花の都
「お姉ちゃんどこ行くの?」
下の妹シエラに見つかり声をかけられた……
さっきまで遊んでいた癖にめざとい……
「今日はお姉様の結婚式でしょ?花嫁になるお姉様に森にあるテュリンゲルの花束を贈りたいの…だから森へ…」
テュリンゲル…魔白百合とも呼ばれる白い百合で花弁の部分が黒いのが特徴である。
この地域では山奥に行けば恐ろしいほど群生している……魔素を多く含み薬草としてよく使用されるが……その魔素ゆえなかなか枯れない事で祭事によく使用されていた。
「私も一緒に行くっ!」
「だめよあんた絶対帰りに歩けないって言うでしょ」
「ちゃんと歩くもん!私も行きたいもん!」
「はははじゃあシエラは僕と木苺を取りに行こうか?」
「行く!レイと一緒にいく!」
助け舟を出してくれたのは隣に住む幼なじみのレイだった。
我が妹ながら現金な奴め…木苺たらふく食べる気だな……じゅるり
レイに視線を送る…彼は笑いながら頷く…これで私の分も確保された。
「ごめんねレイ……全くシエラったら…」
「大丈夫だよ…それこそ…君の方こそ気をつけてね間違っても魔法なんか使わない様に……」
「当然よ…最近は帝国の奴らもうろついてるって聞くし…そんな馬鹿はしないわ」
この時代、女性が魔法を使うことは禁忌とされていた。
許されていたのは治癒の奇跡と守りの法術を使う僧侶のみとされていた。
女性の方が魔力も質も男性より高く、魔女は男を滅ぼす存在と言われていた……その為攻撃魔法を使用する魔女は討伐対象とされており、帝国全土で魔女狩りがおこなわれていた。
ここは魔界の辺境の地の村…魔女達の隠れ里とも言える場所だった。
魔女と言っても釜に火種を起こしたり水瓶に水を溜める…風を起こし洗濯物を乾燥させるなど攻撃に程遠いものばかりだった。
私以外は
「これだけあれば大丈夫かな?」
カゴの中一杯の花を見てそろそろ村に帰ろうと歩き出した。
そこに木々を押し分けるように巨大な熊が現れた。
「グアアアアア!」
威嚇の咆哮をあげる…
普段この辺に出てくるような個体では無いのだけど
私は指の先に魔力を集めると熊に向けて振り下ろした
「うるさい……『弾丸』」
それは熊の脳天を貫き,即座にその命を奪い去った……
熊はゆらりとその巨体を揺らすと大きな音を立てて倒れこんだ。
「思わぬところで食材もゲットしちゃった」
そのまま熊を異次元収納に収めこむ。
「それにしても今日は森がざわついているわね……?」
木々の間から何か焼ける匂いがする…火事?
