ハジマリノトキ1
私は…宮薗紫音この春にこの学園に転校してきた。
勿論 魔眼保持者だ…が今は訳あって適合者となっている……私の魔眼については……今は話したくない。
実家は首都圏にあり 普通の家庭 普通の両親の元に生まれ 普通の人生を送るはずだった……
5歳の時に魔眼が発動した。
魔眼保持者「キャリア」だと言われた。
日常生活に問題は無いと言われたが……
問題だらけだった。
魔眼のお陰で友人と呼べる友人も出来ず…ひたすら他人との接触を避ける毎日………
よく引きこもりにならなかったと自分を褒めてあげたいくらいに普通に学校に通う毎日……
お世辞にも楽しいとは言い難い学校生活だった。
色々と苦労を重ね…ネガティブな人生を変えるべく今回 この学園都市に転入した。
高等部2年の微妙な時期の転入は両親も快くは思ってはくれなかっただろうが
私の意志の固さを知ると条件付きではあるが送り出してくれた。
「……ねぇ…毎朝来るけど…イリュの寮は大丈夫なの?」
ドアに鍵をかけながらふと疑問に口にしてみた。
ドアノブのセンサーに魔導リングをかざす。
指輪が鍵の役割を果たしてドアがロックされる。
この学園都市に住む者には全て支給されている品だ。
体内の微量な魔力を認識して本人確認を行う優れモノである。
鍵、身分証明、財布等その用途は広い。
「ん?何が?」
「時間とか…食事とか…」
確か寮母さんがいると聞いた気がした……いやコックさん?どちらにせよ料理を作ってくれる人が居る事は確かだった。
「んー大丈夫なんじゃないかな?別に何も言ってこないし…」
「…そうなんだ・・・」
その彼女の悪気の無い素振りに何故か私の方が罪悪感を感じてしまった。
きっと毎朝寮母さん(?)が朝食を用意してくれているだろうに…この子は全く…
「…でも…折角作ってくれてるんだから…申し訳ない気がするよ……」
「ん……じゃあ紫音がこっちに引っ越して一緒に食べるってのはどお?!」
「…だから…私は今の場所でいいんだってば…」
私の住むアパートは両親が知人の紹介で見つけてくれたものだ。
繁華街から徒歩10分 学園には徒歩15分…価格の割には中々の立地条件だった。
バス トイレ付き 小さいながらもキッチン完備 同じ敷地内に管理人の老夫婦が住んでいる。
日当たりの良い二階の一室を契約出来たのは 幸運であったとしか言いようがない。
「ちぇっ…いい作戦だと思ったのにな…」
「どこが作戦なのよ…」
なのにイリュが毎朝誘いに来る理由は2つ
一つは私の身を案じての事
イリュ曰く
「私の寮に侵入するには軍隊でも無理!!」
なんだそうだ……
実の所 先日この近辺で謎の爆発事故が起きているから……が本音らしい。
少し茶化している部分もあるが心配してくれている気持ちは少し嬉しかったりする。
もう一つは同じ寮生が気に入らないらしい……だから仲の良い私を引き込んでイチャイチャして見せ付けてやりたいんだとか……そこはご遠慮願いたいのですが…
その割合は後者が少し高かったりする様な気がする……
その為か私も首を縦には振らないのだった。
それ以前にイチャイチャする気も無いけど……
やがて 学園の敷地を表す中世風の石垣の壁が見えた。
まるまる都市があるのだからその規模は半端なものではない。
暫く進むと校門がある。
守衛が二人 常に交代制で在駐している。
その脇にある建物は守衛が数人待機しており近隣の警備を行ったりもしている。
門は東西南北の四ヶ所にあり更にその中間にもある。
計8ヵ所その全てが 守衛と リング認証のセキュリティである。
駅の改札口……と言えば解りやすいだろうか
?基本的には市街地同様に 攻撃魔法は全面禁止である。
敷地内で攻撃魔法が使用された場合敷地内に無数にあるセンサーがこれを感知し直ぐに解除魔法が発動されるらしい。
学校なので魔法の授業は勿論ある。
それらの場合は特別な施設を使用する事になっている。
これだけの施設の運営には途方もない費用がかかる………と思っていたら、意外なシステムが導入されていた。
それは 生徒から魔力を集めている事だった。
魔導リングから情報を受け取り 毎日 一定量の魔力を敷地内で吸収しているのだ。
火の魔力は火力や暖房 照明等に……水の魔力は水道 生活水に変換し使用する。
更に余分な魔力は都市に売却され 一般生活にも浸透している。
その収益は設備投資や 教員の給料になっている。
勿論 生徒は学費が大幅に免除される事もあるこの学園都市の魅力の一つとも言えるだろう。
門を過ぎた辺りでふと虚脱感があった…がすぐにその感覚は消える…
魔力が吸収されたようだ。横でイリュが怪訝な表情をしていた。
「……今日は…もう駄目かも…」
予想以上に魔力を吸収されたようだ……吸収には個人差がある、
イリュの様に強力な魔力の持ち主からは一定量の魔力を徴収するらしい。
学園の説明によれば魔力の保有量に応じて 1割から2割を徴収すると言っていたが……
「大丈夫?」
余りにも項垂れる様子に思わず声をかけた。
「……嬉しいわ……紫音!こんなにも貴女に愛されていたなんて……」
瞬間 抱きしめられた。
咄嗟の事で回避出来ずその場で悶絶する。
がすぐにその戒めから逃れようと抵抗を試みる。
「ちょー私はそんな趣味無いってばー!!」
その結果公衆の面前でイリュとの朝のふざけあいが再び勃発するのだった。
ほぼ毎日繰り返される日常風景に周囲も慣れたものであった。