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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
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陰陽四神会議 1

「やっと帰ってきたー」


 ゲートから出た途端、紫音は大きく背伸びした。


「なんだ?紫音は向こうの世界は気に入らなかったのか?」

「ううん……向こうもすごく楽しかったけど……非現実的なファンタジー過ぎてちょっと…私には平凡な日常が落ち着くんだよね」

「そうね…紫音の言う事にも理解できるわ…なんとなくアトラクションの様な作り物の様に感じちゃうのよね」

「飯はうまかったぞ?」

「イリュはそればっかだな」

「……いおりんも結構食べてたよね?」

「べっ…別に悪いとは言ってないだろ?……確かに食べ物は美味かった」


 年頃の娘たちが、ワイワイガヤガヤと通り過ぎていく…その少し後ろを祖父と孫が歩いていた。


「お爺様……帰ったらきちんと説明してもらいますよ?」

「う、うむ…」

「お母様も怒っては居ませんから……」

「うむ……本当に?」

「一緒に謝ってあげますから……」

「うむ……」


 あの時、清麿は使徒によって怒りの感情により意識を乗っ取られており、一種の洗脳状態の様な状況で襲って来たが絢音によって気絶させられ、洗脳はすっかり解除されたようだが…絢音に頭が上がらなくなっていた。


