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魔眼の使徒  作者: vata
第三章 ドリームウォーカー

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夢の少女 1


「白い少女?」

「最近話題になってるんだけど、聞いたことないかなぁ?」


 昼食時、律子が突然そんな事を話し始めた…紫音もイリューシャもアイリスも頭に?が浮かんでいる。

何でも、夢の中に髪も服も白い少女が現れるらしい

別段、それがどうしたって話なのだが……

その少女の特徴が、夢を見た人の話をを聞けば同一人物としか思えないらしい。


「じゃあその白い少女が不特定多数の人の夢の中に登場してるって事?」

「そうみたいなんだけど…実は…今朝僕も見ちゃったんだ……夢の内容はいまいち覚えてないんだけど…最後に少女が出てきて……会話した気がする」

「その少女の話を聞いたからそんな夢を見たんじゃないのか?」

「その可能性も否定はできないけど…それにしては見覚えがない存在だけど印象が凄いんだよね…」

「サキュバスとかそういった類のものかしら?」

「悪意がある様な感じはしなかったけれど…」

「エロい夢だった??」

「イ…イリュと、一緒にしないでほしいな……」

「……夢に干渉するスキルかもしれないわね」

「なになに?夢の少女の話?」


 私達の会話を聞きつけた隣の席の橘さんが話に参加してきた。

聞けば彼女自身や知人達も夢を見たと言うのだ。


「でも夢の内容を聞く限り全く共通点がないのよね…食事に行く夢だったりとか、サイクリングする夢だったりとか、登場人物も全く違っているし…ただ共通しているのは、夢の最後に白い少女が出てきたって事ぐらいなの」

「……気になるわね」


 イリューシャが顎に手を当てて考え込んだ。

普段あまり頭を使わない彼女がこんな仕草をする時はほぼ,カイルが絡んでいる証拠だ。


「カイルも何か調べてるの?」

「うーん…気にはしていたけど、これといった実害が無いから今の所は様子見かな…?」

「……そうね…マリーも使徒の可能性は捨て切れないけど…特定する材料が少ないみたい……」


 今や魔界の叡智と化したアイリスですらその判断を決めかねていた。


『夢に入り込む魔法や伝承の話はあるけれど…その少女が何かをした訳じゃ無いから…ただ存在していたって事だけだから…なんとも言えないのよね』


マトリーシェはそう結論付けた……早い話が様子見である。


「じゃあ…今日も会議が必要ね!」










 放課後やってきたのは、駅前の裏手の通りにある小さな喫茶店だった。

ドアを開くと来客を告げるベルが小さく鳴った。


「いらっしゃ…なんだ…お前達か…」

「お客様に向かってそんな言い方はひどいなぁ」


 ここは駅前の人気のスイーツ店「パティシエル」の裏手に存在する隠れ家的な喫茶店「ルナリア」である。

とは言っても実は店内は繋がっており、ここでもパティシエルのケーキが食べれたりするのだ。

 最早、彼女達の指定席となりつつある奥のボックス席に座り込むと全員の注文を確認して紫音とイリューシャがエプロンを身に付けカウンターに入った。


「今日は一応お客さんなんだけどなぁ…」

「はっ?ツケで飲み食いするような奴は客とは言わないんだよ…」


 先ほどから辛辣な言葉を投げかけるのはこの店の店長でありパティシエルのオーナーでもあるアルテさんだ。

まだ20代後半であるにもかかわらず、そのどっしりとした佇まいから、喫茶店のオーナーの貫禄がにじみ出ている…

そのくすんだ金髪を後で纏め、長い前髪が片目を隠しているが見えている片目だけでこちらを睨みつけた……怒ってはいないのだが……

むしろ用心棒の様な気がしてきた。


「もう!また咥えタバコなんかして!飲食業を扱うならだめですよ!」

「こっこれは火がついてないからセーフだ!」

「ああっ!…またこんなに洗い物を貯めて…」

「うっ…それは後でやるからいいんだよ」

「それ家事ができない人のセリフですよね?」

「…紫音…すっかりお母さんだね」


 紫音はそう言いながら腕まくりをすると積み上げられた食器類を洗い始めた…どちらが年上かわからないやり取りだ。

既に席に着いているアイリスと律子から何やら温かい視線を感じる……

この二人やり取りはここ数日でもはや何度も見慣れた様式美と化していた。

 紫音とイリューシャがここでアルバイトを始めたのは偶然だった。


 今までは、親の仕送りで何とか細々と生活していた紫音だが、両親に引っ越した事を何とか伝え、仕送りを辞退する代わりに自分で稼ぐ事にしたのだった…突然の引越しに一悶着あったのだが…此処では割愛しよう。

