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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
188/240

雪解けの詩

「見つけた?」

「こっちにはいないわ」


 今、カミュは逃げ回っていた。

視線の先で自分を探し回っているイリューシャとアネモネから身を隠す為に倉庫らしき建物の仕切りの内側へと体を滑り込ませた。

腕に嵌められた時計を確認する……


(後…少しだ……)


 それまで逃げ続けることが出来れば……この身は自由の身となるのだ。

いくら逃走しても賞金も貰えなければミッションも発生しない……

あの恐ろしい淫獣からこの身を守ることが出来るかどうか……

重要なのはその点だけだった。


「?!」

 

 周囲の安全を確認し、細い路地を抜けようとして

カミュは身を捩る、その体がいつの間にか細い糸に絡めとられていることに気がついた


「なんだ?!これは!」


 そして、その気配に気が付き視線を上に向ける。


「見つけた」

「ひえっ!」


 建物の屋根より、髪を振り乱して何かがこちらを見ていた

カミュは思わず情けない声を漏らした……やがてその手が伸ばされる。


「うふふ…大丈夫…壁のシミでも数えている間に……終わりそうには無いわね…」

(ラスボス…ラスボスだっ!!)



 カミュは己の貞操の危機を覚悟した。


 次の瞬間、糸は切られその体を優しく横抱きにされて助け出された。

カミュはハッとしてその人物を見上げた。


「あらぁ?人の獲物を横取りするなんて…悪い娘ね…いおりん」

「ルミ姐さん…人の男に手を出す事自体がルール違反だろ?あくまで捕まえるって約束だろ?」


 それは伊織だった…この旅の間にルミナスとも仲良くなったようだ…


「あらあら…いおりんこそ…そんなに抱きしめちゃって…私への当てつけかしら?」

「なっ?…何を……」


 こちらに視線を向けた伊織と視線が交差した途端、伊織の顔から煙が吹き出した。


「にゃにゃにゃ!!にゃにをっ!!」

「そんなウブな態度では彼との素敵な夜は過ごせなくてよ?」

「うるさい!わ…私はルミ姐さんみたいに肉欲まみれじゃ無いんだよっ!」

「あっ?言ってくれるわね…この小娘が…」

「おばさんも無理しない方がいいぜ?」


………仲良く…なったんだよね?


 二人の言い争いに紛れてその場を後にする…そこからはひたすら走り続けた。

昨日までの幸せな日々は今朝になって終わりを告げた……














「おばぁちゃんお客さんだよー」


 ミネヴァの二人の孫…アレクセイとスタニアスが帰って来た……この兄妹は親の手伝いとして色々な各所について行き色々な事を勉強の為に体験している……

今日の手伝いはテーマパークでの売り子……お客様とはそこで知り合った……と言うか、紫音達だった。


「やっと見つけた!ちょっと貴方ねぇ!」


 いきなり紫音の説教から始まった。

まぁ心配していた筈の友人がいきなり姿を消していたらそりゃ怒りもするか……マリーもその点は理解しているようで大人しく頭を下げていた……その小言は律子が止めるまで続いた。

 しかしカイルとアイリスとの契約で7日間は一切干渉できない仕様なので今日の夕刻までは二人に連絡が取れないのだった。

 ならば仕方がない…それまでゆっくりとさせてもらいましょう……とはならなかった。


「……カイル様…どうせ聞こえているのでしょう?…約束の日…私がどれだけ心待ちにしていたかご理解できますか?朝日が昇るその瞬間まで…ずっとお待ちしていたのですよ?…おや?貴方達…その体は義体の様ですね?完全にカイル様とアイリスから切り離されているのね?……それを良い事にあんな事やこんな事をっ!!!昨夜もお楽しみでしたね?ぐぎぎぎぎっ!」


