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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-17℃



 


紫音はゆっくりと起き上がった。

……何か夢を見ていた気がする……

内容は思い出せない……頬に触ると涙の跡があった……


(私…泣いていた?)


 しかしいくら考えても夢の内容は思い出せなかった。

ベッドから抜け出すと備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し喉を潤した……


(…そっか…カイル居ないんだった)


 各階に簡易キッチンがあり、休日は各自………ということだったが、此処に来て以来、常に皆が揃って食事をとっていた。

自炊経験からして気がつけばカイルの不在時の料理責任者の地位を(勝手に)与えられていた。

着替えをすませるとキッチンに向かう……

流しには大量のワインの空瓶やグラスが放置されていた……その向こうのソファーで下着姿のアイリシアさんが残念な格好で寝ていた。


「…アイリシアさん…風邪引きますよ」

「…う…ん……らめぇ…もうお腹一杯だよぅ……」


 ベタな寝言を発する彼女はこのまま放置しておく事にした。

今起こしても起きないし食事が出来るまでは動かないだろうし……

そこでふと、アイリスが珍しく居ない事に気付いた……

此処最近の彼女の異変が気になりながらも元々の体力の無さが気になり準備が終わると部屋を覗く事にした……






「…アイリス?」


ノックに返事が無いのでドアを開けて覗き込んだ……まだ眠っている様だ…

規則正しく動く呼吸の振動が彼女の無事を表していた……

ゆっくりとドアを閉めるとそのままイリュを起こす事にした。




 吹き抜けの交差階段を登り、三階のイリュの部屋にやって来た……勿論ノックの返事は無い。

ドアを開けて覗いて見ると、ベッドの上でその裸体を惜し気も無くさらけ出していた…私にそんな趣味はないけど思わず唾を飲み下してしまう。


「……イリュ…風邪ひくよ…」


少しドキドキしながら布団をかける…… 視界が反転して気がつけばベッドの上に居た……

イリュにベッドに引き込まれたらしい。


「えっ?ちょっ…イリュ?!ああっ」


背後から抱き締められる形でイリュが私の首筋に軽くキスをしてくる……その手は私の服の中に侵入して来ていた。


「!?〆£%#♀♀*!!!!」


声にならない声で必死に抵抗する……


「あふん……カイル……」

「ちょっ…イリュ……いい加減にっ!!」


 寝惚けてカイルと勘違いしているのか……何と言うか……エロい!

気がつけば魔眼を発動してイリュを壁際まで吹き飛ばしていた……逆立ちを失敗した様な格好でようやくイリュの視点が定まった……


「……あれ?…おはよう紫音…カイルは?」

「知らないっ!」


 顔を真っ赤にしたままそう言って部屋を出た……

最近わかったが、イリュは魔力が不足すると非常に思考が低下する……

先日も違うクラスに入ってしまったり、帰りの魔導列車を乗り違えたり……今の様に朝は特に寝惚けて襲われる事が多々ある。

 下に降りているとアイリスが立っていた……


「…おはようアイリス」

「………おはよう……今朝も…大変だった?」

「…あはは…」


 私の魔眼を見て、何が起きたか理解してくれたらしい

彼女は毎回イリュを起こす事に苦戦している事実を知る数少ない理解者であった。


「食事…どうする?」

「……蒟蒻……ある?」

「勿論」

「……じゃあ……食べる」


魔力が少ないのか彼女の動作も気だるげだった…… が、その視線は力強いものだった。


(…よかった…いつものアイリスだ)


ここ数日、彼女に対して何処と無く感じていた違和感は今は感じられなかった……


(…やはり私の気のせいか……)


そう思った……いや、思い込もうとしていた。







 食卓に四人が揃う……

優雅に蒟蒻を食すアイリス……

豪快に肉にかぶりつくイリュ……

既に2本目のボトルを空けていたアイリシア……

普通にご飯と味噌汁の私……うん…突っ込み所満載だけどこれがここの日常なので出掛かっている言葉を飲み込む。

律子は週末は実家の為今は居ない。


「そう言えばさぁ…」


ホロ酔いのアイリシアがそう切り出した。


「夕べなんか開発地区の方が騒がしく無かった?夜中に火柱みたいなのが見えたんだけど……」

「それで此処で寝てたんですか………私はよく寝てたので判りませんが…」


何となくイリュを見た……


「…昨日は休めと言われてたから……微かに魔力の動きは感じた気がするけど……」


 言い付け通りに休んでいたらしい……

アイリスが思い出した様にテレビをつけた……

工場地帯で爆発騒ぎか?みたいな見出しで中継をしていた。


「……これみたい」


そのまま皆がテレビに見入っていた。





  *****


 皆がテレビを見始めたのでアイリスもその画面に視線を向けた……

半壊した建物や必死に消化活動を行う様子が流されていた……


(捏造された映像だ……)


 アイリス……今はマトリーシェと成った彼女はそう思った……

あの場を離脱する際に見た光景は、あの娘が放った弾丸により『反物質爆発ネガフレア』を起こし広範囲に渡り破壊されていた……

その威力は結界の外にも干渉し、少なからずこんなモノでは無い筈だ。


(しかし……あの娘……)


