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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー
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夢の少女 3

「…次は移動教室での授業ね…行きましょう…カイル」

「…ああ…行こうか…アイリス」


 差し出した私の手を取りカイルが立ち上がる…ふと、お互いの視線が交差し見つめ合ってしまう。

 マトリーシェの一件から彼との仲は進展した。

それはもう色々と…ブレーキの壊れた車のように走り出したら止まらずに…坂道を転げ落ちる様に……その先に見える断崖絶壁を大きく飛び越えて着地した後も………車体が大きく破損してもタイヤとシートだけで進んでゆく………

遥か地平線の果てまでもう止まらないのである。

そのおかげで、魔力は常に満タンだし、魔力以外も満タンである。

 






「…………」

「次は移動教室やな……カイル行こうぜ」

「ああ……ん?アイリスどうした?」

「………それは私の役目なのに……」


 なんかカイルが西園寺と急に仲良くなった……

私の思い描く学園ライフの私のポジションに、なぜか西園寺がいる……でも見つめ合っていないだけ良しとしよう。

以前の様に虐められてる訳じゃ無いけど……何で急に?

 ここ最近のカイルは西園寺の道場に出かけて西園寺を鍛えようとしているみたいだけど…

アーガイルの目的は違う 西園寺の姉の絢音だ

あれ以来道場に行くたびに、必ずアーガイルは絢音に挑んでいる。

二度目からは、絢音の方もアーガイルが諦めない事に気が付き、勝負方法がその都度変わっていた……

トランプだったり、オセロだったり、じゃんけんだったり

とにかく、あのアーガイルが、何をしても勝つ事ができないのだ

 と言う報告を既にイリューシャから聞いていた。

様々な情報をイリスに与えて,あらゆる可能性を想定しておこう。

夫の望む行動をしっかりと押さえておくのも正妻の務めですものね。

そんなできる奥様にカイルは感謝と愛情を注いでくれるに違いない……完璧だわ。


「……ぽっ」

「どしたの?…アイリス」


 紫音に心配されてしまった。













「そろそろ旅行の準備をしないと」

「あー……そういえばそうだったなぁ」


 イリューシャの言葉にすっかり忘れていた事を思い出した。……イングリッドに提案された異世界視察ツアーだ。

当初は、各学年の成績優秀者で行くはずだったが、マトリーシェ事件の事もあり、今回は三年生と二年生の実力上位者で向かう事になった。

 当然、色々と揉めに揉めたが優秀枠としては、紫音とアイリスと律子に決定した。

カイルとイリューシャは、護衛役で同行する事となった。

ちなみに、三年生はベルバラ姉妹だ。


「…正直今は行きたくないなぁ…絶対王国がらみだろ?」

「…王国……エレが出てくるかしら?」

「うーん…あいつも忙しいはずだが……」


 そうこう話しているうちに西園寺の道場に到着した。


「ちーす」

「!!兄貴お疲れ様です!」


 何故かカイルは門下生達から兄貴と慕われている。

ちなみにイリューシャは姉貴と呼ばれている。


 別にカイルが彼らを教えている訳では無いのだが……

鍛えると決めた翌日から、西園寺と模擬戦を行い徹底的に叩きのめした。

それ以降全員から慕われ色々と質問を受けるようになってしまった。

なぜか質問に来る門下生に混じって指導者が混じっている事はこの際見なかったことにしよう

しかし,その日はいつもと違って見知らぬ先客が居たのだった。


「誰だこいつは?龍彦!部外者をここに招き入れるなんて何を考えているんだ?」

「兄貴!コイツは見学者というか……」

「誰こいつ?」

「幸彦兄貴や…」


 西園寺の二人いる兄の西園寺家の次男、西園寺幸彦である。

彼は実家の家業は長男に任せ、このユグドラシルで西園寺セキュリティーなるセキュリティー会社に就職していた。

陰陽師の力を警備や警護に役立てようとするこの都市ならではの職種であった。


