表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
20/240

ワカクサノニワ2


「………?」


 目覚めると見知らぬ天井だった。

体を起こすと室内にも見覚えはなかった。

クローゼットと机 必要なもの以外置かれていない部屋だった。

部屋の時計の音がやけに大きく聞こえた。

針は11時を指していた。

記憶を手繰り……ふと左手を見る。

あの時受けた傷は何処にも見当たらない。

魔眼を使用した後にくる倦怠感も今は綺麗に消えていた。

不意にドアが開き女性が入ってきた。

蒼くそして白い幻想的な色の長い髪に、魔族特有のつり上がった耳……その手にはティーカップやポット一式が載せられたトレーの乗ったカートを押していた。


「…気がついた?……どこか痛い?」

「だっ大丈夫です!…あの……此処は……それからイリュ…イリューシャは……」


その女性は室内のテーブルに一式を置くと紅茶を入れ始めた……周囲に良い香りが漂う……


「…此処はイリューシャの寮……彼女は眠てる……無事」


その言葉に紫音は胸を撫で下ろした。

慌てて女性に向き直る。


「わ…私紫音って言います、貴女が手当てしてくれたのですか?」

「……応急措置はあの人がした……私は仕上げだけ……紅茶で良い?」


その淡々とした動作には何処か作業的な物を感じた。

言葉に飾りがないと言うか……必要な事以外は話さないと言うか…


「……愛想悪いから……気を悪くしたらごめんなさい」

「いえっ…とんでもないです」


顔に出ていたのだろうか?彼女にそう言われて紫音は身なりを正した。

そんな紫音の心を知ってか彼女は尚も続ける。


「…私は感情表現というものが苦手……簡単に言うと病気の様なもの」


人形のような白く整った顔から語られる言葉はそれだけで美しく真実味を一層引き立てた。

やはりその表情から感情を読み取る事は出来ない。


「……でも今は理解は出来る、表現は出来ないのけど…………紫音も学園の生徒?」

「えぇ…じゃあ貴女も?」


返事の代わりに頷いた。


「…昨日来た、通うのは来週から………自己紹介忘れてた、私は…アイリス…よろしく」


そう言って手を差し出した。

つられてその手を握り返した……アイリスはその手をぶんぶんと振るとそっと離した。


「…紫音も…友達……嬉しい」


表情こそ変化は見当たらないが、その頬に微かに赤く染まった。

それを見た紫音も嬉しくなった。



「こちらこそ…よろしくね」


笑顔を見せると差し出された紅茶を受け取った。


「そう言えば…あの人ってあの黒髪の男でしょ?」

「……アーガイル?」


そうか…アイツ そんな名前だったのか……いかにもオレオレっぽい感じだったしね…


「で……彼は今何を?」


まさか寝てる……なんて事は……


「……多分……アリ…管理人さんの所……それよりも……紫音……お風呂……」


アイリスはカートの足元からタオルとガウンを取り出した。

その両方に学園のエンブレムが在る事は、此処が認定された学生寮である事を表していた。


「あぁ…そうね…良いのかな?……うん…お言葉に甘えてそうさせて貰うわ」

「……一緒に……入ってもいい?」

「えっ?……うん、いいよ」


相変わらずアイリスの表情からは感情を読み取れないが、一瞬、雰囲気が柔らかくなった気がした。


「あ……下着どうしよう…」


上はともかく、下は流石に穿かないわけには。

するとアイリスが立ち上がり 大丈夫と告げた。

目を閉じ、胸の前で両手を合わせる形で魔力を集めた。

やがてそれは球体となり 、アイリスの魔力が注がれる。

それは形を取り始め………一枚の女性下着が出来上がった。

それを手渡される。

淡い水色の兎のバックプリントが目立つ。


「……創造魔法:下着生成パンツァークリエイト


やり遂げたアイリスは何処か誇らしげだ……えぇ…凄いです…凄いですとも…名前も凄くしっくりきますよ、魔力を物質に変換する創造魔法ってだけで凄くレアですけど……生地だって申し分ないですよ?この兎ちゃんが可愛いのは認めますが……これを私に穿けと?この手の物は随分と昔に卒業した筈の私に穿けと仰るのか?


アイリスが目眩を起こしたみたいにして椅子に座り込んだ。

目を閉じてもたれ掛かっていた。


「大丈夫?!」

「……魔力使いすぎた……」


パンツにどんだけ使うんだよ……創造魔法恐るべし。

特に私が出来る事もな く、ただあたふたとするばかりだった。

暫くするとアイリスは普通に目を開けた。


「……魔力を補給してくるから……先にお風呂入ってて…場所はこの階の向こう側のドア 」


そう言うとドアを開けて出ていってしまった。

……えーと……取り敢えずお風呂に行けば良いのかな? 管理人さんとかに挨拶とかしなくて大丈夫だろうか?

まぁなに話していいかわかんないし……いいか…

何か体に先程の戦いの余韻が残っているみたいで早く洗い流したい気持ちもあった。

お風呂セットを抱えると部屋の外に出た。


「……うわぁ……」


 その建築様式に息を飲んだ。普通の一般家庭で育った紫音からみればこの建物の構造は映画などで見る海外の ホテルの様で感動を覚えた。

円形の廊下の脇にはそれぞドアが3室ずつあり 正面にはオープンリビングとその横にバスルームらしいドアがあった。

中を覗くと 大きな鏡台 洗面台 洗濯乾燥機が見えた。

……更に奥の開き戸を開けると露天風呂風の造りをした浴槽が広い空間に広がっていた。

……あれ? 広すぎない?

このバスルームだけでさっき部屋の倍はあるけど……確か学園にも似たような場所がある事を思い出した。

空間魔法と呼ばれるもので 中身は別の場所と繋げられていると聞いた気がする。


「……じゃあ…早速…」


衣服を脱ぎ去り洗濯乾燥機に放り込みタイマーを回す。

はやる気持ちを落ち着かせながら浴槽へ……


「……あぁっ……生き返る~っ!」


自分のアパートのユニットバスではこんなに体を伸ばして入る事など出来やしない……久しぶりに味わう解放感にただただ酔いしれていた。


二つの針が交差して、これから始まる紫音の長い一日の幕開けを静かに告げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