マトリーシェは伊織を過小評価していたと反省した。 あの召喚された存在とカイルが何らかの手を施した武器の恩恵があるとは言え、反物質を前に自我を保てる精神力を兼ね備えていた。


(全く…人間はいつも私の予想を裏切ってくれるな……)






 デスサイズが機能を停止した所にカイルの魔法が直撃し残留していた半物質により『反物質爆発ネガフレア』を起こした。

その衝撃にマトリーシェは吹き飛ばされ、風の精霊達に結界の外まで転位させて貰った。

デスサイズが結界を損傷させていたらしく、効果が薄れていた……本来なら内部のダメージは外には洩らすことは無いのだが……

そこには深く抉り取られた地面があった……

あの規模の爆発でこの程度の被害で済む筈が無い……カイルが何かしでかしたに違いないと確信する。

 不意に視界が揺らいだ……


(?!……何だ?これは……)


 意識を失いそうな虚脱感が襲った……

マトリーシェは精霊に再び指示を出すと意識を手放した。

精霊達は指示に従い、彼女を部屋のベッドの中に送り届けた……

ラプラスにも気付かれては居ない筈だ……


 それはアイリスを悩ませていた魔力の不足から来る貧血に似た症状だった……

人格は変わっても体は一つしかない……当然マトリーシェにとっても死活問題だ。


「ぬぅ…厄介な身体だ…これも封印の影響か……仕方あるまい」


 マトリーシェは『自動人形オートマトン』の魔法でアイリスの写し身を作り出した……

アイリスの情報はモネリスもルミナリスも…そしてマトリーシェも共有している……そこから得た情報を元にこの写し身は作り出された……

その完成度は高く、ちょっとやそっとでは見分けはつかないだろう…これによってアイリスをいつもどうりに活動させて自分たちはチャットルームに入り込み、魔力の消費を抑えることにした。

 マトリーシェが魔力を分け与えた身代わりの彼女ならカイルの魔力補給以外で周囲の魔素を集めて通常通りに活動することが出来る…

魔素不足はマトリーシェが発現することで解消されたかと思われたが……思った以上に深刻な問題のようだ。

カイルの事もだが紫音の魔眼やこの館の『ラプラス』も気になる存在だが、今は自分の安定化が優先だ。

暫くはこれで大人しくすることにした。



 視線を戻したニュースの映像の中に写

された場面を見てマトリーシェは内心笑みを浮かべた……


「生きていたか……娘」


それは手当てを受ける人の中に居た伊織の姿だった。









「……と、言う訳だ……」


 マードック隊長以下その場に居た全員に結界の内部で起きた事を話した。

……全員、何とも言えない顔をしている……当然だけど……


「信じられないのは判るが……事実なんだ」

「…しかし半物質とか…いや…でも……うん…あの少年なら有り得るかも……」


鉄平が微妙に納得した顔で頷いた。


「…あの大地の傷跡を見れば…満更でもないしな…」


 キースも同意した。

カイルに会った人物は何処と無く彼の異常な強さを感じていた。

なにも言わないがそれマードックも同じであった。


「…取り合えず全員一旦本部に帰還し、解散だ…報告書は明日でいい……伊織は少し残ってくれ」


マードックの言葉に従い、全員装備を持って車に向かう…… 鉄平とキースも『お先』と言って車に向かった…

代わりにやって来た解析班がぞろぞろと現場に向かった。


「…随分と派手にやったわね……マードック」

「……小夜子か……」


 そこに居たのは長い黒髪のソバージュを一つ括りにした見た目20題後半の眼鏡の女性が居た。

解析班の班長、菊地小夜子だった。


「…お疲れ様、伊織ちゃん」

「…小夜子さん、ちゃん付けは止めてください」

「うふふ…それよりも…素敵な男の子と初体験しちゃったんだって?」

「!?…なっなっ何を馬鹿な!!…はっ初体験とか言うな!」

「あらあら…赤くなっちゃって?何?イケメン?紹介しなさいよ? 」

「…いや…私達はそう言った関係じゃなくて……かっからかうなよ!」

「………」


 二人のやり取りを見てマードックは確信した……

伊織は親友の大事な娘だ……小さな頃から知っている。

マードックにとっても娘同然の存在だった……それ故に伊織の性格も解っているつもりだ……


(…まずい…非常に不味いぞ…!)


 伊織の性格を言葉で現すなら、

『強がり』『負けず嫌い』『一途』だ 。

もっと判りやすく言うと

『ツンデレ』傾向にあると言っていい。

強さを追い求める伊織だからこそ、自らよりも強い存在に惹かれてしまう…

その点では今回の出逢いは申し分無い。

この反応を見ていれば誰が見ても判るだろう…… あぁ彼女の父親にどう報告すればいい?


「…カイル・アルヴァレルめ……厄介事を増やしやがって」


マードックは大きくため息を吐いて、この場に居ない銀髪の少年を内心呪うのだった。



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