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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女

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シン・暗き森のマトリーシェ 11


「………良い湯加減ね……」

「……そうだ…ね……」


 会話が続かない……今二人は湯船に浸かっている……背中合わせで。

数年前まで一緒に入って居た筈なのに……心臓の音がやけに大きく聞こえる……


何故か今、私とカミュはお風呂に入っている……どうしてこうなった!!







刻は数分前に遡る。







「マリー?!どうした?!」


 カミュに抱えられて帰宅した姿を見てネアトは慌てて駆け寄った。

その騒ぎを聞きつけてウルファン達も集まり、その姿を見てカミュに鋭い視線を向けた。


「カミュ!てめえ…まさかっ!!」

「貴様…私達の娘になんて事を……!!」

「有罪にゃ!」

「うふふ〜もぎり落としましょうねぇ〜」

「え?待って!これには理由が……」

「ネアト違うの!カミュは助けてくれたの!!」


 カミュの狼藉を疑ったネアト達に囲まれたカミュを見てマトリーシェは慌てて説明を始めた。

先程まで感じていた殺意が嘘のように消え去った……仮にも息子なのに信用無くない?


「だよな!カミュがそんな事する筈が無いもんな!」

「信じていたぜ!カミュ!」

「…その割には全く取り合ってくれなかったと思うけど…」

「取り敢えず汚れを洗い流しなさい…」

「あ、それとこの子を保護したの」


 入り口に視線を向けるとリーネがおずおずと顔を覗かせた。


「…お姉ちゃん…大丈夫?」

「「「「「はうっ!!」」」」」


 女性陣はイチコロだった様だ。






「一緒にお風呂に入りましょう」

「ダメだ…」

「えっ…カミュ?」


 リーナに伸ばした手をカミュが掴み取った。


「だって…この子温めてあげないと…」

「…風呂ぐらい一人で入れるだろう?」

「見ず知らずの場所で一人で安心できるとは思えないわ…まだこんなに小さいのだから…もし何かあったらどうするの?」

「ぐっ…わかった……じゃあ俺が連れて入ろう」

「なっなっ!!何言ってるの!カミュのスケベ!エッチ!」

「何って…マリー…コイツは…」

「カミュの浮気者!じゃあ私も一緒に入るわ!」

「なっなっ!マリーこそ何言ってるの?!」

「リーネとは入れるくせに!私とは入れないっていうの?!」

「そんな事したら俺がネアトママに殺されちゃうでしょ?!」

「……マリーが良いと言うなら構わんぞ」

「……えっ?」

「じゃぁ問題ないわね!入りましょう!さぁリーネ!行くわよ」

「じゃぁお姉ちゃん…私これ食べたら行くから、先にお兄ちゃんと入ってて」

「…えっ?」


 見れば、いつの間にかネアト達が簡単な食事とスープを用意していた………すぐに食べて行くって言う量じゃないぞこれ……


「みんなでお風呂楽しみだな!直ぐに行くから待っててね!お姉ちゃん!」

「…そっそう…わかったわ!じゃあ待ってるからね!行くわよカミュ!」

「えっ?!マリー!?ちょっと、!」


 既に気持ちに余裕のないマトリーシェがカミュを引きずりながら風呂に向かった。 


「だいぶ追い込まれてるな…」

「うふふ…面白そうなことになっちゃったね」

「…さてと…お前さんは一体何者かな?表に居るのはお前さんの知り合いか?」

「わぁ…気づいてたんだ!さすが森の魔女様だね…」


 その無邪気な仕草の中にある余裕にネアトリーシェ達は警戒心を強めた。


「そんなに警戒しないで?敵対するつもりはないから……森の魔女さん達がどんな人達なのか気になったから会いに来たんだよ?とりあえず表の子も呼んでいいかな?」


