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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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高校教師・中編

三部作になりました、チョイエロを含みます。

「…あっ」


 油断した隙に眼鏡を奪われた…

あれが無いと私は……


「…相変わらずだな」


カイルはその眼鏡を覗き込むと苦笑いを浮かべた…


「教師の癖に対人恐怖症だなんて……」


その通りだ…母親を早くに亡くした彼女は、幼少よりウルガノフ家の権力争いに巻き込まれ、人を信じられなくなっていた……

 信頼していた執事に刺されそうになったり、姉妹の様に育った侍女に毒を盛られたりもした。

唯一心を許せる存在が親友のアネモネだけだった。

そのアネモネがある日この眼鏡を持ってやって来た……人間界の土産だと言って。


 私は視力は悪くないのだが…その眼鏡をかけるとフィルター越しに世界を見ている様な感じだった……

人と接する時に相手がよく見えていないから恐怖をあまり感じなくなった。

これを機に、いつまでも怯えてばかりの人生を変えるため強くなろうと決心した。

アネモネがアイリスの付き添いで人間界に行くと聞いて私も同行させて貰った……人間界は想像以上の発見の連続だった。

中でもとりわけ私に衝撃を与えたのは『教師』との出会いだった。


 宿泊したホテルでテレビとか言う不思議な板の上で演劇が写し出されていた……

強力な権力を持つ家の娘が家に縛られず自らの道を歩む……その女性は眼鏡にジャージスタイルで教師という職業に就いていた……

さらにその女性の担任するクラスは戦闘力の高そうな猛者共ばかりのクラスであるにも関わらず絆を深めていく……という内容だった。


勿論、私がハマったのは言うまでもない……


眼鏡をかけた私は別人になれた…必死に高圧的な態度で理想とする教師を演じていたのだ。


「…淫乱教師は淫乱教師らしくしっかりとご奉仕しろよ」


 何故だろうか…頭では違うと否定したくても、アーガイルの命令口調に逆らえないでいた……それは魔族の本能……力こそが全てを支配する……

だからこそ、あんな暴力的な強さを見せられては本能の呪縛から逃れる事は出来ない……


「……はい…ご主人様……」




   **********




それでもハンギングベアの群れは魔方陣から召喚され続けてその勢いは一向に衰えない……


『…おい…このままじゃ埒があかねぇぞ』


彼の右肩に『眼』が現れた…その周りには『暗黒の聖翼ダーク・ウィンガル』が展開していた。


「魔導魔眼?!あの紋章は…?!」

「…わかってるよ…アーグ……アレを召喚して」

『…使えるのかよ?』

「…魔方陣まで道を開けたらいいんだ……先生!目を閉じていて!開けちゃ駄目だよ」


 言われるままに目を閉じた……

それを確認したカイルとアーガイルは『ソウルイーター』を召喚するのだった。




魂を揺さぶるような激しく、そしておぞましい波動が空間に満ちていた……先程からベアの断末魔の叫びがひっきりなしに聞こえていた。


  『好奇心は猫を殺す』


 昔、何でも知りたがる私に父が言った言葉だ……

今、起こっている出来事を見たい衝動に駆られ……薄く……目を開いた……


それは夥しい数のベアの死体の山……やがてそれは光の粒子になり霧散する……その先には黒い刀身の両手剣を振るうカイルの姿があった……

そしてその剣にある『眼』を見てしまった……何という禍々しい眼だろうか?

