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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
222/240

夢の少女 7

「…お友達?」

「…そう…お友達……」


 絢音にすれば予想もしていない要求だったのだろう。

しばらく放心した様にアイリスを眺めていた。

不意にバイザーの下から一筋の涙が流れ落ちた。


「わ…私と友達になってくれるの?」

「……それは私のセリフだけど?……よければ友達になって欲しい」

「私は…!!」

「絢音!!」


 突然奥の扉が乱暴に開かれ壮年の男が現れた。

そのまま絢音の前に来るとその肩を乱暴に掴み掛かった。


「!!…叔父様…」

「お前っ!勝負に負けたというのは本当なのか!?」

「はっ…はい!」


 次に瞬間、強烈な平手打ちが絢音の頬を打った。

絢音は堪らずその場に崩れ落ちた。

更に手を挙げる叔父の前にアイリスが立ちはだかった。


「!!なんだ貴様は!」

「…暴力は良くない……」

「これは私の家の問題だ!」


 予想以上の暴君のようだ……そんなアイリスにも手を挙げ……カイルに掴まれた。


「まあまあ…少し落ち着きましょう」

「何だ貴様!!龍彦!部外者を連れ込んだのはお前か!!」

「…そやで…叔父貴」

「貴様!!」

「まあまあ…おっさん落ち着いて」

「誰がおっさんだ!」

「いや,おっさんでしょ?」


 尚も暴力に訴えようとする西園寺父の叔父をカイルは涼しい顔でその腕を引き留めた。

叔父の後ろにいるのは先程まで道場にいた門下生の一人だ……コイツが叔父の送り込んだ監視役の様だ……

絢音が敗北した事を告げたらしい。

 ふとカイルが後ろ手に何かの小瓶を取り出した……それに気付いた雪が受け取り龍彦に何かを告げると二人で奥の部屋に消えていった…その後をイリュがついていく…みんなでトイレかな?

叔父さんはギャンギャンと吠えており気が付かない様だ。








「じゃあ…もう一度試合してみますか……アイリス大丈夫かい?」

「……問題ないわ」

「絢音さんも?」

「は…はい」


 可哀想に…絢音さんはすっかり怯えてしまっている……律子が励ましている……

手を上げるなんて…なんて人かしら。


「ありがとう…もう大丈夫よ……」

「じゃあ…律子…頼めるかな?」

「え?私?」

「本気で頼むよ?」

「まっ!任せて!!」


 カイルの微笑みに律子はすっかり舞い上がってしまっている……そんなキノコ男の何処が良いのだろうか?

