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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
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異世界週末旅行 6


 迷宮入り口で戦う冒険者たちは苦戦を強いられていた。

最初はランクの低い魔物ばかりで余裕と思われていたが,徐々に魔物のランクが上がって来ていた……


「おかしいぜ?本来この迷宮には現れない上位種まで混じってやがる!」

「負傷者は後ろへ下がれ!なんとしてもここで食い止めるんだ!!」


 ゴブリン…魔狼…最初の波を抑えた後からはゴブリンリーダー率いる小隊が襲いかかり,魔狼と連帯したゴブリンライダーなども現れた……それ以外にも上位種の混じるかなり危険な氾濫となっていた。

 

「踏ん張れ!後がないぞ!」

「右側がやべえぞ!抜かれる!」


 再び勢いを増した魔物の氾濫は魔狼の上位種の一角魔狼が群れを引いて押し寄せ前線が崩壊しようとしていた……


「うわーっ!」

「ザコッシュ!!」


 前線にて奮闘していたAランクパーティー『勇者の剣』のメンバー達も、次々と傷つき、戦線を離脱し始めていた。

一角魔狼が従える魔狼の群は、見事に統率された動きで

冒険者たちを追い詰めていた。 


「くっ、来るなー!!」


 経験の足りない新人冒険者たちは魔狼に追い詰められ窮地に陥っていた。

 その彼らの前に、割り込む人物があった。 


「ここは任せろ!お前達は下がれ!」


 伊織である。

彼女はその両手に構えた魔銃を構えると前方の一角魔狼に向けて発砲した。

魔狼は跳躍し、弾丸から身をかわしたと思ったが後ろ足に鈍い痛みを感じた。

 カイルにより手が加えられた『スティンガー』はその身に宿った魔力により、その銃弾の軌道を修正し正確に標的へと導いた。


「最近暴れ足りないと思っていたところだ」

「ケーキ食べ過ぎたから体重が気になるんだろう?」

「う、うるさいなぁ」


 その隣ではイリューシャが飛びかかってきた魔狼を切り裂いていた。


「いおりん、どちらが多く討伐するか競争しようぜ?」

「…いいだろう…負けた方が帰って『パティシエル』のケーキをおごるのはどうだ?」

「いいけど……まだ食べるの?」

「うるさいなぁ…カイルのケーキが美味しいんだからしょうがないじゃないか!」


 学校帰りの女学生がするような会話をしながら、次々と魔物を倒してゆく二人を…周囲の冒険者たちは、呆然と見守ることしかできなかった。


「今の間に、負傷した者は下がれ!前線を立て直すんだ!」


 前線の指揮を執る高ランクの冒険者が声を張り上げる。

戦う二人を残して全員が下がった瞬間,冒険者たちの目前に淡い光が立ち上り、今まさに飛び掛かろうとしていた魔物達を弾き返した。


「間に合ったみたいだな…律子!調査を開始しろ!」

「はーい」

「ベル!ベラ!守護結界をもう一枚だ!」

「あいよ」

「は〜い」

「他の者は負傷者の治療を優先しろ!」


 後方から現れたイングリッド達が結界を張り,混乱する集団に指示を飛ばす。


「援軍か?これは一体……」

「これは…結界?」

「先生!助かったぜ」


  突然の援護に困惑する冒険者達だがその存在を知るエレンが彼女達のサポートに入った……イングリットの指示により治療と救助が行われ,一時的に冒険者達に休息が訪れた。


「律子どうだ?」

「うーん…体内魔力が変に膨れ上がってるね…狂乱の石とか言う道具の効果にしても明らかに異常だよ?」


 横たわる魔物の死体を魔学士の能力で見聞する。

過去の情報やデータと照らし合わせてもこの氾濫は異常であった。


「もしかすると、ダンジョンコアに異常が起きているのかもな?」

 

