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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
208/240

閑話 シオリス 

 『明日から学校だろ?……今日は一日休んだほうがいいのでは?』


 ソファーに座るシロンがそう言った……その横には同じようにベッドに横たわるクロンの姿があった。

魔界から戻りすでに数日が経過していた…


「別に…ただの寝不足だから…ね」


 私は天井を仰ぎ見る状態の姿でこのチャットルームの椅子に座っていた。

マトリーシェの一件から休校していた学園が明日より再開するのだった。


 まず学園は今回の事件を公表し、カイルの言っていた様に

『生徒の実験失敗』の方向で話が進められてアイリスの代わりにアウリュアーレという人物が謎の謝罪会見を開いていた……暫くは報道でお茶の間を賑わせていたが既に沈静化に向かっている。

 当の張本人であるアイリスはマトリーシェをその身に宿した事で最終調整的な精密検査を受けるべくアネモネとルミナス…そしてネルと共に病院に数日前から検査入院しており週末に退院することになっている……

 カイルとイリュはここ最近再び夜の巡回的な活動を再開した……再び魔法陣が設置され始めたからだ。

昨夜も魔力を消費した為、今日はずっと寝ている………はず…

 昨夜からずっと隣の部屋から艶のある声がずっと聞こえているが……気のせいだ!

時折、壁を激しく打ち付けるような振動が伝わるが…気のせいだ!!


『…で、現実逃避の為にここに逃げ込んだんだな』


 クロンに指摘されたが、図星過ぎてなにも言い返せない…いや、でもこの反応が普通でしょ?!


『また街に魔法陣が出始めてるのか……』

『……まぁ、これまで死者が出なかっただけ幸運だったと思うしかないな…』

『そう考えたら…カイル達の行動は無駄では無いんじゃ無いかな?』

「…うん…」


 マトリーシェの件も建物の被害はそれなりにあったが、人的被害はほぼ皆無であった……軽傷者は多数居たがどれも大した事なくその場で治療して帰宅した。

夜の魔法陣は暫く発生していなかったが数日前から再び魔物の召喚が始まった。

マードックさん達のメンバーも頑張ってくれているが、昨晩は久しぶりに大物だったそうでみんな魔力が底を尽いて動けないらしいが怪我もなく元気の様だ……と、いおりんからメールが来ていた。

共に行動していたカイルとイリュも隣の部屋でいろんな意味で元気そうだった。

 私自身、アイリスの魔力を吸収した事で個人の保有する魔力としてはとてつもない量の魔力を吸収してしまい……その消費に苦労したが今は前髪の一部が白く変色しているだけだった……これがなかなか治らないのだが………

今後の生活に悪影響が残らなければ良いのだけど……


『…?』

『…』

「?」


 瞬間三人が顔をしかめた……こう、何て言うか…妙な違和感?

自分の部屋の中で自分ではない匂いを嗅いだ時みたいな感覚に陥った。


『何だろう…今、微妙な感じがした…上手く説明できないが…』

「うん…何となくわかる」


 違和感を感じつつもチャットルームは和やかに時間が過ぎてゆく…………筈だった。
















 アイリシアは何となく小腹が空いたので冷蔵庫に漁りに降りてきた……肝心のカイルは自室に篭りイリュとよろしくやっているようだし……頼りの紫音もまだ休んでいる様だ……まだ朝と呼ぶには早い時間なので誰もいない……

つまりファルミア荘は食糧危機に瀕していた……主にアイリシアが……


「……仕方ない……私が料理をするしかないのか……ま、お湯を注ぐだけだし~」


 彼女は自慢ではないが料理は不得意だ……自分では満更でもないと思っている………しかしそう思っているのは自分だけであり、友人のイングリット曰く


「あれは食べたら最後……現代の『最後の晩餐』だぞ」


 と言わしめた逸品らしい……


「?」


 ふと気配を感じて振り向くと紫音が居た……いや紫音みたいな雰囲気の娘が居た……見た目は紫音なのだが…雰囲気というか…纏うオーラというか……それに髪の毛先が白く変色しているし……紫音だよね?


