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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
182/240

混沌 8

「ちょっと!カイル!紫音を離しなさいよ!」


 アイリスがカイルに向かい手を伸ばすがそれは素早く躱される。


「ううう!なんで逃げるのよ!」

「……アイリスって実は結構激しい性格なのね…」

「!んんっ…イリュ…ちょっと何を……言っているのか…わからない…」

「今更だろ…今は感情があるんだろ?」


 アイリスはその言葉に動きを止めて拳を握りしめた。


「……ワルプルギスが解放されているから……今は魔力も作れるし…感情もある……こんな形で夢が叶うなんて……」

『…クールなアイリスたんも素敵だったけど今のアイリスたんはもっと素敵ね』

「…へ…変態のくせに変な事言わないで………ありがと……」

『きゃー!聞いたイリュちゃん?ツンデレ属性も完備よ!もうこの子がヒロインでいいんじゃない?』

『ちょっとお前らそんな会話は後にしろよ!』


 楽しいガールズトークもアーガイルの怒声に終了となってしまった……私も感情が表現出来る事に浮かれている様だ……

それよりも問題はカイルだ…いや紫音の方か…

使徒の影響を強く受けてしまったカイルは暴走状態らしい…紫音は魔法により眠らされており彼女を背後から抱き抱える様に暴走カイルがしっかりと抱きしめている……羨ま…紫音にとっては耐え難い苦痛のはずだ…多分そう…きっとそう……できる事なら代わってあげたい…いや…代わりたい。


『…中では対話が行われていると思うが……体の主導権があっちにある以上ここで足止めする必要があるな…』

「…対話?」

『…いや…失言だ…気にするな…』


 アーガイルとミカイルはそれ以上は何も言わなかった……私達にとっては頼もしい存在だが…必要以上に彼等の事は知らない事が多い…今回の事もそう……『対話』出来るって事は…暴走ではなく意思があってこの行動を?…わからない……一体何を隠しているの?


『まずは…紫音を取り戻そう…』

「…じゃあ…私が行こう…」


 イリュがこちらに視線を向けた……彼女の思惑に何となく気づいた私は頷いた。


迷いの濃霧(ラビリントス・ミスト)


 「森の魔女」お能力で生み出された不可視の能力を持つ霧が周囲を覆い尽くし我々の姿を覆い隠した。


小爆発(ショートボム)


 アーガイルの魔法によりカイルの近くの茂みで小さな爆発が起こった。

慌てて身構えるカイルの反対側からイリューシャが殴りかかった。


「貰っ!!!たああ?!」


 信じられない事にカイルは背後からのイリュの拳を受け止めた。

見えていない筈なのに……


「ぐぬぬぬっ!」


 そのままイリュが押し戻され後ろへと弾き飛ばされた。

反撃しようにも紫音を抱えているカイルに対して下手に攻撃できないのだ。

自我を失い本能のままに紫音を襲ったカイルはこの結界から逃走しようとしている……ならば何処に向かう?

アイリスは冷静に今のカイルの行動を分析した。


『逃しては行けない』


きっと大変な事になる……そう直感が告げていた。

先程の紫音の魔眼の事もそうだが……カイルにとって紫音は重要な存在の筈……まずは身の安全を確保したいと考える筈……それはまともに思考できる状態であって今の獣の様な彼では……獣……獣かぁ……


獣の墓場(ビーストセメタリー)


 アイリスの唱えた呪文が光となってカイルに殺到した。

それを易々と回避するとさらに距離を取る為に………

しかし光の呪文が可視化するとカイルの足首へと巻きついた……そして黄金の鎖となって地面に縫い付けた。


「ここからは逃さないわ!」


 彼の前に躍り出たアイリスが自身の足元に次の呪文を叩き付けた。


「『閃光(フラッシュ)』」


 激しい光が周囲を飲み込みカイルはその視界を腕で覆った。


「イリュ!」

「うおりゃっ!竜巻旋風……蹴り!」


 光の中より飛び出したイリューシャが体を捻り回転の力でカイルを蹴り付けた…どこかで見た様な技だが…

カイルは堪らず紫音を放し両手でその蹴りを受け止めた。


「アイリス!」

「!!!」


 その声にカイルは振り向くが『加速』で強化されたアイリスが既に紫音を抱えて離脱していた所だった。


「紫音!紫音!」


 アイリスの呼びかけにも反応は無い…呼吸はしている様だが…魔力的な何かで眠らされているのか?


