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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
203/241

シン・暗き森のマトリーシェ 14

 

 それは突然だった…森から黒い魔物の群れが溢れ、近隣の都市を襲った。

異変を察知した見張りが伝令を飛ばし、近隣を巡回中だった第三騎士団と衝突した。

 騎士団は懸命に魔物を撃退し、住民を無事に避難させ…そして過半数の騎士が命を落とした。

奇跡的に住民の被害は無かったが……二つの都市が陥落した。

 中でも、以前マトリーシェ達が森の中で遭遇した複数の能力を持つ『超越種(オーバーロード)』と呼ばれる個体が各地で大量発生し、戦闘は混迷を極めた。

 さらに、その中でも、魔物を率いる『王種(キング)』と呼ばれる個体が存在し、それらの討伐は、魔王以上の力量を持つものでなければ不可能なほどであった。

 一般の兵士たちの消耗や被害も多く、マトリーシェ達の供給する薬だけでは対応が追いつかないほどであった。

 しかし、半年が過ぎた頃、状況は一変する。

ヴァルヴィナスと共に戦地へ向かう事になったカミュの為にマトリーシェが作り出した指輪の魔装具……ネアトの前世の記憶にもあるあの黒い鎧…自立式ゴーレムを作り出したことにより一般の兵士向けに量産型『指輪装備(リングアーマー)』が作られる事になり兵士の死亡率は大幅に下がった。

そして戦況は逆転し,魔物達を暗黒領域へと押し返し始めていた。 









「本当に一つでいいの?」

「一つで充分だよ…ちょっとマリー!見えないと思って、腰の後ろに装備するのはやめて!」

 

 自分の中の恋愛感情を認識して以降、マトリーシェはカミュに対して以前にも増して執着を見せるようになった……わかりやすくと言うと…非常に過保護になった。

 先日の戦闘などカミュが身に付けていた腕輪や装身具にもゴーレムが埋め込まれており『半身』の効果で戦場の様子を知ったマトリーシェにより十体のゴーレムが同時に発動する事となってしまった。

その結果、十体のゴーレムが合体するこ事によりさらに巨大なゴーレムが戦場に降臨した……

前世のグリードシステムに近い乗り込むタイプの巨大なゴーレムなのだがカミュの安全を優先する余り守備力に全振りした固定砲台のような形状となってしまった。

しかし、その身に宿る能力は健在で搭載された兵器の一斉射撃により、戦場が火の海になるほどであった。

もしも、紫音達がこの場で目にしていたら

『これアレだわ…年の瀬の夜にやってる歌合戦で出てくるラスボスだわ』

と、こぼしていたに違いない。


 魔王たちの尽力もあり、状況は逆転した。

魔物たちは、暗黒領域へと後退を始めその手前の遺跡へと集結した。

今、ここを各国の軍勢が取り囲み、最後の決戦へと挑もうとしていた。


「始めよう…ガノッサ…索敵を…」

「既に始めておりますぞ!遺跡の外には無数に反応があります…遺跡の中に極めて強い反応は三つ…二つはキング級…一番反応の大きなものが本体でしょうな」

「…よし、では手筈通りに…」


 ヴァルヴィナスの合図を受けて呪魔女ベラドンナ率いる魔女連合による味方への強化魔法、支援魔法が次々と発動すると同時に、魔物達の前線に向けて強力な攻撃魔法が次々と放たれた。

巨大な爆発が次々と起こり魔物達の断末魔の叫びが響き渡った。


「じゃあ、次は私が行くぜ」  

 

 魔皇帝ベルゼーヴ率いる魔剣士の重装騎馬隊が突撃を開始した。

魔女達の強力な加護を受けて魔剣士部隊は前線の魔物を容易く切り裂き、強力な魔法を放ち、前線の魔物の軍勢を大きく駆逐し、遺跡への突破口を開いた。

 前線から逃走を始める魔物もいたが、周囲を固める近隣国家の戦士達により次々と討伐されていった。

しかし,遺跡周辺は結界に覆われており内部への侵入は困難であり、魔法攻撃の影響もさほど受けていなかった


「厄介な結界だな…」

 

