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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
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夢の少女 第五夜


「可哀想に……はぐれの魔物に村が襲われたらしい……」


 ただ一人生き残った幼い私は孤児院に引き取られた。

近隣の森で騎士団による魔物の討伐が行われ,手負の魔物が包囲を逃れ私達の村にやって来た。

村人の抵抗も虚しく殆どの住人が殺害された。

騎士団が村にやって来た時は生き残りの住人はたった六名だった。

両親以外に身寄りのない私は騎士団に連れられ近隣の教会が運営する孤児院に預けられた。

この世界では力の無い者は簡単に命を落とす。





「シルフィは将来良いお嫁さんになれるわね」


 手伝いをする私に、孤児院で姉とも呼べる存在の年上の女性がそう言った。

彼女は、とある商人の店の従業員として、引き取られていった。

その一年後、キャラバンに参加していた彼女が盗賊に襲われて亡くなったと聞いた

やはり自分の身を守る為には強さが必要なのだ。








「シルフィが大きくなったらきっと美人になるから俺が嫁にもらってやるよ」


 いつもそう言って可愛がってくれていた孤児院のお兄さんは共に育った仲間と共に冒険者になり、迷宮に挑み、消息不明となった。

使っていた装備と私物だけが孤児院に送られてきた。

強さがあってもそれを超える理不尽が存在することを知った。







「シルフィちゃんは神聖魔法の才能があるのね…凄いわ!」


 そう言ったのは村の警護の依頼でやってきた冒険者パーティーの一人の僧侶の女性だった。

彼女は、時間を見つけては孤児院にやってきて、私に魔法の手ほどきをしてくれた。

私にとっては、師匠のような存在だ。

私は彼女に自分の中にある考えを伝えた。

生き抜くための強さが必要だと…しかし強さだけではどうにもならないこともあると。

彼女は真剣に話を聞いてくれて、そしてこう告げた。


「どんな強い人でも、一人では何もできないもの…頼れる仲間が必要ね…どんなに強い剣士がいても怪我をして治療する事ができなければ命を落としてしまう…もしも仲間に私たちのような神聖魔法の使える僧侶が居たら彼の怪我は癒す事が出来るわ」

「!!」


 彼女の言葉は私の可能性を告げるものだった。

私の神聖魔法が傷を癒やし、命を救う……共にお互いを守るための存在……

その日から私は魔力枯渇で倒れるまで孤児院や近隣の村を周り魔法の熟練度を高めるのだった。


 







「シルフィちゃん……無詠唱で魔法使えるの?」

「はい,半年前に土砂崩れがあって……巻き込まれた人達を治療している時に……」


 何人も大怪我で運び込まれて来たのでいちいち詠唱していたら助かる者も助からない!……っていきなり発動したらできちゃったのよね……


「いやいや…あなたの歳で無詠唱なんて……流石は聖女様ね」

「そ,その呼び名はやめてください……」


 近隣の村を巡回しながら治療をしていたら村の老人達から「聖女様」と呼ばれ始めた……

歩けない人が歩けたとか言っていたが…それは食生活が改善されたからだ。

村に居る猟師と供に森に入り定期的に魔物や害獣の駆除を行なっているが中には食用にできる物も多く居たのだ……それを村に下げ渡すことで食生活が改善されたのだ。






 そんなある日,近隣の大森林で魔物氾濫の兆しを見せていた……

森の中の魔物の数が増加して怪我をする人たちが増えていたのだ……


「王都に救援を依頼したが……間に合うかどうか……」

「今いる冒険者で持ち堪えるしか無いな…」


  始まりは突然だった。

森から溢れた魔物達が田畑を飲み込み押し寄せた。

魔法使いによる集団魔法により、巨大な火球が魔物達を消し炭にした……それを生き延びた魔物を戦士達が討伐する…

私達は支援の魔法と治療に専念した。

半日程抵抗を続けた結果、王都から騎士団が到着し魔物の殲滅を始めた。


「シルフィ!無事でよかった!!」

「師匠!良かった……」


 師匠達のパーティーも怪我はしたものの無事に再開する事が出来た。

この人数でよく持ち堪えた…やはり力を持った仲間が揃えばどんな困難も乗り越える事が出来るのだ!


