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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
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週末異世界旅行 8

「許さんぞ!カイル・アルヴァレル!!」

「お爺様!いい加減にしてください!」


 清麿と絢音の戦いは意外な事に互角であった。


「…絢音の『サトリ』があればもっと早く決着が着くと思いましたけど……」

「そうだね…力を使っても…アレなんだよ」

「えっ?!」

「もちろん絢音の経験不足もあるし…技術の差もあると思うけど……あの速さに予測が追い付いていないんだよ」


 カイルには2人の動きが見えているのか、冷静に見守っている…問題は絢音のヌエの扱いなのだが……

ルミナスは追いかけるのがやっとであり、シルフィエルには何も見えていなかった。


「でも…あのお爺さんの怒り方も少しおかしいですよね?」

「そう言われてみれば……助っ人としてこちらに来たのですよね?」

「あーそうだと思うけど…そう言えば孫が可愛いとか言ってた気がするけど…まだそんな怒られる様な事は……」

「…時間の問題の様な気がしますけど……」


 取り敢えず…最後の一線は超えてはいない……それ以外についてはここでのコメントは差し控えさせて貰おう。


「それでも…です!良識のある人物ならば、襲いかかってくるような短絡的な行動は取らないと思うのですが……」

「…そう言われてみればそうね…仮にも名のある名家の当主だった人なのでしょう?」

「ふむ……」


 考えられるとすれば使徒の影響である。

あのグルーベルの異常なまでの怒りを考えれば、何らかの影響を及ぼしている可能性は捨てきれない。


「…このままにしておくわけにもいかないし…はぁ…取り敢えず行ってくる…… 2人はここで待機してて…シルフィエル…」

「はい?」


 カイルは収納から紙袋を取り出すとシルフィエルの手のひらに乗せた。

シルフィエルは鼻をすんすんと鳴らすと紙袋の中を覗いて見た。


「ふわぁぁ…何ですか?丸い食べ物?」

「ドーナツね…カイル様の手作りね」

「…それでも食べながらおとなしくしててくれ…」


 カイルはゆっくりと歩いて二人に近付いてゆく……武器は収納に仕舞い、肉弾戦で参戦するつもりの様だ。


「…あまり気乗りしないけど…ミカイル…魔力の譲渡を…」

『やっとその気になってくれたのねぇ〜お姉さん嬉しいわ』

「…気乗りしないって言ってるだろ……」


 ゆっくりと歩くカイルの体を神聖な魔力が覆ってゆく……そしてその髪は金色へと変色した。


「…速度上昇(ヘイスト・ブースト)!!」


 カイルの神聖魔法が発動すると同時にその姿は消え去った。

次の瞬間には、中央の床が大きくえぐれ、右端に清麿が、左端にはカイルと絢音がその姿を表した。


「旦那様っ?!」

「絢音…ヌエは戦う為の力じゃ無いんだよ…コイツは絢音と遊びたがっているんだよ」

「遊び……いえ…しかし…」

「ふむ…それでは…絢音……踊ろうか?」

「ふえっ?!」


 カイルはヌエを纏った絢音を見て少し考えるとそう告げた。

そして右手を掴むと絢音を引っ張り、左手を腰に当てると回る様にステップを踏み始めた。


「そうそう…上手じゃ無いか…」

「旦那様っ!攻撃がっ」


 そこに清麿の白虎を纏った一撃が繰り出された。

カイルは絢音をその胸に引き寄せるとその攻撃を回避した……そしてその反動を利用して自分の足を後ろに繰り出すと清麿の背中を蹴り飛ばす形になった。

しかし清麿はすぐ様着地するとその反動を利用して蹴りを繰り出してきたが、再び二人は振り子の様に互いを引き離すとその間に清麿がすり抜けて行った。


「絢音、足をまっすぐに」

「はっはい!」


 カイルは絢音の胴を抱えるとそのまま右に90度振り回した。

そこに再び襲ってきた清麿が見事に顔面を蹴り飛ばされる形になった。


「凄い!!」

「絢音っ!なんて羨ましいっ!!」


 周囲で見守る二人が感嘆の声を上げた。


(…旦那様はお祖父様を見ていない……)


 カイルの視線は絢音だけを見ていた。

絢音が纏っているヌエから高揚した気持ちが伝わってくる……今、清麿と戦っているのはヌエだ…私達が踊る事でヌエが喜び闘う力へと変えているのだ。


「ヌエの声が聞こえるかな?」

「!!ぬーちゃんが喜んでいます!!」

「…絢音と踊って喜んでいるんだよ」

 