その時、遺跡の周辺の地面をを吹き飛ばし恐竜のような巨大な魔物が現れた。


「あれは?!暗黒領域でしか確認されていないギガントップスか?!」


その数は、一つや二つではない…地面の穴からぞろぞろと出て来るその数は数十匹ほど確認できた。


「わしらの出番かのぅ」


 ヴァルヴィナスの隣のヴリドラが立ち上がると眷属達を引いて空に飛び立った。

やがてその姿は巨大な竜へと姿を変えた……魔竜王とその眷属達がギガントップス達と乱戦状態に陥った。

 

「今のうちに遺跡への入り口を確保するぞ!」


 ヴァルヴィナス配下のハンゾウ率いる影の一族が情報を集め、それを受けてアステリアの盾の一族が突破口を確保する、ガノッサ率いる魔の一族が彼等を魔法で守護しつつ前線で戦うマクガイア達剣の一族を援護する……最強たる魔剣王の軍勢による進撃が確立されていた。


「相変わらずヴァル様の軍勢は凄いですわね…私達も妻としてお役に立たねばなりませんね」 


 戦場を上空から監視していたベラドンナは自身の夫となるヴァルヴィナスの活躍にうっとりとした。


『ベラ!ちゃんと記録映像残してるんだろうなぁ!?』

「お姉さま安心して…記録用に鑑賞用…全て4K動画で記録中よマリーちゃんに教えてもらったドローン使ってるからVR体験も可能よ!」

『お前…神かよ?!』

「んふっ!それほどでも…姉様から連絡が来たと言う事は……私の出番なのね?」

『あぁ、頼むぜ』

「任されましたわ」


ベラドンナが柏手を打つとその背後に四人の巫女装束の者達が現れた。


「皆、聞いて居ましたね……行きますよ?」

「「「「はいっ!」」」」

 

 それはベラドンナに付き従う四人の姫巫女達であった。


彼女達が呪文を詠唱を始めると地上に横たわる魔獣の骸に変化が起き始めた。

『魔物』の死骸はその核である魔石を残して魔素に分解されるが『魔獣』は獣と変わらない為、地上では無数の死体が溢れていた。

呪文が呪詛へと変換され、魔獣の死体はその影響で一気に腐敗した後に消え去り、残されたのは無数の骨だけだった。


「詠唱開始『呪骨連鎖紋戦槍(ジュ・シャリ・ラシア)