 ルミナスの放つ常軌を逸した視線に身の危険を感じた…頼むから会話しながら衣服を脱ぐのはやめてください……

その他の女性陣も何かに期待する様な…それでいて鋭い視線を向けてきていた。

後ろで紫音が別に私はどうでもいいけど……と呟いた。


「ふっ…アイリスの姉だからと一目置いていたが…中身はとんだ腑抜けであったか」

「!!何ですって!」

「…アイリスはどんな時もあきらめず自らの望みを最後まであきらめるな事はなかったぞ!」

「!!……そうね見苦しいところをお見せしました」


 イングリッドの『今更でしょ…』とのつぶやきはとりあえずスルーした。

そこからは穏やかなお茶会が開催された。


「…だから私はカイル様に足蹴にされても……」

「…カミュは意外とSっ気が……」

「嘘っ?!そんな事までっ!!」


 ルミナスとマトリーシェの会話だけは何やら不穏な内容だったが……

 

「……わかりました……ミネヴァ…何処か人の来ない場所はあるかしら?」

「?!マリー?!!」

「仕方ないじゃない…こんな所でおっ始められても困るし……小さな子供達もいるのよ?」


 見ればミネルヴァの孫達が何事かと固唾を飲んで見守っていた。







 ミネルヴァに指示されたのは最近住民が転居した解体予定の居住区だった。

古い事もあって最近出来た謎のトンネルの付近に新しい街が完成しておりそちらに人が流れていったのだ。


「ルールは簡単よ…私達に与えられた時間は夕刻まで…後数時間と言ったところかしら?この区域を結界で覆います。

それまでカミュがこの呪符を守り抜いて逃げ切れたら私達の勝ち…魔法や攻撃はある程度は認めますが威力の高いものは控える様に…そしてカミュが捕まったら貴女達の勝ち……その時は好きにしていいわ」

「!!マリー!」

「…ふひひひ」

「大丈夫よカミュ…私を愛しているなら捕まったりしないわよね?」


 気のせいか肩に乗せられたマトリーシェの手に力が込められて……痛てててててっ!

 そう言って渡された呪符はなんの効果もないただの紙切れだった。

しかしこれを奪い魔力を流した者の名前が記される仕掛けになっていた。


「カミュが私以外の女に身体を許すなんてありえないわ」

「ほほぅ…いいだろう……その傲慢な鼻をへし折ってやろう…そして貴様の男骨の髄までしゃぶり尽くしてやる……リットがな」

「ええっ?なんで私が…!」

「私の初めてはアーガイル様に捧げるとあの時からずっと決めていたのだ!」

「じゃあそんな約束しないでよ」

「ギゼルヴァルトの娘が喧嘩を売られて黙っていられる訳があるまい!!」

「…めちゃくちゃだわ……」


 呆れた紫音はそんな言葉しか思いつかなかった。

 






 そんなこんなで、制限時間内にこの廃墟内のエリアを捕まらずに逃げ切る……【逃避行中】なる勝負が開催されてしまった。

カミュに与えられたのは一本の木刀のみ……対して彼女たちは魔法の使用が許可されていた。


 最初の30分はルミナスとアネモネ、イングリッドの3人から逃げまわっていたが、変化のない展開に少々飽きていたマリーが新たなハンターの参加を許してしまったのだ。

それが伊織とイリューシャであった。

荒事に向かない紫音と律子はマトリーシェ達とお茶会を楽しんでいる様だ。


 どっちの味方だよっ!と、心の中でツッコミを入れたものの、この二人は実は味方だったのだ。


 見つかりそうな場面になると現れ、追跡者の気を逸らしたり逃走を助けてくれるのだ。

マリーとの間にどの様な約束が交わされたか………


(…おそらく彼女達の報酬はカイル絡みだから…後は任せよう)

「あら?私を前にして他の女の事を考えるなんで舐められたものね」


 その声にカミュは瞬時にその場を飛びのいた。

次の瞬間、その隣にあった柵に無数の糸が巻きついた。


「あら、意外と勘が良いのね」

「はははっそれはどうも?」


目の前に対峙しているからこそわかる……マリーともヘブラスカとも違う異質な魔女の気配を感じとっていた。

 沼のように、この体に絡み付く魔力も、ドロドロに溶け切った体の中に染み込んできそうなその視線も危険な存在であると本能が告げていた……えっ?一番強くね?


