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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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-8℃


「……少し……やり過ぎじゃないかと思うのだけど……」


 アイリスはおずおずと二人に言ってみた……モネリスは鼻を鳴らし、ルミナリスはそんな二人を一瞥した。

 今は深夜だが、チャットルーム内は昼間の様に明るく過ごしやすかった。

アイリスの言葉にルミナリスは手に持っていたティーカップを静かに置いた。


「アイリスはカイルの事……好き?」


ルミナリスからの問いに一瞬戸惑ったが素直に頷いた。


「…そうよね……貴女にその気持ちが無いと、私達も同じ気持ちにはならないもの……」


私と同じ顔をしているが諭すように話し掛ける仕草は彼女の人格形成の基となった姉、

ルミナスに良く似ていた………今の話はあくまでもルミナリスであって

ルミナスお姉さまのことでは無いよね?………そうであると祈りたい。


「…でもね、アイリス……男は裏切る生き物なのよ?」

「そんな事ないよ!」

「…ううん…私は知っているの……男は自分の都合で女を平気で切り捨てるの…だから…

心も体も魂までも私から離れられない様にしっかりと刻み込んであげないといけないわ」


 ルミナリスの瞳が妖しく輝いた……

アイリスは瞬時に悟った…これは姉の魔力から生まれた存在……ルミナリスではないと。


「貴女は誰?本当のルミナリスはどうしたの?!」


現実世界と違い、此処では怒りの感情を露にするアイリスを尻目にルミナリスはゆっくりと近付いてきた……


「誰?ですって?…ウフフ…アイリス…貴女も私も同じでしょう?」


ルミナリスの言う様に、アイリスの体中に蓄積された姉達の魔力により生まれた『ルミナス的なアイリス』と『アネモネ的なアイリス』がルミナリスでありモネリスであった……三人は意識と情報を共有していた為、お互いの存在に干渉する事は皆無だ……

その為、モネリスは自我を持ちながらもアイリスの話し相手となりもう一人の姉として今日までのアイリスを支えてきた……


しかし先日現れたルミナリスはと言うと、アイリスは正直馴染めないでいた……


……怖い……


それがルミナリスへの第一印象だった。姉の様ににこやかに微笑んではいるがその瞳に宿る妖艶な光はあの重い扉の向こうの『あの人』と同じものを感じさせた。


ふと気付くと隣にモネリスが居た……異変に気付き加勢に来てくれた様だった………


しかし


そうであればどんなに良かった事か……


モネリスはアイリスの腕を掴むと目の前のルミナリスと同じ様な笑みを浮かべた……


「?!モネリス……貴女まで……!」

「「……怖くないよ?アイリス……さぁ!一つになろう!」」


二人の口から同じ言葉が発せられた……どうしよう……アネモネを力ずくでも振りほどき二人を無力化すべきだろか?

それとも『あの人』のいる扉を更に強固な封印を……


精神麻痺マインドパラライズ!』


一瞬の躊躇を突かれ、アネモネの放った魔法に先を越された……只の精神安定にも使用する魔法だが、

このチャットルーム内で精神的な存在と化している私達には十分すぎる効果だった。


「あぐっ!」


モネリスに支えられていなければこのままテーブルごと、地面に倒れていたであろう衝撃が全身を襲った。


「…モネリス……何を……」

「…アイリス…これ以上…抵抗はよせ……」


アイリスはモネリスを睨み付け、そして自身の過ちに気付いた……モネリスは泣いていた、

正面のルミナリスを見る……彼女もまた無言のまま涙を流していた。


(二人供操られている?!)


「あの人」を甘く見ていた……それともここ最近の毎日にうつつを抜かして、緊張感が欠けていたのだろうか?なんという失態!

まず最初に疑うべき事案であったにも関わらず、初めて会うルミナリスに気をとられていた……


『…仕方の無いことだよ…私がそう思うように仕向けたのだから』


あの声と共に空間に一枚の重苦しい赤錆の鉄の扉が姿を現した……重苦しい音を立てて中から一人の女性が現れる………金の長い髪…

全てを射殺す様な切れ長の眼……見た者は間違いなく息を呑む程の美しさ…そして一部の者はこう言うだろう……


  『アイリス』  


そう髪の色や体系は若干大人びてはいるものの、その姿はアイリスそのものだった。


『久しいな……アイリス美しく成長したな』

「それは自分に似て美しくなったとでも言いたいのでしょうか?」

『クックック…手厳しいな』


忌々しげに見上げるアイリスの言葉にその女性は愉快そうに笑った。


『……あれから10年だ…あの時私はお前を子供だと思って油断していたよ……まさかこんな封印術を仕掛けてくるとは思いもよらなかったからな』

「では今すぐにでももう一度封印しなおしてさしあげます」

『アッハッハッハ…そんな様で何が出来ると言うんだい?私はこの日の為にそこの二人を時間をかけて操って来たんだからね!』


最初はモネリスの体を乗っ取りカイルの力を取り込み復活しようとしたあの時


『…あのおかしな小僧のおかげで折角モネリスの体を乗っ取ったのが水の泡にされてしまったよ…』


彼女は言った。あれ以来モネリスは私の存在に気付き、警戒していた……だからほんの少し、

毎日毎日誰も気が付かない程の少しの魔力をモネリスに送り続けたのだ、

いつの日にか再びその体を手足として使役する為に努力を重ねたのだと-

 その一方で同じく精神世界でその姿を具現化させつつあったルミナリスがこちらの存在に気が付き、妹を守ろうとする姉の精神からか

自らが盾となりこの数年間戦いを続けていたのだと……しかしその力に先日屈服し、モネリス同様にその精神と肉体を乗っ取ったのだと言う。

何ということだろうか……隣で涙を流す二人の姉の心を持った私の分身たちは懸命に私を守ろうとしてくれていたのだ。

アイリスは全てを悟った……『あの人』の狙いは私なのだと……この二人を使い私の体を乗っ取り再びこの世に生をうけようというのだろうか?


「そんなことはさせません」


アイリスはそう宣言すると彼女が手を着いている床の部分から魔方陣が展開し、彼女とモネリスとルミナリスを覆い尽くした……


『獣の数式ナンバーオブビースト……666式結界か…考えたな』


それは術式が生き物のように蠢き彼女たちの周囲を覆い結界のドームを形成した。

下手に攻撃を加えたら、その数式が敵とみなした者に攻撃…侵食を始める。

やがては数式の同様の結界内に封じられてしまう……しかしこの呪文はかつての魔界の貴族が己の護身用の為に用いた魔法で

完全なる防御と反撃手段を追求し生み出されたものではあるが『欠陥品』なのである…


『まあいい、お前たちはもう用済みだ、そこで私があの男をモノにするのを眺めていろ!』



彼女の周囲に氷の結晶が舞い、その姿をかき消すように螺旋を描くと何も無かったように静寂が訪れた。





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