ー21℃
遅くなりました。
お楽しみください
朝、日頃の癖で早くに目覚めた……
そこで昨夜のカイルの部屋での出来事が思い出され無性に落ち込んだ。
「ええい!ままよっ!」
着替えてからキッチンに顔を出すと彼の姿は無かった……が
何故かアイリスが料理をしていた……料理?!
過去に一度アイリスが私を手伝ってくれた事があった……いや、思い出すのはよそう。
「おはよう……紫音」
「おはよう……アイリス……何を?」
おそるおそる覗き込む……ああっ!神よっ!
「…たまにはカイルに手料理を……ねぇ、何か失礼な事考えてない?」
彼女が包丁を手にしていたので全力で首を振った。
背後で人の来る気配がした……
「……おはよう」
「おは…よう…?アイリス?」
そこにやって来たカイルと顔を合わせ挨拶の後でつい目を背けた……彼もやや歯切れの悪い挨拶をする……
昨晩は雰囲気的にアーガイルっぽかったし…仕方ないか……と、割り切る事にした…
しかしながら二人はアイリスの行動にに不安を隠せない様子だった。
「今朝は私が作るから……二人とも座って待ってて」
魔力が充実しているのだろうか…
普段の彼女からは感じられない活発さを感じた。
「…何か…あったのか?」
「…こちらが聞きたいくらいなんだけど……」
カイルには心当たりの見当はついていたが今の段階で口にすることは避けたかった。
その後もアイリシアとイリュも目を丸くして朝から振る舞われるであろう蒟蒻のフルコースを想像して戦慄した……が
出された食事はごく普通の物ばかりだった。
「…あっ…このスープ美味しい……下味は何?」
「それは鶏肉とハーブを……」
「…このハム…ワインに会うなぁ…」
「おかわりー」
朝からワイワイとガールズトークが盛んに行われカイルは一人肩身の狭い思いをするのだった。
(……しかしこれはどうしたものか…)
アイリスらしからぬ行動に警戒したが、態度も普段と変わらず、食事も全く普通の物だった……いや、前回彼女が作った料理は口にする事が困難な物だった筈だ……短期間でこんなに上達するのも異常だ……一体……
「でも…一体どうしたの?この前『料理が作れなくても生きていける』って言ってたのに……」
「…あれは近年希に見る名言だったな」
「だね」
アイリスの名言に対してアイリシアとイリュが同意の意を示した……てか
名言じゃないから……それとお前達も少しは料理を習えよ……
と、心の中で悪態をつきながらも空気を読んだ紫音の質問に称賛を送った。
「…それは……」
「……それは?」
アイリスの視線がこちらに向いたので全員の視線が集まった……
「愛する人に……食べて貰いたいから……」
「「「「!!」」」」
相変わらず感情が読めないがなんと無く照れている様に見える……
同じ様に紫音が顔を真っ赤にしていた
「アイリスってば大胆ね……何で紫音が照れてるの?」
「…だって……告白とか初めて見たから……」
「…若いって…素敵ね」
女性陣の反応は様々だが……違うぞ……これはアイリスではなく『魔女』マトリーシェの罠だ……
「……美味しい?」
「えっ…あ、うん美味しいぞ、あ、おかわり貰えるか?」
「…良かった……待っててね」
アイリスが皿をとりキッチンに向かった……残された女性陣の視線が痛い。
「すんなり肯定しちゃうんだ……まぁ私は構わないけどね……これでご飯の心配も当分しなくて済みそうだし」
「…私はマスターのすることには口出しはしませんが……しませんけど……アイリスを助ける為に色々と手を尽くしたし……いや、そこに下心があったと言って私は軽蔑なんかしないから」
とは言いながらイリュの態度が冷たい …言葉にも若干刺々しいものを感じる……紫音に関してはイリュの言葉に昨夜の事を思い出したのか『変態』とか『きのこ男』とか呟いている……
(これは…マトリーシェの精神攻撃なのか?そもそも本当にマトリーシェなのか?)
やや大胆な気はするが、普段と変わり無い彼女の態度に不安を覚える……
しかし、昨夜見た『記憶の追体験』により、既にあのデスサイズに関わっている事は間違いないのだ。
登校中もアイリスの様子に変化は無かった……
しかし何か違和感を感じる……周囲の視線がいつもより多い気がするのだ。
イリュ、アイリス、紫音……この三人は其々顔立ちも良く、男なら10人中8人は振り替えるだろう……
その三人が一緒に居るのだ…目立たない訳がない…毎朝通学路や駅はむさ苦しい男共が…………
周囲を見回すと今日はやけに女子の姿が見受けられた……
イリュを『お姉さま』と慕う連中だろうか?
一人の少女が前を歩くイリュ達の………側を通り過ぎ俺の前に来た。
「あっ…あの…カイルさんっ!」
「?」
制服のラインを見る限り…黄色、一年生の様だ……少し癖っ毛のある栗毛は仔犬の様な印象を受けるが肩まで切り揃えられた髪型と大きな瞳……緊張しているのかその色は深い緑だった……
しかし彼女には見覚えがない。
「こ…これ…読んでください!」
差し出された封書を反射的に受け取るとそのまま廻れ右して走り去った…… それは淡いピンクの封筒……ハートのシールが貼ってあった……
「……何なんだ?今のは?」
状況が飲み込めないカイルは助けを求めるようにイリュ達を見るが、返ってきたのは『やれやれ…』といった、なかば呆れた様な仕草だった。
「『希薄な存在』が無効化されて……「カイル…先週末の授業で西園寺と闘った時に解除したよね?」…………あっ?」
その言葉を合図に周囲の女生徒達が殺到する……
「あのっ…私もこれ…」
「カイルさん私のメアド……」
「お弁当を作ってきました!」
「……もう……抱いてっ!」
一斉に手紙を差し出すやら、品物を手渡すやらあまつさえ抱きついてくるやら……
その全てをかわしながらイリュに目配せする。
『なんとかしろっ!』
『無理、男冥利に尽きますね』
その視線は冷ややかだった……いや 他の女性陣も似たような視線だった。
「…ちっ!ちくしょー!」
カイルは駆け出し、彼を追って多数の女性徒が角を曲がって行く……が
そこで彼の姿を見失った。
「?どこっ?みんな探してっ!」
「私達はこっちを!あなたたちは向こうを探して!」
今日顔を合わせたばかりの女性達がやたらと統率の取れた動きで捜索にあたる……
(…女は怖いな……)
風の精霊の力を借りて姿を消したカイルはひっそりと学園へと向かうのだった。
次回もやや遅れる予定です。