 私の中で新たな希望が生まれた瞬間だった……しかし、同時に絶望した瞬間でもあった。





 それは突然現れた。


「!!敵襲!!」


 騎士団が慌ただしくなり、外で戦闘音が再び激しくなった。


「何かしら?」


 不審に思ったメンバーが外を見に行くと……阿鼻叫喚の地獄絵図が展開していた。


「?!ファイアドレイク!!」


 魔物の死骸に釣られたのか巨大なファイアドレイクがそこに居た……ここ最近の魔物の異常な行動はこのファイアドレイクが森に住み着いた事が原因だったのだ。


「住民を避難させろ!教会まで逃げるんだ!!」


 騎士が声を上げて住民を誘導する……逃げ惑う人を見たドレイクは獲物を見つけた喜びからか獰猛な雄叫びを上げた。


 騎士団が挑んで行くが……最早殺戮と呼べる戦いだった。

私達は逃げ惑う住民を教会の中へと誘導する…

騎士団や冒険者が魔法を放つがファイアドレイクは小型ではあるが、『火炎飛竜』とも呼ばれる小型のドラゴンなのだ…その魔法耐性の高さと頑丈な竜鱗により攻撃の通り難さはドラゴンに匹敵するものだった。


 気がつけば騎士団はほぼ壊滅状態だった……ドレイクは彼等には見向きもせずにこちらに向かって来た。


「あわわっ!!」

「シルフィ!貴女は生きるのよ!!」


 硬直する私の襟首を掴み、結界の中へと放り込んだ師匠はそう言い残して仲間と共に立ち向かっていった……

彼女なら…彼女と仲間達なら……!!


 そんな淡い期待は一瞬で打ち砕かれた。

ドレイクの放つ炎に飲まれる戦士達…怒号と悲鳴が飛び交う戦場に圧倒的な死を纏ったドレイクが仁王立ちになった……その圧倒的な存在感と力……どんなに私達が努力を積み重ねようと、一瞬で奪い去ってしまう理不尽な暴力の化身。


「うぐっ…し、師匠…ししょおおおー!!」


 私は涙を流しながらも彼女達に支援魔法を、回復魔法をかけ続けた。

 シルフィエルの『助けたい』と願う気持ちに応えた高位の存在がその力をさらなる高みへと導いた。

曇り空より光が差し込む…聖なる神気が彼女を包み,その魔法効果が著しく高められた。

更に彼女の神聖魔法の熟練度は常人のそれとはかけ離れていた為、怪我は一瞬で癒やされ、欠損部位ですら瞬時に再生してしまう…正に『聖女』と呼ばれるほどの力が示された。

 しかし、それは前線の彼等にとっては拷問であった。

癒やされた瞬間に焼かれ、再び癒やされる……苦痛と再生の無限ループだった。

それに気が付いたドレイクは私目掛けてその口を大きく開いた…その咆哮は結界を破壊し…私は『死』を覚悟した。


「これ以上はやめておけ」

「えっ?」


 そんな声が告げられると私を覆う神気と魔法が消失した……

しかしファイアドレイクも同様に吹き飛ばされていた。

 私の隣には全身が黒尽くめの男の人が立っていた。

身元を覆い隠す仮面をつけており、見るからに怪しい感じはするのだが不思議とシルフィエルの心は落ち着いていた。


「凄い魔力だな…少し借りるぞ」

「ふぇっ?!」


 男性が私の頭に手を置くと周囲に魔法を行使した。

『広範囲効果魔法:範囲回復』

  

 周囲に淡い光が立ち上り、怪我をした人達の傷が癒やされてゆく……驚くべき事にドレイクの炎で焼かれた草木までもが再生していた。


「おい、いつまで遊んでいる…行くぞ」

「はーい」


 男性の声の先には赤い装備の女性が居た…その手にはドレイクの頭が握られていた……えっ?死んでる?!


