ユキノシラベ 1
習慣とは恐ろしいもので いつもと同じ時間に起床してしまった。
枕が替わると眠れなく人が多く居ると聞くが……私はその中には含まれないようだった。
仕方なく 厨房に向かい朝食でも作ろうかと試みる………が
既にカイルの手によって、朝食は出来上がっていた。
「よう 早いな…まだ怒っているのか?」
「…おはよ…別に怒ってなんか…」
昨夜 紹介してもらえなかったラプラスが再び浴槽の入り口を空間転移で入れ替えたので……まぁ…うん…アレだったよ?
なんとなく 気まずい雰囲気だった。
折角忘れかけていたのに……その…つまり…
そこの皿に盛り付けてあるようなソーセージみたいなのの事とか……うん…忘れよう…
「昨日は疲れていたし……湯気で見えなかったし……なによりお前に強烈なのを一発もらってるから…記憶に自信がないから……気にするな」
「…何か引っかかる言い方だけど……わかった」
確かに湯気が立ち込めてはいたけど……私自身が相手をはっきり見ちゃってるので彼の言葉には疑念を感じるが……気遣ってくれている事は理解できたので素直に従う事にした。
ちなみに傍にあった桶を投げつけたのだが見事に彼の頭に直撃して、集まってきたイリュ達に色々とツッコミをいれられる羽目になったのだった。
…その時にもチラッと見えたんだけど……その……色々と……
「…何身悶えてんだよ…気持悪いな……」
「む…」
彼の指摘に咳払いを一つし、頭から邪念を追い払う……
「……何か手伝おうか?」
「…なら、アイリスに付き合ってやってくれ」
彼の視線を追うと、テレビの前の一人掛けのソファーにアイリスがパジャマ姿のままちょこんと座りテレビをぼーっと眺めていた。
パジャマは勿論愛くるしい子猫の柄だった。
「おはよ、アイリス」
「……おはよ……紫音」
力なくこちらを見ると、呟いて再び画面を見つめている………何だか昨日より元気ないな……
「何見てたの?」
「…今日の…にゃんこ……」
見ると朝の情報番組の猫を紹介するコーナーだった……動物好きだなぁ……
「アイリスは動物好きなのかな?」
「ん…そうだね……好きっていうのがよく解らないけど…多分…そうだと思う」
「そっか……」
今まで見たことが無いくらいに気配というか…存在感が薄い……儚いというか…世界と繋がっていないというか…
彼女一人だけがそこに取り残されているような印象すら感じた。
「……ごめん…今魔力が少ないから……」
「そうなんだ…大丈夫?」
「…もうすぐ……補給して貰える」
「すまん、アイリス…待たせたな…」
キッチンからカイルがやってきた…
ふと、こちらを見て
「……紫音…すまないがイリュを急いで起こして来てくれないか?」
と、言った……はいはい、わかります……此処に居ない方がいいのですね?
魔眼生活が長いと、色々と気を使っちゃうから、
空気の読める子になっちゃうのよね~
話の流れからして、今回はアイリス回なのね…じゃあ主観軸も交代しますか………
了解と告げるとリビングを後にした……
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紫音がイリュの元に向かった……
折角話し掛けてくれたのに……悪い事をした………
…全ては忌まわしいこの体の……
「アイリス……自分を責めるな」
そんな私の感情を察してか、カイルが頭にチョップをしてきた……
彼のこの優しさには何度救われただでしょうか……
実際、彼には命を救われているのだから、この身体も心も全てを捧げるつもりなのですが、本人にはその意志が無い様で………
少し落ち込んでしまいます……
自分で言うのもアレですが、私は見た目もプロポーションも殿方には満足して頂けると認識しております。
特にアチラの方に関しましては、わが一族に流れる(淫魔:サキュバス)の血筋は必ずや殿方をめくるめく快楽の楽園へと導く事でしょう……
やはり、残念なのは感情をなかなか表に表現出来ずに本気だと思われない所でしょうか……
「アイリスは…俺を信用してくれてる?」
「えぇ…カイルを信用しているわ」
「そっか……転入初日だし……少し多めにいっとくか……出来るなら……自制してくれよ」
彼はそう言って私に優しく口づけをしてくれました………………
…きた………
…………キタキタキタキタキターーーー!!
やや逃げ腰の彼の襟首を掴むと思い切り引き寄せ、更に深く、激しく貪った
傍から見れば恋人同士が情熱的な接吻を交わしているように見えるが………明らかに何処か違和感を感じるだろう。
アイリスの手は彼を求めてその体を激しく抱き寄せた。
彼はそこから抜け出さんと抵抗を続けていた。
……うふふ…苦しそうね…カイル……
(素敵よ、貴方のこの、生命力は、何度味わってもこれに代わる存在は無いわ……この世の中のどんなモノよりも素晴らしく、私達を満たしてくれる……さぁ一つになりましょう…私の中で永遠に………)
「…!ぶはっ!しっ…紫音!早く…イリュをっ!」
アイリスの頭を押さえつけ逃れようとしたが、既に体内で魔力生成が始まっているアイリスから逃れることは困難であった……
再びカイルの頭を捕らえるとその唇に己の唇をあてがった……
今 この場に紫音とイリュがやって来るのを切実に願った…………この状況では また紫音に白い眼で見られそうだが
こちらは命がかかっているのだ。
この行為はその辺の恋人達の行なう(愛の接吻)などでは無い
(生命力吸収)
命がけの (死の接吻)であった。