 ネアトリーシェがうなずくとリーネは目を閉じて念話を送った。

しばらくすると、ドアがノックされ、漆黒の鎧に身を包んだ騎士が現れた。


「紹介するよ私の黒騎士様のレイ」
















「ちょっとマリー落ち着いて」

「私は落ち着いてるわ!じゃぁカミュ!さっさと脱ぎなさい!」

「ちょっと!引っ張らないで!…わ.わかったよ…」


 こうなるとマリーは譲らないだろう…良いのかな?…

マリーが何にムキになっているのかわからないけれど、自分にとってみればご褒美でしかない。

彼女の定めた姉と弟の関係が変わろうとしているのかもしれない。


 今回二人がやってきたのは大浴場…いわゆる家族みんなで入るタイプの家族風呂だ。


(どうして、こんなことに)


 体を洗いながら、鏡越しに湯船に浸かるマトリーシェを見る。

こちらに背を向けているので、表情は伺えないが、一体何を考えているのやら。

確かに、数年前までは家族みんなで入ることが多かったが、彼女を意識した瞬間からネアト達からは一緒の入浴を禁じられた。

それこそ、彼女達に拾われた日からほぼ毎日のように入浴してきたが、家族と認識しているからだろうか?

彼女らの裸体を見ても欲情を催す様な事はなかった。


 しかし、マトリーシェは例外であった


(沈まれ沈まれ!俺のエクスカリバー!)


 彼女だけに抱く狂おしい程の感情はどうすることもできないのだ。

昔から決められた相手の様に……運命の相手の様に………心が、体が彼女を求めて止まないのだ。

 








(な、なんでこんなに……ええい心臓の音がうるさいっ!)


 それは湯船の中のマトリーシェも同様であった。


(昔はあんなにもやしみたいにヒョロヒョロだったのに、今じゃあんなに逞しい体になっちゃって)


 先ほど脱衣所で見たカミュの背中を思い出し、ほうっと熱いため息をこぼした。


「……やっぱりこんなの間違っているよ…僕は先に上がるからマリーはゆっくりと温まるんだよ」

「そっ!そんなこと言って逃げる気ね!?」

「わっ!ちょっとマリー!」

「体が冷えるから早く入りなさい」


 理性の限界を感じたカミュは逃走を試みたが、後からしがみつかれ湯船に引きずり込まれた。


(柔らかかった)

(背中ゴツゴツしてた)


 既に2人とも、脳内はピンク色に染まりつつあった。


(でも……あんなに嫌がってたって事は……私には魅力が無いって事?)


 そう考えてしまうと急速にマトリーシェの心は冷えてしまうのだった。


「……どうせ…私は可愛くないし……カミュはリーネみたいな可愛い子がいいんでしょ?」

「はぁ!?そんな冗談……それにマリーが可愛くないなんて……」

「だって一緒に入浴する事あんなに嫌がってたじゃない!」

「そ…それは……」


 自分だけがカミュにヤキモキして馬鹿みたいだ……!

湯船から起き上がり出て行こうとするマトリーシェを咄嗟に捕まえてカミュは力一杯抱きしめた。


「カッ…カミュ!?」

「だって!マリーがあいつと一緒に風呂に入るとか…!そんなの嫌だったんだ!」

「ん??あいつ?」

「だって…僕はマリーのことが大好きだ!誰にも渡したくないんだ!!」

「ふぁ!!??!?!?!?カカカカカミュ!?!?なんて???!!!」

「君を愛しているんだ!」

「!!!!!!!!」


 胸の奥で姉妹達の黄色い声が聞こえた。

えーと…つまり…カミュは私の事がす……好き…って事よね?


「つまり……最愛のお姉ちゃん……」

「一人の女性としてだよ!」

「わわわ…私が?…あのあの…ふぁわわわ」


 そんな事を考えた事もあったが…いざ現実に直面すると思考が停止してしまった。

しかしそれを許さないほどに鼓動が激しく彼の存在を認識させた。


(わ…私…生まれたままの姿で抱きしめられて……!!)


