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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
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ハジマリノウタ1

「あ」


目覚めた私の目の前には彼女のまぬけた顔があった。

ちらりと壁の時計を見る……6時30分

今日もぴったりの時間だ。

再び視線を彼女戻す。


「…何してるの?」

「あははっ…その…紫音があまりに可愛いからつい……えへっ」


 ベットに眠る私の上に四つん這いになっている女性クラスメイトでもあるイリューシャ…イリュの姿は…第三者が見ればあらぬ誤解を受けることは間違いなさそうだ………それはとても困るのだけど。

枕元からベッドが悲鳴にもにた軋み声をあげた…小さなころから使い続けているこのべッドも良くがんばってくれている…


「いや…私はノーマルだから…」


 そう言い放つと 彼女の横をすり抜けてお気に入りの水色のカーテンを開けた。

既に日が昇り明るい日差しが部屋一杯に広がった。

5月の日差しが心地良い朝を告げていた。


「…相変わらず勘が良いなぁ…今日こそ紫音の唇を頂けると……ちっ!」

「…だから…私はノーマルなんだってば…」


別に彼女が百合っ子な訳でもない…かと言って本気で唇を狙っている訳でもない……多分。

毎朝こんな感じで彼女は私のアパートに侵入してくる。

まぁ せがまれて合鍵を渡したのは私なんだけど


「紫音は一人で住んでて寂しくない?」


不意に彼女が呟いた……この後の話の展開がなんとなく読めてしまう…詳しく理由は話してくれ無いが……どうやら私を自分の住む寮に誘いたいらしい。

こう毎日のように誘い続ける彼女は将来やり手の勧誘員になれるのだろうな…と感心してしまうほどだった。

深いため息をついてから彼女に向き直る。


「またその話?いいの私は一人でも大丈夫」


でもそれは嘘だ本当は寂しい癖に他人との交流が怖いだけ。

彼女の寮にも勿論興味はある、それ以外にもやりたい事は山のようにある。

あるのだが…人目を気にする余り自分を出せないでいた。

そんな感情をさとられないようにクローゼットに向かう。

イリュの事を親友!…と思いながらも自分をさらけ出せないで居る自分が心底嫌になる…


「…私だったら賑やかな方が好きだけどね……一人だけとか考えられないけどね~」


彼女の性格上確かに…と納得してしまった。

彼女の周りには常に誰かが居た。

それは彼女の性格の成せる業だろうか……世間で言うところのカリスマ性と言うやつだろうか? 

人を引き寄せるなにかがあるのだろうか…自分にそんな部分が無いだけに彼女が一際輝いて見えてしまう…

こんな自分も彼女の魅力に引き込まれた一人なのだろうか…


「……私は…大丈夫…」


そう呟く…まるで自分に言いきかせるように。

大丈夫…大丈夫……やがてその言葉は自分の波打つ心を鎮めていった。


「なんだか…紫音は無理してるみたい」


イリュがベッドの上に仰向けに寝転んだ。

私の白いベッドカバーに彼女の深紅の髪が映えて、そのしなやかな肢体は見るものを引き付ける。

私が男性なら間違いなく ベッドに向かって飛び込んでいただろう……いや…私はそんな趣味は持ち合わせて居ない筈だ……


「…そんな事ないよ」


まるで私の心を覗く力があるのではないかと疑いたくなる様な程、時折彼女は鋭い所を指摘してくる。

その反面いかに彼女が私を見ているのか……少し嬉しくもあった。

そう思わせるのは彼女の鋭い眼だ…切れ長のあの眼で見つめられると萎縮してしまいそうになりそうだが彼女の温厚な性格がそう感じさせない。


「……ふぅ~ん」


私の応えを聞きながらベッドの上で妖艶な笑みを浮かべる

。クラスメートとは思えない位色っぽいんですけど……何だか同い年に思えないなぁ…

だからこそ彼女には他人には無い何かを感じてしまう。

普段はおどけている仕草が多いがその行動と言動は的を得ている。

『偶然言ってみたら当たっちゃったよ~』的な雰囲気を醸し出してはいるが、それこそが作り出されているように感じてしまう…考えすぎだろうか?


