-16℃
遅くなりました。
少し急ぎ足ぎみですが
お楽しみください。
「炎の槍」
『真空波』
カイルとスペルワーカーが次々と魔法を放つが全て無効化されてしまう……
「咎人の剣」で隙をついても、その強力な外殻は傷つける事すら出来ない。
『魔剣』の「魂喰らい(ソウルイート)」を使えば倒せるだろうが、これ程の凶獣を葬るには伊織はおろか周囲の一般人の命は確実に喰らってしまうだろう……
「……魔力供給を遮断するぞ……7割りを越えている……」
アーガイルの言葉通りにその右肩の「暗黒の聖翼」は肥大化を続け、今や彼の背中……頬にまで拡がっていた。
「…待てよ…ようやく攻略法が見えてきたんだからよ…」
『……ホントか?なら今すぐに…』
「待て……少し準備が要るんだよ……」
右手で印を結び、小型の結界を作るとそこに手を突っ込んだ……やがて二つの物体を引きずり出した。
それはバレーボールぐらいのサイズで丸く、青とピンクだった…やがてそれがもこもこと動きだしカイルの手から離れると、着地した…
それはゆっくりと起き上がりカイルに向けて指差し、こう叫んだ。
『てめぇ!何しやがる!俺様を刀神ヘッジホッグの末裔……なんだカイルか……』
そう騒ぎ立てるのは二頭身の小さな妖精……青い髪が足元にまで届きそうな程ふさふさと揺れている……
『…カイル様、驚いてしまいましたわ……私の様な、か弱い神霊を鷲掴みされるなんて……』
おっとりとした口調で話すのは桃色の髪をした小さな妖精……その服装から女性(?)だと憶測できる
二人は刀の神の神霊、「無限の剣山」の兄妹だった。
「すまんなヘッジス、ホグシー緊急なんだ……」
カイルはその頭に手のひらを被せると思考を伝達した。
『……相変わらず厄介な事に巻き込まれてるなぁ…』
『流石はカイル様ですわ』
「…そんな訳で頼まれてくれるか?」
両手に二人を乗せると迫りくる鎌をかわして移動を始めた。
『仕方ないなぁ……今度旨い物供えろよな』
『お任せくださいカイル様 必ずや貴方のお役に立ってみせますわ』
対照的な物言いの二人は瞬時に姿を消して、伊織の傍にやってきた。
一瞬身構えた伊織だったがその見た目に心を奪われてしまった。
「………可愛い……」
『嬢ちゃん…今から作戦を説明するぜ』
『チャンスは一度、失敗は許されませんわ…貴女も女の端くれなら、カイル様の御期待に応えなければなりませんよ?』
「?えっ?何…が…」
二人の髪が長く広く伊織を覆い尽くした……
*******
マトリーシェは小さく欠伸をすると再びカイルに視線を戻した……
先程、何かを召喚したみたいだがその気配は直ぐに消えていた……
(召喚に失敗?いや…まさか……)
気がつけばあの女の気配が消えていた……この場から逃がしたのか……彼らしいと言えば彼らしい……では何かを仕掛けるつもりか?
