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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー

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陰陽四神会議 3

「なっ!なんで!なんで!?」

『うふふ…数年とはいえ、共に過ごした身体ですもの…私の魔力がすんなりと馴染みましたね』


 アルテナの魔力の宿った神代文字によって意識を残したまま体を支配された莉子は混乱していた。

 自分の意思に反してカイルに向けてその拳が繰り出されたがカイルは紙一重で避けると莉子を拘束しようと手を伸ばすが莉子はそれを跳ね除け、強烈な回し蹴りを叩き込んだ……カイルは両手を交差させてそれを受け止めた……その顔が苦痛に歪んだ。


「カイル様!私は決して貴方様にこの様な真似を!!」

「大丈夫だよ莉子様…必ず助け出してあげる」

『貴様にできるのかな?アルヴァレル』


 依然として莉子とカイルの攻防は続いていたが,莉子からは二人分の声が聞こえる…


「なんであの使徒はカイルを『アルヴァレル』って呼ぶの?というか知り合い?」

『私には理解できかねます…』


 紫音は疑問をニトロにぶつけて見るが期待していた様な答えは返って来なかった……

この言い方は何か知っている感じよね……

視線を結界の中の二人に戻せば再び莉子がカイルに襲いかかっていた。


「私の体…どうなっているの?!」

『うふふ…最高の操り人形だわ!いい子ね莉子…このままアルヴァレルを倒してしまいましょう』

「あわわわっ!」


 莉子の体がさらにスピードを上げる…本来ならば過剰に体が負荷が掛かる為、長時間この状態は維持できない。

莉子本来の身体能力の高さがあればこその現象だった。


 莉子の繰り出す連撃により、カイルは防御で手一杯の状況だった……やがて壁際に追い込まれる。


『喰らえ!』

「!?カイル様!お逃げください!」

「!!」


 莉子の攻撃を受け止めようとしていたカイルはその警告に一瞬で身を翻し、その拳を避けた。

瞬間、結界に包まれている筈の道場の壁が大きく陥没した。

 恐ろしく強化されているのだろうか?常人の出す力とは思えない程の……


「おお…莉子様の『崩拳』はいつ見ても凄まじいな」

「流石ですね莉子様」

「皆さん!今はしっかり結界に集中してください!!」


 清麿達の言葉にこれが莉子の基本的な能力だと確信した。


「やべえな!莉子様!」

「違います!いつもはこんな馬鹿力じゃ……」

「…そうだね…莉子様がこんな馬鹿力な筈が……」

『まだ本気ではないわ』

「「!!」」


  涙目の莉子を宥めようとするがアルテナの容赦ない追撃が二人に衝撃を与えた。

 一旦距離を取るべく、後ろにバックステップで回避したがそれを見逃すアルテナではなかった。

 莉子の身体は一瞬で床が捲れ上がる程の踏み込みでカイルへと距離を詰めた。


「!!やべ!」

『チェックメイトよ』

「ああ!あれは莉子様の必殺技!『四連崩撃』!!」


 莉子の右手が魔力を纏って繰り出された。

カイルは右手の手のひらを莉子の腕に一瞬触れ合わせることでその軌道を少しだけずらした。

そのまま、体を捻り、床を転がるように逃げ出した。


『甘いわ』


 莉子が大きく蹴り上げると床が爆散した……莉子はカイルの頭上を弧を描くように跳躍し、再びその眼前に着地した。


「!!」

『やるわね!』


 今度は莉子の左手が魔力を纏って下から上に繰り出された。


「!!」

「あぁっ!お逃げくださいっ!!」


 カイルは急停止した反動で少しだけ顎を引く事でその直撃を避けたがその拳圧に体が硬直しそうになる。

しかし次の瞬間、莉子の体が左に回転し、右足による後回し蹴りが迫っていた。


「ふぬっ!」


 カイルはその両腕に魔力を纏わせるとクロスさせてその蹴りを受け止めた。

重圧な音が響き、結界が軋むように揺らいだ……

瞬間、後ろに飛び退いた事で直撃は避けたが……


「それでも腕の感覚がねえ…やべえな…莉子様」

「ああ…カイル様!よくぞご無事で!!」

『ふーん…初見の筈よね?偶然かしら?』


 すぐに距離をとるが……莉子……アルテナはこれ以上は追撃してこなかった。


「陰陽とか言ってたから呪術的なものかと思っていたが……」


 思い返せば西園寺流も武道の道場だし…ジジイもほぼ格闘のスタイルだし…絢音の戦闘スタイルも武術だった…あれ?俺の思ってる陰陽間違ってる?


