カノジョノジジョウ4
「………勝ってしまった」
カイルは地面に倒れたまま動かない。
……まさか!死んだりとか……
急に不安になり慌てて駆け寄った。
「…カイル?」
俯せの体を揺すってみる……反応無し
表面がやけにカサカサしてる…シロンが算出した出力なら命の心配は無い筈なのに……その腕を掴み上を向かせようと力を入れた。
ポキッ
えっ? ……ポキッって……その手に掴んだ彼の左腕が付け根から折れていた。
「はわ!……」
尻餅をついてしまった……てか腰が抜けた。
彼は炭の様にこんがり、真っ黒ウェルダンもいいとこな状態
「~@*=/〆ゞ~~~!!!!」
紫音は取り乱しオロオロとしている。
周りを見渡しても荒野に一人……
「…ヴ…ヴ…」
変な音を出しながらカイルの体がゆっくり動きを出した。
良かった生きてた
そんな訳あるかー!
こんなにこんがりな人が生きてる訳無いじゃないかっ! しかも腕とれてるよっ! ……あわわわわ
紫音は四つん這いで迫り来るこんがりな同級生から逃げる…振り返るとしっかりと両足でお立ちになっておられました。
……ふと、目が合った気がした…いや、目があった場所を見ただけか。
「…紫…音」
ゆっくりとこちらに近付いてきた!
ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ
無我夢中で這いずり回り彼から遠ざかる……
ゴン
何かでおでこをぶつけた
「……痛い」
目を開けると……テーブルの足?
さらに目線を上げると心配そうに見つめるイリュとアイリスの顔が見えた。
「大丈夫?凄い音したけど…」
「………あれっ?」
振り返って見たがこんがりなカイルは居なかった。
それどころか荒野でもなく普通の道場の中だった。
テーブルに手を掛けて覗いて見ると、そこにはケーキやクッキー等並べられ優雅なティータイムと化していた。
道場の隅っこに丸テーブルを出してイリュとアイリスてアイリシア……そしてカイルがお茶を飲んでいた………カイル?!
私はあわあわとカイルを指差す。
「どうした?まるで幽霊でも見た顔だぞ?」
そんな台詞と共にカップの中身を飲み干した。
ナニナニ?ナニコレ? 状況が飲み込め無いんですけど?!
「…幻術よ…紫音が魔眼を発動した瞬間からかけられたのよ」
イリュが状況を理解できない紫音に説明する。
つまり……
********
「しっかりと痺れさせてあげるんだからっ!魔眼発動!」
紫音の魔眼より一瞬だけ早くカイルの幻術が展開された。
「暗黒幻視」闇属性の上位魔法の一つだ。
一瞬の隙をついてくる魔法だけに通常は気付かない…魔族であるイリュとアイリスだけが気付いただろう。
その幻術を脳は現実と認識して脳内で実際と同じく体験をする。
勿論その情報は術者にも同じ様に伝達されている。
カイルは道場の結界を解除するとさっさとテーブルを用意して座り込んだ。
テーブルの中央に視覚水晶を取り出し幻術内の二人の戦いを写し出す。
「なんか喉乾いてきたわね…」
白熱する戦いにアイリシアが呟いた。
「…そうだな…ラプラス!ティーセットを頼む」
そう言い終わるか否や テーブル上に ティーセットとお菓子達が姿を現した。
「……連帯攻撃が上手いわね」
アイリシアが感心した…目の前のケーキは2個目だった。
「……俺の敗けだな」
ガイアチェーンを受けた辺りでカイルがそう言った……
「…マスターが?まさか」
「いや、少し紫音を甘く見ていた様だ…魔眼を使用していなかったから素人だと認識していたのだが……よくよく考えたらイリューシャとの戦闘を考えたら……シリアルナンバー持ちだな」
シリアルナンバー……すなわちチャットルームを保有する可能性があるって事だ。
「魔法自体は余り高いレベルでは無いからな…その組合せのレベルが高い…優秀なナビゲーターがついている証拠だな」
水晶の中ではカイルが地面に倒れ込んだ……本当に紫音が勝ってしまった。
「さて、天狗にならないように教育しとくか」
ここ最近で一番良い笑顔でカイルは言った……いやらしい意味で
*********
「…酷い…私は真剣にやってたのに」
話を聞き終わった紫音はそう言って紅茶を口に運んだ…両手で飲みながら上目使いにジト目でカイルを見ていた。
「…はっ?俺は『力を見せて貰う』と言っただけで、戦うとは一言も言ってないが?」
…くっ……確かにその通りだが……何か納得いかないな……
「まぁ、実力は申し分無いな…手を引けと言っても無理みたいだしな…望まずともいずれは巻き込まれる運命だろうし……」
意味不明な発言が多いが、一応は認めて貰ったようだ……しかし彼の次の発言で私は絶句する事になる。
「紫音……直ぐに此処に引っ越せ」