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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
177/240

混沌 3


「はははっ貴様の娘は実に滑稽な道化を演じてくれたぞ!」

「貴様!」

『落ち着いて!ルシリア!挑発に乗らないで!』


 黒と白の閃光がぶつかり、ワルプルギスとルシプルギスの戦いは苛烈を極めた。






「何が起きてるの?…」

「見えねぇ……」


 ほぼ一般人と変わり無い紫音と伊織には白と黒の光が空間を走り廻り時折散らす火花の軌跡しか見えていない。

戦いの余波で都市部に爆発が起こる度にどれだけの犠牲が出ているのか考えるのが恐ろしい…


 背後では地面に転がったアーガイルが苦悶の表情を浮かべ唸り声をあげている……

それを心配そうに見守るイリューシャもどうして良いのかわからない様だが…死にそうに無いのが取り柄のアーガイルなので取り敢えず紫音は放置する方向で決め込んだ。


「お母様は少し頭に血が上りすぎですね」

『そうね〜まぁあんなに煽られたら仕方無いかな?』

「だからなんでそんなに見えるんだよ…」


ルミナスとミカイルには動きどころか会話すら聞こえているようだ。


『紫音様も再び『偽りの魔眼』を使用すれば見えますよ?』


脳内で私の中の賢者がそんなことを言った



「あれは使い切りじゃなかったの?」

『ある程度魔力を供給すれば再び使用可能ですよ?いざとなれば私もおりますし…』

「いや……今はいいかな…私に何かができるとは思えないし」

『またまた…ご謙遜を……』


 あんな戦いに参加したところで、瞬殺されるのがオチである


「どうした?急に黙り込んで?」


思考に沈む私を見て、隣の伊織が声をかけてきた


「え?ああ…なんか私の中のね…」


私の中に存在する派遣されて来た賢者についての状況を説明した。


「ずるい!ずるいわ!紫音!私にも賢者様派遣してよ!先っぽだけでも良いからぁ〜!!」


 その結果、ルミナスさんが思いっきり拗ねた…

先っぽってなんだよ…


「紫音…その…性的に危険かもしれないから私が引き取ろうか?」

「………大丈夫だそうよ…」


いつの間にか私の背後でイリューシャが息を荒くしていた……

貴女の方が性的に危険な感じなんだけど…


「その……派遣賢者って…高いのか?割引とかあるのだろうか……」


 伊織さん…私が契約したのでは無いので分かりかねます。

契約しても碌な対価を要求しないと思うから辞めた方がいいと思います。


『でも…それってまだ紫音ちゃんが戦えるって事よね?』

「いや…もうさっきみたいなのはちょっと…」

「ふむ…まぁ…これ以上は無いとは…思いたいが…今の状況ではなんとも言えないな…最悪の展開も頭には入れておこう…」

「…しかし私達に何が出来るのか?」


 ルミナスが急に真面目なコメントをしたので伊織が驚いていたがその意見には賛成の様だった…が、ある意味では初対面とも言える程度の接点しか無い三人には妙案は浮かばなかった。


『…ふむ…では私から一つ提案を……』


紫音は派遣賢者の提案を皆に伝えた。
















 ワルプルギスとルシプルギスは空中で絡まる様にぶつかり合うとそのまま学園都市の校舎に目掛けて激突した。

凄まじい爆発と共に校舎が崩れ落ちてゆく……


「まだ避難が完了しないはずなのに…」


二人の戦いを眺めながら自分の知る日常の風景がこうも簡単に壊される事に胸騒ぎを感じた。


(律子たちは大丈夫だろうか?)


「どうだ?見えるか?」

「んん…遠いし早いし…なんだか色が重なっているような…居ないような…」

「速さについては次期に慣れる………アレかしら…胸の所の…」

「!!見えた!アレだな!胸の所の光っている奴だな!」


ルミナスの言葉に伊織が目を凝らす…そして納得したようにこちらを向いた。


「しかし…あのスピードに合わせるのは少々難しいぞ……」

「それは…そうね……どうにか動きを止められたら良いのだけど」


 伊織とルミナスの肩に紫音が手を置いてその結界破りの能力を共有していた…体に触れる事で能力の共有が行うことが出来た……

二人が目を凝らせばワルプルギスの胸の辺りに薄っすらと輝く光点が見えた。


「へーこれはなかなか便利な能力じゃん」


イリューシャは私を後ろから抱き抱える様にして肩に頭を乗せている……

背中が幸せです………


『幸せね』

『ふむ…いいものですね』


 私の中に存在するミカイルと派遣賢者が同意した。


「伊織がアレをやれば良いじゃん…ホラ…さっきモネリスを斬ったみたいに…」

「あの時とは状況が違いすぎる!…いや…出来なくも無い?のか?」


 あの時,モネリスの体の中に蠢く黒い闇の様な存在を感じ,それを斬ったが……

今回のは存在自体が闇のような存在だ……その中心にあるのは唯一の光……

あの光を斬らずに斬る……いや光を斬る?切ったら不味いのか?自分で言っていて混乱してきた。


「深く考えるな…恐らくお前は聖属性寄りだ、その力を刃に乗せれば悪しき存在だけを斬る事が出来るだろう」

「えっ?あっ…ハイ……」


 急に真面目な事を言うルミナスに伊織は借りてきた猫の様に大人しく従った……先程から色々と会話を交わしたが、よくよく考えると特に親しい間柄でもなくましてや「知人の友達の姉」などと言う曖昧な間柄だった為、距離感が掴めずにいる。

だが、その眼差しは悪い人物では無いと思えた。


(変な事さえ言わなければ凄い美人なのにな……)

