「……紫音?」

「ねぇ……アイリシアさん……隣の部屋の騒音が煩くって…」

「…ああ…あの子達ね…若いって凄いわね」

「ふふ…」


 アイリシアの問いかけにも臆する事無くゆっくりと近づいてくる……

その違和感にアイリシアは不安を感じてしまうのだった。 











 冷蔵庫を開けてボトルの水を飲み干した……ようやくイリュも魔力の回復が追い付いた様子で昨夜の戦いの傷は完全に癒えた様だ……

 その代わりと言ってはなんだが……やたら消耗した自分に思わず笑いがこみ上げた…………

そういえば食事をしていない事に気付き、他の住人の食事はどうなっているのかと心配になってきた……

 着替えるとキッチンに向かった………


「あ、ちょっと!カイル良い所に……なんかつまみを作りなさいよ!」


 大量に散乱する酒の空き瓶と程よく出来上がったアイリシアと……


「……もうイリューシャはいいのかしら?」


 紫音?であろう人物だった…


「…紫音か?この惨状は?…」

「アイリシアさんがね…お腹空いたって言うから…簡単なものを作ってあげたんだけど…食後の酒盛りが始まってしまって……」

「……そうか……」


それよりも紫音本人の様子がいつもと違う感じがするが…余計な事は言わないでおく事にした。


(……なんだろう…嫌な予感しかしない……)


 カイルの本能が危険を察知していた……危険と言ってもこの場合は生命を脅かすような物ではなさそうだが…

取り合えず此処は逆らわずにつまみと適当な食事を用意したらさっさと退散しようと調理を始めた……


「…手伝うわ…」

「……いや、いいよ…アリ姉の相手を…」

「寝たわよ」

「……そうか」


 見ればテーブルに突っ伏したままの姿で寝息を立てるアイリシアの姿があった……

器用なものだと感心したが、これが紫音の使用した『催眠スリープ』だとは思いもよらなかった。


「?!」


 突然背後から抱きしめられた……


「し…紫音?」

「…私…貴方に感謝してるの……この前の…ううん、今だって……」

「そ…そうか」


 何か得体の知れない状況にカイルは戸惑う…こんなに感謝される様な事をしただろうか?

昨日まできのこ男とか言われていた様な気がするが……

何となくアーガイルの方からにやにやする様なオーラを感じた。


「このまま朽ち果ててゆく存在の筈が……カミュにも再会させてもらえたもの」

「?!お前…マトリーシェ!」

「…やっと気付いた?…」

『勿論妾もいるぞ』

「ヘブラスカ!?紫音はどうした!?まさか無理矢理…」

「ああ…あの娘はチャットルームに居るわ……今はよく眠っているわよ…何か昨日の夜から隣の部屋がうるさくて寝不足気味らしいわよ」

「…ナニカスイマセン……でもなぜお前たちが」

「ほら…この娘、私達の魔力を吸収したじゃない?」

「ああ……」


 その言葉に納得できた……紫音の吸収した魔力が膨大で複雑な色をしていたのはヘブラスカ、マトリーシェ、アイリスの三人の魔力の複合体だったからだ……

彼女たちの説明によれば、互いの魔力の質が高すぎて競合していたらしい……ある程度消費できた今、安定した状態で顕現することができたらしい……


「このまま消え去ってしまう前に…貴方に感謝の言葉すら言っていないことに気がついてね…何かお礼を……」

「……いやしなくて良いから!」

『まあそう言うな……お前達に害意はない…むしろ感謝しているのだ』

「……感謝?」

『お前が警戒するのは理解できるぞ…私たちは『正史』の存在だからな』


 正史……ミカイルにより改竄された歴史ではなく本来のあの悪しき存在として歴史に登場した存在だ。


「ある意味私達も望まぬ生涯だったからな……だが、おかげで私達にも輝かしい未来があった可能性を見せてもらったからな……」

『私が聖女など……ふふっ…』


 言っている事は理解出来る……悪意は感じられない……


「このまま消えてゆく存在だが…感謝の気持ちだけは伝えておきたいと思ってな」

『我々にもプライドがあるのでな…』

「そうか…名のある二人に感謝されるとは…光栄な事だ…それだけで充分だからさっさと紫音に体を戻して…」

「私ともあろうものが、十分な感謝を述べる事も出来ずにこの世から消え去ってしまうなんて…仕方ないな……このとてつも無い無念が弊害を引き起さねば良いのだが……紫音も無事に戻ることを祈っているぞ?」

「お前……!!わかりました……」

 