進むにつれてその匂いは強くなる……木々の焼ける匂いに混じり……生き物の焼ける匂い…この方角は……
「村だ!!」
私は籠を放り出し走り出した。
枝があちこちに当たり傷になるのも構わずに村の見える丘まで出た。
村から火の手が上がっている…一つや二つではない
『鷹の目』
燕子の魔法で村を見る……逃げ惑う人々と……数人の騎士がそれを追いかけていた。
「!!」
それを見た瞬間,目の前が真っ赤に染まり怒りの感情に飲み込まれた。
飛行の魔法を使うとすぐさま村に向かって飛び立った。
『蒼穹』
その手から光の矢が放たれ兵士達を撃ち抜く。
やがて私に気づいた兵士達がこちらに向かって叫びを上げた
「魔女だ!魔女が出たぞ!」
私は村の中心に降り立つとその周囲を兵士たちが取り囲んだ
彼らから放たれた弓は防御壁が弾き飛ばした。
「よくも皆んなを……」
殺意に満ちた魔力を練り上げた時、その声が聞こえた。
「お姉ちゃん!」
その声にハッとする。
そこには妹と幼なじみと姉様達家族が囚われていた。
「捕縛」
その隙をつかれて魔力鎖により捉えられてしまいその場に転がった。
あの魔術師…後で殺す…
「魔女を匿うとは…重罪だな!」
司令官らしきエラそうな男が前に出てきて私の頭を踏みつけた。
この司令官…絶対殺す。
「!やめて!私の妹を放して!!」
「ぐぐ…姉様……」
「ほう…お前達は姉妹か……成程成程……ならば貴様も魔女だな」
私たちの前に飛び出した姉様を司令官の男が値踏みする様な目で見ると姉様に剣を振り下ろした。
「はいはい…そこまでー」
「はっ?」
そこに突然、仮面をつけた女性が横入りし、騎士の剣を素手で掴み取った。
「なっ!貴様も魔女かっ!!」
「やれ!魔女の一族は皆殺しだ」
「えっ?私は通りすがりの……」
その声と同時に周囲の兵士たちが一斉に剣を振り下ろした。
しかしその全てが女性に傷をつけることすらできず、粉々に砕け散った。
「えっ?」
「はっ?」
騎士達は何が起きたのか信じられず、その場に硬直した。
「…こんなか弱い女性に剣を向けてくるなんて信じられないなぁ…少し寝てなさい」
女性が少しぶれたかと思うと、騎士達の体が一瞬宙に浮き、全員その場に崩れ落ちた。
私を含む村のみんなは、その成り行きを呆然と見ているだけだった。
「さぁ、可憐なお嬢さん怪我は無い?」
「はっはい…ありがとうございます……あの…貴女は……えっ?」
地面に倒れ込んだ姉様を仮面の女性が手を差し伸べゆっくりと助け起こしその腰に手を回した。
ちょっと距離感が近い……いや、近すぎる。
「はぁはぁ…すっごい美人さん!!あなたのような美しい女性が失われるなんて……魔界にとって大変な損失だわ!……そんな事も理解出来ないなんて、馬鹿な連中はお仕置きが必要ね!」
彼女が振り返ると、そこに馬に乗った騎士たちが駆けつけてきた。
「!!貴様!貴様も魔女だな!皇帝陛下の名において魔女の討伐を…うごっ!!」
名乗りを上げる騎士に、彼女がその場でデコピンをかますと、不可視の魔力の塊が、彼の顔面を直撃しその場に落馬し気絶した。
「軍団長!!おのれ!魔女怪しげな技をっ!!ぷべっ!」
「はいはい……わかったわかった、おとなしく寝てなさい」
騎士達は成す術もなく、全員その場に落馬し気絶するのだった。
「はーいみんなー注目〜みんなお手伝いしてね〜」
イヴと名乗った女性は村のみんなに指示を出した。
男達は騎士を縛り上げ、火事を消し、村の警戒にあたった。
女性達は怪我人の手当てや子供達を落ち着かせると
またいつもの平穏が戻ってきた。
かなりの規模の襲撃だったが、奇跡的に死人は出る事は無かった。
「ヘラ!無事だったかい!」
「レイっ!良かった…!!その傷っ!」
村が落ち着きを取り戻し、ヘブラスカはレイと再会できた。
その腕には包帯が巻かれていた。
聞けば妹のシエラを庇って受けた傷だったらしい。
「レイ…ありがとう…」
「ヘラ…君こそこんなに服を汚して……」
「…じー……」
「…あの…何か……?」
そんな甘い空気を作り出す二人を仮面の女性は興味深く観察していた。
