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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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ロストメモリー2

男は動かなくなったカイルの襟首を捕まえて持ち上げた……


「…小僧……このまま殺すには惜しい存在だ……が、これも仕事でね…」


男が合図すると動きを止めていた周囲が動き出す。

数人の男達が私とアイリスを捕まえた……悔しいが、カイルがあの男の手に在るうちは抵抗も出来ないだろう……


「……私達をどうするつもり?」

「…そうだな……まずはお前の親父に娘を預かった事を連絡する……娘に何かあったのでは、人間界や天界などと共存するなどと馬鹿な事は言わなくなるだろうからな……」

「……反対勢力の仕業?」

「…それもあり得るだろ?」


しまった……コイツらはプロの傭兵だ……クライアントの事は話さないだろう……

そうしている間にも後ろ手に縛られ

眠り草の粉末を嗅がされ視界がぼやけ始める……


「…小僧…ここでお別れだな……所詮お前の力では何も守る事など出来ないのだ」


薄れゆく意識の中…最後に見た光景は男がカイルに止めをさそうと手を振り上げる姿と、誰かの叫び声とより濃厚な魔力の感覚だった………














「…様…」


誰かが呼んでいた………


「姉様……」


体を揺り動かされた。


まどろむ意識が覚醒してゆく……

視界に入ったのは心配そうに私の顔を覗き込むアイリスだった。


「?!………どうなっているの?」


状況を思いだし慌てて体を起こした……縛られていた手もいつの間にか縄は解かれ自由だった。


周囲には黒服の男達が倒れていた……目を見開き動く気配すら無い……死んでいるのだろうか?

首筋に触ってみたが……暖かい……脈もある……生きてはいるが……生きてはいるが、死んだも同然の有り様だった。


「?!……カイルはっ?」


私の問いにアイリスが指を差した……カイルが地面に倒れていた……その目の前にはあの角刈り男が宙を見つめたまま何かを呟いていた。

アイリスもカイルの元に行きたいのだが、男を警戒して近付けなかった様だ。


二人は恐る恐るカイルに近づく……角刈りもこちらには目もくれずに呟き続けている……


「…カイル……」


アイリスの呼び掛けに返事はなかったが……その見た目程の深刻な怪我は無い様だった。


「!!…アネモネ様!」


向こうの建物の影から同行していた執事のバレスチャンが数名の者と駆け寄って来た。


「…アネモネ様!アイリス様…ご無事で…爺めは肝を冷やしましたぞ!」

「…ごめんなさいバレスチャン……」

「…それよりも…この有り様は一体……」


護衛達は警戒はしているが、既に驚異は無いと判断したのか各自武装を解除した。


「…こいつは……」

「知っているの?」


すぐ隣で呟く角刈りを見てバレスチャンは唸った。


「……ガルガムヘルム…通称『ガルム』と呼ばれる男です…反政府組織『紅翼の髑』のリーダーと言われている者です……が、この有り様は……」


本来ならこの者の姿を見て生きている者は皆無だと続けた。


その後、病院で意識を取り戻したカイルも何も覚えておらず、検査を受けたが異常は見られなかった。


例の黒服達も検査を受けたが、全員精神崩壊を起こしていた……唯一、見た目『生きている』と判断出来るガルムも心此処にあらずと言った風にひたすら呟き続けていた。


……後日聞いた話だが収容先の監獄で

一切の食事を受け付けず、ひたすら何かを呟き続けたが半年後に死亡したらしい。

    『我は主と共に』


それが最後の言葉だった。





取りあえずアイリスに魔素の供給をした後

三人とも安静にする事になった。

夜には両親が駆けつけ 、バレスチャンを叱るに父を逆に母が叱り部屋から追い出されたのは良い思い出だ。



その3ヶ月後、病院は何者かに襲撃され多数の死傷者を出した…… カイルはその何者かと戦い、多くの人を救い、そのまま行方がわからなくなった。


アイリスを守れなかった私は徹底的に鍛え直した。サボりがちだった武術を真剣に習い直し、新たな武道の鍛練も行った……それでも自身の進むべき道が明確に見えてこなかった。


一年後、再会したカイルの見せたアーガイルの姿は私に衝撃を与えた。

あの母が認める程の実力は魔界に住む者ならばその本能で理解できた。

圧倒的な魔力、その暴力的な存在感は私の様な小さな存在の悩みなど軽く吹き飛ばした。

ただ本能の赴くままに行動すれば良かったのだ。


私は軍に 入隊し更なる過酷な環境にその身を置いた……更な高みへ……




「……っと」


チャイムの音に現実に引き戻された……


あの事件については今ではタブーとされている……が、私の勘ではアーガイルが鍵だと睨んでいる……

彼が真実を語る事はこの先きっと無いだろう……

真実を知る為には自分で辿り着くしかないのだ。

その真実はこの先の未来にどんな影響を及ぼすのか……このまま知らない方が良いのかもしれない。

今、私は禁断のパンドラボックスに手をかけているのかもしれない……



「……なんてね、さぁて考え過ぎたからおなかすいたなぁ…イリットに何か奢って貰おーっと」


アネモネは室内の明かりを消して施錠すると保健室を後にした……


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