「まあいい…龍彦…稽古をつけてやろう」


幸彦が壁の操作パネルを弄ると道場に結界が張り巡った。


「なんだこれは?」

「あ、これは術式や召喚を行うときに万が一が起きない様に結界で保護して指導してるんです」


 近くにいた女性の門下生が親切に答えてくれた。  

ここ最近色々と親切に教えてくれる……取説みたいな人だな。


白鳥 雪(シラトリ セツ)です」


取説さんだった


 西園寺道場の修練は、基本体術と魔力の基礎……

見所がある者には、式神を応用した符術や召喚による契約魔獣との模擬戦闘などを行う。

実際、学園の様な修練場がある訳でもなく稽古の為に召喚獣を召喚していたのでは、魔力の消費が激しい上に施設の損害がとんでもない事になる…

その為、開発されたのが『仮想空間武闘場設備』である。

結界の内部に魔法術式やアイテム,契約魔獣をカード情報化し、最小限の魔力、コストで自主的な試合を行う事が出来るのだ…お互いの技と技術を使い、スコア化された相手の体力を削り取った方が勝利となる。

もちろん、術者も契約魔獣も怪我をする事はなく、安心安全に運用できるシステムだった。


「…これ…ポチャモンバトル…「違います!陰陽道の叡智でございます」……そうですか…」


どうやら違うらしい。



「あの頃の俺やと思ったら、大間違いやぞ」

 

 西園寺はいつの間にか手元のカードから一枚引くと、いつの間にか目の前に現れた机の上にセットした。


「シードモンスター『プチスパイダー』メインモンスターで守備表示、続けて、待機エリアに『ビリチュー』をセット」

 

 西園寺の行動に合わせて、中央のエリアには、ホログラムのような蜘蛛と体に電気をまとった小さなネズミが現れた。


「おい…これほんとに大丈夫なんだろうな?」

「…大丈夫ですよ…多分」

「フィールドカードをセットし、俺のターンはエンドや」


 西園寺の終了宣言に合わせて、頭上のマーカーが幸彦に移動する。


「まずはカードをドロップ…ふむ……『大木戸道士』のカード発動…新たに二枚のカードをドロップ……シードモンスター『ハリボー』をメインカードに守備表示、待機エリアに『ストーンビット』をセット、フィールドカードをセットして単終了」

「さすが幸彦さんだな雷属性と相性が良い土属性でデッキを組んできたな」


 見守る門下生がざわつく…


「いやほんとに大丈夫なのか?」


 カイルの心もざわついていた。


「カードをドロー『魔物札』を発動手札からカードを一枚ドロー!!『デモンスパイダー』にセカンド進化!」


 西園寺が新たなカードを出すと、中央のホログラムが形を変える………モンスターが進化したようだ。

まあ確かにすごい戦いだが……時間がかかりそうだな……


「……いろんな意味で手に汗に握る状態だ……ところで雪ちゃん…ケーキを買ってきてるんだけど、食べないかい?」

「えっ?ありがとうございます…わぁっ!パティシェルのケーキじゃないですかっ!」

「おっ…箱だけで見抜くなんて、なかなかの通だね!」

「ここのケーキって繊細で見た目もすごいんですけど、味も優しくておいしいですよね!友達の間でも大人気なんですよ」

「そうなんだー雪ちゃんよかったらバイキングチケット貰ったからあげるよ」

 

 雪の素直な感想に機嫌を良くしたカイルは懐から一枚のチケットを取り出し、雪の手に握らせる。


「ここここっこれって!!」

「パティシエルのケーキバイキングチケット!!」

「入手困難なプレミアムチケット!!」

「転売対策も完璧で数多の転売ヤーが爆死した伝説のチケット!!」

「えっ?そうなの?」


 周囲の女子が殺到して彼女の手の中のチケットをガン見する……

 このチケットには個人の魔力を登録する機能があり、登録者以外の人物が使用すると、チケットが消えてしまうまさに幻のチケットとして女性を中心に伝説として語られているのだった。

特に防犯の意味で魔力登録機能をつけたわけでなく、単にアーガイルが女性のプロフィールを収集するためにつけたおまけのような機能であった。

むしろこちらの方が犯罪ではないのだろうか?


