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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
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ワカクサノニワ1



 あの人の部屋から物音が聞こえた気がしたので 読みかけの本に栞を挟むとドアから顔を覗かせた。

中央が吹き抜けの階段になっているから上の三階にあるあの人の部屋のドアが良く見える。

……やはり微かに物音が聞こえる。

時計の時刻は既に10時を過ぎていた。

今夜は大したこと無い…なんて言ってた癖に…それに今夜は少し胸騒ぎがしていた。


 階段をゆっくり登り、あの人の部屋のドアに耳を済ました。

……微かな物音にあの人の呻く様な声が聞こえた。

ノックをすると返事がかえってきたので、ドアをゆっくりと開いた。

中にはイリューシャと見知らぬ女性…紫音をベットに横たえていた彼の姿があった。


「……ひと…さらい?」

「やっぱりそう見えるか?」


私の言葉にあの人が笑った。自分でも同じ想像をしていたらしい。

ふと視線をベットに移した…見たことのない顔だった。

制服がイリューシャと同じ様なので…学園の知り合いだろうか?


「……誰?」

「…イリューシャの友達だ」

「……何があった?」


 第三者を巻き込むなんてらしくない。今までにない事態にそう問いかけた。

そもそもイリューシャ達がこうした戦闘行為をする事自体間違っているのだ。


「……ん…実の所俺にも良く……説明は後でするから…先にこいつの手当てしてくれる?」


そう言って気を失っている彼女の左手を指差した。

……火傷の痕……イリューシャとケンカでもしたのだろうか?…… もしかしたら彼女が噂に聞く「紫音」かもしれない。


「アイリス」


名前を呼ばれてあの人を見た。ベットからイリューシャを担ぎ直していた。

それを見たとたん 私は複雑な気分になった…何度見ても余り良い気分にはならない光景だ。


「……『手当て』?」

「あぁ……何だよ…何だか不機嫌だな。」


生まれつき感情を表に出せない私の些細な変化を感じ取ってくれた事はとても嬉しいのだが……今はそれはそれ。


「……なんでもない」


自分で出来る精一杯の嫌悪の態度を示してみた。

棒読みのその台詞に一層嫌味を込めてみた。

それを見たあの人は苦笑いを浮かべて私の頭に手を乗せた。

私の蒼白金の髪をそっと撫でる。 私の髪は魔界でも珍しい色をしている。

母が翠金色、父が蒼色なので二人の良いとこ取りと思っている。


「今夜は必要ない……彼女の後は俺も手当てしてくれないかな?」

「?!」


そう言って見せた右手は悲惨な有り様だった。

皮膚は焼け爛れ一部は炭の様になっている。繋がっているのが不思議なくらいだ…ここまでの傷を負うこと自体が珍しい…私が見てきた中でも一番の怪我では無いだろうか?


「…馬鹿なの?死ぬの?」


損壊具合からして優先度はこちらが先だ。

使い物に成らなくなってしまう…一刻も早くこの現状を維持しないと………

良く見たら「時間停止ストップ」の呪文が施されていた。これならなんとかなりそうだ。


「……馬鹿では……ないみたい……」

「そうか…じゃあ頼むな」


そう言い残し あの人はイリューシャの部屋に向かった。

 あの人のベットに横たわる紫音を見た。

……なるほど可愛らしい顔立ちをしている。

イリューシャが最近入れ込んでいる存在だと聞く。椅子を隣に置くとその腕の治療を始めた。

まずはその左手を指定範囲に認定し

再生リカバリー」を施す。淡い光が患部に溢れ、その傷を癒してゆく。

その他には外傷はみられないので暫くすれば気が付くだろう。

静かに立ち上がると部屋の灯りを落として階下にむかった。


あの人の部屋を出たところで隣のイリューシャの部屋から出てきたあの人に出くわした。

その目が紫音の容態を気にしていたので大丈夫の意味を込めて頷いた。


「…次は貴方の番」

「よろしく頼むよ」


二人揃って二階にあるオープンリビングに向かう。

この建物は一風変わった様式で、円筒形の構造をしている。

吹き抜けの中央は一階から三階までを繋ぐ階段で各階にキッチン、浴室、オープンリビングを完備している。

一階部分は通常の建物と変わらず、管理人室

キッチン、食堂、談話室、書庫などが完備されている。

……そう、此処は学生寮なのである。と言っても寮生はまだ私を含め4人しかいない。

かくいう私も昨日此処に到着したばかりなのだ。

あの人とイリューシャは面識があったがもう一人にはまだ会っていない。

週末は実家に帰るらしいので顔合わせはもう少し先になるみたいだ。

オープンリビングに来るとお互いに向かい合わせにソファーに座った。


「…時間停止を解除して…」

「ん…お手柔らかに頼む」


腕を覆っていた重い空気が霧散した。すかさず「固定ホールド」と「治癒再生キュアリバース」を施す。

淡い光が腕を包み、炭酸水の様な気泡が傷を癒していった。


「お見事」

「…その気になれば…自分で出来る筈」

「俺は雑な性格でね……元通りにはならないかもしれないからな」


そんな事は嘘に決まっている。しかしそれが私の為につかれた嘘なので内心嬉しい気持ちが沸き上がった。


(あぁ…何度味わってもこの『嬉しい』気持ちは実に心地が良い)


私は生まれつき感情というものが解らなかった。

怒りってなに?悲しいってなに? 目の前に起こる事が全てであり、ただそれだけだった。

赤子の頃から手のかからない子供…と思われていたみたいだが、実際は表現出来なかっただけなのだ。

当然感情による涙や笑いなどとは無縁であった。


原因は私の体内の魔素の生成異常が原因だった。

基本的に魔族は体内で魔素を生成している。

それぞれ個体に合った魔素を生成し循環、排出している…呼吸でする事と同一の意味を持つ行為だ。

その配分は多くても少なくても身体に異常をきたすのだ。

ましてや体内で生成出来ない事は致命的であった。

両親から近い配分の魔素を体内に送り込んでもらう事で生命活動を維持でする事で精一杯だった。

故に感情を表現できないでいた。

但ただ、生かされているだけの存在―それがこの私、

アイリス・H・ギゼルヴァルト なのだ。



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