「はっ!どうぞお構いなく!!」
「あの……イヴさん…助けてくれてありがとうございます…」
「…貴女が…ヘブラスカ…ちゃん?」
「…はい…」
「村の人に聞いたのだけど…貴女は特に魔力が強いそうね…」
「…はい……」
そうだ…
何の価値もないこの村をタダで助けるなんてそんな都合の良い話など無い。
きっとこの人も私の魔力を……
「あっ邪魔してごめんね!ささっ恋人同士続けて続けて?私の事は空気だと思って!さぁさぁ!!」
そう言ってイヴは少し離れた森の木陰に姿を隠してこちらを見ているのだった。
「……何なの?」
「……さぁ……」
どちらにしても…この日私の大事な村が…家族が…危機から守られた事だけは確かだった。
このイヴと名乗る女により「魔白百合」からポーションを生成する技術が伝授されのちのこの村の特産品となり、魔女解放への布石となるのだった。
『何だこの茶番は!』
村を一望出来る場所からその全てを見ていた使徒はその拳を振るわせた。
村人を虐殺することでヘブラスカは『復讐の魔女』に変貌する予定だった。
その心の隙に使徒が介入する事で歴史に名を残す『女帝ヘブラスカ』の暗黒時代が始まる………はずだった。
「くそ!どれだけ時間をかけたと……もういいこのまま私が……!?」
そこで使徒は自分が結界の中に閉じ込められている事に気づいた。
「おやおや…こんな結界に気がつかないとか……ふむ……どんな強者も始めは皆、こんなものか……」
背後の声に振り返ると数メートル後ろに金髪の男の子がこちらを見ていた。
「貴様の仕業か?」
「さあ……どうだろうね?」
使徒は結界の解呪を試みるが……
「あ、解呪しようとしても無駄だよ?君の今のレベルではね…」
その言葉通りに解呪は失敗した。
「何が望みだ?」
「んーこれと言った希望はないんだけど……今回の救済はカイルの望みだからね…彼にはいつもお世話になっているし……こんな簡単な願いなら叶えてあげても良いかなって?僕ってすごく優しいでしょ?」
「!!」
(こんな簡単?簡単だと?帝国内部に干渉して魔女討伐の動きを加速させるためにどれだけの時間と資金と人材が動いたか……!!それを簡単?!)
「そうだよね…君からしたら時間をかけた大事な計画だもんね…」
「!!(心を読まれた!?使徒であるこの私が?!)」
使徒は激しい焦燥感を感じながらも冷静に少年と対話を続けた。
「何が望みなんだい?この村から手を引いて欲しいなら…良いだろう、この村には今後手を出さないと誓おう…その代わり……」
「は?別にこんな村がどうなろうと僕は構わないんだよ……カイルがそうして欲しいて言うから救っただけだよ…約束は『この瞬間』だけだからね…今後も何かしたいならご自由にどうぞ」
「………」
使徒は混乱した……
(ヘブラスカの救済が目的ではないのか?)
ならばここを乗り切り時間はかかるが再度同じ計画を………
「望みって言ってたよね?」
「?!あ…ああ…私で聞ける範囲なら聞き届けよう…その代わり……」
「残念だけど…君が生き残る可能性はゼロだよ」
その瞬間、結界の中の空気が変わった。
「僕の望みはね……使徒の殲滅……お前達の神の死だよ」
少年の視線がこちらに向けられた……その瞳は暗く澱んでいる……激しい憎しみの炎が見てとれた。
そして結界が収縮を始めた。
「!!まっ…まて!私を殺せば次々と使徒が……!」
「願ってもいない事だよ…そうなれば全ての使徒をここで消し去るだけだよ」
「!!待って!いや…待ってください!助けて!」
使徒は必死に小さく収縮する結界を押し戻そうとするがどうすることもできないでいる……やがて小さな空間に押し込められるような形で圧縮されてゆく。
「お……おでが……い…だじゅげ……で……」
その声を最後に結界は強い作収縮し内部は赤い花が咲いたそうに染まった。
その場に、小さく赤いビー玉の方な球体が転がった。
「…うん…なかなかの出来栄えだね…これで15個目かな?」
少年はその球体を拾い上げ太陽にかざしてみた……そしてそのままごくりと飲み込んだ。
