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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女

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シン・暗き森のマトリーシェ 6

「…これは一体なんだ」


 モフラシアの王立病院の部屋で、目の前に横たわる患者を見てネアトリーシェは困惑した声を漏らした。


「それが私達にも……過去のいかなる病気や疾患にも該当するものが見当たりませんでした」

「症状は?」

「最初は発熱、倦怠感から始まります…暫くすると体に黒い痣が浮かび上がり高熱が続きますが解毒薬やポーションなどを用いましたが改善の兆候は見られませんでした」


 目の前に眠る猫獣人の女性は、全身の至るところに黒い痣が浮かび上がっている…


「この痣の下に見える?赤い線のようなものはなんだ?」

「…それは見てもらったほうが早いと思います」

 

説明をしていた女性の医者が、患者の着衣の胸の部分を開いた。


「これは……」


 患者の体の上に浮き出た赤線は、全身からうっすらと途切れる様に浮かび上がり、心臓の上の部分に集中して集まっていた。

そこは黒く変色しており、赤い線がまるで縁取りをしているかのように集まっていた……それはさながら漆黒の花の様にも見えた。


「黒薔薇……我々はこの病をそう呼んでいます」

「…これは…」


 ネアトリーシェは困惑する…こんな症状は前世の記憶にもない……

この現象だけを見ればワルプルギスの使用した『世界の終焉(ワールドエンド)』で頭上に現れたエンブレムに似てなくもない……


「検体と試薬を進めよう……あぁ…これは暫く帰れそうに無いな……」


 ネアトリーシェは一抹の不安を覚えながら遠い我が家の方角を見つめた。


 













「黒い薔薇だと?」


 マクガイアの報告にヴァルヴィナスは思わずその手を止めた。


「はい、南部の村を中心に急激に広がっています…モフラシアの医師団とも連絡を取り合っていますが……あちらの国でも今爆発的に患者が増えているそうです。」

「…暗黒領域の由来のものか?」

「その可能性が高いと…」


 先日派遣した疫病の調査隊は、情報を持ち帰ると同時にその半分が感染してしまい、今も被害が拡大し続けている。


「現存する薬品や薬草では改善の効果を見られませんでした……感染経路も不明ですがモフラシアからの情報によると『魔力、感染の可能性が高いと…」

「魔力感染だと?!」


 魔力感染 それは患者を介して魔力から魔力へと伝染する防ぎ様のない症状である……魔力の抵抗値の高い者が抵抗できる……逆に感染しやすい……と言う議論は未だに続いている。

 ヴァルは視線を隣の部屋ではしゃぐ姉妹へと向けた……


「……王都の入り口、城にも病封結界を…モウカリーノ商会を含む各商会で薬草の確保を依頼しておけ…」

「…早急に手配します」














「チートすぎ……」


 マトリーシェは先日獲得したスキル『姉妹人格(シスターズ)』について検証を重ねていた……

簡単に説明すると、母親から受けた影響がマトリーシェの感情ベースにした人格型のスキルであった。


ミミルより受け継いだ隠密、斥候の能力に特化した「歓喜のマリファ」

ラビニアより受け継いだ癒しと慈しみの「悲哀のマリータ」

ネアトリーシェより受け継いだ魔道と錬金の「憂楽のマリー」

ウルファンより、受け継いだ戦闘力の「憤怒のガンマリー」

先立って解放されていた情報と、知識の「博識のイリス」


「これはすごい能力だわ!早くママたちに自慢したいわねっ!」


 そう言って、手元にある先日届いたネアトリーシェからの手紙に視線を落とした…

一枚目の手紙にはモフラシアで謎の病気が拡大しており、その治療と研究のためにしばらく戻れないことが書かれていた……くれぐれも注意するように……と

  二枚目以降にはマトリーシェに会えなくて寂しいだとか、ちゃんとご飯は食べているかだとか、カミュと仲良くしているかとか、私の事を気遣う内容が八枚にわたり綴られていた…

