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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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ユキノシラベ 9

異変に気付いたのは母親だった。


 魔素の移植後にやたらと口数が増えた……回復の兆しだと最初は喜んでいたが何か引っ掛かるものを感じていた。

深夜、アイリスに部屋から話し声が聞こえたので覗いてみるとただ眠り続けるアイリスの姿があるだけだった。

夫に相談しても気のせいだろうと言われた……

そうかもしれない……私の考えすぎかもしれない……でも……


以前よりも活発に動き回り、二人の姉と変わらぬ生活を送る事が出来る様になり、家族は喜んだが、依然として母親の不安は募るばかりだった。


程なくしてカイルがイリューシャという少女を連れて訪ねてきた。

人間界でアイリスを救った少年……一年前あの病院の事故以来消息不明だったのだが、夫も信頼する人間界の友人、

ラムゼスが保護し、連絡をくれたのだった……

彼とは初対面だったが……話に聞いていた印象よりも少し違っていた。

……この一年で何かあったのだろうか?

しかし普通の人間の少年がこの魔界に一人でやって来た事には驚きだったが、それ以上に不思議な子供だった…

話をしているとその外見と内面にギャップを感じた…やけに大人びたと言うか…

非常に知識も豊富で礼儀作法が子供とは思えなかった。

 両親は居ないと言っていたが育ての親は居る……とも。

連れのイリューシャと名乗る女の子も……炎魔族の様だが……わたしの知る一族とは雰囲気が違った。

とにかく二人ともうちの子に比べると同世代とは思えなかった……やはり夫が娘達に甘いせいだわ……


 アイリスとイリューシャは暫く見つめ合い……やがて打ち解けた……アイリスにとってはカイル以外の同年代の友達だ

二人は暫く滞在し、アイリスもカイルから魔素を供給される事で目に見えてその容態が回復した様に見えた。


そして事件は起こった。


 カイル達が明日帰ってしまう事にアイリスは今夜はカイルと一緒に寝たいと言い出した…

普段から余り我が儘の言わないアイリスにしては珍しくなかなか諦めなかった。

娘命の夫がいたら必ず反対したかも知れないが、まだ子供だからと私は許してしまった。


深夜、アネモネの悲鳴で目を覚ました。 声の出所はカイルが泊まってた部屋だった。


室内に飛び込むと中は魔力が渦巻き小さな台風の様に激しい風が吹き荒れていた。 その中心に居たのは……


「アイ…リスなの?」


思わず目を疑った…そこに居たのは見事なプロポーションを惜し気もなく晒した全裸の女性が居た…自らの両手を見つめやがて声高く笑いだした。


「…素晴らしい……素晴らしいぞ!これが私の力!これが私の身体!もうあの部屋に閉じ籠る事も無い!自由だ!

アハハハハ……後はこいつから精を直接私の【子宮コア】で吸収するだけだ…それで私は完全になれる!」

「…何て事……?!」


母親は瞬時に理解した。 自分が抱えていた違和感の存在の正体を……娘で在りながら娘の中に潜む異質な正体を………

直接的な接触が引き金となりその力を具現化させたのだろう。

 それは次女のアネモネに似ていた。髪の色は紫色だったが、気の強そうな顔立ちは彼女の提供した魔素がなんらかの原因だと推測できた。

そのアネモネも一緒にいた筈だが……

視線を振ると、部屋の隅にアネモネを庇うようにいたイリューシャが中央のソレを睨み付けているのが見えた。

どうやら彼女がアネモネを救ってくれたらしい。


「…お母様一体……!?」


 アネモネの悲鳴を聞きつけ 長女と長男も駆け付けてきた……室内を見ると小さく悲鳴を上げた。

変貌を遂げたアイリスにもだがその足元にはアイリスの生命力吸収エナジードレインにより衰弱したカイルが横たわっていた……

微かに生命反応は感じる事が出来たが、一刻も早く治療を受けさせないと非常に危険な状態だ。


「…アイリス……」

「……アイリスは此処には居ない」

「…では貴女は誰?アネモネの力を感じるけど……」


その言葉に子供達が驚きの視線を向ける。


「……流石はお母様……そう、私はアイリスでもありアネモネでもある……モネリス……と言ったところかな?」

「……それで…貴女は何をしようと言うの?」

「…何をだと?勿論自由だ!ずっとこの身体の中に閉じ込められていたんだ!いつもいつもアイリスが邪魔をしてあの部屋に閉じ込められていたんだ!

……でもそれももうおしまい……」


なんという事だ……アイリスはこの存在を知っていたのだろうか? 我々の為に必死に体内に押さえ付けていたのだろうか?


「さぁ…カイル……私の愛しいカイル…さぁ一つになりましょう…… 」

「…っ!やめなさいっ!モネリス!」


母の悲痛な叫びも虚しく、モネリスの手がカイルに触れた……


「…マスター」

「えっ?」


アネモネを庇っていたイリューシャが何かを呟きその首のチョーカーのクリスタルに触れた


『小娘が調子にのるな…』


それは暗く冷たい声だった…

室内全ての者が息を飲んだ。

濃厚な暗黒魔素がカイルの右上腕部に集まり、黒き翼の刻印を形取った。


暗黒ダーク聖翼ウィンガル



古い魔族の指導者達が好んで使用した刻印だ。

中心に一つの眼が開く。


「?!魔導魔眼?」


 やがて刻印は彼の上半身に黒い痣の様に拡がりその肉体にも変化を及ぼした。銀の髪は漆黒の黒に染まり

その瞳は黒く獣の様に紅く割れている。その身体も子供ではなく逞しい成人男性そのものだった。


「なっ何よ!アンタっ!……くぅっ!」


カイルの変貌に動揺するモネリス……

しかし行動を起こす前にその首を掴まれ苦悶の表情を浮かべた。


「…えらく威勢のいい事を言っていたが…相手の力量も見抜けないのか?……まぁ仕方ないか……」


彼から放たれる魔力の波動はこの場所の全員の意識を刈り取るのに十分だった。

廊下に待機していた侍女達や下の階にいた警備の者も瞬時に意識を失った……

この部屋に居る者を除いては……しかし動く事は出来なかった。

息をする事すら苦しく感じる程、その魔力は強制力を持っていた。


「さて…悪い子にはお仕置きが必要だな…」

「…ひぅっ!?」


その言葉にモネリスが恐怖に満ちた表情を浮かべた…………


「!!…おっ…お待ちください」


誰も動けぬ筈のこの空間でただ一人…母だけが二人の傍に歩み寄った……その足は震え、額には汗を浮かべている……歩くだけでも相当な重圧だ……


「……どっ…どうか…娘の無礼をお許し下さい…全ては母親である私の責任でございます!どうか……娘だけは……!!」


母はその場平伏して懇願した。

子供達は理解した……目の前に居るこの存在は母をも凌駕するのだと……

母の後ろの長女、長男も母に習いその場に膝を付いた……


「……アイリス……」


本当にアイリスがどうにかされてしまうのかと、イリューシャにすがりついた。


「…大丈夫…」


この中でも唯一影響を受けていないであろう存在のイリューシャがその手を取って囁いた。


「…マスターは少し意地悪だから…」

この後起こった出来事は生涯私達家族にとって 忘れられないものになるのだった。

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