その予想は当たっていたカイルの体から凄まじい魔力が立ち上ぼり、高位な魔法を行使しようとしているのが伺えた。
「幻身分離」
カイルの体がブレるとその体は二人に別れた……銀髪のカイル……そして黒髪のアーガイル……
魔導人格である筈のアーガイルに魔力で実体を作り出したのだ……それは完全に個人としての機能を果たしていた。
その体は『加速』の効果もあり瞬時にデスサイズを挟み込んでいた。
『重力砲撃』
二人の声と動きが完全にリンクしている……その動きには寸分の狂いも無く、ほぼ同質量の重力が発生した……が
通常であれば打ち抜く筈が球体のまま固定されていた。
デスサイズはその動作に追いつけずに鎌で防御の姿勢をとった……
二人のカイルの間に閃光が走り、その中間に居るデスサイズには凄まじいいGが襲い掛かった……
『共鳴』
二つのほぼ均等な重力場により周囲の空間密度は瞬時に跳ね上がった。
デスサイズは動くことも出来ず、その体に押しかかる衝撃に耐えていた。
それを見たマトリーシェは彼の観察力の高さを絶賛した。
デスサイズの鎌は魔法を切り裂けば無効化出来るが……逆に切る事が出来なければ無効化出来ない。
そのルールが無ければデスサイズの存在自体が無効とされてしまうのだ。
デスサイズの甲殻に亀裂が走る……増大した負荷にその巨体が耐えられなくなっているのだ。
デスサイズはその巨体を無理やり捻り込み、わき腹の二本の鎌を犠牲にしてカイルの魔法を切り裂き無効化した。
その瞬間肩口の甲殻が開き体内から蒸気のような物を排熱した……
人間と同じ様に魔法熱で魔核へのダメージを軽減しているのだ……
勿論このチャンスをカイルが見逃すはずも無く、既に大呪文の詠唱を完了させていた。
「聖光魔導砲!」
『暗黒魔導砲!』
デスサイズを挟み、光の閃光が…暗黒の魔光が襲い掛かった。
ダメージを回復仕切れて居ないデスサイズは再びその鎌で防御の姿勢に入る……先程の攻撃の際もそうだがこの鎌には「耐久」の効果も持ち合わせている様だ…耐えれば耐えるほど体内に蓄積される魔法熱の量は増大する。
拮抗する光と闇の間にきらきらと光る小さな球体が現れた……
『反物質』
異なる属性の力の反発が一定量を超えると顕現する危険な物質だ……一言で言うなら「無」である。
「今だ!やれ!」
カイルの声に反応して空中に伊織の姿が現れた……右肩にはヘッジス左肩にはホグシーを乗せている。
神霊の髪が長く広がり色の違う一対の翼を生やしている様に見えた。
ヘッジスが「完全なる不可視化」を
ホグシーが「絶対世界の眼」を伊織に対して発動していた。
「ま…魔力装填!」
彼女の突き出した「穿つ者」が周囲に広がる反物質の塊を吸収する……
カイルに弄られ恐ろしいまでの耐久力を得た銃だからこそできる神業であった。
デスサイズが苦悶の雄叫びを上げ肩口の甲殻が開いた。
「反物質弾!」
打ち出された弾丸は吸い込まれるようにその小さな隙間に消えていった…そしてデスサイズの胸部分が空間ごと削り取られた。
デスサイズは自身に何が起こったのか理解できないだろう。その眼からは光が失われ、その両鎌は力を失いだらりと下がる……
瞬間、光と闇の波動が殺到し激しい爆発が巻き起こった。
その爆炎に巻き込まれそうになった伊織をカイルがすばやく抱きとめて近くの建物に避難した。
「ご苦労さん…助かったよ」
「………ねえ……今の何?何なんだよ?」
最早展開について行けずにカイルに掴み掛かる伊織に背後からアーガイルが手刀を見舞った。
「…手荒な真似は…」
『いちいち説明なんか面倒くせえだろ!?それよりもお前も「暴走」する前に発散しとけよ!」
伊織を抱きとめるとアーガイルに文句を言ったが既に右肩に戻ってしまっていた……まあ彼の言い分も一理ある。
結界を解除すると他の隊員が来る前に失礼するとしよう。
「ヘッジス…ホグシ有難う…ホグシーこの結界の中に他に誰か居なかったかい?」
「…カイル様…よくつかめない気配が一つありました…先ほどの爆発の際に消えてしまいましたが…すみません」
二人を拾い上げ報告を聞いた後で見送った……やはり第三者の監視があったか……
戦闘中に何度か気になる視線を感じてはいた。
「…とりあえずここは任せてイリットの所に戻ろうかな……」
近づく隊員たちの気配を感じると伊織を安全な場所に降ろすと彼の姿は再び景色に溶け込むように消えていった。
次回も少し遅れてしまいそうですがご了承ください。