週末異世界旅行 二人の夕焼け
「………」
「………」
しおんと絢音が石垣に座り、みんなの作業を見守っていた…迷宮の氾濫は鎮圧され、後処理の為に多くの人達が動き回っていた。
既に時刻は夕刻であり辺りには夕陽が差し込んでいた。
紫音にとって、絢音は年上であり、クラスメイトであり、知り合いの姉であり、知り合いの婚約者である。
情報量多いな
今までそこまでの接点がなかった為、どのように接すればいいか不明確な部分が多いのが現実だった。
「私と話すのは苦手かしら?」
「うえっ?そんな事は……苦手というか、何を話せばいいかなって悩みます」
そんな失礼な事は言えないと思いながらも彼女の目のことを考えたら隠し事は意味がないことに気づいた為、思っていることを正直に話すことにした。
「紫音ちゃんは真面目ね……そんなに警戒しなくても、今の私の目の力は旦那様に封じられているから」
「あ、そうなんですね」
「頑張れば使うこともできるけど」
「意味ないじゃん」
「うふふ…相手の同意無しでは使えないのよ…」
そんな絢音の横顔は何処か嬉しそうだった。
「私はね…この目に目覚めた日から…人と会うのが怖かったの……目の前の人物は笑顔なのに……心の中は……」
「……何となく……理解はできます」
絢音は相手の思考に、紫音は相手の言葉に恐怖して逃げ出した。
「私の眼は……」
気がつけば紫音は自分の眼の話を絢音に話していた。
絢音は静かに紫音の話を聞きながら、時折相槌を打ちながら、時折肯定する様に、ただ、静かに聞いてくれた。
「……それで…今は皆んなと一緒に居ます……」
「…そう……頑張ったのね」
絢音は立ち上がると紫音の正面から彼女の頭を抱え込んだ……絢音の年上の我儘ボディが心地良い……ではなくて!
「あの…絢音さん…」
「紫音ちゃん…いいえ、紫音…今日から貴女は私の妹よ……私の事は絢音と呼び捨てにするかお姉ちゃんと呼びなさい」
「ええ?!何でそんな…」
「貴女はもう少し他人を頼る事を学びなさい……私みたいにね」
「え、あの…」
逃れようと身を捩るが有無を言わさず更に強く抱きしめられた。
……何て力…これが…Dの力……いや…E?
「…変な事考えてるみたいだけど……紫音は今まで『自分が悪い』って考えてきたでしょ?『迷惑』かけたくない……とも」
「?!…あの…心を読むのは……」
「今の貴女は力を使わなくても見ていればわかるわ…。以前の私がそうだったもの…」
「絢音さん…「おねえちゃんでしょ!」えぇぇ…」
「今の所はお姉ちゃんって言う所よ?…ほら、私男兄弟ばかりでしょ?同性の姉妹に憧れてたの!」
「はぁ…」
「だからね、もっと私達を頼って良いのよ?旦那様も…イリュもりっちゃんもアイリスも…皆んな貴女を助けてくれるわ…勿論私もね」
「……はい……」
何で皆んなこんなに優しいのだろう?…どうして絢音さんはこんなに強いのだろう?
「大丈夫だからね!困った事があったら直ぐに言ってね?ちょっとした事でも……たっちゃんに焼きそばパンとか買いに行かせるとか…紫音はもう少し我儘になっても良いからね?」
「ふはっ!」
思わず西園寺にパシらせる姿を想像して笑ってしまった。
「うん…やっぱり紫音は笑ってる方が可愛いわね」
「…ありがとう……お、お姉ちゃん…」
「!!まぁ…!紫音〜!!」
「えっ!いや、ちょっとそんな強く抱きしめ……!!」
感極まった絢音に抱き締められる紫音……顔を包む感触は最高ですが…息が………
夕日に照らし出された二人に確かな絆を感じながら意識を手放す紫音だった。