「さてと…これでカイルとの約束も果たした事だし…あとはミカイルに任せても良いかな?」
少年はその場から反転するとその正面にゲートが開き内部に消えていった……
かつて、遥か昔、魔女廃絶の動きが帝国内に蔓延した時期があった。
魔力を持つ女性は皆、魔女裁判を受け迫害をうけていた。
国内の不安定さをついて隣国が攻め込んで来たのは仕方のない事だった。
戦いは苛烈さを極め、魔女たちは使い捨ての奴隷の様な扱いを受け戦場へと送られた。
「さぁ!お前達!帝国のためにしっかり働いてこい!」
馬車から黒いローブを纏った少女達が追い立てられる様に降ろされた。
皆、近隣の村で魔女認定された魔力持ちの少女達だ。
その首には「隷属の首輪」が嵌められており、軍団長の命令通り敵陣に魔法を放ち、突撃し、自爆する…使い捨ての兵器とされていた。
「メアリー…私達ももう最後だね…」
隣を歩くベスが涙を流しながらそう言った。
今すぐにでも背を向けてこの場から走って逃げたいのだが隷属の首輪の強制力は並の魔力持ちではどうする事も出来ない。
数発の魔法を放つと魔力が枯渇して意識を失いそうになる……
そうなると敵陣に突撃して自爆する行動が始まる。
飛んで来た矢がベスの肩を射抜いた。
「ああっ!!」
「ベスっ!!」
それでも二人の足は止まらない。
これでおしまい……そんな絶望に塗り潰された思考で一杯になった瞬間、私達は誰かに抱き止められた。
「えっ?」
「間に合った!もう大丈夫よ」
目の前には白いローブを纏った女性がいた。
彼女が隷属の首輪に触れるとそれは音もなく外れて地面に転がった。
「……えっ?」
「大丈夫…貴女達は自由よ」
その言葉に涙が溢れた……ベスも泣いている…彼女の肩の傷はもう癒えていた。
「ヘラ!帝国がこちらに気がついた!」
一人の白い甲冑の騎士がやってきた。
この二人のやりとりを見て強い絆で結ばれていると感じた。
「全く…本当にどうしようもない皇帝ね!!」
彼女がフードを取り払うと美しい黒髪が風に靡いた……
「……『魔白百合の魔女』」
『魔白百合騎士団』
そう呼ばれる辺境の魔女達を救済する集団がいると聞いた事がある……白一色に統一されたその集団はいかなる戦場にも赴き戦場で命を落とす魔女達を救済しているのだと聞いたことがある。
その中心人物は真っ白なローブに黒髪の魔女で魔白百合に似ている事から『魔白百合の魔女』と呼ばれていた。
「広範囲電磁麻痺!」
彼女が魔法を放つと紫電の波紋が周囲に迸り帝国軍、隣国軍共にその場に麻痺状態で動けなくなった。
やがて彼女の仲間が帝国兵に何か液体をかける。
「!!ここは…俺は一体……」
帝国兵は自身の置かれた状況が飲み込めていないようだった。
「やはり……洗脳支配が施されている様だ……」
「…本当にどうしようもないわね…帝国って」
隣国の兵士たちも大人しく武装解除に従っているようだった。
「災難だったわね…もう大丈夫よ…この近くの村かしら?家族のところに送っていくわ」
「……村は…もうありせん……帝国の人達に…」
「お父さんと…お母さんも…ううう」
それ以上は何も言えなくなった私達をヘブラスカ様は優しく抱きしめてくれた。
「私たちと一緒に来る?」
頷く私を優しく抱き上げてくれた。
「貴女達の仇は……とってあげられないかも知れないけど……これ以上同じ悲しみを増やさない様にしたいの……力を貸してくれる?」
私は力強く頷いた。
帝国暦1405年 皇帝による『魔女狩り』が行われ各地で魔女認定された者の多くが処刑、投獄の扱いを受けたが
隣国による『魔女狩り即時中止』の声明により両国の緊張は高まった。
翌年、隣国の進軍により開戦。
(のちにこれは帝国が隣国との国境付近での『魔女狩り』を行いそれを目撃した国境の警備兵が救済のために戦闘となった事が明らかとなった。)
隣国に比べ魔法使いの数が圧倒的に不足している帝国は魔女を『隷属』させる事で兵器として使用する非人道的な策略を行使する。
これには隣国をはじめ周辺諸国が批難の声を挙げ、世界を巻き込む大戦へと突入の兆しを見せた。
