ユキノシラベ 6
9/6やや修正
「おっはよ~」
翌朝のイリュはすこぶる元気だった…
それどころか、顔色も良く、肌の艶も潤いも、ぷるんぷるんのぴっちぴちであった……昨夜一体何があったの?
その反面、アイリスも律子も黙々と食事を進めていた…何か怖いよ二人とも?
「…夕べはお楽しみでしたな!旦那ぁ……」
キッチンではほろ酔のアイリシアがカイルにやたらと絡んでいた……
しかし扱いは彼なりに慣れている様子で適当にあしらっていた。
「…イリュ…今日は遅れて行くと伝えてくれ… 」
そう言って、それぞれの弁当箱をカウンターに置いた。
「それと…紫音、これをつけておけ」
ひとつの指輪を投げて寄越した。
シルバーの様だが内部には紋章の様な文字が刻印されている点を除けば、至って普通の指輪だった
「…これは?」
「幻視の指輪…お前の『隠れ姫』を周りからは違う色として認識させるモノだ…」
*******
右手の薬指にはめられた指輪を見ながら朝のやり取りを思い出した。
あの後魔眼を発動したらやはり瞳の色は淡い緑色をしていた。
チャットルームの二人にも確認したが、何の支障もないとの事だった……
但し、魔導クラウドで風の魔法が優先的に選択、検索されるらしい。
「紫音……来るよ」
イリュの声に現実に引き戻される……
今は特別施設で対抗戦に向けての実習と言う名のサバイバルが行われていた……今は相性の良いチーム作りの為の模擬戦闘を行っていた。
前を向くと、同じクラスの木村真紀さんと沢村慎吾君のペアが相手だった。
彼女の属性は水、彼は土とアナライズされた。
開始の合図に、先に動いたのは木村真紀だった。
「水蛇の巣!」
地面から逆再生の様に水流が現れ、私達を取り囲んだ……結界内に閉じ込める束縛系の魔法……
そこにもう一人の対戦相手、沢村慎吾が動いた。
最近、女子の話題にその名前を良く聞く……別に普通のメガネ君だ……話題になる理由がイケメンでは無いらしい……
イケメンと考えて、ふと、カイルを連想してしまった…いやっ…違うのよ?!私の知っている男性はアイツしか知らないからっ……
『へぇ~』
『ほぉ~』
脳内からシロンとクロンの間の抜けた声が響いた。
くっ…………もういいや
弁解を諦め意識を浮上させる。
沢村慎吾のもうひとつの可能性……凄腕の魔眼使いの可能性だっ。
「よぉ~っし!真紀ちゅわん、いい仕事するね~っ!君、凄うぃ~ねっ!」
凄腕の魔眼………
慎吾は指で真紀ちゅわんをビシッと指差した………真紀ちゅわん苦笑い…
いやいや…見た目で判断してはいけない……
「さぁっ!いいかい?次は僕の凄うぃ~魔法がBINBINイっちゃうよー!」
凄腕の…………
今度は私達を指差した ……うわっ!鳥肌でたっ!
やがて彼が身構えるのを見て警戒する……
やはり凄い能力を隠して………
「君、かわうぃ~ねっ!(魅了)」
ローアングルから ピストルを真似た指でこちらを指差した…… … 私達はおろか、観戦していた生徒すら一言も発する事が出来なかった。
………こいつ……チャラいな
大体、こんな魅了がかかるわけ……
突然周囲を囲っていた水の結界が解け落ちた……真紀ちゃんを見るとうっとりとした眼差しで慎吾を見ていた……
応援席の女子も何人かそんな表情をしていた………
すんません…あれでも立派な魔法だったのですね。
紫音は勘違いをしていた。慎吾の魔法がチャラいのではない、自分達のレジスト(耐久)能力が高すぎるのだ。
サキュバスの因子を持つアイリスとイリュはその本能から常に相手を魅了するための微量のフェロモン粒子を放出し続けている。
その中で生活している紫音には知らず知らずの内に吸収し内部に蓄積されていた。
その結果、クラスの三大美女として男子の間で絶大な人気を誇っているのだが、本人は全く気付いていなかったりする。
もうひとつは自宅で存在を隠していない状態の『歩くフェロモン』のカイルを毎日見ているので意外に目が肥えてしまってたりする。
「君たち皆僕の彼女だYO~っ!」
「そんなわけあるかぁ~っ!」
イリュの跳び蹴りが炸裂した
慎吾はきりもみ回転しながら地面を 転がった。
「踊れ!炎の舞踏曲『舞踏炎舞』!」
イリュの手から放たれた炎の渦はゆっくりと回転しながらその速度を上げて行く……それを見た紫音はシロンからの指示で自らの魔法をそれに重ねた
。
「舞え!風の渦よ!『風雷陣』」
紫音から放たれた風は唸り、逆巻き、イリュの炎を巻き込み、巨大な炎の竜巻となり、慎吾を巻き込み大地を蹂躙する……
「ぽっ…ぽいぽぴー!!」
慎吾は謎の言葉を残し炎の渦の中に姿を消した……
「…マジですか……殺しはまずいよ……紫音……イリュ……」
眼前の巨大な炎の竜巻に圧倒される律子……二人の放った魔法は初級レベルのものだが、お互いの特性を補い威力が増していた
……炎は風を生み、風は炎を煽る。
紫音とイリュも自らの生み出した力に呆然としてしまう程だった
『合成魔法轟炎竜巻』
紫音の意識にクロンが語りかけた。
炎が霧散すると慎吾が姿を表した……昔TVで見た爆発コントみたいな頭をして口から煙を吐いてその場に倒れこんだ……
「…君…強いうぃ~ね……」
謎の言葉を残して。
「…ふむ」
観覧席から眺めていたイングリッドは感心した……なるほど……アイツが薦めるのも窺える……
手元で遊ぶペンの動きを止めると、書類に走り書きをする……対抗戦のメンバー候補中に紫音の名が書き込まれていた。
そして不適な笑みを浮かべる…………これなら今年は…………勝てる!!
「凄いじゃないか紫音!」
興奮した律子達が駆け寄ってきてイリュと二人で揉みくちゃにされそうになった……だから……
だから気が付かなかったんだ……
観覧席の壁にもたれ掛かるアイリスがそのまま崩れ落ちる姿を………