道場の隅からカイルが持ってきたのは将棋盤だった。











「……参りました」

「…ありがとうございました」


 律子の奮闘虚しく本日二度目の敗北だった。


「あれぇ?あの流れだと私が勝つんじゃ……」

「り、律子…」

「私ったら『任せて!』なんて…うふふ最高の噛ませ犬じゃない……」

「だ、大丈夫よ…きっと意味があるのよ…」


 ハイライトの消えた暗い目で律子が暗い笑いを漏らした……

流れ的には『バリアを破壊したからもう攻撃が入るぜ!』みたいな感じだったので実は律子の勝利を信じて疑わなかった。


『あんた後でちゃんとフォローしときなさいよね』


 そんな意味を込めてカイルを睨みつけてやった…

なのに、首をかしげる仕草を見て内心腹立たしかった。


「ふん…やはり何かの間違いではないか?お前達……何かイカサマでもしているのではないだろうな?」

「ははは…そんな筈ないでしょう…次は我々が勝ちますよ?……ではアイリス…同じ手筈で…」

「…わかった…」


 絢音の勝利に落ち着きを取り戻した西園寺の叔父だが今度はアイリスの不正を疑い始めた……最低だな。


「じゃあ…次はこれにしようか?」


 カイルが手にしたのはオセロだった。











「ばっ馬鹿な!!」

「……参りました」

「…はい…私の勝ち」


 また私が勝利した……既に三回目の対戦だ。


『イリスでオートモード』


 あの時カイルに見せられた紙にそう記されてあった。

なので初戦であの逆転の手を打ったのは私ではなくイリスなのだ。

イリスは過去の私のやり直しの記録を膨大に溜め込んでいたが、今その情報は整理整頓され日常生活や様々な情報を常に取り込み続けている。

 その中には、将棋やチェスなどの娯楽の過去の対戦の情報や記録も含まれている。

彼女に任せると言う事はそれらの情報を参照にして勝利への道筋を引き出すに等しいのだ。 

ただ、私の行動においても、彼女からの指示を受け取り、同じ手順を再現することができる。

しかし、彼の指示した『オートモード』とはイリスが私の意思を経由することなく私の体を使って行動する事なのだ。

つまりそれの意味するところは……


「イカサマだ!こんな事はありえない!!」


 西園寺叔父がさらに喚いている……


「全く…いい加減…『ならば俺が勝負しよう』っ!!」


 呆れるカイルの言葉を遮って、アーガイルが発言した。         


「………いいだろう」


 門下生の男が耳打ちし、叔父がこれを了承した。

カイル(アーガイル)は今まで一度も勝てて居ない事を報告したのだろう……大丈夫なの?


「ちょっと!アーガイル!何言ってんの!」

『いや、もうめんどくせぇ…お前なら勝てるだろ?最初からこうしとけばよかったんだよ』

「いや…それは…」

『あの娘の能力は稀有だぞ?使いこなせればお前にとっても有用だろう?』

「そうだけど…」

『別に娶れと言っている訳じゃない…この家から解放してやるだけだ』

「うーん…そうなのかなぁ…」


(((絶対娶る気だよ!!)))

 

 カイルとアーガイルのやり取りを聞いていた周囲の女性陣の意見は一致していた。

あのアーガイルがこんなまともな事を提案する筈がない……


『どの道、今日ケリをつけるつもりだったんだろ?じゃなければせっちゃんにあの薬を渡したりしないはずだ』

「それとこれとは話が……」

『面倒だから一気にカタをつけろって言ってんだよ!』

「はぁ…仕方ないなぁ…アイリスの時には無理をさせたから……今回はアーグの言う通りにしておくよ……」

『わかればよろしい』


 絶対心の中で、アーガイルはガッツポーズをとっている違いない。










「この勝負に勝った方が勝ちだ……今までの事は無かった事として……絢音が勝ったらお前達は今後一切この家への出入りを禁止する」

「なっ」

「今時のクイズ番組の最終問題でもそこまでの逆転は無いわよ?」


 あまりにも横暴な要求に門下生の中からも不満の声が上がった…カイルでは勝てないと大きく出てきたな……


「分りました……じゃあこちらは正当なルールに乗って僕が勝ったら彩音さんは僕がもらい受けます」

「よかろう……絢音…バイザーを外しなさい」

「!!しかし……」

「これは当主命令だ!!」

「……はい……」


 絢音がバイザーを外し閉じて居た目を開いた。


「「…」」


 周囲が息を飲むのもわかった。

それは『白眼』と呼ばれるもので、真っ白な目をしていた。

通常の人よりもわずかだが小さく透き通るような青い瞳がそこにはあった。

 絢音は人にこの目を見られるのが嫌だった。

人とは違うこの目を見られることで、一体何人の人が離れていただろうか。

この瞳は魔眼の中でも得意な存在『白眼』もう一つの名は『サトリ』…絢音が望むことなく周囲の人間の心の声が聞こえてしまう。

普段は真封じのバイザーによりその範囲は数メートル程度だ。

確実にその内面がわかるのは絢音がスカートを広げて座る範囲だった…

また特定の人物に意識を集中すれば、範囲を関係なく、その心情を探ることができる。

彼女が勝負事で敗北しない秘密が、この魔眼の存在だった。


(噂には聞いて居たけど…は,初めて見た)

(…あれが…絢音さんの…)

(これ以上負ける事は許さんからな)

(なんだあの目)


 バイザーを外す事でその範囲は広がり、絢音意思に関係なく、周囲の者達の心情が流れ込んでくる。


(綺麗だね)

「綺麗だね」

「「!!……」」


 絢音は息を呑んだ。

正面のカイルの心情と言葉が重なって聞こえた……

それはつまり本心からこの目を綺麗だと思っていてくれる証拠だ。

紫音も記憶の中セリフと重なり、思わず息を飲んだ。


「では始めようか…将棋でもいいかな?」

「はい…」




 






 









 絢音はカイルと対戦する事は少し苦手だった。

彼の見た目は悪くないし対応は紳士的だ…言葉遣いが時折乱暴になるけれど…よくも悪くも常識的な人物であった。

しかし、対戦中はその心情が流れ込んでくるのだが。


(長い髪きれいだなぁ…いい匂がしそうだ?後でちょっと嗅いでみるか?)