 偶然、働き手を探していたこのお店を紹介され面接に訪れた時間が混み合っておりそのまま働く事となった。

 むしろ人手が足りないのは副業であるパティシエルの方でアルテさんの本業である喫茶店の方は片付けがメインの仕事となっており時折住居になっている二階のアルテさんの私生活方面の片付けもする事が結構ある。

…喫茶店よりも私生活の家政婦さんの方を募集していたのではないかと疑念を抱く程だった。

さらに本業とも言える喫茶店の業務よりもパティシエルの手伝いの方が多いのだった。


「えーとアイリスのは紅茶で…イリュはコーヒーで……アルテさんも飲みます?」

「…じゃあ一つもらおうかな?」


 イリューシャが飲むコーヒーがアルテさんがを飲む銘柄と同じだったのでその返答を聞いてドリップを始める…


「だいぶ手際が良くなったな」

「そうですか?…まぁいつもアルテさんの分を作らされてますしね」

「ほう…なかなか言う様になったな…紫音」

「えっ?いえいえアルテさんのご指導の賜物ってことですよ…最近じゃあ洗濯とか掃除とかも上手になりましたよ?」

「……本当に言うようになったな」


 その後、出来上がったコーヒーをアルテさんの前に差し出し、彼女はカップを持ち上げるとその香りを楽しむ……


「合格だ」

「やった!」


 OKが出たので残りをカップに注ぎそれぞれの好みに合わせる…ラテアートとか出来たら可愛いかな…?

一応アルテさんはコーヒーに関しての腕は確かだった。

飲み物をテーブルに運び終えたときに、隣の店と繋ぐドアからイリューシャがケーキを大量に乗せたお皿を持って戻ってきた。


「……イリュ……多くない?」

「そうか?最近学園で徴収される魔力が多いから、補給は必要じゃないか?アイリスもだろ?」

「……確かにそうだけど…太らないかしら?」

「一番よく食べる貴女達がそんな事を言っても嫌味にしか聞こえないわね」


 思わず、律子の意見に同意してしまう。

イリューシャはその身に宿した魔剣アグシャナと融合を果たしてから能力は勿論、その容姿にも磨きがかかった。

何かキラキラしてるし、バインバインだし、いい匂いするし!!

それは、アイリスも同様だった

かつてはヘブラスカを封印するための牢獄だった彼女のチャットルームは、今や鮮やかな若草のお茶会が開かれる立派な庭園になっていた。

そこに存在する魔女であるマトリーシェ…

もう一つの存在でありマトリーシェの姉妹でもあるスキル『姉妹達(シスターズ)』と融合果たしたアイリスオルタナティブ…

アイリスを守るために、すべての知識の情報をその身に蓄え続け、今歩くアーカイブと化したイリス…

アイリスと統合し融合した三人だがそれぞれの個性を残すためにチャットルーム内でスキルとして存在しているのだ。

この三人を内包することで、再び感情を失ってしまったアイリスだが、見た目の美貌はそのままに、その儚さがより一層彼女の美少女っぷりを際立たせた。

彼女は紫音の入浴に乱入する事が多く、その成長具合を知る紫音はあと数年もすればイリューシャに負けず劣らないバインバインになると予想している。

当然、キラキラもしているし、いい匂いもする。

時折カイルの部屋を訪ねたり、そのまま朝まで出て来なかったりするのを知っている…


「うう〜イリュ酷いよ…目の前にこんなに置かれたら、絶対に食べちゃうじゃないか」  


そんな泣き言を言う律子だが……私は知っている。

以前はテストにしか興味がないみたいなガリ勉のような容姿をしていたが、

カイルと関係を持ってからは眼鏡をコンタクトに変え、常に容姿に気を配っている。

なんだかんだと言って、時折彼の部屋を訪ねていく事は知っている。

キラキラはまだ成長途中だが、最近ちょっといい匂いがしている…


律子…お前もかっ!!