どんだけ過保護なのよ……そう言いながらも自分がにやけているという自覚があった。


しかし… 疫病かぁ…先日ファルも南の方で病気が蔓延していると言う話をしていた。

ファルの両親も過保護らしいので、今までのように頻繁に茶会が開かれないかもしれしれない。


「マリー準備はできた?」


 控えめに部屋のドアがノックされ、カミュが顔を覗かせた。

ここ数年でカミュの背は伸びて

いつの間にか追い越されていた……最近ではママ達に鍛えられて剣も魔法も力をつけて来ていた……

何かと頼りになって来た………


「ええカミュ…今日の狩りでお姉ちゃんがすごい力を披露してあげるわ」

「はいはい怪我のないようにね」


 そう言ってカミュがマトリーシェの頭を撫でた。

最近はこうやって私を子供扱いする事が多い……悪い気はしないけど…姉としての威厳が……


「むぅ…少し私より背が伸びたからといって子供扱いしないでよね!」

「あーはいはい、ごめんごめん」


 そう言いながらもマトリーシェの表情は満更でもない様だった。











「……おかしいな…獣の気配が無い……」


 ウルファンは地面に伏せて周囲の様子を伺った。

ミミルは探知スキルを所有しているが、ウルファンは種族的に気配察知の能力が高かった。

今は家族揃って森の奥に薬草採取と素材の確保のために狩りに出かけていた。


「薬草もいまひとつ成長具合が良くないわね〜魔素がこんなに濃いのに〜」


 ラビニアも手元にある薬草に触れてそう呟いた。


「…何よりも静かすぎる」

「そうね〜あの子たち大丈夫かしら〜」


 二人は先ほど別れた子供達を心配した。







索敵(サーチ)

 

 気配察知の魔法を放つ……自分を中心に役半径2キロ先まで気配を感じる事が出来るのだが……


「おかしいわね…何の反応もないわ?」

「……」


 カミュは無言で周囲に警戒している…今日はいつもの森とどこか雰囲気がおかしい……森の色?空気?説明しづらいが………とにかくこんな事は初めてだった


「…『姉妹人格(シスターズ)起動:チェンジ:マリファ』」


 マトリーシェの周囲に風がうずまき彼女の中でマリファが目覚めたのを感じた。


「マリファ!『索敵』用意!」

『がってん、承知の助』


 脳内に軽快な声が響くと探索魔法が発動した。


広範囲探索(ワイドサーチ)





「はっ?!」


 気が付くと椅子に座っていた……周囲を見回すとそこは見覚えのある我が家に庭にあるテラスだった。


『いらっしゃい…マリー…私達のチャットルーム『魔女の森』へようこそ』


 目の前に座って笑顔絶やさずこちらを見つめている女性……マリファがそう言った。

スキルを使用する事で並列思考が起動し、このチャットルーム内に主人格のマトリーシェと対となる『姉妹』の人格が面会をする事でその能力を行使するのだった。


『じゃあ探索の結果を表示するね』


 そう言ってテーブルの上に大きな紙を広げた。

自分たちを中心にして半径15キロを表示した地図だ。


「範囲が広すぎでは?」

『えーでもこれが私の使える一番弱い探知だよ?』

「…チートすぎんか?」


 気を取り直して地図を見てみる……見事なまでに自分たちの居るエリアは生物を示す光点が皆無であった。

少し離れた場所にある青い光点はウルファンとラビニアだと判断できた。

他にも微弱に点灯する緑の光は捜索対象の薬草だとか……すげえな……


「おかしいわね。ここは結構森の深部の筈なのに…」

『微弱だけど何か反応があるよ?これは……オークの集落だねみたいだね…マリー目を閉じて』


 マリファの言葉に従って目を閉じる…それを確認すると、マリファナがオークの集落を示す場所を指差した。


「?!」


 脳裏に森の中を急激に移動する景色が広がり、やがて目の前にオークの集落の景色が広がった


「なっ…何よこれ?!」

『千里眼のスキルだよ』

「……まじでチートすぎんか?」

『そうかな……んん?何かこの集落おかしくない?』


 マリファの声に映像に意識を集中する。

確かに慌ただしくしている様に感じる…木々を組み合わせた簡単な建物の中にひっきりなしに出入りの動きがある。

流石に建物の中までは見る事が出来なかった。


『流石にプライバシーの侵害だよ〜』


 さいですか。






「オークの集落か……溢れる前に殲滅するか……誰かが襲われたらいけないからな……」


 合流したウルファン達と相談した結果このまま襲撃する事になった。

いいことを言っているが絶対に頭の中はオーク肉の料理のことを考えている……だってすごく尻尾が揺れているもの………


「じゃあまずは私がキツイのを一発喰らわせるから……カミュとウルママが遊撃してね」

「じゃあ私がマリーちゃんのお守りね〜」


 マトリーシェはふと『姉妹人格(シスターズ)』の起動して『憂楽のマリー』を選択する……マリーは私自身なのに…………


 チャットルームで目を開けると目の前にはもう一人の私がいた……


「じゃあ凄いのを一発……」

『馬鹿者!森の被害を考えんか!』

「……言い方がママだわ……」

『遊んどる暇があったらさっさと片付けんか!』

「はいはい……」

『はいは一回じゃ!』

「はーい」


 二人で相談して初撃は『炸裂魔法弾(クラスターバレット)』に決定した。







「行くわよ!『炸裂魔法弾(クラスターバレット)』!」


 マトリーシェが手を振り下ろすと上空に発生した魔力弾が集落の中央に落下した。

その音に反応したオーク達がゾロゾロと集まってくる。

よく見ると全部の個体が体に黒い痣がある……イベリコ種かしら?