その後を双子姉妹の令嬢とお付きの侍女が歩いてくる。


「お嬢様、お荷物を貸してくださいませ…それは私の仕事です」

「だめです!王女様に荷物持ちなどさせられません!」

「王女?はて?今この場にそのような方はおられませんよ?私達は公爵家の雇われ侍女のルーとネーですけど?」

「ルミナス様、今更その設定は無理でしょう?」


 すっかり身バレしてしまったルミナスは、逆に双子からお世話されている状況だった。

 何故かネルフェリアスも同じ様にお世話されていた。


「私は本当に侍女ですので、お気遣いなく」

「…王妃様直属の戦闘メイド『素足の乙女(シュリンガラ)』のリーダーともなれば私達よりも位は上ですよ?」

「…お二人とも真面目ですねぇ」


 ともあれ、あのルミナスが何を考えてこんなことをしたのやら…何か深い事情が………


「…おかしいわ…我儘で意地悪な公爵令嬢に虐められる可哀想なメイドを白馬に乗ったカイル様が迎えに来てくださる予定だったのに…」

「お嬢様…残念でしたね…」


 理由は何も無かった………


「これも全て闇ギルドの連中のせいで台無しよ……でも、まぁあちらの世界に自由に使える手駒が増えたのは良かったわね」 


 本人がノリノリで指導していたような気がしたが……余計な事は言わないでおくに限る…


「それで…その使徒はどうするのだ?」


 イングリットがカイルの腕の中で眠るセポネーを見た……天使の様な寝顔は使徒とは思えない。


「そうだな……ひとまず…寮の方で…」

「アレが面倒見れるのか?」


 イングリットの懸念も理解できる…頭の中には酒瓶を抱えて眠るアイリシアの姿が浮かんで……消えた。

うん、ないな……しかし学園に連れ込むのも問題がありそうだ……


「仕方ない……もうあそこしかないな……」








「やっと帰ってきたな…」

「…どうして数日休んだだけでキッチンがこんな状況になるんです?」


 絢音とジジイは実家に帰り、双子姉妹とルミナスとネルフェリアスは侯爵家に……

アイリスと律子はひと足先に寮に帰り、伊織さんとはマードック達はゲートで別れ、

カイル、紫音、イリューシャとイングリットでアルテの店にやって来た。

 紫音など挨拶もそこそこにエプロンをつけて片付けを始めた。


「仕方がないじゃないか!店員が二人も休んだんだぞ?私が働くしかないじゃないか!」

「…それが本来のアルテさんの仕事だよね?あれ?俺が間違ってる?」

「まぁ良いじゃない……お腹すいたなー何かあるかな?」

「イリュ!勝手に冷蔵庫を漁るんじゃ…!!リット!」

「相変わらずだな…アルテ」


 旧知の中である二人が挨拶を交わす……

二人が会うのは久しぶりの様で会話が弾んでいる。







「…そうか…それは災難だったな…」

「まぁ…カイル達のお陰で無事に帰ってこれたのだかな…」


紫音の片付けも一段落した為、みんなでコーヒーを飲みながらざつだんをしていた。


「あ、アルテさんにもお土産があるんだった…」

「お、紫音…お前は良い子だな…」


 アルテの目の前に紙袋が差し出された…

アルテは機嫌良く包みを開けると……固まった。


「…紫音…これは?」

「これ不思議な植物なんですよ?空気が汚れていたら花が開いて消臭の香りを出すそうなんです!ほら、アルテさん煙草吸ってるからお店の空気が悪いのってよく無いじゃ無いですか?」

「……あ、ありがと……」


 ちなみに既に花は開いている……微かに良い香りが漂っている…


「紫音らしいなーあ、私はコレね」


 イリュが小さな小袋を手渡した。


「ほほう…アクセサリーかな?」


 袋の中から出てきたのは、小さな藁人形のような作りをした人形だった。


「え?呪われる?!」

「これあっちの世界の商売繁盛の守り神らしいんだ…これで明日から大繁盛間違いなしだよ!」

「あ、ありがと……」


 心なしかアルテさんの頬が引き攣っている…既に大繁盛だからこれ以上忙しくなるのは正直嬉しくない。


「最後は俺だな……大事にしてくれ」


 カイルはアルテの腕に眠っているセポネーを渡した。


「やっぱりカイルはわかっているな…これぐらいの子が可愛くて……おいっ!!」

『ふみゅ?』

「アルテさんが大きな声出すから起きちゃったじゃ無いですかー…セポちゃんおはよ」

『うーん…おはようなのだ…ここはどこなのだ?』

「おい…カイル…お前これ犯罪……」

「大丈夫だこれは『使徒』だから問題ない」

「?!『使徒』?!!!!」


 アルテが椅子から立ち上がり腕の中のセポネーをどうするべきか悩んでいた……


『…だからここはどこなのだ?』

「ここはセポネーの新し家だ……こっちがママだよ」

「おいっ!カイルお前っ!!」

『ママ?ママっ!!』

「ふわっ!」


 腕の中セポネーがアルテにしがみついた……


『ママ!セポネー良い子にするから捨てないで!』

「… !!………あ、あのね…セポネーちゃん」

『なぁにママ…』


 キラキラした目で見上げるセポネーを眩しくて直視できないアルテだった…


「……ママが守ってあげるわ」

『!!ママ!大好き!』


 しっかりと抱きしめ合う母と娘…素晴らしい!


「いやぁ…良いものが見れたな…じゃあ帰ろう」

「おい!ちょっと待て!そんな訳無いだろ!」


 帰ろうとするカイル達にアルテが縋り付く…


「本当に大丈夫なのか?」

「あぁ…『リング』を嵌めてあるし……不思議とこの子からは悪意を感じない…」

「…しばらく私が残るから…お前達は帰れ」


 イングリットがその場を引き継いでくれた。


「セポちゃん?このママは少しだらしないから助けてあげてね?」

『任せるのだ!ママの面倒は私がしっかり見るのだ!』

「…はぁ…ここまで言われたら、私が面倒を見るしかないわね…」

「困ったことがあれば直ぐに連絡を」


 コーヒーを飲み干すと席を立ち上がった。

セポネーの世話をする事で、アルテが自立するキッカケを掴むかもしれない……


「カイル…カップを洗って帰りなさいよ!」


 ……のはまだまだ先の事の様だ。









「ただいまー」

「あ、おかえりー」

「…遅かった……」


 寮に到着した一行を出迎えたのは、先に戻っていた律子とアイリスとその足にしがみつくラプラスだった。


ラプラスはカイルを見つけるとアイリスを離れて、とてとてと近づいて来るとその足にしがみついた。


「マスターおかえり……寂しかった」

「ただいま…ごめんね……いい子に留守番してくれたみたいだね」


 カイルはそんなラプラスの頭を優しく撫でる。

ラプラスは目を閉じて嬉しそうにそれを受け入れていた。


「ラプちゃん!ただいま……お土産があるんだよ〜」


 紫音はその場にしゃがみ込むと、カバンの中からラプラスに買ったお土産を漁った。

 