(指,白くて綺麗だな…肌もすべすべじゃないかな?)

(意外に気痩せするタイプだな…意外に良いものを持ってるな…Dいや、Eか?)


 この人意外とエッチなことを考えているのです!

そんなことを考えている人は、確かに他にもいますが……

それは、態度にも現れるのです。

チラチラと見てきたり、挙動不審になったり、やはり自分がいかがわしい妄想をしていると言う自覚があるのでしょう。

しかし、この人は違います。

すごい優しそうな笑顔を向けてきているのに、内心ではこんな事を考えているのです。

最初の頃は、こっちの理解が追いつきませんでした…ムッツリさんなのでしょうか?

 確かに、これは私の能力の弱点の1つです。

私が耐えられないようないかがわしい妄想されたり、私の理解の追いつかないような難解なことを永遠に考えられると、こちらの処理が追いつかなくなるのです。

 ただ、この子はちょっと変わっていて……確かにちょっとエッチな事を考えているのですが、でもそれは私を褒めるような言葉で考えているのです…

それに綺麗とかかわいいとか言われて私も悪い気はしません。

だからカイルは誠実な人間だと思います。

違いますね……ちょっとエッチで誠実な人間なのです。

残念ながらこの思考がアーガイルの物だとはさすがの絢音も気が付かなかった。











「じゃあ始めようか」

(歩を前進)


 彼の内心が聞こえてきます……私はそれに対処してこちらの手を進めます。

その後も数手を打ってお互いの出方を見ますが……カイルは結構な強さです。


(う〜ん…角を使うかな?それだとこっちは香車を動かすしか無いかな……でもあの桂馬も無視できないな)


 私は相手の内情を知ることで自分手を考えます……この人意外と良く見てますね…


「うーんそう来たか……」

(うーんそう来たか……真剣な表情の絢音さんも可愛いよね)

「っ!!」


 来ました!カイルの精神攻撃(?)です……


「降参してくれてもいいのですよ?」

「いやいや…まだこれからでしょ?」

(優位に立って浮かれてる絢音さん可愛いなあ…)

「っ!!まっ負けませんよ!」

「当然です」

(必死になってる絢音さんめちゃ可愛いなあ)


 今回の精神攻撃はかなり悪質です!か…可愛いだなんて……

ここまで追い込んでいればあと数手で私の勝ちは……


(じゃあ…絢音さん頑張ってね)

「えっ?」


 思わず声が出てしまったが、カイルは盤面を見つめているだけだった。

それ以降、彼の心の声が何も聞こえなくなった。


「王手」

「っ!……ま、参りました……」

「馬鹿な!!」


 あれほど有利に進めていたにもかかわらず、その後逆転されあっさりと負けてしまった……

今まで彼と対戦してこんな事は一度も無かったのに……心情が聞こえなくても将棋はそこそこ自信があったのに…

?!まさか最初から私の目の事を知っていた?

たっくんが話した?…いいえそれは無い…西園寺に携わる者は『制約』でこの目の事は話せない。


「絢音!お前まさかわざと!」

「叔父様!そんな事は出来ないのはお分かりでしょう?!」


 西園寺の叔父が絢音に掴み掛かり……損ねてその場に転がった。

カイルによりその手を払われたのだ。


「さて、勝負の結果が確定した時点で、絢音さんは俺の婚約者だ…手荒な真似はやめてくださいね」

「貴様!こんな茶番を認めるわけには!!」

「何が茶番なのですか?」


 その場に凛とした女性の声が響き渡った

奥の扉が開かれ雪と西園寺に連れられて1人の女性が現れた。


「ご、ご当主…何故…」

(毒の効果で動けないはずだ!)