 自分の鼓動と同じようにカミュの激しい鼓動を感じた……


(そうか……私も…カミュの事が……)


 初めて自分の感情を認識したその時 脱衣所の扉が開かれた。


「二人ともお待たせ〜……あら?タイミングが悪かったかな?」


 リーネであった……その美しい髪と同じように透き通った肌を恥ずかしげもなく晒し、堂々と風呂に入ってきた。


(綺麗な肌ね……やっぱりつるぺただわ…まぁリーネは今から成長期だもの今後に期待ね!……意外と体格は良いわね…何か股間に違和感が……)


 突然カミュに頭を抱え込まれ視界を塞がれた。


「お前!そんなものマリーに見せるんじゃない!」

「えー?だってお風呂は裸の付き合いじゃない?」

「それはそうだが……そんなものを見せるな!マリーが汚れる!」

「酷いなーお兄ちゃんも持ってるじゃない……まぁ…意外とご立派……」

「解説するな!」


 二人の論争についていけないマリーはされるがままにカミュに抱きしめられていた……


(カミュも持ってる?……何が……!!)


 視線を落とせばそこには彼の聖剣が自己主張をして居た。


(え?何?このエクスカリバー?)


「………!!ぴ……ぴえっ!!!」

「?マリー?!しっかり!マリー!!」

「あら?刺激が強すぎたのかしらね?」


 やがてその正体に気がついたマトリーシェは頭から最大の蒸気を立ち上らせて気絶するのだった。












(ううっ……お母さん……)

(よしよし…辛かったね……ここがあんたの新しいお家さね)


 奴隷から解放された当時のカミュは泣いてばかりの子供だった。

住んでいた村を魔物に襲われ母と死別した彼は生きる為に奴隷となった。

本来なら親に甘えたい年頃だ。


(カミュ!泣かないの!男の子でしょ?)

(うう…お姉ちゃん……でも)

(大丈夫…きっとカミュは強くて優しい大人になるわ!だから泣いてばかりいちゃ駄目よ!)

(うう…僕なんか強くなれないよ…)

(あら?もしも私が困っていてもカミュは助けてくれないの?)

(うう……怖いけど…お姉ちゃんの事助けたいよ……でも……僕はお母さんも守れなかった…家族は誰も居なくなっちゃったんだ……)


 再び目に涙を溜めるカミュを見て胸が痛んだ。

マトリーシェは優しくカミュを抱きしめた。

カミュは暖かなお日様の匂いがした。


(じゃあ…私がカミュのお嫁さんになってあげる…そうしたら私たち家族になれるでしょ?)

(…お姉ちゃんが…家族になってくれるの?)

(私だけじゃないわ…ネアトママもラビママもウルママもミミママもみんなカミュの家族よ)

(家族……本当にお姉ちゃん……マリーがお嫁さんになってくれるの?)

(ええ…大きくなった時,カミュが私のことを好きだったらね)

(わかったよ……僕,大きくなったらマリーをお嫁さんにするね!)

(うふふ…楽しみにしているわ)


 ……そっか…あの時からカミュは『お姉ちゃん』と呼ぶのをやめて『マリー』って呼ぶ様になったのよね……

そう考えると今まで自分に好意を寄せてくれて居たのだろうか?

そう考えると心の奥に暖かいものが宿るのを感じた。


「…!マリー!大丈夫?」

「カミュ……?」


 カミュの声に瞳を開いた……自室のベットに寝かされているようだ。


「えっと…確かお風呂で………!!!!!」

「っと…大丈夫…かな?」


 お互いにお風呂の出来事を思い出し赤面した。


「その……お風呂で言った事……本当?」

「……うん…マリーの事好きだよ…」

「!!っ…仕方ないわね…約束だものね……いいわ…わ,私がカミュの…お…お嫁さんになってあげるわ」

「マリー!!」

「わぷ!」


 カミュに抱きしめられ身動きが取れなくなってしまった。


「…マリーも……僕の事を好きで居てくれるって事かな?」

「…………」


 恥ずかしくて言葉にできない私は彼の胸の中で頷いた……

カミュはあの時と変わらないお日様の匂いがしていた。












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