「この中から好きなのを選んでくれ…アイリスには特製のこれね」


 イリュがそう言って、アイリスの前に小皿を置いた

そこにはふんわり生クリームの上に色鮮やかなフルーツ……こんにゃく?!


「……私への愛情を感じる」

「アイリスの味覚が特別なだけじゃない?それおいしいの?」


 見た目は鮮やかで美味しそうなんだけど……美味しそうなんだけど……こんにゃくだよ?

確かにヘルシーではあるけど……


「はふう……もう私完全に胃袋を掴まれてるから彼無しでは生きていけない体にされてしまった」

「いろいろとアレな発言だけど…そうですか…」


 全員が着席すると、ワイワイと言いながらケーキを堪能する。

いくらここのケーキが甘さを控えめにしてるとは言え、やはりケーキは別腹だ。

油断していると際限なく食べられてしまうので、今日は一つで我慢する。

ぐぬぬぬぬぬイリューシャめ!あんなに好き放題食べやがって。


「なんだ…やっぱりお前達か…俺にもコーヒー入れてくれよ」


 そこに現れたのはカイルだった。

その手の皿に載っているケーキはなんですか?!見た事ないのですが……

自慢ではないが、既にパティシエルのケーキは全て網羅している。


「もう食べ終わったのか?…試作品のテスターをしてもらおうと思ったんだが……紫音…なんでそんなに睨むんだ?」

「ぐぐぐ…うるさいわねきのこ男…私がどんな思いで我慢してると思ってるのよ…」


 勿論完食しました。













「今日こそはいい加減話してもらうわ」

「ん?」

「とぼけないで!『隠れ姫』のことよ!何故あの時貴方の目も私と同じ色をしていたの?」


 先日からしつこく追い詰められていた……

例のへブラスカとの戦闘中のことだ…


「…あれはコピーキャットが失敗したに過ぎない」

「えっ?」

「以前見たことがあるだろう?あの場所はお前も戦闘に参加していたしな…コピーする事は可能だった……だったのだが、やはり特別な魔眼だった為か失敗した様だ…互いに痛みを伴ったはずだ…コピーを実行して弾かれた結果だな」

「……そうなんだ」


 紫音もカイルの馬鹿げた力を見て、もしかすると自分の目に何らかの処置をしてくれたあの少年がカイルだったのではないかと考えた事もある。

 自分の中の聖人君子の様なあの少年がこんなきのこ男になっていたとしたら少しショックだったのだが。

今迄の様にはぐらかす雰囲気ではなく、真面目に答えてくれた様な気がする……ならばそれが正解なのだろうか?


「そっか…わかった、ありがとう…教えてくれて…」

「いや…緊急事態だったとは言え、困惑させる真似をしたのはこちらだ…すまなかったな」


 紫音もスッキリしたのか更にケーキが一皿追加されたのだった。














「あんなこと言ってたけど……ほんと?」


 彼女たちが帰った後、洗い場で片付けをしている背後からアルテが声をかけてきた



「そうだけど?」

「ホントかなぁ?あなたは秘密が多いものね。」

「……」


 当然、あの話は嘘である…隠れ姫は、模倣できるような存在ではない…というか、模倣は不可能である

いずれはばれてしまうかもしれないが、今はまだ伝えるべき時ではない。


「ナイト様は色々と大変ね」


 何やらニヤニヤと楽しんでいるような気配が伝わってくる…全く…



「アルテ…」

「なにかしらん?」

「今日俺は晩飯の料理当番だからな…早く帰らないとアイリシアに怒られるからな、後片付けは頼むぞ」

「えっ?あっ?ちょっと待って…!この量は私一人じゃ…!!」

「ではオーナごきげんよう…しがないアルバイトの自分は帰宅します、お疲れ様でした…」


 悲壮な顔で追い縋るアルテを尻目にカイルはドアを閉じる…勿論直ぐには開かない様に『固定』の魔法を暫くかけておく……

今日もいい汗かいたな!さぁ帰るか!!



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