(カイルは、こんな魔力や視線を向けられてよく平気で居られたものだ)


 今や、自分の主となった存在に畏怖の念を感じ得ない。


「さて…カミュ…貴方に恨みは無いのだけれど…私の幸せの為にここで捕まって貰います…」

「…はいそうですかとは……行かないんだよね…」


 二人同時にその場から飛び退き、激しい攻防が始まった。

重力魔法の使い手であるルミナスは、中空に空間を繋げ、そこから糸を繰り出してくる特異な戦い方で襲いかかってきた。

カミュはそれを体を捻り回避すると、残り半分は手に持った木刀で切り落とした。


「ふぅ〜ん…さすがは魔女の騎士だけはあるわね…見直したわ」

「それはどうも…」


 それはカミュも同感だった。

ただの変態かと思っていたが、その魔力の練り上げ方攻撃のタイミング、その連帯…どれをとっても一流の戦い方だった。


 激しい攻防の末、ルミナスの喉元にカミュの木刀が突きつけられた。


「勝負あったな……でも、お前はまだ認めたくないんだろう?」

「まさか、これほどとは…認めましょうあなたは素晴らしい子だわ……でも、甘いわね」


 ルミナスの影から無数の糸が飛び出してカミュの体を締め上げた


「なっ?!」

「女性を気遣うその態度も申し分ないわね……あの魔女にはもったいない位だわ…今からでも私のものになる気は無い?」

「残念だがそれはありえないな」


会話をしながら反撃のチャンスを伺う。まずはこの糸を切断して


「ちょっと待て!!なんだ!この糸切れねぇじゃないか」

「それはそうよ。私の魔力で作り上げたオルハリコンストリングだもの」

「なんだよ、それ伝説の素材じゃないか!!」

「ここまでやって逃すわけないでしょう!あなたにはお預けを食らわされたM女の気持ちなんて到底理解できないでしょ?」

「知りたくないんですけど!!」

「じゃぁ…もう観念しなさい」


 ルミナスの魔力がもう1段階膨れ上がり、その放つ魔法も威力を増していった。


「ちょっとルミ!やりすぎよ!」


 当初の目的と違い、ルミナスを停止するためにその戦いに身を投じようとしていたイングリットをアネモネが止めた。。


「モネ!」

「大丈夫…きっとカイルは姉様が中に溜め込んでいる魔力を全部出させる気なんだ」


気がつけば、イリューシャも、伊織も、2人の余波が外に及ばないように、区域のギリギリの場所で結界の維持を手伝っている。


「姉様はね…幼い頃からその立場のために、常に自分を抑圧された生活を送ってきたの……お気楽な次女と違って、それは相当なストレスであったはずだよ」

「モネ…」


 姉を見つめるモネリスの眼差しは優しい。

自分が今まで好きな事をやって来れたのも、姉が全てを抱えてくれたからだと理解している。


「それにしても…ルミはその事に気づいてるのかしら?」

「どうかしらね……でもとても楽しそう」


 結界の中央で戦う2人は互いに笑顔であった。

カミュの姿も、いつの間にかカイルの姿へ変わっていた。


「どうした?ルミナスその程度か?」

「これも防ぎますか!……ではこれはどうですか?!」


 ルミナスは自身の高揚感に戸惑っていながらその衝動が抑えきれずにいた。

自分の魔力に、ここまで抗って見せる存在など、魔界では数える程しかいない……常に全力で挑むことが許されない不完全燃焼を味わっていたのだった。


(もしかして……全力を出しても大丈夫なのだろうか?)


その思考が甘く、彼女の胸に染み込む…

今まで誰にも見せた事の無い……全力の魔法を叩き込んでも大丈夫だろうか?

