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魔眼の使徒  作者: vata
第一章 始まりの詩
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ヤミノフルヨル7

 

 気が付くとドアの前に立っていた。

何処かで見覚えのあるドアだったが……気のせいかもしれない。


(入りなさい)


 そんな声が聞こえた気がした。

 ゆっくりとドアノブを回し中に入った。

中は円筒形の部屋になっており、中央にはドーナツ型の円卓があり、さらに中央に巨大な水晶が鎮座しており、外の様子を写し出していた。

 そこにはイリューシャと対峙する私の姿が写っていた。

 先程の戦闘でも感じられたが魔眼の発動と同時に私の意識は分割されるらしい……

(思考分割)と(思考加速)の二つが自動的に発動するらしい。

本格的に使用したのは随分と久しぶりだったので過去もそうだったかは定かではない。

戦っている私に対して指示みたいなものが出されていたのがうろ覚えに思い出された…

その正体がこの思考分割の様だ。


(そう…ここは思考分割により作り出された脳内世界…私たちは分割された貴女自身)


 水晶の奥に二人の人物が円卓に着席していた。

一人は髪の毛も服も全てが白に統一された『私』

 もう一人は同じく全てが黒に統一された『私』


(座れ)


 先程違い、やや高圧的な口調……黒の方だな。

 取敢えず言われた様に座る。


(私は貴女の中にある保守的な思考から生み出された紫音)

(俺は攻撃的な思考から生み出された紫音)

「はあ……」


 つまりこの謎の魔眼のオプションとして発動したら思考が分割され 相談役が二人用意される……と


(……やけに軽い例えだが……まちがっちゃいない)

 黒紫音が呆れた様な顔をする。


 あれ?喋ってないのに答えてくれた…


(私達は貴女の思考の一部ですから…考えていることは共有されています。)


 成程……それで……今から何をするの?


(…作戦立てるに決まってるだろ)

(無策ではイリューシャを三分間抑えられませんよ?)


 うむむ……確かに。


(マジで無策なのかよ?……)

(その為のこの『チャットルーム』ではありませんか)


  ……なんか楽しそうだね。


(さぁ早速ですが本題に入りましょう…基本知識を転送します。)


 白紫音が目を閉じると脳内に情報が流れ込んでくる。


『チャットルーム使用規約』

 ‐ルーム内の時間はほぼ停止状態に近い。

 ‐三人の考えは共有される 秘匿権はオリジナルの紫音のみが保有

 ‐論議により決定された件はオリジナルの紫音の行動に反映される。

 ‐時間の流れは変更可能 巻き戻す事は出来ない。(決定された行動はほぼ取り消し不可)

 ‐魔眼発動時以外でもオリジナルの紫音が望めばチャットルームに入室可能。等々……



 ふむふむ…


(では、イリューシャとの対戦については…)

(まず正面からは無理だな…動きを止める方法から考えるか?)

(黒紫音の意見には賛成です。紫音は何か考えが?)

「…うーん呪文が勝手に足止めしてくれるのは無いかな?」

(……影の捕縛者シャドーバンダラなどはそれなりに有効かと?)

(まてまて!白紫音!その呪文は上級呪文だ。成功率に不安がある。)

(ふむ確かに…黒紫音の言う通りでした。成功率は28%ですね)

「………」

(うーん…まずは高速詠唱で力量差を詰めよう)

(黒紫音!それは良い考えですね)

(身体加速と身体強化も欲しい所だな。白紫音、熟練度の差をどうにか出来ないかな?)

(…そうですね…限定属性強化はいかがでしょう?)

(なるほど…リスクはあるが水系列限定にすればそのリスクもあって無いような物だな……どうした?紫音?)

「いや…白紫音とか黒紫音とかわかりにくいから…シロンとクロンとかどお?」

(………)

(………)

「……あれ?もしかして嫌だった?」

(……紫音……今はそれ所ではないでしょう?イリューシャを救うために有効な手段を選ばなくては……)

(そうだぜ!シロンの言う通りだ! くだらないこと言ってないでお前も考えろよ! )

(話を戻しましょう。クロンの言うようにまずは自身の強化を……)



 少し嬉しくなった。いくら私自身の思考とは言えなんだか友達と話をしている錯覚にとらわれた。

 クロン辺りは『べっ…別に気に入ったりしたりしてないんだからなっ!』とか言ってくれると萌えるかもしれないけど……


(あるあ……ねーよ!私はツンデレじゃないしっ!)