ベラドンナの詠唱が、その巨大な呪力により文字化され、それらに吸い寄せられる様に地面に転がる無数の骨が空中へと集まり一本の巨大な槍を形成した。

その表面には文字化された魔力が定着し、より強固に、寄り鋭く、結界を穿つための巨大な槍と化した。


四人の姫巫女は、それぞれ骨の鎧を纏い、主人を護衛する為の体制を整えた。


「行くぞ!巫女達よ!我が主人に傷一つ付けさせるな!」

「我らも力を貸そうぞ」


 空中の魔物を前に戦闘体制をとる巫女達に、先ほどの凶獣を葬り去ったヴリドラ達が声をかけた。

槍を警戒する魔物達がその進行方向に集結しヴリドラ達と空中で衝突した。


「おお…爺さん頑張ってるな……よーし!俺達も準備を進めろ!」


 上空を見上げたヴァルヴィナスは獅子奮迅の戦いを見せる仲間達を信じて遺跡を目指して進撃する。

やがて巨大な槍が結界と接触し、激しい衝突音が響き渡るが……互いの結界が反発し合っているのだった。

やがてその均衡を崩すように、槍の骨が砕かれ、文字化された魔力が使徒の結界へと浸透していった。


「さぁ〜仕上げよ〜」


 ベラドンナの言葉を合図に槍の先端が高速回転し、結界を徐々に削り始めた……

槍もその形状を変化させ後方部分が花が開くように六本の支柱となり使徒の結界に取り憑いた。

結界を削り取る先端部分が開閉し、その中央からは高密度にコーティングされた新たな槍が姿を表した。


胸骨破壊(チェストバスター)!!」


 中心の槍が発光し、魔力を浴びると勢いよく飛び出し使徒の結界を打ち破った。

破壊された結界が硝子の様に降り注ぎ地上からそれを見ていたヴァルヴィナス達は一斉に蜂起した。


「よし!全軍突げ……!!回避しろ!!」


 ヴァルヴィナスの声に彼の配下達は条件反射でその場から飛び退いた。

その場は遺跡の内部から放たれた光の奔流に飲まれていた。

結界の崩壊と同時に中から高出力の魔力砲が打ち出され、魔王軍の背後に位置していた連合軍に少なくない被害が及んだ。

遺跡の中から現れたのは、他の魔物とは一線を画した青と赤の鎧の二体の騎士だった。


『やれやれ、騒がしいと思っていたが……ついにここまでたどり着いたか』


 遺跡の奥の地面から巨大な蔦が伸びて急速に根を張り、巨大な植物が姿を表した…


「なんだこれは…巨大な……バラ?」


 遺跡から伸びた蔦はその全てを覆い尽くしその至る所から黒い薔薇の花を咲かせた……遺跡の中より声が響いた。


『私の名前はローズクイーン…遊んであげるわ』

「!!こいつが全ての元凶か?!」

「ヴァル様!ここは我々が!」


 声の先にはマクガイアとアステリアが青の騎士と対峙していた……同様に赤い騎士もガノッサとハンゾウが牽制していた……


「お前達…任せる…死ぬなよ!」


 部下達に任せて遺跡の中へと突入するヴァルヴィナスを見送ったマクガイアは青い騎士に視線を戻す…


「さて…厄介な相手だが…我らの真価の見せ所だな」

「ふむ…一般の兵士では厳しそうだな…マック…遅れるなよ!」


 アステリアが巨大なタワーシールドを担ぎ直すと騎士に向かって走り出した。

その見た目から青の騎士は『剣士』タイプだと予測できた。

接近するアステリアに向けその剣を振り下ろしたが彼女の盾がその全てを防ぎ切った。


「甘いなっ!!」


 彼女の得意技である『盾衝撃(シールドバッシュ)』が騎士の体制を崩した。

アステリアはそのばで回転すると水平にかざした盾を剣の様に横薙ぎに振り切った。

その一撃は強力でマクガイアの一撃にも引けを取らない威力だ。

アステリアは勝利を確信したがその一撃は虚しく空を切った。


「!!バカなっ!!」


 見れば騎士の体を地面から伸びて来た蔦が後方に引き倒していた……これは騎士ではなく植物に操られている鎧だったのだ。

鎧の腕がありえない方向に曲がりその剣を一気に突き出してきた。

完全に隙を見せているアステリアは自身の死を予感した。


「させるか!」

「!!マック!」


 マクガイアが間一髪,彼女を引き寄せる形でその体を後方にずらし,その剣を自身の剣で跳ね返した。

騎士はそのまま後方へ引き寄せられるように飛び退いた。


「あれは騎士と言うより……『操り人形(マリオネット)』だな…大丈夫か?」

「ああ…すまない…油断した」

「多分…あの騎士も薔薇に『寄生』されているのだろう……」

「うわあ……悪趣味……」


 だが脅威なのも確かだった……マクガイアは先日マトリーシェより貰い受けた『指輪装備(リングアーマー)の使用を決めた。


「起動」


 マクガイアの言葉に指輪が淡く輝いた。


『音声認識…認証 『マクガイア:メデュナス』様本人と識別完了 専用プログラム起動』


 指輪から音声が響き魔力が展開され幕ガイアの体を白銀の鎧が覆った。


『サポート機能担当「マリファ」ですよろしくお願いします』

「よろしく頼む……ふむ…マリファか…良い名だ」

『!…あ,ありがとうございます……それでは機能の説明を……』


 もちろん二人にはあの過去の記憶は無い…初対面であるこの瞬間だが……何かしらの絆を感じ取ったのかもしれない。


「では,剣の強化を……」

『マクガイア様は初対面とは思えませんね……私の姉妹にも紹介したいと思います』

「え…いや…今はそれどころでは…」

『な〜に?「マリファ」』

『マリータ…こちらはマクガイア:メデュナス様です……マクガイア様こちらは私の妹の『マリータ』です』

「え?ああ…マクガイアだ…よろしく」

『マリータです〜……何か〜なんだか懐かしいような〜』

「……そうだな……私に娘がいたとしたら……君達の様な存在だったのかも知れないな……」

「!!……マリータ……この方は…守らなくては」

「そうね〜マリファ〜守らないと……」


 マクガイアの全身をさらに魔力がコーティングする……


「……マック?なんか扱いが凄くない?」


 見ればアステリアの装備は通常の鎧と相対差がなかった。


「……家族とは良いものだな」

「?…まあそうだね…この戦いは家族の為にも負けられないね」

「そうだな……では……参る!!」


 マクガイアとアステリアが騎士に向かって駆け出した。


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