『脳筋の一族なのか?』

『否定はできないけど……絢音も莉子ちゃんも可愛いから良いじゃない』

『……そうだな』


 アーガイルもミカイルも思考を放棄したようだ。


「陰陽道も元を辿れば『怪異』を『調服』する…その為には身体能力は鍛えられるのだろうね」


 全ての四家は日ノ本から派生した流派だ。

そのすべての基礎は日ノ本へと繋がる。


「…さて、そろそろ良い頃合いかな?」

『まだそんな余裕を見せて……?』

「…?!カイル…様っ?!」

「大丈夫だよ…意識の接続を元に戻すね」


 莉子の体から震え、その場で膝をついた…

頭をがくりと落とすと、その体から色が失せた。


『?!義体?!いつの間に!!』


 再び顔を上げたそれは、莉子ではなく真っ白い女性の体を模したマネキン…義体に張り付いたアルテナであった。


「何かするのはわかっていたからね…最初に莉子の安全を確保するのは当然だろ?」


 彼の視線の先には絢音の腕に抱かれた莉子が姿を現す所だった。


完全不可視化(P.インビジブル)!?』











「…あっ……私は一体…」

「莉子様?大丈夫ですか?」


 先ほどまでアルテナに操られた身体でカイルに襲いかかっていた筈なのに…

気がつけば絢音の腕の中だった。


「私は一体…」

「旦那様のお陰ですよ…」








「危ない!」


 カイルが莉子の体を抱えて後ろに庇い、自分が盾となった。


『絢音!受け止めろ!』

『?!はいっ!』


 『サトリ』の能力で絢音にはカイルの思考による指示が伝えられた。

 カイルが背を向けた瞬間、彼の腕の中の莉子は『完全不可視化(P.インビジブル)が施された状態で空間転移された。

そして次の瞬間には莉子様によく似た等身大の人形が姿を現した……


「?!」


 姿は見えないが、絢音の腕の中には一人分の重みを感じることができた。

さらに、絢音が『視る』事で莉子の魔力が安定した状態でそこにあることが見えた。

 

『彼女の意識は義体に繋げているから…暫くそのままで体を休ませよう』

『そうそう…守りはホグシーちゃんに任せてね』

『この娘の癒しは我に任せるが良い』

「?!」


 姿は、見えないが、彩音の両肩に、高次元の魔力を伴った存在を感じることができた…

左肩には守護の波動を伴った小動物のような存在を…

右肩には経験豊富なおじいちゃんのような癒しの波動を伴った鳥のような存在を感じた。

カイルにより召喚されたホグシーとヒールバードである。


(あの一瞬でここまでの技を?!…さ、流石でしゅ!凄すぎましゅ!旦那しゃま!!)


