パネェヨ!リツコサン
時は授業終了まで遡る……
「すまない…紫音…待たせたね!」
教室のドアが開き、律子が息を切らせてやってきた。
「ううん、大丈夫だよ」
「早速だけどお願いするよ」
連れ立って教室を後にする……
二人が向かったのは、地下にある 科学準備室だった。
来週の授業で使う備品を用意して欲しいとイングリッド先生に頼まれたらしい。
よくある事だからいつもはイリュに頼んでいたのだが 今日は重要な用件があり 珍しく先に帰ってしまった。
そこで紫音が頼まれた……のだが……
「……」
職員室を通り過ぎ、地下に降りる階段を二人で降りて行く………
先程まで愉快に話していた律子が急に静かになってしまった……
私……何か変な事言ったのだろうか?
自分の行動や言動には人一倍神経質な方なのだが……
「…あの……律子……さん?」
「ひっ!ひゃいっ!」
………なんか、変な音が出ましたよ?
「…えっ、あっなっ何?急に話しかけるからびっくりしたじゃないか……あはっ…あはは……」
そんなに急だったかなぁ……まぁいいや……
「…えーと…準備室はこの階の下じゃなかったっけ……」
「?!そっ…そうね!うっかりしてたよっ!」
そうは言うものの、その場から動こうとしない律子…… 何だか調子狂うな……
取り合えず行き先は判っているので階段を降り始めた……
「……っ!」
後ろから律子が慌ててついてくる気配がした……からかわれてるのだろうか?
そんな事を考えていたら急に制服の裾を捕まれた。
「……」
「………あの……ボクは目が悪くて……」
振り替えると、律子がおずおずと告げた…………眼鏡……してるのに?
取り合えず目的の階に着いたので廊下の電灯のスイッチを入れる………あれっ?
何度やっても灯りがつくことは無かった。
「…おかしいなぁ…魔道エネルギーのハズだからつかないなんと事は無いのに……」
後から解ったのだが、運悪く、この時はメンテナンスをしていたらしい。
仕方無く非常灯の灯りを頼りに奥の部屋を目指す………んっ?
前に進めないと思ったら、律子が完全に止まっていた………
もしかして……
もしかしてだけど……
律子って……暗いの怖い?
「…大丈夫?」
「だっ大丈夫っ!…さっさと片付けてかっ帰ろっ!」
元気な声とは裏腹に…今にも泣きそうな顔をしていたりする……
「……紫音……手……繋いでいい?」
「……いいよ……」
あぁ……わかったよ……イリュ……
何故『萌田崎』なのか……
泣きそうな顔で眼鏡から上目遣いにこちらを見る視線は最早反則と言っても過言ではない。
暗い廊下を二人で渡ってゆく……歩き辛いな…… 律子は目を閉じたままだった……こんなんで準備とか出来るの?
「……着いたよ」
「…えっ!あっ…うん!そっそうだね……早いとこ片付けて……!!!!」
我に返り、慌てて引き戸を開いて中に入ろうとすると……中から 人体模型が飛び出してきた……
律子は声にならない声をあげて、その場にぺたりと座り込んだ。一瞬、気絶したのかと思ったがそうでは無いらしい。
「!律子っ……?」
「………………腰が……抜けちゃった」
瞳に涙を浮かべ 哀願する様子は普段のクールな律子からは想像出来ないとゆうか……ギャップ萌え?
やがて明かりがついたので、目的の教材を探して(専門書とDVDでした) イングリッド先生に届けた。
律子は終始私の腕に張り付いたままで
先生にも (またか…) と言われていた。
「はい…律子」
「…んっ…ありがと…」
差し出したココアを力なく受け取った……この状態になると暫くは子供みたいになってしまうらしい……
常に手を繋いで居ないと駄目らしい……昔、妹とよくこうして手を繋いでお使いに行ってたなぁ……
「…ごめんね…みっともないとこ見せちゃって……」
「ううん、気にしないで…苦手なものは誰にでもある事だし……」
「ありがと……」
ココアを口にすると、ここまで怖がりになった経緯を話始めた……
小学生の頃に兄の借りてきた ホラービデオが原因でその手のモノが苦手になった事
責任を感じた兄が(治療)と称して、無理やり墓場に肝試しに連れていかれてトラウマになった事……
……兄……なんとゆう無茶ぶり!
「…それ、どんな内容だったの?」
ふと、ここまで律子を怯えさせたその ビデオが気になった。
「……魔物の王子が…三人の家来と一緒に人間界に攻めて来るって……」
………んっ?
「家来って…?」
「……ヴァンパイアと……ワーウルフと……人造生命体……」
………んんっ?!
「…ねぇ…それって『怪物く…「その名前は言わないでぇ!」』じゃ……あぁ…ごめん」
………律子さん………ぱねぇです。
やがて律子は迎えに来た家の人と帰っていった……一応 皆には内緒にしてねと言い残して…………
「……帰ろ」
余談だが 準備室の人体模型はイリュが帰る前にわざわざ仕掛けたみたいでした。