そんなルミナスの不安を見透かした様に目の前のカイルは『撃ってこい』と言わんばかりに手のひらを動かし挑発するのだった。


「!!良いでしょう……私の全てを受け止められるものなら受け止めてみなさい!!」


 ルミナスが両手をかざすと、高濃度の力がそこに収束した。

膨大な力が太陽のごとく光輝き一定の大きさになると瞬時に収束し、そこにはビー玉の様な小さな光の魂が残った。


「!!モネっ!結界の強度を上げて!!全ての力を注ぎ込むのよ!」


 それを見たイングリットが女性達に声をかける……そして自分も結界に魔力を送り込んだ。


「ルミっ!なんてものを!!」


 小さな塊に見えるが、圧縮に圧縮を重ねた超超弩級の魔力の塊であった。

今、この瞬間、あれを解放すれば、この国1つ消えてなくなるほどだ。

流石に紫音と律子も結界の維持に参加する為に駆けつけた。


「ほう…まさかそのレベルまでとは……」

「…ここまでの魔力を出したのは初めてですね……おそらく私の渾身の一撃ですわ……受け止めてくれますか?」

「…問題ない」




 その言葉を合図にルミナスが手を差し出すと、その小さな球体から有り得ない程の高出力の魔法が打ち出された…………それは真っ直ぐにカイルを直撃した。


 夕刻に赤く染まった周囲が、昼間の如く眩く照らし出された。

周囲は荒れ狂う魔力の奔流によりイングリッド達の結界にも亀裂が入り始めた。


「っ!!このままでは!」


 結界の中からルミナスの魔力がイングリッド達を押し退けるほどの圧力を生み出した。

突然、その魔力が失われて静寂が訪れた………結界の中ではルミナスの魔力が消失していた。


「?!何?」

「全く…少々…やりすぎだな」


 ルミナスの全身に悪寒が走る。

あの魔力を一瞬で消す事など……不可能だ…相殺ではない……消失だ。

感覚的には魔力の残滓すら感じられない…一体何をすれば……

こちらに手を伸ばすカイルを見て、ルミナスは本能的に敵わないと悟った。


次の瞬間周囲の結界が弾け、ルミナスは強い衝撃を受けて、地面を転がった


「パパをいじめちゃダメなの!」

「スノウ…お前」

「パパ大丈夫、?怪我はしてないですの?」


 いつの間にかその場に入り込んだスノウがルミナスを吹き飛ばしていた。


「なっなっ!」


 頬を抑えて起き上がるルミナスは、その姿を見て絶叫する。


「もう子供まで出来ちゃってるーー!!」


 そして、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


「なんて子なの…あの結界を破るなんて……」

「ちょっと姉様!あれ…姉様?!」

「え…死んで……ない?」

「こいつがこれぐらいで死ぬ様な女かよ」

「何で私まで……」


 そこにイングリッド達が駆けつけてくる。

全員がそれぞれの言い分を捲し立てる………


「……さて……まずは話し合いかな?」


 その後、カイルはカミュとアーガイルに義体を与えた。

アーガイルは気絶するルミナスとイングリッド、アネモネを連れて何かを察したミネルヴァに紹介された離れの館『ノクターンの館』に向かって行った……きっと朝までお楽しみコースに違いない。