帝国の辺境にて『魔白百合の騎士団』なる組織が挙兵し帝国の部隊を打ち破り、隷属された魔女の解放を行なった。
隣国はこれを支持し、『魔白百合の騎士団』の活動に協力した。
『魔白百合の騎士団』
帝国の辺境にて隠れ住む魔女の末裔の村であったが、帝国の『魔女狩り』により「壊滅」の報告が出されているが
当時、派遣された部隊長は「壊滅」の報告に確証はないと記載している。
(派遣された騎士も「村人を広場に集めた」ところまでは覚えているが誰もその後の記憶が曖昧で
気がついた時には帝都に向けて帰路であったと多くの者が証言している。)
初めてこの騎士団が確認されたのは 帝国東部…件の辺境の村付近である。
筆頭魔女たる存在ヘブラスカが魔女の解放を宣言しており、それに付き従う騎士レイナーヴェルンの二人が中心となって、その周囲を彼女の姉妹達が結束を固めていた。
また魔女の騎士とされるレイナーヴェルンは当時の戦争推進派の帝国貴族を次々に暗殺した暗殺者『黒鴉』と同一人物ではないかという説もある。
彼らの戦いは独特で数多くいる魔女は「防御」「治療」「解放」の徹底した部隊の支援と魔女の解放を主な仕事として戦場に従軍していた。
主戦力はヘブラスカの魔法と、騎馬、歩兵からなる騎士団であった。
その騎士団の持つ『ポーション』の効能が特別で確認されただけでも、『治療』『魔力回復』『状態異常解除』『防御上昇』『速度上昇』『魔法防御上昇』など騎士団への支援効果が凄まじくあり10倍の戦力を制圧したとも言われている。
多くの戦場で帝国兵はこの騎士団に統合される事となる……「なぜ戦場に居たのか思い出せない」と証言する兵士が大半を占めており、帝国のやり方に反発したものが数多く彼女達と共に立ち上がるのだった。
(のちの帝国中枢の宰相の発言によれば『洗脳支配』により兵士を洗脳し戦地へ送り込んでいたとの発言も記憶されている。)
帝国暦1408年 隣国の協力もあり僅か3年という期間で帝都は無血開城となる。
(彼女達の軍門に降った帝国兵達が場内にポーションを持ち込み、洗脳を解除した結果と言われている)
帝国中枢の役職官僚の殆どが洗脳されており唯一捕虜となった宰相だけがその一部始終を語ったと言われている。
その中に『使徒』との言葉があったが宰相自身、最後を迎えるまでその内容を語る事は無かった。
皇帝はその場で自死したと言われているが同時刻 帝都の外れで大規模な魔法戦闘があったとの証言もあるが詳細は不明のままである。
帝国暦1410年改め、白百合暦元年 女帝ヘブラスカが即位し 王配としてレイナーヴェルンによる通称『魔女暦』の始まりである。
かつて、暴力と権力の象徴であった帝都は大きく様変わりをしこの国の象徴である『魔白百合』の咲き乱れる白の都に生まれ変わった……人々は『花の都・へヴラチカ』そう呼んだ。
特産である「魔白百合のポーション」は治療目的の物のみが流通し周辺諸国との関係も良好となり、その後千年にわたる平和な時代が続くのだった…………
一人の男が荒野を疾走していた……速度的に人間ではありえない速度だが……その身なりからかなりの高位貴族であると予測された。
「どうなっている!……使徒様も何故連絡が繋がらない!!」
男の名前は皇帝グランディオン…今では哀れな使徒の操り人形である……その使徒も既にこの世に存在しないのだが………
「!!」
男は何かに気が付きその場を回避する……瞬間、地面が爆発した。
「あら?よく回避できたわね」
「…何者だ……」
地面に出来たクレーターから仮面の女が起き上がった。
男は警戒する……この女…隙が無い……
「貴方の大好きな使徒ちゃんから伝言よ『さっさと死ね』ですって」
「………」
使徒様の存在を知っており……敵対している存在だと確信する……
「…取引しないか?」
「取引?」
女が一瞬、興味を示した……まだチャンスはある、ここは慎重に選ばねば……
女の望むものを提示できれば……そこで女を観察する。
目の部分を覆う仮面……だがそのさらりとした金髪は流れるように美しくキューティクルも申し分ない……きっと毎日手入れを欠かさず行なっている証拠だ!