 魂の奥底まで見透すその眼は、私の全てを否定していた……奥歯がカチカチと音を立てて震えた……手足には力が入らず、危うく失禁してしまいそうだった……


それは絶対の『死』

父の警告を無視した私のいのちは好奇心により死の運命に遭遇してしまったのだ。


「いっ…いやぁぁぁぁっ!いやっ!やっ!!!!」


 私は恐慌状態に陥った……その結果、私の精神波動を基礎に発動されていた聖愛女神アフロディーティアは、

その効果を維持出来なくなり、その効果を停止した…… いままでその存在が認識されていなかった彼女がこの場に姿を現した………

数匹のベアが私に気づいてこちらに殺到した……


「ちぃっ!」


 カイルはソウルイータを異次元空間に戻すと空中を2、3度蹴り上げ、こちらに向かって来るベアと私の間に割り込んだ……

降り下ろされた一撃を腕を交差させて防ぐ……が、正面からの一撃はかわせない……強烈な一撃を貰いながらもカイルは倒れなかった。


「っはぁっ!」


 魔力障壁を展開させその勢いで周囲のベアを弾き飛ばした。

奴等は直ぐに体勢を建て直したが、警戒して近寄っては来なかった……


カイルはこちらに振り返り震える私を抱き締めた……ソウルイータを見たものは、死の幻影に取り憑かれる……


「…先生…イングリッド……貴女は死なない……死なせないよ」

「…あ……う……カイル……」


 彼が私の額に優しく口づけた……

抱き締められている私は彼の温もりを感じて、落ち着いたのだった。

虚ろだった瞳に光が宿った……

『もう大丈夫』……彼はそう呟き立ち上がった。


彼は先程の攻撃で引き裂かれた上着を破り捨てた……その体つきは鍛練を怠っていない事が一目瞭然であった。

胸には先ほどの攻撃でつけられた傷がまだ血を流していた。


「…その傷では…」

「大丈夫……酷いのは見た目だけだよ……今度こそ大人しくしててね」


そう言い残し彼は結界の外に歩き出した……



「…アーグ…リミッター解除」

『?!バカ野郎!その傷じゃ…』

「早くケリを着けないと……どちらにしても限界なんだよ!」


地面を蹴り上げ飛翔する…


『クソッ!三分だ!』


アーガイルの叫びと同時に暗黒の聖翼の紋章がカイルの上半身に拡大した…… 瞬間、カイルの魔力が爆発的に 膨らむのを感じた。


「あがっ…が…」


 カイルは痛みに耐える様な表情を見せた後その姿は豹変した。

長い銀髪は漆黒の黒髪へと変わり、魔力が眼にも作用し、白から黒へ……眼球は紅く染まった。

……これは……これでは魔族の『真体開放』そのものではないか!!

魔族…神族も普段は『真体』の力は封印している……その魔力の強さ故に、周囲に与える影響が大きすぎるのだ。

だから生活に必要なだけの魔力を残して後は『魔核デモンズ・コア』と呼ばれる体内魔力を統べる中枢に封じ込めるのだ。

……その力を部分的にでも開放する……それが『真体開放』なのだ。


『カイル…急げ、三分だからなっ!』


 アーガイルの言葉に反応したのかまるで隕石の様な速度でベアの集団の中心に爆発と共に落下した……周囲のベアはその衝撃で爆散した……

すぐさまその勢いで両手から小さな黒い球体を辺りに撒き散らした……

次の瞬間、球体がそれぞれ1メートル 程の大きさに膨らみ、 その空間を抉り取って消滅した。


超極小重力暗黒球マイクロブラックホール!」


 本来ならば一撃でこの場を消滅させてしまいそうな力量だが、この空間を囲う結界の耐久度とイングリッドの存在がカイルを慎重にさせていた。

そのままベア達の合間を縫いながらもその巨体に軽く拳を打ち付けてゆく……

そこは黒く穴が空いた様な後が残 り次の瞬間にはベアの巨体が吸い込まれて穴ごと消滅した……


圧縮重力拳グラビティグラブ……」


それは重力系でも上級魔法にありながらその制御の難しさから扱える者は確認すらされていない『伝説の魔法レジェンドマジック』の一つだ。


隙間から魔方陣の位置を確認した彼は腰にぶら下げた「魔法小袋マージポケット」から短剣ダガーを取り出し、魔方陣目掛けて投擲した。


と、同時にかけられていた「爆破ブラスト」が発動し、魔方陣のを見事に吹き飛ばした。


『よし!後は残りのベアの……!?』


 カイルの様子が変だった……その場で項垂れたまま動かなくなった……

ベアがその隙を見逃す筈もなく牙を剥いて殺到した……


「!!…カイルっ!」


イングリッドはこれ以上 見ていることは出来なかった。

幸い、今回の結界も彼女の心理状態を基本としていた為自力で解除する事が出来た。


結界から出た途端、凄まじい魔力の波動が押し寄せてきた。


『や…めろ…カイル…これ以上魔力を開放するな!』


 アーガイルの叫びにも似た声が事態の深刻さを知らしめていた。

先程の魔力を更に上回る濃厚な魔力が支配するこの空間で、ベア達もようやく、相手の異常さに気付いた。

カイルの周りには黒い粒子が螺旋を描き、立ち上った…… 周囲の魔素が一定量を越えて、魔力が可視化したのだ……


(魔力の可視化など魔神……いや、魔王クラスだぞ!?)


「?!」


咄嗟に地面に伏せた…瞬間周囲のベアの上半身が消失していた……最早、戦いではなく、一方的な虐殺だった……


カイルの説得を試みていたアーガイル

は既に手遅れである事を悟っていた……しかしそれでも 間にある、見えない絆を信じていた。

その眼に、オロオロとする、イングリッドを見つけた。


『仕方ないが……アイツに託すか……』


そう 言い残すと、アーガイルの眼が閉じられた。




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