「宿で買ったクッキーとラブちゃんに似合いそうな髪留めだよ……つけてあげるね?」


 それは、猫のマークのついた髪留めだった。

帰る前に周辺の出店を回って購入してきたものだった。

 お土産を手にしたラプラスはそのまま紫音にしがみついた。


「しおんしゅき」

「はうっ!?」


 紫音は幼女の感謝の言葉にクリティカルなダメージを受けたようだ。


「あれ?シア姉は?」

「あー食堂にいるよ」


 そのまま移動すると珍しくアイリシアは起きており、テーブルに座って食事をしていた……泣きながら。


「うえっ…うえっ…美味しいよぅ…」

「…どうしたのコレ?」

「…ラプちゃんに聞いたらね……」


 アイリスの説明によるとアイリシアは一応カイルから頼まれた仕事をこなしてくれたらしいのだが…ラプラスにとって大事な『挨拶』を初日から怠ったらしい。

そのままラプラスは拗ねてしまい、先ほどアイリス達が帰宅するまで、家の機能が全て停止していたらしい。


 ラプラスはこの屋敷に取り付く精霊のような存在だが、その力の源はこの家に住まう住人との絆にある。

すなわち、挨拶であり、言葉であり、感謝の気持ちである。

住人とのコミュニケーションが絶たれると、彼女の力は効果を発揮することができなくなるのだ。


「…おうちを大事にしてくれない人は嫌い」

「そうか…ごめんね。ラプラス…シア姉に仕事を頼んだから…ほら、彼女は周りが見えなくなるタイプだから…」

「んっ…なら仕方ない」

「ラプラス〜ごめんねえ〜」

「わぷ…許す」


 食事を終えたアイリシアがラプラスを抱きしめた。

彼女はダメ人間のようにも思えるが、以前はユグドラシルの中枢に勤務していたほどの優秀な人材なのだ。

想像できないけど……


「それでここ数日はどんな感じだったかな?」

「えーと…魔方陣に関しては3件、活性化する前に見つかって解除されているわ…夢のほうに関しては0件ね……大規模な魔力、変動も感知されなかったわ」

「そうか…ありがとう…コレ土産のあっちのワイン」

「!!あ〜んカイルぅ〜愛してるぅ〜」


 イヴァリース産のワインはなかなか希少価値が高く、こちらの世界でもあまり流通することがない…その情報を知っているアイリシアはなかなか事情通だと思われる。

 そんな彼女が喜びを表現して、カイルに抱きついて、アイリスによって引き剥がされた。


「…アイリシア…カイルから離れて…」

「えぇ〜アイリスちゃん違うのこれは感謝の気持ちなの」

「…感謝は言葉だけで充分アイリシアは過剰な接触が多すぎる…奥様以外は接触禁止」

「そんなぁ〜」

「…報告が終わったら速やかに飲んで寝て良し」


 アイリスがアイリシアを一刀両断した。


「ラプ、お風呂と食事の用意を頼む…みんなまずは疲れをとって食事にしよう」

「…私たちは先に片付けてお風呂をいただきましょう」

「そうね…夕飯はとりあえず…ラプちゃんがいれば何とかなるしね」


 カイルは受け取った書類に目を通している…


「夢の少女ねぇ…」


 夢の中に少女が出てきた……ただ、それだけである。

特に何かが起きた訳ではない……

 それともまだ、我々の知らない何かが起こっているのか?