「いい感じに集まったわね!『破裂(クラッシュ)』!」


 彼女の宣言を受けて魔力弾が鋭利な槍に姿を変えて周囲に散乱した。

突然の出来事にオーク達は成す術も無くその体に直撃を受け無惨にも無数にも赤い花を散らした。


「え……威力が高すぎない?」

『当然じゃろう…魔を担当するワシが力を貸しとるんじゃ』

「チートすぎる……」


 同じ魔力で倍の効果を発揮している……よく考えて使わないと危険だわ……


「よっし!カミュ!行くぞ!!……って…なんだこりゃ!?」


 草むらから飛び出したウルファンはその惨状を目の当たりにして目を点にした…

数十のオークが物言わぬ肉塊になっているのだ……ああ…久しぶりのオーク肉が………


「凄いわね〜これがマリーちゃんの言ってたスキル?」

「う…うん……でもここまで凄いとは……」


 その時集落の奥の建物が吹き飛び、中から漆黒の巨体が現れた。


「生き残り?!えっ?なんだこいつ?!」


それはオークとは思えないほど俊敏で巨体だった……オークソルジャー……


「!!しかも『魔王の残滓』!!」


 その体に赤い魔力がスパークしており暗黒領域特有の瘴気を纏っていた。


「カミュ!挟み込むぞ!」

「了解!」


 カミュとウルファンが挟撃で抑え込むつもりだ。

せめて援護の魔法を……


「『姉妹人格(シスターズ)』『悲哀のマリータ』!」





『は〜い…マリータちゃんで〜す』

「…ラビママね…うん…じゃあみんなに『支援魔法』をかけましょう」

『は〜い』


 いつもの狩りと同じ様に『防御上昇』『俊敏上昇』『攻撃力上昇』の前衛 三点セットを選択した。


『じゃあみんな〜頑張って〜』


 







 体が暖かくなる…マリーの『支援魔法』だ……


「よし!まずは足止めを……」


 瞬時にオークソルジャーの足元に移動し………たつもりが追い越していた…………え?


「カミュ!何やってんだ!私が足止めを…………え?」


 ウルファンも同様に接近したつもりが追い越していた……早すぎて目で追え無かった……


「なんだこの早さは!?マリー何した!?」

「えっ?普通に支援魔法を……」


 どこが普通だ…通常の支援では2倍速のはずだが、今回のこれは体感では4倍速はありそうな気がする…感覚を掴むのに、苦労しそうだ!


「カミュ!!」


 マリーの声にはっとする…感覚のつかめないカミュ目掛けてソルジャーの持つ棍棒の一撃が振り下ろされようとしていた。

なんて事だ!カミュも硬直して直ぐに反応できない様だ…

ウルファンは自分が身代わりになる覚悟で、地面を蹴り出そうとして……



「コーーーーン」


 周囲に高い音が響いた……振り下ろされた棍棒はカミュの周りの見えない何かに弾き返されたようだ。


「なんだ?防御結界?」


 違う…いつも通りと言っていたはずなのでこれは防御力上昇だ。

防御力上昇ってもんじゃねーぞ!!


「カミュ!今だ!」


 その声に反応した。カミュは一歩踏み出し、その体に横凪の一閃を入れた……


「グオオオオオっ!!!」


 ソルジャーは雄叫びを上げると、そのまま黒い粒子なり消え去った


「あれ?」

「あらっ?」


 私は夢でも見ているのだろうか?あの禁呪を一撃食らわせないと倒すことができない魔王の残滓を剣で一撃だと?

 

「カミュ!凄いわ!」

「凄いのはマリーの魔法だよ!…わわっ」


 飛び出したマリーがカミュに飛びついた、それを抱き止めるカミュが顔を真っ赤にしながらそう答えた。















「お母様」


 ファルミラは母の部屋のドアの前に立ち、声をかけた。


「ファル…どうしたの?」


 返事をする母の顔色は今まで見た来た中で一番に良いものだった。


「体調はいかがですか?」

「そうね…ラビニアさんから貰った薬のお陰かしら?…今はずっと調子が良いわ…」


 

それはそうだ……マトリーシェが作り出したものは『限りなくハイポーションに近いポーション』……つまりハイポーションなのだ。

今までお母様が服用していた。どんなポーションよりも品質の高いものだった。

継続的に薬品を提供してもらい、既に1ヵ月が経っている。あの日以来お母様は倒れる事はなかった。

しかし、あくまでも薬でその症状を抑え込んでいるに過ぎない。


(これを渡すにはちょうど良いのかもしれない)


ファルは後で持った小さな小瓶を握り締めた。


「お母様……今日はこのお薬を飲んでくださいませんか?」


 両手を差し出すとその手にある小瓶を差し出した。


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