリスの物だろうか?それとも……

その横顔を見上げた……

銀の髪、真っ直ぐな眼差し、身長も確かこれぐらいだった……

髪の色は違うが、マトリーシェの記憶の中のあの人に良く似ていた……


「…?どうした」

「…ううん」


私の視線に気付いた彼の問い掛けに私は首をふった……


このままこのアイリスに全てを委ねてこの微睡む様な暖かい時間を過ごせばいい………それがきっと最善の―


『否』


心の奥底からマトリーシェが否定する。


『この時間は偽りの時……まやかしでしかないのだ』


そんな筈はない……この優しい時間は確かに此処に存在する……


『あぁ…アイリス…憐れな娘……この道の先に絶望があるとも知らず……』


そんな事はない……この先も二人がいて……紫音やイリュがいて……皆…皆、笑顔のまま過ごして行ける……


『……男は裏切る生き物なのよ……きっとこの男も貴女を裏切る……貴女よりも他の女を選ぶ……』


違う!そんな事は無い!


『……いいわ…でも忘れないで……この男はきっと貴女を見捨てるから』






 アイリスの用いた666式結界「獣の(ナンバー・オブ)数式ビースト」それは攻撃に対して最高の部類の防御を誇っていた……力ずくてモネリスやルミナリスを奪いに来るかと予想し、この結界を発動したが、マトリーシェは見事にこの結界の弱点を突いてきた……

 その弱点とは間接的な攻撃には防御手段を持たないのだ。

マトリーシェは「精神接続マインドコネクト」により強制的に意識を繋げ、以来言葉巧みにアイリスに語りかけていた……

時には今の様に「自動人形オートマトン」の意識をアイリスに与えてみたりした。

その場合はテレビか何かを見ている様な感覚だが、確かに自分の意思で行動することが出来た。

しかしアイリスがマトリーシェにとって不利益な行動を取ろうとすると瞬時に意識はすり替えられてしまうのだった。

………兎に角アイリスの意識を懐柔しようとしていた。

目的はこの体も心も乗っ取る為なのは十分理解できた。


(ならば尚更負けられない)


持ち前の精神力で二人の勝負は拮抗していた。

アイリスが負ける事は……全ての終わりを示していた。


(私は負けない……私はカイルを信じている)


今は一時的にマトリーシェによりこの体の自由を与えられていた為、アイリスは勇気を出して彼の手を握った。

それに気付いた彼は視線を向けると優しく微笑んだ……それだけでアイリスは心に暖かいものを感じられた。


『………』


その笑顔はあの男を彷彿させた……

このまま彼の笑顔が見られるならアイリスに全てを委ねて……

マトリーシェも今のこの瞬間に幸せな時間をすごしていた……

これは彼女にとっても賭けであり、勝負だった。

アイリスの結界を破らない限り再び力を取り戻す事は出来ない……

意識を繋げる事で逆に相手の意識に飲まれる可能性も在るのだ。


『……それでもこの男は裏切る』


もはや互いの力は互角であった……

勝負が決まるとすれば、後は運だけであった。










「次の授業で使う結界の準備を……」

「……自分でやれよ……」


 カイルは文句を言いながらも道具を手にして歩き出す……

私もそれに習い歩き出す。

日常のよくある風景の一つかも知れないけど……私にとってはかえがえのない一瞬



『……』


さっきから私の中のマトリーシェの声は聞こえない……

彼女もこの一瞬の素晴らしさが理解できていると信じたい……


ふと、視線に気付いて顔をあげた……

向こうでカイルがこちらを見ていた……


「アイリスは…俺の事信頼してる?」


 過去、幾度となく繰り返されてきた質問だ。


「えぇ…カイルを信頼しているわ」

「……すまない」


その顔は今にも泣き出しそうだった。

その瞬間、私の周囲に光が走り、魔方陣が出来上がった……結界だ……

私を閉じ込める為の………


「……何故?」

「……すまない…アイリス」


その言葉の意味が理解できない私はそのまま意識を手放した。







 若草の庭……そのテラスに座り込むアイリス……傍らにはモネリスとルミナリスが倒れている……気を失っている様だ……

 アイリスの両目からは止めどなく涙が溢れ、頬を伝いその下にある彼女の両手を濡らした。

そのアイリスの影から一人の女性が起き上がる………


「……マトリーシェ」

「…危なかった……実に危なかったよ……後、ほんの数秒でもお前の心が折れなかったら、今ごろお前の意識に飲まれて居ただろうよ……」


アイリスの結界はその効果を失い、崩れ落ちる砂の城の様に二人の間から消え去った……


「………」

「……ふふっ……ふはははははっ!勝った!私の勝ちだ!アイリス!言っただろう!この男はお前を裏切ると!」


既に答えは与えていた………アイリスマトリーシェであると。

…運はマトリーシェに味方した。

カイル達は必ずマトリーシェを拘束するだろう……アイリスを救うために……そこが最大の勝負所だった。

実際は裏切りにはならないが、アイリスの感じる範囲内では裏切りと取れるだろう……その様に言い続けたのだから。

このタイミングで仕掛けてくれたカイルには感謝しなければならない。

アイリスに奪われかけていた意識を押し返し、今度はアイリスの意識を奪い取る……


「はははははっ!裏切った!裏切ったぞ!あいつはお前を騙したのだ!お前の信じる心を踏みにじったのだ!」

「…嘘……違う……違う」


未だに否定する精神力を持っている事は驚きだが、最早、時間の問題だ。

彼女アイリスの側に歩みより、その両肩を掴んだ。


「…可愛そうなアイリス……悲しいな……悲しいよな?……私はお前の気持ちが痛いほど良く判る……大丈夫……大丈夫だ…私が取り戻してやる……あの男をお前だけのモノにしてやる」

「…カイルを……私だけのモノに?」

「そうだ…この世界でずっと二人だ…他の邪魔な者は私が全て始末してやる………さぁ!その心を開け!私に全てを差し出すのだ!」








 魔方陣の中で横たわるアイリス……

気を失う瞬間……

感情が出せない筈が酷く悲しそうな表情に見えた……


「…最低だな……」


 それを見つめるカイルが不意に口にした言葉……それは自分に向けた言葉かそれとも他の者に向けた言葉か……

私はかける言葉が見当たらず、只、沈黙するだけだった。


「………イリット…ネルに連絡を…… 」


そう言いかけて彼は振り返った……

アイリスは倒れたままだ。


「…?!馬鹿な!」


それは有り得ない事だった。

魔力を封じる結界の中で、アイリスの魔力がどんどん増大していた……

やがて魔力が渦を巻き結界を弾け壊し、凄まじい風圧がカイル達を襲った。

ゆっくりと起き上がるアイリスの姿は変貌を遂げていた。

髪は美しい金色に……体つきも少女から大人のそれに変わっていた……

その目付きは鋭く、二人はその視線から動くことは出来ないでいた。


「ふふふ…はじめまして……かな?カイル:アルヴァレル……イングリッド:ギゼルヴァルト……」

「……マトリーシェ……」


マトリーシェは優雅に一礼をした……その内に秘める凶悪な力とは裏腹に………

次こそは遅れます……


とか言いながらも……


いやホントに遅れますって……



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