『キサマ!!』

「あっ!カイル!待てっ!!」


 再びカイルの魔力が膨れ上がった抑え込もうとするイリューシャをカウンターで吹き飛ばすとアイリスに一瞬で追いついた。

その血走った目は理性を残している様には見えない……

目前に迫った覚醒カイルがその腕を振り上げた。

アイリスは防御も受け身も取る事が出来ず死を予感した…遠くで自分の名を呼ぶイリュの声が聞こえた。

やがて来るであろうその衝撃にゆっくりと目を閉じた。


(せめて…紫音だけでも…!!)



 咄嗟に紫音を抱え込み自分を盾としてカイルに背を向けた。

やがて振り上げられた彼の手刀が振り下ろされた。


「………痛くない……?」


 ゆっくりと目を開けると自分の目の前に長い黒髪が揺れていた。

慌てて視線を向けると……


「ヘブラスカ?!」


 自分の前にはカイルの致死の一撃をその身に受けたヘブラスカが居た……まるでアイリスを守るように。


「何故貴女が?」

「……お前には……迷惑をかけたからね……こんな事で罪滅ぼしになるとは思えないが……使徒に良い様に使われた私のわがままだよ……私にはもう何もないからね…差し出せるのは……この体くらいだよ…」


 彼女は一気に捲し立てると苦しげに血を吐いた……どう見ても致命傷だ。


石化(パトリファイ)


 へブラスカの唱えた呪文により彼女の体が腹部の傷を中心に徐々に石へと変化を始めた。

同時にその身体を貫くカイルの腕もそれを覆う魔装も白く石へと変わりつつあった。


「!!」

 

 覚醒カイルは石化を止めるために自ら魔装を破壊した。


「…くはっ……お膳立てはここまでだよ……早くやっておしまい」


 その言葉にイリューシャが行動起こした……

今なら直接カイルに触れることができる千載一遇のチャンス!

 しかし、それよりも早く覚醒カイルの腕がへブラスカに向け振り下ろされた……背後のアイリスが自分に手を伸ばすが間に合わないだろう……石化の進む彼女の体は一溜まりも無いだろう。



 (……自分のしてきた事を考えれば、この結末こそが相応しい……自分らしい哀れな最後だ)


 後悔は無い……といえば嘘になるだろう……今思えばあの優しい姉が私に復讐を促すなどあり得ない……

使徒に騙された……いや…私自身の復讐心を使徒の言葉を利用して成し遂げただけだ。

今なら理解できる………家族の復讐の為に多くの罪の無い者達の血が流されてしまった……

そんな大罪人である自分がアイリスを庇って退場するなど…偽善にも程がある……それでもこれは自分ありのけじめでもあった。

やがて訪れる終わりの瞬間に、ヘブラスカは目を閉じた……激しい轟音が響き渡り………


『そう悲観することもありませんよ』


その懐かしい声にヘブラスカは閉じていた目を開いた


「レイ…」

『言っただろ……俺は最後までヘラの味方だって』


 淡い光を放つレイヴンが突き出された覚醒カイルの腕を掴み取っていた。











『!!』

「意識が保てている様だな?」

『これは……』


 レイヴンは自身の体を見る……淡い輝きを放つその体は透き通り……自分の目の前には血溜まりに沈む自分の体があった……死の瞬間に体から離れる霊体としてこの世界に固定されている状態だった。


「自分の大切なものを守りたいなら自分の力で守るが良い……チャンスは一度だけだからな」

『……余計な事を……だが感謝する』


 レイヴンの魂は光となって飛び立った……愛おしい女の元に。

そしてヘブラスカの死の瞬間にレイヴンは最後の生命の炎を燃やし彼女の窮地を救ったのだった。


「私には何もないと思っていたのに………レイ…」

『言っただろどこまでも一緒だって……ヘラ』


 力なく手を伸ばすヘブラスカの指にレイヴンの手が重なった。

瞬間、二人から周囲を埋め尽くすほどの閃光が包み込み覚醒カイルの体を覆う魔装を弾き飛ばした。


眩い光に包まれる中 アイリスの手がヘブラスカに触れた。














『すまなかったな……』

「…そんな言葉今更よ……」

『……そうだな……』


 アイリスのチャットルーム『若草の庭』にて三人はテーブルに座りお茶会の様に向かい合って座っていた。

優雅にカップを口に運ぶヘブラスカをアイリスとマトリーシェが見つめていた。

その体は陽炎のような黒い靄が立ち上り徐々に薄くなっていた。


(消滅が始まっている)