 その間にも二人は踊り続け、清麿の攻撃は続いた…しかしその全てが回避され、反撃を受けていた。


「召喚獣との共闘の本質は対話だ…命令や使役ではなく、『お願い』して『対価』を払うんだ……」

「…ぬーちゃんの対価は踊る事なのですか?」

「何だって良いんだよ…絢音と一緒に何かをする事が『対価』になっているんだ」

「…凄いです…旦那様……そんなふうに考えた事はなかったです……」


 最後にカイルは絢音をリフトアップすると飛びかかってきた清麿の攻撃を膝で受け止め、そのままやり過ごした。


「じゃあ次は絢音がやってごらん?」

「はい!」


 絢音は憑依を解除すると、その隣に現れたヌエの頭を優しく撫でた…


「ぬーちゃん…次は鬼ごっこしよう!」


 そう言い切ると絢音は駆け出した。

ヌエは嬉しそうにその後に続く…


その正面から清麿が雷撃を纏って襲いかかって来た。

絢音は片手一つで風に舞う木の葉の様にその突進をかわした。


「ぬ!またぬか!絢音にぇ!」


 振り返った清麿をヌエが踏みつけて絢音の後を追いかけた。


「…本当に鬼ごっこをしています……」

「ふふ…流石ね絢音」


 それを観ていたシルフィエルは驚き、

ルミナスは当然の様に頷いた。


 その間、カイルはグルードラゴンの亡骸に近づいた。

その亡骸は未だ意思がある様に蠢いていた。


「…これが使徒の力なのか?」


 そこにはドラゴンとグルーベル…二つの亡骸があった…それらは同様に蠢いているがすでに生命の輝きは失われていた。


『アンデット……死霊使いか?』

『薔薇を使っているのよ?……まさか『薔薇の女王(ローズクイーン)』を?!』

「いや…アレはミカイルの神聖魔法で消滅させた……いかに使徒といえど復活は無理だな……」


 周囲がざわめき地面から次々とアンデットが這い出てきた……

それは騎士であり、戦士であり、魔物の姿も混じっていた……


「おーおー…こんなに大盛りで……何を焦っているのかな?」

「カイル様何を……ひゃああああ!」

「ルミ姉様……きゃあああああ!」


 絢音に注目していた二人がこちらに気が付き悲鳴をあげた。

 緩やかに襲いかかってくるアンデットの集団をバックステップでかわすと柏手を打つと大きく手を広げた……そこには光り輝くカードの様な魔力が展開された。


「祓え!『神聖札(ホーリーアルカナ)』!」


 手札が高速でアンデットの額に張り付き、そのまま浄化を始めた。


「!!上級退魔術!!」


 シルフィエルは、自身の完全で行われている光景に驚愕した。

『ホーリーアルカナ』はその存在すら知るものが少ない上級の退魔術である。

文献によれば聖女のみが使える技として伝承が残っている。


「え?カイル様が…聖女?」

「まさかそんなわけないでしょ…」


 つい聞こえたシルフィエルの言葉に思わずツッコミを入れてしまった。

 コレはミカイルの力であり、カイルはそれを借りているに過ぎない。


『シルフィエルちゃんから尊敬の眼差しを感じるわ!私の地位向上のためにもどんどん敬って崇めて頂戴!!』

「…そういうところを直せば敬ってくれるんじゃないかな?」

『お前は『聖女』と言うよりも『性女』だもんな』

『何よ!………でも文字起こししなければわからないわね…後者方にに少しばかり魅力的な響きを感じてしまうのだけれど』

『お前の信徒が増えないのはそういうところだろう』

 

 視線を絢音と清麿に向けると案の定、清麿の体力の限界が来ていた。


「おのれ…カイル・アルヴァレル…」

「はいはいじいさんあんまり無理したらだめだぞ」


 カイルは地面にひれ伏す清麿の覆面の首元あたりを探ると何か黒い物体を摘み上げた。


『やめるのだ!離すのだ!』

「…何です?…妖精?バイキン?」

『失礼な奴なのだ!僕はこれでも使徒なのだ!』

「ふむ…使徒の幼体ってところかな?」


 使徒の幼体と呼ばれた。それは全身が真っ黒でありながら、東部には2本の黒い触覚があり、目とギザギザの歯の文様が書かれている……そう言われればばい菌に見えなくはない。


「無事かっ?!」

「ああ、…リット…お疲れ様」


 そこにイングリット達が率いるメンバーが雪崩れ込んできた。

お互いに今までの状況共有すると、目の前の小さな使徒に視線を向けた

 

「今回のコレはこの小さな使徒の仕業か?」

「ちょっと違うと思うなぁ…協力者がいたんじゃないかな?」

『無駄だぞ?私は仲間の事なんて喋らないのだ!』


どうやら仲間がいるようだ…


「では…素直に話してもらうようになってもらおうかな?」

『何をする気なのだ!痛い事はやめて欲しいのだ!暴力は反対なのだ!』


そこには瞳を輝かせた女性達…伊織と律子が興味深そうに見ていた。









『僕と『憤怒』がここにきて準備していたのだ!憤怒がドラゴンを殺したので僕の力で操ったのだ!』

「へー凄いのね」

『そうなのだ!僕はすごいのだ』



 あの後、沈静化した迷宮の処理はギルドマスターやエレンに丸投げ…引き継ぎを行いアイリス達を連れて宿に戻ってきた。

テーブルの上の使徒は取り囲まれて怯えていたが目の前にケーキを出すと、目の色を変えた。

 虫の様に小さかった体が幼児サイズに大きくなり、顔かと思っていた物は頭に被っていたはフードだと判明した。

ケーキを一口食べるとそのぷにぷにのほっぺを惜しげもなく晒し、上機嫌で会話に応じたのだ。

 可愛いもの好きの女性陣によるお茶会が開かれて機嫌を良くした使徒は根こそぎ情報漏洩した。


「…悪意を感じない…」

「だよな…本当に使徒なのか?」


 アイリスとイリューシャは疑いの目を向けている。


『むっ?そこの女!失礼だぞ?僕はコレでも六天使に連なる『セポネー』様だぞ!』

「へー君がセポネー様なのか!死を司る権能の使徒なのだね?」

「セポちゃん…可愛い」

『うむ!判ればよろしいのだ!』

『…チョロいな…』

『でも…このままっていうのもどうかしら?』

「そうだなぁ。一応安全策を取っておくか」


 カイルはそう言って、セポネーの腕に白い腕輪をはめた。


『なんだ。これは?』

「俺たちと一緒に行動してもらうために必要なものなんだ……友達のしるしかな?」

『友達!そうかーお前達は私と友達になりたいのかー?仕方ないなぁ』

「….」

『今更良心が痛むとか言わないでね』


無邪気に喜ぶセポネーを見て、どうしたものかと複雑な心境を浮かべる一同であった。

 

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