「急いでいるからすまんな…これは好きに使ってくれ」

「えっ?!えっ?!」


 目の前には大きな箱が積み上げられており、中にはポーションや食材などが詰まっていた。

気がつけば二人は宙に浮き上がり、凄まじい速さで飛び去っていった。


「……なんだったの……?」


 そこに残された人達は呆然のするのだった。









 結論から言って被害は騎士団が殆どのだった。

村人は怪我はしたが男性の行使した回復術で全快していた。


「…はっ!師匠!!」


 私は慌てて草原に倒れている師匠の元に駆けつけた。


「ううっ……シルフィ…」

「師匠!!良かった……うっ…うわああああーん」


 私は声を上げて泣いた。







 その後師匠は冒険者を引退して同じパーティーの戦士の人と結婚してこの村に住む事になった……

あの戦いは彼等の心を折るには十分だった。


「シルフィ…料理をするから手伝ってくれる?」

「はい師……お母さん」


 彼女は私を引き取り家族として受け入れてくれた。

『あんたの神聖魔法はヤバすぎてちゃんと指導しとかないと大変な事になるわ!』

そう言って私を迎えてくれた事は生涯忘れる事はないだろう……








「本当に冒険者になるの?」

「うん…ずっと前から決めていた事だから…」

「…シルフィは言い出したら曲げないからなぁ…」

「うん…ごめんねお父さん…」


 今、私は旅の装備に身を包んで家の前に居た。

あれから数年…資格を取る事が出来る年齢になった私は冒険者登録をする為に王都に向かって旅に出るのだ。


「気をつけるのよ…貴女は妙なところでおっちょこちょいだから……」

「大丈夫だよ!…ミルフィ…お姉ちゃん行ってくるね」


 母の腕の中には生まれたばかりの妹、ミルフィーユがスヤスヤと寝息を立てていた。


「気をつけるのよ…シルフィ…貴女の『使徒様』が見つかると良いわね」

「うん…お母さん、お父さん行って来ます!」


 私は歩き出す…いつまでも見送る両親に手を振り真っ直ぐに歩き出すのだった。








「この世界は常に理不尽な事ばかり…争う為に力をつけないと…でもどんなに力をつけても一人では無理…だから強い仲間を見つけないと……」


 私はそう考えていた。

強くならなければ自分も、孤児院も、全て奪われてしまう…

ならばどうするのか?…それは圧倒的な力で障害を打ち砕くのだ!

教会の教えにもある『使徒様』は迷える我々を導いてくださるのだ…

あの日…私の前に現れた『死』をあの黒い冒険者は打ち砕いてくれた…死をも克服する力があると教えてくれたのだ。






 やがて私は冒険者ギルドがある都市に着いた。

大きな町に完全に迷子になっていた自分に立派な身なりの男性が声をかけて来た。

こんな大きな町の貴族にもなると困った人が居てもみんな見て見ぬふりをする者だが…まだまだ親切な貴族もいるのだと感心したのだった。

更に今夜の食事と宿も提供してくれると言うのだ……神よ…感謝します。

旅の疲れからか食事をとった後すぐに眠ってしまったのでした。









『ちょっと!起きなさいよ!貴女騙されてるわよ!』

「むにゃむにゃ…」

『少しくらい疑いなさいよ!どう見てもあのおじさんアンタをエロい目で見てたわよ!!』

「う…うーん…」


 私はゆっくりと体を起こす…まだ眠っている筈なのに……


『早く起きなさいよ!このままじゃ…取り返しのつかない事になるわよ!』

「……はっ?!…ここは…貴方は……天使様?!」


 目の前には全てが白い少女がいた…私に必死に何かをつたようとしている……


「何ですか?天使様?私に何をお伝えしようとされているのですか?!」

『わわっ…起きたのなら早く目覚めて逃げなさいよ!食べられちゃうわよ!!』

「……ニゲロ…?逃げろ?私の危機を知らせようと?……これは……『天啓』?!」


 残念ながら魔道リングの補助を受けていないシルフィエルは夢の少女の言語を理解できていなかった。


「天使様!ありがとうございます!!」

『起きたのならさっさと目を覚ましなさいってば!!』


 天使様の強烈な張り手が私の頬をぶった。







「はっ!?」


 目覚めればそこは薄暗い部屋だった。

壁に取り付けられている蝋燭の光がかすかにこの部屋の異常性を伝えていた。


「えーっと…確か夕食をいただいて……それからどうしたのかしら…」


 記憶が曖昧な状況でドアの向こうが騒がしくなってきた……


「すみません!誰か誰かいませんか?」


 ドアの外に向けて声をかける…鉄製の扉は私の力ではどうする事も出来ない。


「誰がいるのか?」

「良かった!閉じ込められてしまって…」

「下がっていろ…ドアを破るぞ」


 外からは男性の声が聞こえた…言われた通りにドアから離れると,突然扉が音を立てて崩れ去った。


「わぁっ?!」


 思わず驚いてその場に尻餅を唾いてしまった。

ドアの向こうからは黒い装備の男性が入って来た……あれ…この人……画面もつけていないけれど…あの時のような黒ずくめでもないけれど…


「大丈夫か?怪我はない?」

「は、はいありがとうございます」


 差し伸べられた手を取り,助け起こされる。


「君は、どうしてこんなところに?」

「ええと…」


 私は事情を話し始める……そして彼を観察する……

この声…間違いない…あの時の『使徒様』だ!

やはり先程の夢は天使様の『天啓』!!

見つけた!この人が私の『使徒様』なんだ………!!


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