ハジマリノウタ4
「ユグドラシル」
世界樹の名を冠した地域そのものが学園都市であり魔眼保持者を幅広く受け入れている。
もちろん一般人から天界 魔界の魔眼を持たぬの人々も入学は自由だ。
ここでは魔眼保持者の教育に力を入れている。
その力を有効に活用する人材の育成が彼等の未来に繋がると提唱している。
実際 各地の紛争 犯罪は減少傾向にある。
各国政府はこれを高く評価し『理想の未来像』や『人類・魔眼保持者の理想郷』などと賞賛する声明を発表し転入希望者は爆発的に増大した。
「…ねぇ…イリュは…この学園が好き?」
「ん?わりゃひはべちゅひこんにゃときょろはどうでぇみょいいんられろ」
「…ごめん…食べてていいわ」
先ほどまでの少女の姿は無く、ハムスターか何かを連想させるものが居た……
再び幸せそうにパンを頬張るイリュを見て、紫音は再び思考の海に沈んでいった。
多くの人はこの学園都市を『理想郷』と評する…確かに他の都市と比べ魔眼保持者にとっては暮らしやすい場所であることは確かだ。
しかし紫音は違和感を感じる。
理想の未来…理想郷…?一体誰の理想なのだろうか?そもそもホルダーになってしまった時点でその個人の理想とは大きく懸け離れてしまっているのだが?
(魔眼をここに閉じ込めてしまえ!)
紫音にはそう言っている様にしか聞こえない。
結局 この都市も偽りの自由の姿をした牢獄なのだ。
この学園に来る者の多くは 心に傷を持つものが多い。
ホルダーである彼女も今までの人生を平穏無事に過ごして来たとはお世辞にも言うことは出来ない。
「異端は異端でしかない」
それがこの世界の本質であり 心理なのだ。
人はそれぞれコミューンに属する。
そのコミューンに異端であると判断されれば緩やかに排除されてしまう。
それは地域であり、学校であり、職場であり、家庭でもある。
緩やかな排除はゆっくりと異端を追い詰める……そしていっせいに牙を剥くのだ。
それは差別 迫害 暴力 いじめ と名を変えて一方的な排除の波が押し寄せるのだ。
そして彼らは居場所を失うのだ。
……いやまだそれは命があるだけましなのかもしれない……
しかし…そうだろうか?絶望的な考えの隅に違う思考が起き上がる…
ーやめろやめろ!また同じ過ちを繰り返すのか?
ーたとえそうであったとしても……僅かでも可能性があるなら……
ーいままでもそうやって……何度も裏切られ!絶望した!
ーわかってる…わかってる…でも……こんな私でも…必要としてくれる人がきっとどこかに居るはず!
こんな私を認めてくれる人がどこかに居るはず!
彼女はそれに賭けてみたのだ。
もしも…眼を持つ者が…その存在が許されるならば…そこが約束の地ではないだろうか?
そこが本当の理想郷ではないだろうか?
この学園の存在を知ってから幾度となく繰り返された自問自答…答えなんか無い…だから…私はそれを確かめに来た。
もう 涙の日々とはお別れだ。
コーヒーを飲み干すと勢い良く気合いを入れて立ち上がった。
「よっし!!!」
「わわっ!ナニナニ?!」
イリュが慌ててこちらを見る。
私の勢いに驚いてコーヒーを少し溢したらしい。
私の親友に私は最高の笑顔を向ける。
強くなると決めたあの遠い日の約束……それでも逃げ続けた日々に別れを……
此処がきっと私の約束の場所!さぁ 始めよう!これが私の始まりの場所……
これが私の
「ハジマリの詩」