「しまった!思考を共有してたんだった!」

(別に私は気に入っていますよ?)

「…この思考に関してはもう触れなくて良いです。」


 この後は真面目に議論して水蒸気爆発を起こさせる方向で話をまとめた。


 やがて時は動きだし、私とイリュの戦いが始まった。

中央の水晶に写し出される自分の姿はまるで映画か何かを見ているみたいで……

でも目を閉じて意識すれば戦っている自分の意識も感じられる。


 巨大な爆発をみるとシロンとクロンが立ち上がった。


(私達の勝ちね…三分経過したからね…それでは紫音…またの機会に)

(じゃあな…べっ…別にこの名前を気に入ったりしてないからなっ!)


 クロンが意味ありげな笑みを浮かべてそう言った。……少し萌えた 。


 私は立ち上がり入ってきたドアから退室する

。ゆっくり目を閉じて……意識が一つに統合される。


 ゆっくり目をあける。身体中が悲鳴を上げているように軋む

目の前には天空から降り注ぐ光の柱に閉じ込められたイリューシャがいた。

これなんだっけ?


聖天使セラフィム光牢獄コキューションだ」


 セラフィムコキューション……天界人が魔界人との戦いの為に生み出された

 上級捕縛結界…魔族の体内の魔素に作用してその動きを封じる……だったかな?

 背後から聞こえた声に少し体を起こした。

あの男が私の側にいた。……左手の傷を癒してくれているらしい。


「応急処置だ…あまりこちらに魔力をまわせないから気休めにしかならないが……」


 「癒し(ヒール)のライト」……どちらも光属性魔術だ…… その癒しの効果が心地よくてこのまま眠ってしまいそうになる。自分の手も酷い有り様なのに……彼がイリューシャの言う『彼』だろうか?


「……オノレ……マタキサマニシテヤラレルトハ……」


 イリューシャが呟く……でもその声は別人もモノだ。

地面に横たわったままイリュを見た先程の様な殺気は感じられない。


「……コンナコムスメニシテヤラレルトハ……オマエハコノムスメニトッテモ、トクベツナソンザイラシイ……」

「……お願い…イリュを返して!」


 軋む体に鞭打って体を起こした。


「……コレイジョウ、コノカラダニキズヲツケラレテハカナワンカラナ……キョウハソノムスメニメンジテテヲヒコウ……シカシ、ツギハナイゾ」


 そう言い残すとイリュはがくりと項垂れた。

からだを取り巻いていた炎も消え去りいつも通りのイリュに戻っていた。


「………大丈夫だ」

 

 直ぐに駆け寄った彼がイリューシャの容態を見てそう言った。


「よかった………」


 その言葉を聞いて紫音は意識を手放した。





 イリューシャが気絶したことにより、いまや瓦礫と化した模倣空間の効果が切れ、光の粒子となって消えてゆく……

と、同時にこの一帯を隔離していた結界を解除する。

折り畳まれて行くように結界が収縮され、やがて 地面に吸い込まれる様に消え去った。

結界は現実世界にはダメージを残す事無く その役割を十分に果たした。

 視線に気付いて振り替える。

建物の陰から顔を覗かせているのは 紫音が救ったあの 妖魔の子供であった。

本来ならば存在を許す訳には行かないのだが……暫く考えた後背を向けた。

暫く様子を見てみようと思った。

あの妖魔の中に僅かだが変化を感じとれたからだ。


「……さてと」


 横たわる紫音を脇に抱え、イリューシャは肩に担いだ。


「…まるで人さらいじゃないか」


 ビルのガラスに映る自身の姿を見て、そう言わずにはいられなかった。

どちらにしろ 人よけの効果も切れる頃だ……こんな姿を見られたら本当に通報されかねない。

 

 ゆびさきで印を空中に描くと 自動ドアの様に空間が割れ その中に姿を消した。

それを見つめていた妖魔だけが後に残された。



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