カノジョノジジョウ9
再び簡易式のゲートを使いアイリシアの寮、『ファルミア』に帰ってきた。
今度は玄関に繋がったので、普通にただいまと言って靴を脱いだ。
「お帰りなさい」
振り替えると アイリシアとアイリスが玄関に迎えにきてくれていた。
「…ただいま」
今まで一人の生活が長かった紫音にとって出迎えてくれる人がいる事は想像以上に嬉しく感じた。
「あぁ…やっぱり紫音だったんだ」
リビングから出てきた人物がそう言った。
前田崎 律子だった。
「…そうか…律子も此処に住んでたんだっけ」
「…そっ、よろしくね」
「…さっ、お茶にしましょう、詳しく話を聞かせて頂戴」
アイリシアに促されてリビングに移動する。
無事に話がついた事を報告するとみんな喜んでくれた。
暫くするとカイルは出掛けてくると言ってどこかに言ってしまった。
律子はこのガールズトークの輪に入り難いのだろうと笑った。
「…ところで……ラプラスって?」
此処に来てずっと気になっていた事を言ってみた。
「…数式の悪魔…ラプラスよ…この建物が外見より中が広いのも、外部とゲートを接続出来るのも…とにかく快適に過ごせるのはラプラスのお陰ね」
……気のせいだろうか……辺りから『どやっ!』的な気配が漂っている気がする……
「…でも…人前が苦手みたいで姿を見た事は無いのよね~」
「……えっ?アイリシアさん…管理人なのに?」
「おほほほ……色々あるのよ…大人の事情が……」
……この件には余り触れない方が身の為らしい……
「そっ…そう言えば…学園ではカイルってあまり目立たないよね?」
もう一つの疑問で話を誤魔化してみる。
「…あぁ…カイルは目立つのを嫌うから…学園ではわざわざ気配を消す魔法使ってるし」
「まぁ…普通にしてたらクラスの女子が放っておくハズ無いからね」
「…ふーん、なんか訳があるのかなぁ?」
「紫音ちゃん、やけに食いつくわね…さては惚れたな?」
「いやっ私は別に…あっ!律子、そのパンフレットは学生ギルドの?」
話の流れが怪しい方向に向いたので咄嗟に話題を変えた。
「あぁ…前回の授業は家の方に行ってたから…ボクはまだ登録もしてないんだ」
「私も登録しなさいって言われた……」
紫音が転入したときは既に登録の授業が終わっていたのでこのままでは、カリキュラムの単位が足りなくなってしまうのだった。
「本当?じゃあ一緒に行こうよ」
「うん…私も一人だけかと思って心細かったんだ…」
「じゃあ、私も付き添うよ…以外にギルドクエストは危険だからね……」
学園の北側にある山脈の麓に学生ギルドの施設がある。
周囲は深い谷に囲まれゲートでのみ行くことが出来る重要施設の一つだ。
数百人の職員と関係者により厳重に管理されている場所だ。
その正体は異世界の入口である。
元々はゲートの実験施設だったのだが偶然にも未開の異世界と繋がってしまった。
そこは『イ・ヴァリース』と呼ばれる世界で一般的に剣と魔法の世界だった。
イ・ヴァリースの東に位置するアルセンブラ王国の田舎町 サマール近郊にゲートが繋がり、今はサマールが拠点となり発展している。
この世界は人間と亜人種が魔物と呼ばれる魔族と戦争を続けていた。
この世界での魔族はイリュやアイリス達とは別の系統らしく、和平交渉も試みたが失敗に終わっているらしい。
今では王国と同盟を結び軍隊や魔界、天界からの傭兵が戦線に参加しているらしい……
学生ギルドはそんな危険な作業には関わらず、市町村の発展の手伝いや遺跡の探検の手伝いや、近郊に現れる低級の魔物の討伐など……一種のボランティア活動の様なものだった。
「少しばかり、昔遊んだ『最後の幻想』みたいな展開で剣と魔法で戦闘!!かとドキドキしてたんだけどね」
「……危険が少ない事は良い事です」
少し興奮気味に話す律子をやんわりと諌める様にアイリスが口を開いた。
……アイリスってその儚げな見た目道りの平和主義者なんだろうか……
昨夜もカイル達のしている事には余り賛成をしている様には見えなかったし……
「じゃあ…カイルと私でサポートするから……アイリスも一応カリキュラムとして受けないといけないからね……」
イリュの提案に渋々と頷いた……むしろ『カイルと一緒』の部分の割合が大きい気がした。
その後帰宅したカイルが夕食を作り、私とアイリスで手伝いをした。残りのメンバーは
『大変な事になるから』
と、キッチンから追い出されていた。
ひとしきり、賑やかな食事を終えると、アイリシア達が片付けをすると言うので、アイリスとお風呂に入ることにした。
脱衣所で服を脱ぎながら、妙に馴染んでいる自分に驚きつつもついつい笑ってしまった。
普通の週末を送る予定が、思わぬ展開になってしまった………しかし
この状況を嬉しくも思い、楽しいと感じる自分もいる ………変化を求めてここにやって来たのだからこの際このまま過ごしてみるのもいいかと思う自分も居た。
ラプラスという不思議な存在に管理された、この素敵な寮での生活に期待と夢に胸を膨らませながら浴室のドアを開けるのだった。
「………紫音……遅い……」
湯槽でぐったりとしているアイリス
彼女自身…氷雪系の属性の為、長湯は得意ではなかった。
「…?」
ふと、昨夜も聞いたような紫音の悲鳴が聞こえた……
カイルが入っているであろう三階の浴室から………
訂正
イタズラ好きの悪魔の棲む寮の生活に、心配と不安で眠れぬ夜が続きそうだ……