 やたらとしおらしい事を言っている様に聞こえるが、明確に紫音を人質にした宣言であった。


『ふふっ…それでいいのだ…お前は大人しく我々に感謝されておけば良いのだ』







 










「よし!カイル!次はあれだ!早く早く」

「お、おう」

 朝早くから紫音(マトリーシェ&ヘブラスカ)に連れられて来たのは学園都市でも有名なテーマパークだった……目の前にあるのはこのパークで有名なジェットコースターであった。


『やはりこれを乗らずしてここに来たとは言えないからな!』

「もちろんよ!さすがヘラわかってるわね!さぁ!先頭の席に座りましょう」

「お、おう」


 周囲から見れば完全にアトラクションを楽しむカップルであった。


「カイル…ちゃんと楽しんでる?」

「お、おう」

『ノリが悪いなぁ…しっかりとエスコートしろよ?』


 俺は今…この二人から感謝のこもった接待を受けている…受けているんだよな?









『次はあれだ!早く早く!』

「ヘラったら…乗り物は逃げたりしないわ」


 最高地点からの落差のすごい乗り物に乗らされた。

帰る前にもう一度乗らされた。









「ぎゃあああああ!!」

『ふっ……こんな子供騙しに驚くとはマリーはまだまだ子供………ぎゃああああああ!!』

「おいっ!!そんなにくっつくな!!」


 お化け屋敷では終始抱きつかれたままだった。











「ドラゴン!?」

『まさか人間界にも?!早く討伐を!!』

「任せて!!『凍てつく極寒の……』」

「リアルに魔法を詠唱するんじゃない!あれは作り物だ!!」


 城の奥に現れたドラゴンにマトリーシェが魔法を放つ寸前でカイルが『解呪(ディスペル)』した……

危うく明日の朝刊の一面を飾る所だった………






「なんだこの猫は!?かわいい!!」

『全く…マリーは……!!もふもふ!!』

「カイル写真を撮ってくれ!!」

「あーはいはい…はいチーズ」

『おい!あっちの犬はなんだ!?』

「あれも可愛い!!早く早く!次はあれと写真を!!」


 パークのマスコットキャラ12体全てを探して園内を走り回った………










「あー楽しかった!」


 一通り満喫した後、併設されたカフェで簡単に喉を潤しながらマトリーシェが大きく背伸びをした。


「そうかそれはよかったな…じゃあそろそろ」

『後でもう一度さっきの奴に乗りたいな』

「良いわねっ!」

『カイル…申し訳ないけど、ここの支払いをお願いしてもいいかしら?』

「入場料も払ったし、今更なんだが…俺に対する感謝はどこに行ったんだ?」

「それもそうね…でも、困ったわ…払おうにも私にはこの体で払うしか方法がないわね」

「払います!払いますとも!払わせてください!!」


 もはや自分にできる事は、財布と荷物持ちになることだけだと確信した瞬間であった。


「なんだか悪いわね」

「とんでもないですどうぞお楽しみくださいお嬢様方」

「じゃあお言葉に甘えて、もう一度周回しよう」

『それはいい考えだ!さあ行くぞカイル!』


 もうこうなったら思いっきり楽しんで魔力を消費してもらい退場してもらうしかない。


 マトリーシェはカミュがいれば誘導できたかもしれないが、運悪く義体に押し込めてアイリスの病院に付き添いとして送り出していたことが悔やまれる。

いや、奴が不在だからこそこうして現れてきた可能性もある

最愛の男が違う歴史を辿った今、自分とは言え、別の女性(マトリーシェ)とよろしくやってる姿を見るのは酷なのかもしれない。


その考えに至ると不思議とカイルも諦めがついた。


「仕方がない…今日はとことん付き合うとするか」














「ふむ…思ったより残存魔力が多いわね…」

『今日一日中割と楽し…頑張ったんだだがな…』

「あれだけ遊んでおいて……?!まさか計画的な…!!」

「いやいや…紫音が無意識のうちに体に取り込んでいるみたいなのよね……他人の魔力を溜め込むなんて本来可能性が無いわけじゃ無いけど…後遺症が出てもよく無いからこの際全部絞り出してしまいましょう」

「……明日から学校なんだが……」

「学校……!!一度行ってみたかったのよね!」


 こいつら確信犯だっ!!



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