「……無理はしていないよ」


実際 余り人付き合いの得意では無い私が 不思議と彼女だけは普通に接する事ができた。

それどころか、普通以上な付き合いに自分自身が驚く程だったり、クラスにも何とか打ち解けてきている様な気がしている。


「…もう学校は慣れた?」


今度は俯せになり顔を支えると 足をパタパタさせているようだ…今度は子供っぽい仕草に思わず笑いが零れそうになる。

普段の学校生活では見せない一面を惜しげもなく晒す彼女が私に対して心を許してくれているのだと認識出来る瞬間だった。


「そうね……」


少し考えながら目の前のクローゼットを開けると中にはまだ真新しさの残る制服があった。

今の学園指定の制服だ。全体はベージュを基調とした衿と袖が紺色のブレザーの制服を紫音は少し気に入っていた。

衿元のラインは2年生を表す青だ。

因みに3年生は赤 1年生は黄色になっている。


「まぁまぁ…かな?」


とは言ったものの 実際まだ右も左も解らない事だらけで余裕が無いのが本音だ。


「ふぅん…まぁまぁねぇ…」


イリュが意味ありげに呟く…ベッドの軋む音がした…イリュが近付いてくる気配がした。

ブラウスを着ていると、背後から伸びた彼女の腕に抱きしめられた。

彼女のシャンプーの香りが私を包み込んだ。


「知ってる?男子の間じゃ何かと噂になってんのよ?イヒヒ」


背後からイリュが耳元でからかうように笑う。

実際、からかっているのだからたちが悪い。


「そういうのはいいのっ!」


軽く彼女の手を払い 鏡台に向かった。

この手の話題を得意としない紫音の顔は湯気が出るほど、赤面していたに違いない。

こんな所を見られたら 余計にからかわれるに違いない! 

紫音は必死に顔を伏せて髪をとかした。


「えーつまんないなぁ」


イリュがふて腐れた声をあげ再びベッドにダイブする。

顔は見えないが、私の態度を見て、満足しているに違いない。

そんな被害妄想とも思える考えをしてしまうのは、日頃の付き合いのせいなのかもしれない……などと思ってしまう。

先にも述べたが、紫音はこういった話題は苦手だった。

人付き合いですら悩む様な状態なのに……

恋愛なんて夢のまた夢の話だった。

小学校時代に好意を寄せていた男の子が私の「眼」を気持ち悪いと言っていたのを聞いて以来異性には一線を引いてしまう状態だった。


「紫音は可愛いんだからさぁ…もっとこう…ああっ‼」


イリュは一人でベットの上で悶々と枕と遊んでいる様だ…発想がオヤジ臭いな・・・


「…ハイハイ…」


適当に流しておく…その間に手早く髪を結いあげた。

それよりも自分の方こそどうなのよ……と言いたいのが本音だった。

実際にイリューシャはモテるのだ。

下駄箱には手紙が山ほど入っていたり、声をかけられるなんて日常茶飯事である。

その全てを断るのだから……相手の中には秀才の上級生やアイドルみたいなイケメンが居たとか居ないとか……ふとイリュがこちらを見ていた。


「……なに?」

「今…私がどうとか考えたでしょ?」


………妙に勘がいいな


「別に…」

「じゃあ……エロい事だな!」

「違いますっ!」

「ははは………あーっ‼またその髪っ!今時そんな地味な髪型いないよ?昭和だよっ!昭和の匂いがするよっ!」


鏡越しに イリュが近付いて来るのが見えた。

今日はやたらとつっかかるなぁ……


「この方が楽でいいんだってば……昭和って……」


束ねた髪をお団子にしているだけなのだが…本当は目立ちたくないからあえて 地味にしてるだけなんだけと…ね

そんなに変かなぁ……確かに目立つ様な格好はしたくは無いけど…少し落ち込んだ。


「…むしろイリュの髪こそどうにかしたら?」


 すぐ後ろに立つ彼女の腰まである長い髪を指ですくってみせた。

彼女の髪は手入れが行き届いており 非常に繊細で美しい。

街中を歩いていたら 写真モデルやらないかと声を良くかけられるらしい。

この髪は目立つからねと言うのだが それだけでは無い事はこの髪を見れば明白だった。


「あ?私?やだ…面倒臭いもん!それに私はこれ以上可愛くならなくていいの!」


おいおい…そんなんで私に言うのかよ……しかも自分で言うのかよ!

暫く無言の時間が流れたがどちらともなく吹き出してお互い笑いあった。







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