夢 第四夜
「絢音おはよー」
「おはよう…美幸」
学校に登校する為、友人と待ち合わせていた。
「?大丈夫?なんだか顔赤く無い?」
「そうかな?…少しふわふわするかも」
「保健室行く?」
(大丈夫かな?)
「ううん…そこまでのことじゃ無いよ…大丈夫だよ」
今朝から少しだるい感じがしていたが…特に熱もないので普通に登校していた。
続く様なら早退も考えようかな?それよりも……何かが聞こえている気がする……
「おはよー絢音ー」
「あっめぐちゃんおは…」
(朝からかわいいなぁ)
「えっ?」
「んっ?どした?」
「…な、なんでも…」
「絢音朝から少し変なのよ…顔赤いし…やっぱり熱あるんじゃない?」
(全く真面目なんだから…)
「???」
先程から何か声が聞こえる…何なのだろう?
やっぱり熱があるのかな?幻聴?
「おはよー?どーした?」
「あっ、橘くんおはよ…絢音が…」
「えっ?西園寺がどうしたって?」
(俺の天使がどうしたって??)
同級生の橘くんが血相を変えて近づいてきた…
天使って……橘くんは明るくて優しいクラスの人気者だ…
「保健室に行くか?何なら付き添っていくよ?」
(西園寺と保健室で二人きりとかなったりして…やべっ興奮するな)
「橘くん大丈夫だよ私が連れていくから」
(あんたが絢音を狙ってるのは知ってんだからね…絢音なんかに渡さないから)
「!!」
さっきから聞こえてくる声…これは……心の声?
皆んな優しい友達だと思っていたけど…内心ではそんな事無かった……
(いい体してるよな〜ヤラセてくれないかな)
(絢音より私の方が可愛いんだから…)
(絢音大丈夫かな?…でも橘くんと一緒にいて欲しくないな…)
「…な、なんなの……」
「絢音?…大丈夫」
(顔色悪いわね…帰ればいいのに…)
「西園寺!保健室に行こう」
(大丈夫かな?…あっ…今なら手を握ったり出来るかな)
「どうしたの?」
「絢音が…」
(またこいつらかよ…ウゼェ)
(西園寺…いい体してるよな…)
(早く終わらないかなー)
(お腹すいたー)
意識すると周囲の声が頭に流れ込んできた…
皆んな優しい顔して考えている事は正反対だ。
「わ、私…早退するね…」
「大丈夫?顔真っ青だよ?」
(絢音どうしたんだろ…)
「西園寺無理するな…保健室に行くか?」
(おっ?今の俺ってカッコよくないか?西園寺が俺に惚れないかな?)
「ご…ごめんね…大丈夫だから…先生に伝えてくれるかな…」
カバンを握りしめてその場から離れた…
(西園寺先輩だ…橘先輩が狙ってるのよね…死ねば良いのに)
(あの子…凄え良い体してるな〜)
(何でこの人帰ってるの?)
(あー学校めんどくせぇなー)
(今日も先輩に会えるかな?)
すれ違う人達の心の声がひっきりなしに聞こえて来る…
怖い…怖い…怖い…怖い
相手の心の声が聞こえて来る…その内容を知る事が恐ろしい!!笑顔の友人の裏の顔は相手の失敗を喜び、優しい紳士の仮面の裏には下心で溢れた欲望の獣……
昨日まで光で満ち溢れていた世界がこんなにも欺瞞に溢れた世界だと気付かされた。
「お母さんっ!!」
「?!絢音どしたんや!」
(絢音?!学校は…何があったんや?!)
家に帰ったら私はすぐにお母さんに泣きついた……
母の心の中は口に出す言葉と同じだった…
それは兄弟達も同じで……外の世界が恐ろしい……
その日から私の世界はこの家の中だけになってしまった。
母の知り合いに魔道具を扱う人がいて…この『サトリ』を封じるバイザーを作ってもらった。
しかし私の能力は強力で完全に封じる事は出来なかった。
私達一家はユグドラシルに本家を移転させる為、この家は分家の道場として委託し、新天地へと引っ越した…
その後体調を崩した母に代わって叔父様が私達の面倒を見てくれた…私の眼の能力は『制約』を用いて口外する事は出来なくなった…これは私と対戦した相手にも適用され、他者に伝える事は出来なくなるものだ。
しかし対戦すれば私の特異性…その能力に気がつくだろう…
対戦である以上私の能力は絶対的な有利になる。
西園寺家長女である為、幼少期より鍛錬も行なっており、武術の心得も有った為今まで対戦は全て勝ち続ける事ができた……でも…それももう限界…………
私は暗い泥のような闇に沈んでゆく……もう…これ以上……
(綺麗だね)
「!!」
そんな私の腕を掴み引き上げる人が居た………壊れる寸前の心の私を暗いあの沼の底から助け出してくれた人だ。
「カイル様」
「絢音さんはかわいいね」
彼のそんな一言が何故にもこんなに心に響くのだろう?
「あの人のことが好きなの?」
「えっ?好き?…私が?」
目の前に白い少女がいた。
これは…今、噂になっている夢の少女だろうか?
「貴女は……」
「あ…やっぱり見えてる?」
「ええ…」
「そっか……」
(おかしいわね…私が夢に干渉している?)
「?!」
夢の中に現れる少女…その心が読めるという事は実際に存在している人物の可能性があるという事だ。
「貴女は…一体…」
「あ、夢が覚めるね…」
(ここも違った……)
やがて全てが白く塗りつぶされていった。
「……私が……カイル様を?」
ベットから起き上がり呆然と夢の内容を考える……あの少女が言う様に……私はカイル様を…………
思い起こせば毎日、あの人が来るのが待ち遠しいと思っている自分が居た。
私を見る目はいつも澄んだ真っ直ぐな瞳だった……考えていた事はエッチだけど……
昨日,叔父様の手から私を守ってくれたあの人の姿を思い出すと、この胸が締め付けられる様に苦しくなった。
「…今日も…会えるかな?」
誰かに会いたいと思う事なんてなんて久しぶりの感情だ。
昨日お母様に今後どうするか聞かれた。
『制約』は強制的に破棄する事も可能だと…既に自分は自由なのだと……
「私は…カイル様と……」
私の心は既に決まっていた。