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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩

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ハジマリノウタ2


「………」


 急に静かになったのでふと彼女に目をやると案の定 何かを期待している目でこちらをみていた。

時間も時間だし……


「……今からご飯なんだけど…」

「うんうん…」


既に満面の笑みだ。

この先を言うべきか悩んだが………


「一応聞いてあげるけど…食べる?」

「もちろん!」


絶対に確信犯だ…

 イリュを引き連れてキッチンに向かう…引き戸を開けるとそこがリビング兼のダイニングキッチンだ。

最早指定席となった椅子に座ると いつの間にか用意されていた マイ箸一式を用意する。よくみると

「いりゅ」と刻印までされている一点物だった。


「……いつの間に……」


 飽きれながらも食事の用意をする……なんだか毎朝二人で食事をしている気がする……まあいいか……

料理が出来るまで…この不思議な親友(?)の事を話しておこう。


 彼女の名はイリューシャ・ハイヴァリエル 確か…なんとかニアからの留学生らしい……私もその辺は詳しくは知らない。

仲間内ではイリュと呼んでいる。 

その見た目の美しさと凛とした顔立ちに上級生・下級生共にファンは多いが、自分の容姿を鼻にかけない性格の為か同性からの人気も高い。

当然異性からの人気もかなりある……らしいその辺りは紫音自身が興味が無いのでうろ覚えだ。

それに加えて人懐っこい性格と男顔負けの行動力…その深紅に映える赤毛はインパクト抜群だ。

勿論 スタイルも良い。

胸とか……胸とか………

どんだけ成長期だよっ!って言いたくなるくらい………別に嫉妬とかしている訳では……ない。


それともうひとつ………


「?!ちよっと!!イリュ!」


 ポットが有り得ない音を立てて沸騰していた。彼女の赤い「眼」が更に深く紅く輝いていた。

力を使っている証拠だ……その眼の輝きは神秘的だった……本来この世界に存在しない筈のもの……

紫音の声にイリュははっとする。その瞳から光が消えた。


「ごめんごめん紫音のエプロン姿に見とれてた…」

「…前回みたいにポットを爆破しないでよね……手伝いはいいから座ってて…」

「はーい」

 

 イリュは素直にその場で姿勢を正した。

どんな理由だよっ!と思いながらポットの無事を確認する。

どうやら無事の様だ……毎回生活道具を壊し引越しさせようとしているのかと思ってしまうところだった。

 彼女のもう一つの秘密……そう「魔眼」だ。

 神と悪魔がもたらした神秘なる魔力の瞳……日常生活ではその見分けは付かないがその力を発動させるとその瞳はその姿を現す。

彼女の魔眼の色は「赤」……炎を司る属性だ。

彼女は火を操る「炎の魔眼:深炎(クリムゾン)赤眼レッド」の保持者なのだ。

彼女は最も強力とされる生まれもっての保持者「ナチュラル」だった。

「魔眼」にも力の差が存在する……彼女の様にナチュラルで強力な魔眼には深炎の赤眼の様な

『固体名:シリアルコード』がある。

これはナチュラルにしか存在せず、その属性の上位存在であることを表している。

ナチュラル以外にも稀にコードを持った眼を持つ物が現れることもある。

今この世界では魔眼について大きく4つの分類にカテゴライズされている。


誕生より有する。

「生まれ持つ者」ナチュラル……生まれつき強力な魔眼を有し能力も高いものが多い……天界や魔界の住人も此処に属する。


成長過程で覚醒する者。

「目覚める者」キャリア……何かの切欠で内包する魔力を発現させた状態……半数以上がこれである。


神や悪魔に一時的に力を与えられる者

「囁く者」ウィスパード……妖精や天使などの『精霊』等によりその力を引き出された者、能力はそこまで高くない。


自分の意思とは関係なく憑依される者

「魅入られる者」チャームド……悪魔や悪鬼に憑依され操られるもの……先の大戦の多くはこれであったと言われている稀に精霊により引き起こされる事もある。


など…力を手に入れる環境に違いはあるが…その差は内包する魔力にあると言われている。

全ての魔眼について解析が出来ている訳ではないので詳細は不明なのだが……


「お待たせ…こんなモノで悪いけど…」


手早く盛りつけた皿をイリュの前に差し出す……それを見てイリュは両手を胸の前で合わせ「わぁ」と声をあげた……意外と彼女は美味しい物に目が無いようだ……


「ううん、私紫音の目玉焼き大好き」


今朝はトーストに目玉焼き、ウインナーとコーンスープにコーヒーだ……いつもと変わらないメニューだが

それでもイリュは喜んでくれる。


「いただきまっす」


 イリュは合掌するとトーストにかぶりついた。

相変わらず見事な食べっぷりだ………しかし 作った者としてはこうも「美味しい」と連呼されて食べて貰えるのは嬉しい限りだ。

なんだかんだと言いながらこの時間を喜んでいる自分が居る事に気付く。

過去に転校を繰り返し一人暮らしに慣れている紫音にとっては料理の腕前はその気になれ お店を出してもやっていけるであろうレベルであった。

本人にその自覚は無いのだが……


 私がこの春からこの学園に転校してきて 一ヶ月…その日のうちに声をかけられた。

何度も言うが私は人と接するのが苦手だ………でも……不思議と彼女とは打ち解けることが出来た。

それは…私の決意の為か…それともこの特殊な学園の為か……


しかし一番はイリュの性格のおかげかもしれない。

この事にはとても感謝している。

私自身、彼女に対して信頼と友愛を感じている事は今更言う事では無いが日々強く感じている。


「…ほら、口の周りに…もうっ」


そう言って彼女の口の周りを拭う。

まるで母親にでもなったかの様な感覚だ。


「っ!」


その単語に一瞬だけ胸の痛みを感じた。


「?どしたん?」

「…ん 何でもないよ」


相変わらず感の良い友人で困ってしまうな……

その後も緩やかな朝の時間は過ぎて行くのだった。




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