「さ,君達も一緒にどうぞ……ラプ…テーブルと椅子を」


 すると何処からともなくテーブルと椅子が人数分現れた。


「!!凄いです!カイルさん!」

「まあ!一体どんな魔法かしら?」


 これまた彼女達の賛辞に機嫌をよくするカイル……中身はアーガイルだが……


「……一体何をやってるんだか……」


 アーガイルに好き勝手やらせている状況に苛立ちを思いながらもイリューシャは違和感を覚える。

いかにアーガイルが女好きであろうとも、体の主導権をああも簡単にカイルが奪わせるとも思えないのだが……


(アーガイルの力が増してる?)


 確かに、日常生活においては同姓であるアーガイルの方が、何かと便利が良い…

ミカイルだと性別の問題からか拒絶反応が出ると聞いている。

それ以前に人格のみを入れ替えた場合、女性に対してもっと直接的な方法に出てしまう為、禁忌とされていが。


(もしくは…いや、まさかな)


 イリューシャはその考えを否定した…それは想像できない事だ……カイルの力が弱まっているなんて。









 そんな最中,西園寺兄弟の戦いは局面を迎えていた。


「サード進化!『阿修羅蜘蛛』」

「むっ!引き当てたか!」

「阿修羅蜘蛛を反撃状態で待機!カードを二枚、フィールドにセットして俺のターンエンド」

「なるほど、腕を上げたな……では俺のターンだ『あらぶる虚無僧』!君に決めた!」


幸彦の宣言に合わせて、場に一体の虚無僧が現れる……


「修行僧シリーズが場に出た事でフィールドカード『修練場』発動!『あらぶる虚無僧』の特殊能力発動!『修練』により、新たに二体の虚無僧を召喚!二体の虚無僧を生贄にして、強制セカンド進化発動『怒れる山伏』へと進化!」


 フィールドに二台の虚無僧が現れ、それらは光の粒子となり吸収され、虚無僧から山伏へと進化を遂げた。


「『怒れる山伏』の特殊能力『苦行』発動!二体の山伏を召喚、これらを生贄にして強制サード進化『天狗』」


 更に山伏が進化を遂げ,その姿は天狗となった。


「天狗の特殊能力、発動 調伏 この場のセカンドモンスター以上を一定の確率でこちらの手札に加えることができる!判定!!」

「うわっ!!俺の阿修羅蜘蛛が!!」


 コイントスに失敗した西園寺の蜘蛛は幸彦の陣営に移動した。

その後、主力の戦力を奪われた西園寺はなす術もなく負けてしまうのだった。


「くっ!流石は幸彦兄貴や…お前ら…どうやった?」


 こちらにやってくる西園寺に気づいた雪ちゃんが声をかけた。


「あっ龍彦さん残念でしたね…そうですね…見た目は質素でしたけど素材をしっかりと生かしていて、後から存在感をアピールしてくるような感じです」

「そうか?」

「それでいて、甘さは控えめなのに風味を損なっていないんです!これならいくらでも食べれちゃいますよ!」

「えっ?…何の話や?」

「カイルさんの差し入れのケーキですけど……あらっ?試合負けちゃったんですか?残念でしたね」

「お、お前ら…」

「すいません…ケーキが美味しくて多分みんなあまり見てなかったですけど…最初からわーっと行ってこう…ガツンとやってからぶわーっとやったら良かったかもですね」

「…俺の戦闘描写雑やないか?もう少し奮闘した所も説明して欲しいんやけど……」

「いや、まあ…龍彦さんですしね……まあ負けちゃうのかな……と」

「ぐぐぐぐ……幸彦兄貴!調子に乗るなよ!次はこいつが相手や!」


 負け悔しさからカイルを前に押し出した……


「なんで俺まで……いやまぁいいか」


 いい機会なので西園寺以外の家族の力量を確かめてみようと思うのだった。


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