「!!…ど…毒?」

「!!」

「仮にも『当主代理』での宣誓を本人が疑うとは…全く馬鹿げた内容ですね?しかも絢音の前で…犯人探しが省けたわね」

「そ、それは…」


 絢音に掴み掛かろうとしてカイルに止められているが……十分に読心の範囲だ。


「他にも私が伏せている間に色々と好き勝手してくれたようですね?」


 温和な笑みから想像出来ない様な威圧に、叔父はその場に尻餅をついた。


「幸彦、連れて行きなさい」


 いつの間にかその後に待機していた幸彦が、配下の者と共に叔父を奥へと連れて行った…合唱


「うまくいったみたいだね」

「はいカイルさんのおかげです!」


 奥様を支える雪が笑顔で返事を返した。


「カイル、手間を取らせましたね……ありがとう」

「いえいえ、奥様…頭を上げてください」


 女性がカイルに深く頭を下げる……絢音はその様子をカイルに抱き抱えられたまま茫然と見ていた。


「な、何が起きているの?お母様体の容体は?起き上がって大丈夫なのですか?」

「絢音…心配をかけたわね……もう大丈夫よ?辛い思いをさせてごめんなさい…」

「何が……」

(君のお母さんの事は龍彦から聞いていたんだ…母親と絢音さんを救って欲しいて言われてね)

「え?」

(詳しい事は後で話すけど…お母さんはもう大丈夫だ…勿論、絢音さんもね?)

「君に勝つ方法ならいくらでもあるんだ」


 カイルはそう言って絢音の右手の指に指輪を嵌める……魔導リングだ。


「これは絢音さん様に調整した専用の指輪だよ…魔眼の効果を最小限にしてくれる筈だ」 


 指輪をはめた途端にその効果が発揮される。

今まで騒がしかった周囲の心の声が一斉に静かになった。

彼女の『白眼』もやや青みがかった瞳に変化した。

 

「!!絢音…その眼…」

「え?」


 そこにアイリスが手鏡を差し出した。

そこに移された自身の瞳を見て彼女の目に涙が溢れた。


「お…お母様…聞こえないの……みんなの声が聞こえないのです!!」

「!!絢音!!」


 母と娘が固く抱き合った…なんて感動的な場面だろうか。


「じゃあ俺たちはこれで…」


 後は家族に任せて、部外者は退散しようとしたカイルの肩に西園寺の母……西園寺雪乃の手が置かれた。


「どこに行かれるのかな、婿殿」

「いや後は家族で……婿殿?」

「仮にも当主代理が宣言した条件だからなそれは当主が発した宣言と同意だ……つまり絢音に勝利したカイルは絢音を伴侶として迎える権利がある」

「いやいや茶番だって……」

「ふざけた内容だが…それは相手にもよるかな?今の状況では寧ろ良縁では無いかと思えるがな?」

「いや…それは…」

「婿殿はうちの娘はお嫌いかな?」

「カイル様は……絢音がお嫌いですか?」

「!…いえ……お嫌いでは……無いです……」


 雪乃と絢音に挟まれ逃げ場を失ったカイルを少し離れた場所からアイリス達が見ていた。


「…こうなると思って居たのよね……あの母親は食えないわね…」

「まあ…そうだな…でもいいのか?」

「…?…何人増えても正妻は私…問題ない」

「と、とにかくすごい自信ね…私は序列は何番なのかしら?三番?」

「…律子は五番目、イリュが三番目…絢音は……四番目かしら」

「え?絢音さんが上…私は…カイルと……」

「…体の関係は関係ない…寧ろ心の関係より先に体の関係を持った律子は論外」

「えー!私はカイルを助けるために…」

「……それは感謝しているから五番目…努力しないとどんどん追い抜かれる」

「っ!!…そうね私は負けないわ!覚悟していてね紫音!」

「え?!なんで私?…私を巻き込まないで欲しいな……」


 カイルの女性問題なんか興味がないので聞いていない紫音だったが……

今の内容では自分が二番目である事と,アイリスからの評価が高い事には気が付いて居なかった。



しばらく 全体的に誤字脱字の修正 ストーリーの齟齬の修正を行ないます。

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