 アイリスはそう直感した。

魔力も尽き、その体も致命傷を負った彼女は今、その存在の力をも消費してここにいるのだった。

さて……そう言ったヘブラスカはカップを置くと真剣な眼差しでアイリスを見据えた。


『アイリス……お前に伝えて置かなければならない事がある』
















『んぎぎぎっ!ちょこまかとっ!』

『ははは流石だな!姫!』


 紫音は背後に銀カイルを置いて周囲に結界を張るとその両手から魔力弾を連続で放ち、金カイルを牽制していた。

本人は当てる気満々なのだが……流石に当たらなかった。


『紫音そんなペースじゃ……』

『わかってるわよ!大丈夫!イリュとアイリスが何とかしてくれるから!』

『…どこからその自信が来るんだよ……でも……そうだな…』

『そうよ!だからそこで大人しく護られていなさい!』


 確証もない自信に溢れた彼女の姿はカイルにとって眩しく映った。

『隠れ姫』という伝説級の魔眼を持つために過酷な幼少期を送りその後も順風満帆とは言い難い生活を送った事は容易に想像がついた……それでも根底が真っ直ぐと成長した事は彼女自身の強さと家族のおかげなのかもしれない……


『紫音…私の負けだ…お前達を解放してやろう……その代わり君の魔眼を貰えないかな?』

『……交換条件…って事かしら?』

『駄目だ!…紫音…奴の言葉に耳を貸すな』


 紫音は攻撃の手を休めて金カイルの言葉に耳を傾けた。

カイルが制止の声を上げるがそれを手で制した。


『私の目的はお前達では無いからな…今この争いも無駄な争いだ……私は目的の為に君の魔眼が欲しい……君達は無事に外の世界に戻れる……お互いに良い取り引きだと思うがね?』

『……本当に?誓える?』

『ああ…我が神に誓って……この『カイル:アルヴァレル』を信じてくれ』

『!!……そう…いいわ』

『紫音様!危険です!』

『紫音!』

 

カイルもニトロも反対の声を上げるが……今の状態で全員無事にここから脱出できるとでも?


『では…私の手を取ってくれ』


 目の前に金カイルの右手が差し出された。

紫音はそれを握り返す為に右手を差し出しー


『紫音!』


ーたフリをして左手を突き出した。


『!!』

超魔導砲(メガロブラスト)


 魔力の奔流が金カイルを直撃し、吹き飛ばした。


『紫音……お前……』

『貴方がいったんじゃない……『カイル:アルヴァレル』を信じるなって』

『……ほんとに君は……』


 カイルがゆっくりと立ち上がった……心なしかその表情は穏やかだった。


『な…何よ』

『そんな君だから……」』

『えっ?何?何か言った?』

『ありがとう…もう大丈夫みたいだ』


 激しい閃光が周囲に走ったかと思うと金カイルのそばにアーガイルとミカイルが居た。


『!!貴様達っ!』

『主…やりすぎですよ』

『やっぱり…使徒まで飲み込んでる…吐き出しなさいっ!!』

『うがぁぁぁぁぁあっ!!』


 二人が金カイルの両手を掴むと金カイルの体に電流のような物が迸りたまらず叫び声を上げた……その声は二重に聞こえており高音や低音の入り混じる歪な合唱を奏でた。

やがてその体から黒い瘴気が立ち登り始めた。


銀カイルは歩いて金カイルの前に来るとその頭に手を乗せた。


『焦らなくて良いから…もう少し眠っててくれ…』

『ぐぅぅ……急げよ…!』


 二人が重なるのと同時にカイルの体から黒い瘴気が完全に弾き出された。



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