-6℃
「くそぅ!」
西園寺の攻撃は紙一重でかわされてゆく……法衣の効果で敏捷性は一般人には肉眼で捉える事が困難な程になっていた……
西園寺は法衣を解除すると違う印を結び新たな術式を展開した……
「雷光突槍・烈」
西園寺の背後に現れたのは丸い曼陀羅象った魔方陣……そこに無数の雷の槍が形成される…… が
その眼前ではカイルが全く同じものを展開させていた。
「…『写し鏡の猫』」
「えっ?何て?」
いつの間にか観覧席に戻って来たアイリスの呟きに紫音は反応した……
ちなみに律子とマキーも避難している。
「…カイルの左目の魔眼……見たモノをコピーしてしまうのよ」
「……何故知っている……」
いつもと違うアイリスにイリュは警戒感を強めている。
「……未来の夫の事だもの……知らない筈がないな」
「…!?夫!!」
周囲の女子驚愕の声をあげる……
まぁ無理もないか……突然現れたイケメンにときめいていたら既に先約が居た訳だから……
……はっ?私は悲鳴はあげていないからねっ!!
自分自身に言い聞かせる様なツッコミを入れる紫音をシロンは健気だなと思った。
「…アイリス……なのか?」
イリュが一層険しい表情で尋ねた。
「……フフッ…そうよ……彼の隣に並んで歩く者が自分だけだなんて思わないでね」
それは明らかな女の宣戦布告……
友達が出来たと喜んでいたあのアイリスなのだろうか?
あの若草の庭のアイリスと今、目の前にいるアイリスの姿が重ならない……
「…貴女…誰?」
私の問い掛けにアイリスが目を細めた……瞬間周囲が歓声に沸いた。
西園寺が方膝をついて叫んでいた。
「ちくしょう!!そんなイカサマみたいなやり方で……!俺は認めんからなっ!」
「…まぁ無理もない…自分で限界を決めつけて此処に逃げ出したお前には理解出来ないだろう……最後に良いものを見せてやろう」
「……西園寺には理解できないでしょうね……自分の築いて来たモノを一瞬で真似されるなんて……でも彼は勘違いしている」
「…そうだな……楽に真似をしている訳じゃないから」
アイリスの呟きにイリュが言葉を重ねた……先程まで険悪そうな二人だったが彼に対する想いは同じらしい……
「……ふむ…アイリスは何か知っているのかな?」
律子が眼鏡のフレームを押し上げ身を乗り出した………興味津々だな…
「『写し鏡の猫』は見るだけでは真似は出来ない…その魔力波動を取り込まなければならない……」
「…わかりやすく言うと?」
「…どうなの?イリュ…」
皆が一斉にイリュを見た……イリュは眉をひそめ頭を掻きむしると向き直った。
「………ったく……私達は魔眼を発現させると無意識に魔法防御障壁を張っている……周囲や相手の魔素・魔力に干渉されない為だ…
干渉されると不発動や暴走に繋がるからだ……それは皆知ってるな?」
一同が頷く………一応私も頷いておいた。
「コピーする時はこの障壁が強制解除される……つまり全くの無防備だ…普通に攻撃されても危険だ……
もう一つは少なからず攻撃を受ける必要がある…準備段階の魔力でも…僅かな掠り傷でも良い……しかしタイミングを誤れば致命的だ」
イリュの側でそっと耳うちする
「…そんな秘密をバラして大丈夫なの?」
「勿論、既に克服している……それに…いずれ世界が知る事だ」
イリュは再びカイルに向き直る。
「天の理地の真理、雷光の聖刻の導きによりて……」
『これは彼の戦いの記録…』
「……森羅万象の導きによりて……」
彼の詠唱が祝詞となって巨大な術式図を描き出した……それは巨大な扉
彼の呪文に合わせ丸い魔方陣が弧を描き扉の封印が解かれていく……
『そして彼の進むべき道』
「……まさか……嘘やろ?!」
それを見た西園寺はその場にへたりこむ…… これはこんな場所で使われて良い法術ではない……これを使えるのは先代の当主である祖父だけだ……
「…!…お前…爺様と戦こうたんかっ?!」
「……あの爺まだ生きてんのかよ………我が声に応えよ!『聖獣召喚』」
魔力により具現化した扉が開かれ、中から巨大な獣が姿を現した……
猿の頭、狸の胴体、虎の手足、そして蛇の尾………雷獣:鵺だ。
「本来は神獣:白虎を召喚するんだが……アレは西園寺家と契約しているからな……だから鵺にしてみた…可愛いだろ?」
そう言って彼の背後に『待て』の状態で鎮座する鵺を見上げた……
「……さて、そろそろ授業も終了だからチャイムを鳴らすか!」
カイルは足元手頃な石を拾うと宙に放り上げた……それを鵺が上手くくわえるとその体は再び雷に姿を変えた。
「?!…ちょっ…待ちなさい!…守衛室!直ぐに屋根を開閉しなさいっ! 」
カイルの意図に気付いたイングリッドは慌てて制止したが無理だと判断し、実習施設の屋根部分の可動式開閉扉を開ける様に内線電話に叫んだ。
「…自分で限界を決めちまうとなかなか進めなくなっちまう……その殻を破るのは自分自身だからな」
隣で腰を抜かしている西園寺に語りかけると、弓道の様に構え、右手を引いた……石を取り巻く様に鵺が長く、矢の様に形を変えた。
「こんな風にな……幻獣雷光弓!!」
右手が離されると同時に鵺は凄まじい速度で結界に突き刺さった……そのまま全ての魔力を雷に替えて結界を破壊し尽くした。
十二使徒の魔鏡は
その性質故に互いを映し合い増殖する 最強の部類に入る結界だ……現時点でその魔力障壁は2,648枚にまで達していた……
万が一破られてもその破片が破片を映し、増殖を繰り返すのだ……
しかし、今、全員の見守る中、全ての結界は粉々になるまで粉砕され降り注いだ……鵺は全ての力を使い切り、
その姿を消した……僅かに開かれた天井部分からすり抜けた石が、中央棟の中央聖堂の鐘を鳴らした。
「…お前…何者や…」
鐘の鳴り響く午後
降り注ぐ魔力の粒子の中
彼がいつも使っていた髪留めのクリップが小さな音を立てて弾け飛んだ……
纏めていた長い白銀の髪が風になびく……
「……俺はカイル……お前のクラスメイトであり……世界で最後の『魔眼の使徒』だ」