 絢音は自分の魂が震えるのを感じた。








『馬鹿な?!あの一瞬で!!貴様っ!!』

「さて、そろそろお帰り願おうかな?その前にこちらからのおもてなしも受けてもらおう」

『?!』


 カイルの纏う雰囲気が変わり、中段に構えると、一瞬で姿が見えなくなった、


『?!』


 次の瞬間にはアルテナの目の前に現れたカイルの右拳が彼女の左腕を捉えた。

次の瞬間、その腕が木っ端微塵に弾け飛んだ。


『?!くっ!貴様これはっ?!莉子の!!』


 アルテナは慌てて後方に跳躍するが、カイルはそれと同時に床に踏み込むと彼女の上を飛び越えその背後に着地した。


『?!』


目の前を左ストレートが通過する……間一髪で身を捻り逃れたがアルテナが反応した時には既に回し蹴りが迫っていた。


『っっ!!』


 残された右腕と右膝を上げる事で瞬時に反応したが鈍い音と共にその義体に亀裂が入った。

アルテナはバランスを崩しながらもなんとかその場に留まると反撃の為に……


『あっ』


 目前にカイルの拳が迫っていた。

咄嗟に残っていた右手でガードするが瞬時に砕かれ、軌道の逸れた一撃はアルテナの義体を貫いた。

轟音と共にその身体が爆散した。


「…まさか莉子様の『四連崩撃』を…」

「旦那様!凄いです!」

「あの男…凄い…」

「「……」」


 周囲の者たちは、あまりの出来事に感動やら、絶句やら賞賛をしているが……

紫音と龍彦だけは無言のまま成り行きを見守っていた。


「……この流れ…見覚えがあるわ…懐かしいわね…」

「…偶然だな…俺も心当たりがあるんや…あの時の俺は、周囲からこんな感じで見られていたんやな……」


 今回の事象は間違いなく、いつか学園で西園寺とカイルが戦った際に見せた『模倣猫(コピーキャット)』であろう。


『相変わらず小賢しい真似を……』

「一方的に絡んできて、辛辣な言葉をありがとう」

『……今回は引くとしよう…いずれまた決着をつけようぞ』

「この結界からはそんなに簡単に…」


 カイルが言葉を言いよらないうちにアルテナの姿は砂が崩れるように消え失せていた。







「この度は何とお礼を申せば……」

「気にしないでくれ…こちらにも利のある事だったからな」

「貴様!やはり莉子様を狙って!」

「立夏ちゃん…ややこしくなるから少し黙ってようね」


 騒ぎ立てる立夏を絢音が口を塞いで黙らせた。


「身体の方は問題ないかな?」

「はい…今までの事が嘘の様です…有難う御座います」

「…それで…莉子様…これからはどの様に?」


 清麿が尋ねると莉子は思案顔になった。


「…お父様は私の呪いは解除できないとお考えだったのです…実際私も半ば諦めてましたから……西園寺以外の三家には新たな『巫女』選出の知らせが出されている筈です…」

「?!馬鹿な!」


 莉子の答えに清麿達が声を荒げた。

『巫女』の選出…つまり莉子を解任して一族の中から素養のあるものを新たな『巫女』として擁立するのだ。

 

「西園寺への使者は立夏がその役目を担っていました……私が無理に同行したのです…」

「北神堂 東条宮 南条門…それぞれの家には私の姉妹が向かっている筈だ」

「…そうなると西園寺の巫女候補は……」


 視線が絢音に向かった。


「私ですか?…まあ西園寺にいる適齢の女性は私ぐらいですものね……」

「どうしますか?絢音……日ノ本家の勅令ともなれば……」

「お母様?嫌です……莉子様は健在だし…私は辞退しますよ?それに私は嫁ぐ身ですから♡ね!旦那様!」

「はははは……」

「…あんた…笑って誤魔化す癖 止めなさいよ…よくないわよ?」

「はははは……」


 紫音に指摘されるがこれが最適解なのである。


「それよりも…莉子様はこれからどうされるのですか?日ノ本家にお帰りを?」

「うーん……お父様の事だから…帰れば私は幽閉されるでしょうね…」

「そんな!…ならば西園寺家に滞在されれば……」

「雪乃の気持ちは嬉しいけれど……それでは西園寺に迷惑が……」

「莉子様…カイル様のところに行きませんか?今はまずお体を万全にする必要があるかと思います…あの使徒を退けたカイル様の所ならば安全だとは思いませんか?良いですよ〜カイル様のところは…」

「それもそうですね…お世話になってもよろしいでしょうか?」

「なりません莉子様!」

「立夏…カイル様はこの数年、誰にもできなかった私の状態を解決してくださったのですよ?子れ以上の適任者はおられません」

「うぐっ…確かにそうですが……ううっ」


 莉子の正論に立夏は反論する術を失った。


「では…」

「?」

「私も一緒に行きます!!」


 何か余計なのがついてくることになった。



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