 彼女たちの周囲を警戒していたエレンが予測した。


「うーん…『式神展開(ドローン)』」

「よし,律子周辺の状況を可視化してくれ」

「はーい」


 律子が自身の能力により式神を飛ばして周囲の情報収集する……

更にそのデータを共有することでイングリッドが効果的な作戦を立案する。


「エレン!!あれはもしかしてイリューシャかっ?!」


 そこに身なりの良い初老の男性が駆け寄ってきた。

この街の主力のクランの代表だ。


「おや?親方…その通り…イリュだよ」

「ではカイルも?!」

「あぁ…アイツは裏側を抑えている…廃坑と繋がってるらしいぜ」

「?!同時氾濫だと?!」


 その言葉に親方は驚きを隠せない。

多ヶ所からの同時氾濫によって過去,町や国が滅んだと言う事例は数多く残されている。


「こちらが落ち着き次第、裏手に援軍を送ったほうがいいだろうな」

「そうだな…じゃあまずは仕事を終わらせないとな…」


 エレンは剣を担ぎ直すと前方で暴れるイリューシャと伊織に向かっていった。










 廃坑の入り口から溢れる魔物が徐々に少なくなってきた。

時折現れる魔物はアイリスにより設置された『ゴーレム砲台』により一瞬で光線により灰にされている。


「ここはアイリスに任せてダンジョンコアまで進もう」

「…編成どうする?」

「うーん…」


 この後も迷宮から魔物が出てこないとは限らない。

ある程度この場の防衛も必要である。

なのでアイリスは留守番だ。


(前衛に絢音、同じくルミナス…回復にシルフィエル…その護衛を兼ねて後衛の魔法職に自分をおけば、大抵の事は何とかなりそうな布陣だ…いざとなれば、ルミナスが俺のポジションをカバーできる…)


「俺とルミナス、絢音…シルフィエルでどうだろう?」

「…そうね…バランスはいいと思う…」

「わ、私もですか?!」


 攻略組に名前を挙げられたシルフィエルが慌てた。


「私、まだ…ギルドに登録すらしてないのに…」

「この中では、回復魔法の使い手がいないからね……シルフィエルの神聖魔法は十分に助けとなるはずだ」

「…わかりました…カイル様がそうおっしゃるなら頑張ります」

「シルフィ…貴女の安全は私達が保証するわ」

「はいお願いしますお姉さま方!」

「任せてちょうだい!」


 シルフィエルのお願いにやる気を見せるルミナスと絢音…


(二人共『頼られる姉』に憧れているのかもな……)


 そんなことを考えながらこの場をアイリスに託す。

紫音も残していくがネルフェリアスが護衛として残る為,安全に関しては問題は無いだろう。


「それに…この要塞のような防壁があればほぼ無敵だな……」

「…えっへん」


 過剰戦力とも呼べるアイリスの魔法により生み出された砦とゴーレムの集団にこの場が一番安全では無いだろうかと思い始めるのだった。











「何も出て来ませんね」

「向こう側も奮闘しているんだろう…」

「それにしてもこの旦那様よりお借りした装備はすごく良いものですね」

 

 そう言って絢音は両手につけられた籠手を撫でた。

籠手というよりガントレットの表現が良いかもしれない。

黒の素材を使用されたその籠手は淡い光沢を放っていた。


「確か…黒龍の素材で作ったものかな?」

「黒龍?」

「前に此処にいた時に南の方で暴れていた奴を討伐した時にその素材から作った気がする」

「…数年前に南の方で討伐されたと噂になった事がありますが…もしかして……」


 シルフィエルの呟きに全員の視線が絢音の装備に集まる。


「もしかして……すごく高価なものなのでは?」

「とはいっても、俺は使うことないし……絢音にぴったりだろ?それあげるから使いなよ」

「こ、こんな高価なものを、そんな簡単に…はっ?!なるほどわかりました!旦那様ありがたく頂戴いたします!」

「え、うん?」

「これは結納の品と言う事ですね!そして、これを身に付けてと嫁いで来いという事なのですね?わかりました!」

「いや違うから!そんなつもりじゃないから!」


 寧ろ、何故そんな思想になるのか?