「とりあえず…今夜はゆっくり眠れそうだな……」

『……絶対そうはならんと思うぞ』


 アーガイルが否定的な言葉を発したが、それは彼の願望だろう……








「?…何か騒がしい…?」


 ベットで本を読んでいた紫音は廊下から声が聞こえた様な気がした。

 ドアの隙間から顔を覗かせて見ると隣のカイルの部屋の前にアイリスとイリューシャと律子が居た。


「アイリスまだかよ」

「…結構複雑な結界が張られている…」

「やっぱり辞めない?カイルも疲れてるだろうし…」

「じゃあ律子は部屋に戻りなよ…アイリスと二人でいただきます」

「行かないとは言ってないでしょ!」


 どうやらカイルの部屋に夜這いをかけようとしているらしい…ドアに強力な結界が張られており中に入る事が出来ない様だ。


『…第一級以上の対魔結界の様ですね』


 ニトロがそう解析した…第一級って…


 三人とも下着姿に薄手のナイトガウンやらネグリジェやら……イリューシャはもはや服を着ているかどうかも怪しい布だ。


「…結界が強すぎて中に入れない…」

「今までこんなに強力な結界は張られた事はなかったのになぁ…」

「…僕たちの事嫌になったのかな…」

「………」


 紫音には心当たりがあった。














「帰ってゆっくりと自分のベッドで休みたいわ」

「…ふふっ」


 何気ない紫音の一言を聞いて、隣のカイルが小さな笑をこぼした。


「何よ?」

「いや、ちゃんとあそこを自分の帰る場所だと思ってくれているみたいで安心したんだよ」

「うっ…」


 半ば強引に引っ越しをさせられたので、しばらくは抵抗を感じていたのだが、住めば都ということだろう。

今の場所は、居心地がすごく良かった。

設備は元より一緒に住んでいる人達に心を許している自分がいた。


「まぁ食事だけは無駄に美味しいから仕方がないわね」

「ほほう…そこまで高く評価してくれるとはありがたいね」

「…後は、隣の部屋の深夜の騒音さえなければ最高なんだけどね」

「うっ…それは…いや、すまん…善処する…」


 珍しく言い淀むカイルを見て何故か『勝ったな』と優越感を感じてしまうのだった。










と、ゲートからの帰り道のやりとりだった。


「……!紫音…」

「あ…」


 見つかってしまった。

仕方なくドアから出る……


「そ、それでみんなこんな夜更けにどうしたのかなー?」

「紫音…お前もやらないか?」

「しないわよ!……みんななんて格好してるのよ…」

「…紫音も一緒に行く?」

「行かないってば!」


 その間にもアイリスが結界の解除に難航していた。


「…一級結界かもしれない……」

「えーと…さすがに今日は疲れてるとかじゃないかな?」

「……私達…あっちの世界では迷惑かけちゃいけないから我慢してた…あんなに大変な事があったのに……ご褒美が無いのはおかしい」

「確かに…大変だったけど…」

「じゃあ律子は帰って寝てていいぞ、お前の分まで搾り取っておくから」

「帰るとは言ってないでしょ!」


 みなさん元気ですね……防音結界張って寝ようかな……


「こうなったら紫音が初参加する事を餌に交渉してみるか?」

「だから私は……」


 イリューシャが紫音の肩を抱いて誘ってきたがお断りした。


「…やっぱり結界が解除できないの…」

「アイリスが解除できないとなると…神級か禁呪の可能性もあるわね」

「……そんな物騒なもの使わないで欲しいんだけど……あ…」


 紫音が何気にドアノブを回すと……開いた……


「「「…『結界破り(ブレイクスルー)』!!」」……いい仕事をするわね」

「いやぁ…紫音助かった!今度ケーキ奢るわ」

「ありがとう紫音…」


 3人が紫音に礼の言葉を述べると室内へと入っていく。


「!?なんだ。お前ら?一体どうやって!!」

「…頑張ったご褒美をもらいに来た」

「あれだけ頑張ったんだ…魔力の回復に協力してもらわないとな」

「えーと…僕も頑張ったから……」


 それぞれの正当性を主張しながらベットの上のカイルへと迫る美女三人…羨ましい限りだ。


「…?!…しまった…紫音の……」


 カイルと視線が合ってしまったので、そっとドアを閉めた。

瞬時に扉が凍りついたような光に包まれた…

アイリスによる結界だった。


「…しおん…なにかあった?」

「!ラプちゃん!!」


 背後から声をかけられ、振り返るとそこにはパジャマ姿のラプラスが大きなうさぎのぬいぐるみを引きずりながら立っていた。


「何でも無いのよ…さぁ寝ましょ?」

「ふみゅ…だっこ…」

「!!かわっ…ラプちゃん今日はお姉ちゃんと一緒に寝ましょうね」

「ふみゅ」


紫音はラプラスを抱き上げると、自分の部屋の中へと消えていった。


 




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