その扇状的な白の服装も彼女の体のラインを極限までアピールしており今にも見えそで見えないギリギリ感が堪らなく唆られる……先ほどから謎の光がチカチカして目が痛い……
なるほど……この女……痴女だな!
「……貴方に私の欲しい物が用意できるのかしら?」
「勿論だ……其方が望むのは……若い方が良いだろう?」
「!!…そうね……でも若すぎては駄目よ?」
「!そうかそうか……容姿も整っている方がお好みかな?」
「そうね…どちらかと言えば…お好みね」
よし!勝った!
「商談成立だな…私を見逃してくれたら…好きなだけ用意しよう……」
「!!す!好きなだけっ!!」
「勿論だ……若い男を!」
「若いおにゃのこ!!」
ん?
「おにゃのこ?」
「……男…?男だと!!」
次の瞬間猛烈な衝撃波が男を襲った。
世界が回る……そこで初めて殴られたのだと気がついた。
「くっ!!」
グランディオンの瞳が怪しく輝くとその背中から2本の腕が生え、地面を掴んで着地した。
こうなれば戦闘しかない……使徒様に頂いたこの力が有れば………!!
しかし、視線を上に向けてその希望は絶望へと変わった。
上空に跳躍した女の腕には眩いばかりの魔力の輝きが集まっていた。
「貴様!この私に男だと?!私が認める男はこの世でカイル様ただ一人!可愛いおにゃのこなら話は別だが……何故おにゃのこを選択しなかった?!そんなスケベそうな顔をしていながら……!貴様さては男色の方面なのか?!恋愛は個人の自由だから別にそれは良いとして基本的にはおにゃのこだ!想像してみろ!曲がり角でぶつかった相手が『きゃっ』と転んでしまいその短いスカートから真っ白で健康的な太ももがチラリと露わになりつつも魅惑の三角地帯が見えた・見えてない?的な状況をさっと手で隠されて半泣きの状況で『みっ見たわね!』と睨んで切る状況を!!どうだ!素晴らしいだろう?もしもこれが相手が男ならぶつかった瞬間に『うおっ』と大股びらきで尻餅ついた衝撃で胸元のボタンが弾けて露わになる大胸筋……慌てて片手で隠して頬を赤らめて『み…見るなよ……』とか………あれ?意外と良いんじゃね?……あ、ごめん、コレ止められないわ」
「理不尽すぎるうううううううう」
荒野に魔力の光柱が立ち上り、グランディオンは光の中に消えていった………
「……ふう…良い仕事したなあ」
後ろの帝都でも大きな歓声が聞こえた。
「ヘラちゃん達も無事に事が済んだみたいだね…さーて帰ってご褒美もらおーっと」
女はゲートの中に消えていった……後に残されたのは荒野に刻まれた巨大なクレーターだけだった。