その絢音の発言を聞いたルミナスがカイルに詰め寄った。


「カイル様!ずるいです!私にはその様な装備……いえ,カイル様も贈られたあの下着に不満があるわけでは無いのですが…いえ、出過ぎたことを申しました!わかっています!私は見事にあの下着一枚で貴方様に嫁いでみせますわ!」

「あれもそういった意味であげたものじゃないから!ちゃんと普通の格好でいいから!」

「うふふ…分りました……普通の格好ならば嫁いでもよろしいのですね?言質は取りましたよ?」

「あわわわ…つまり私もこの装備品とともにカイル様に嫁がなくては…」

「シルフィエル!大丈夫だから!そんなつもりじゃないから!」


 この編成,実はある意味俺の味方がいないのではないかと今更ながらに痛感するのだった。 








 その後,特に魔物の集団に出会うことなく昨夜も訪れた五階層の広場までやって来た。


「!!あそこに人が!」


 シルフィエルが岩陰に衣服を見つけ駆け寄った……

慌てて絢音も後を追いかけその場で立ち尽くした。


「どうしたの……?……これは……!!」


 その場には女性用の衣服が散乱しており,遺体すら残されていない状況だった……


「酷い……」

「シルフィ…しっかりして」


 被害者を憐れむシルフィエルを絢音が優しく抱きしめた。


「……ルミナス……あれって……」

「……ナンシーちゃんとキャサリンちゃんですね…」

「回収してなかったのか?」

「…盲点でしたね」


 闇ギルドが襲撃してきた際に何故がキースの荷物からルミナスが拝借してきた,どこにでも連れて行ける彼女の成れの果てだった…


「どうすんだよ?」

「…全くグルーベルという奴は許せませんね!そうは思いませんか?」

「グルーベル…許せないわ!」

「こんな残虐非道な行いを神は許しません!」

「……そ、そうだな」


 もうなんか説明するのがめんどくさくなってきたので、このままルミナスに乗っかっておこう



「ところで、ルミナス…あのミノタウロスはどこから連れてきたんだ?」

「モーちゃんですか?あの岩の向こうですよ」


 彼女が指差す方向を見れば、巨大な岩が不自然に置かれていた


「探知するとこの奥に部屋があったのですが、迷宮の下層部分と繋がっているみたいで……結構強いのがいました」

「…という事はグルーベルを転移させた迷宮の最下層と言うのはあの先か」

「旦那様……ここは私にお任せください」


 絢音が一歩前に進み、岩の前で構えると腰を落とし拳を構える。

深く息を吸い込むと、練り上げた気を拳に乗せた。


『破岩』


  絢音が拳を突き出すと腹の底に響くような音が響き,部屋全体が揺れた。

 岩の正面がゆっくりと砂のように流れ去り、そこにはトンネルが出来上がった。


「凄いです!絢音お姉さま!」

「これは……なかなかやるな」

「えーと…どういたしまして……」


 シルフィエルとルミナスから賛辞を告げられなんとなく赤面してしまう絢音だった。


「向こうは魔物がいるはずだ…警戒を怠るな」

「ある程度は大丈夫と思いますよ?」

「お,おい」


 絢音はそう言い残してさっさと穴の奥へと進んでいった。


「彩音!待ちなさい」


心配したルミナスが後に続くと、カイルとシルフィエルもその後を続いた。


 トンネルの先は先程よりも広い空洞だったが、その正面にいた魔物達は何故か瀕死の状態だった。


 絢音の繰り出した拳は、その衝撃が岩の中を伝い出口付近の岩を散弾銃のように炸裂させたのだ。

急に弾けた岩を浴びた魔物達は、絶命しているものや、満足に動けるモノは存在しなかった。


「さ,シルフィエルの経験値にしてしまいましょう」

「えげつないわね…」


 ルミナスが皆の心情を代弁した。



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