 マトリーシェもアイリスの用意した義体を使い分離して紫音やイリューシャと無事を喜び合っていた。

カイルの姿を確認した紫音は不機嫌そうな顔を隠そうともせず『全く人騒がせな男ね』とだけ呟いて背を向けた。

何だろう…前よりも好感度が下がっている様な気がする……


「…カイルも大変だな…」


 カミュが他人事のように肩を叩いた。










 その後ミネルヴァの館で全員夕食を囲んだ……滞在最後の夜なので盛大な料理が振舞われた。


「…俺もそっちでもてなしてもらう側じゃないか?」

「良いじゃない…そもそもカイルが悪いのよ?あんな料理を食べさせられたら他じゃ満足できないじゃない」

「それは……すまんかった」

「いや……こう言ってるが紫音も二人のことを心配していたから…」

「?!律子!」

「ははは…すまんかった」


 なぜかミネルヴァの家の厨房で料理を作っていた。

適当に切り上げるつもりが思いの外ミネルヴァ達に好評で暫くここから抜け出す事は出来ないだろうと諦めた。


「お兄ちゃんおかわり!」

「おかわりー!」


 ミネルヴァの孫達にも好評ですでにデザートの追加も3回目だった。


「じゃあ私も」

「あ…私も」

「私にも同じ物を…」

「マリーもいるかい?僕の分も合わせて二つ追加で」

「!カミュ!てめえはこっちで手伝いやがれ!」


 周囲に笑いが起こる……大勢で食卓を囲む経験は、マトリーシェもカミュも初めての経験だった。





 食後、今夜が最後の夜になるマトリーシェとカミュはミネルヴァによって『ノクターンの館』二番館に連れて行かれた。

みんなから茶化されながら向かう二人の横顔は幸せそうだった。


「…彼女の…」

「ん?」

「…マトリーシェの評価はずっとこのままなのかな?」


 やっと夜食にありつけたカイルの隣で紫音がそう呟いた。


「あの二人は巻き込まれたから……本当なら幸せになっていても良いはずじゃない?」

「時間が経ちすぎているんだ…今更真実を公表した所で…誰も信じたりしないだろう」

「魔界では子供の頃には誰しも必ず耳にする様な話だからな」


 紫音の疑問にカイルとイリューシャが否定的な意見を述べる。


「でも……」

「それこそ『この惑星は球体ではなく三角形なんです』と言って信じられるか?……そんなレベルの話なんだ」

「…そうだね…幼い頃から信じていた事が間違いだと言われても半信半疑だろうね」

「…球体なのか?」

「…球体らしいぞ?」


カイルの話を律子が肯定する……イリュと伊織の疑問は今度ゆっくりと話をしよう。


「でも…」

「仮に真実を公表した所で受け入れられるのはずっと先だ、百年,二百年いや完全に浸透するには長い年月を必要とするだろう…でもそれをあの二人が望んでいるのか?」

「それは……」

「『暗き森』の遊園地は行ったか?あの二人ももちろん行ったさ…二人には思い出の場所だからな…当然自分達がどの様な扱いを受けているのか知っている…それなりに楽しんでいたぞ、でも反論はしなかった…自分達の歩んだ歴史……自分達のした事を受け入れているんだ」

「…戦争…殺戮…自分達が関わっている事を自覚しているのね」

「………」


 紫音はそれ以上何も言えなくなった。

理不尽だ……理不尽極まりないと思うのだけど……本人達がそれで良いと思っているなら……

これ以上は私の我儘なだけでは……


「…この世の中…思い通りには行かない事だらけじゃな」


 それを間近で見ていたミネルヴァの言葉がみんなの胸に深く響いた……

そんな様子を見ながら食事を続けるカイルがそれを眺めていた。







 食後カイルに連絡が入り、このまま人間界に帰る事になった。


「いや、色々と押し付けて来ているからなそろそろ戻らないと…」

「今更じゃない?」

「まあ…それは否定はしないが……こんな騒動は早めに終わらせるに限るからな……」

「じゃあ…私達も?」

「いや…まだ時間はある…アーガイルも今夜はあんなだし……予定通りに帰ってくればいいさ」


 帰宅するカイルを全員で見送るために玄関まで出た……ノクターンの館とやらからは獣のような声が聞こえる……

防音の結界をニトロに頼んで分厚くしとこう…


「良いのか?カミュとマトリーシェは……」

「本来はゆっくり過ごさせる予定だったからな……誰かさん達のお陰で騒がしいものになっちまったからな」

「う……悪かったわね」

「だから…みんなと一緒に連れて帰ってきてくれ」

「……カイル……」


 彼の配慮にアイリスは素直に喜んだ。


「勘違いするな…あいつらには帰ってきたら馬車馬のように働いてもらうからな……」


 そう言いながら宙に浮く……浮遊と飛行の二重掛けによる魔法の行使だ。


「……帰る前に…もう一度「暗き森」の遊園地に言ってみるといい……面白いぞ」


 そう言い残してカイルは旅立った。


「…どうする?」

「ん…今回の旅費はルミナスさん持ちだからなあ……」

「……大丈夫……私がお願いする…」

「何だい?暗き森に行くのかい?」


 シオン達の会話にミネルヴァが反応した。


「じゃあ…みんな招待してあげようじゃないのさ」

「え…」

「おばあちゃんはあそこのオーナーなんだよ!」


 彼女の孫娘スタニアスが自慢げに胸を張った。














 目の前に広がるのは白い正門とそれを彩る様々な花達。

その奥には巨大な白亜の城が鎮座しており周囲には様々なアトラクションが点在しており多くの人々で賑わっていた。


「さあさあいらっしゃい!慈愛の魔女マトリーシェの生地!暗き森へようこそ!」

「ここは1000年前に大流行した疫病から魔界の人々を救った大英雄『暗き森の慈愛の魔女様』マトリーシェ様を称えたテーマパークだよ!」

「「「「………え?…………」」」」


 私たちは入り口で固まってしまったのだった。






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