「これはヘブラスカ…と言うか使徒の残留思念?」

『ぴっ!』


 アイリスとオルタに纏わり付く黒い瘴気の様な存在は怨みや怨念といった類の「悪意」の集合体だった。

 カイルの隣に浮かんでいたテルピーが彼の周囲を慌てた様に飛び回った。

 中に囚われた二人はかろうじて障壁を発動させて身を守っているが……このままでは…

こちらとしても二人を人質に取られた様な状態だ…

その間も黒い瘴気が二人を拘束しようとその手を伸ばしていた。











「うっ…」


 横を見ればアイリスが苦悶の表情を浮かべていた……

そんなに強い攻撃でも無いのだが……


「そうか…属性反発…!」


 この残留思念は闇属性である……当然その攻撃も闇属性となる。

今のアイリスとオルタは光と闇… はっきりと別れてしまっているのだ。

 特に光属性に当たるアイリスにはこの波動は辛いものだろう…しかし方法が無い訳ではない…再び融合すれば良いのだ。

だが、今更一人の人物として融合できるのだろうか?

今の私達の考え方……性格、思考、感情は大きく違っている

転生を繰り返した事による弊害として長い時間、個人として過ごした為に別人格とも呼べる程の差を生み出していたのだった。

すでに個人としての魂が確立されているかの様にも感じられた。


(私がどれだけ手を血に染めてきたと言うのだ……)


 私にとっては純真無垢な存在のアイリスは、眩し過ぎて私の存在は受け入れられないと思う。

ならば、やる事は一つだけ。


 オルタは障壁を解除してその闇の波動に身を躍らせるとアイリスの盾となってその前に立ちはだかった。


「オルタ!何を!」

「良いんだ…アイリス…私はお前を守りたい一心で使徒の手を取ってしまった…ならば、このまま使徒と共に消え去るのが一番だ」


 私に集まるヘブラスカの怨念を目の前に集める……やがて、それは過去に何度も見た影の女の形となった


「やめて!オルタ!」

「アイリス!実態を持たないこいつを消滅させるにはこれしかないんだ…確実に私ごと仕留めろ!」


 再びこの存在を体内に取り込めば、私は使徒となるだろう…… 

その場合は確実に実体を得る為,確実に殺す事が出来る。

使徒とは一体何なのだろうか?私は使徒と長い付き合いの中,そんな事を幾度と無く考えた………

結果から言えば、使徒とは思念体なのだ。

目的を持った大いなる意思に追従する思念の集合体……それが使徒なのだ。

 奴らは、現実世界における適合者を見つけると、啓示や神託といった形をとって接触を図り、その身を乗っ取り受肉する。

そうする事で、この世界への干渉が可能となるのだ。

同時に、肉体を得た事で、生命の概念が生まれてしまう………つまり『死』を内包してしまうのだ。

そうまでして、この世において成す事があるのだろうか?


「長い付き合いだ……最後ぐらいは一緒に逝ってやるよ」

『が、…ガイ…カイル…』

「!?使徒が意思を?」


 先程まで虚な存在でしかなかった使徒が明確な意思を持ってオルタに向かってその手を伸ばした。


「オルタ!」

「早いっ!」


 アイリスがオルタに向かって手を伸ばすが……届かない……自身の抵抗で手一杯のため魔法を構築する時間も無い…

オルタは咄嗟に防御姿勢を取るが予想を超えた速度に無駄だと理解できた……二人は最悪の結末を予測した。



『アレは……アレ…だけは!!ぎゃっ!!』


ー 瞬間、周囲に眩い光が弾け飛び使徒が悲鳴をあげて崩壊を始めた。


 周囲に漂うのは聖属性の魔法の残滓……使徒と衝突……相殺した様だ。

その余波を受けてオルタはその場に座り込む。


「オルタ!」


 闇の脅威が消え去ったアイリスはすぐにオルタの元に駆け寄りその身の無事を確認した。

そんな二人の前に小さな光が力なく、ゆっくりと舞い落ちてきた。

オルタは無意識に両手を広げそこに小さな光を受け止めた。


「…… テル……ピー……」

「ああ!…まさか……テルピー!」


 光の精霊とも呼べる存在のテルピーが特攻の様なやり方でその身を持って使徒と衝突したのだ……

使徒にとっては一溜まりも無い事だがそれはテルピーにとっても同じ事だった。


『ああ…き…さま………その姿……で……』


 残された使徒の残滓が再び二人に向かい手を伸ばすが………


「もう消えろよ…『破邪の聖櫃(アッシュ・アーク)』」

『!!』


 カイルが手を振るうと使徒は光の結界に閉じ込められた後、空間ごと消滅した。

使徒の存在の消滅を確認したカイルは後ろの三人の様子見守った。



「テルピー?なんで…私を……」

「オルタを…助けるために…残りの存在の力を使ったんだ」


 アイリスがオルタの手の中の光に触れるとその姿は一人の女性となった……重さはない…存在が消えかけているのだ。

 その姿は以前アイリスと共に見た生後の記憶の中にあった。


「……お母さん……」

「……母…さん?」


 アイリスの声にオルタが困惑の表情を浮かべた……


「やっぱり…お母さんだったんだね……今までずっと傍に居てくれたんだね……私が何度繰り返しても……ずっと見ていてくれたんだね」


『私の可愛い娘……いつまでも一緒よ……』


 転生のたびにいつも聞こえていた声……アレは母の声だったのか……


「なんで……私を……私はアイリスじゃ無いのに…」


 困惑するオルタに気がついたテルピー……ティルシアは微笑みその頬を優しく撫でた。


「何を言ってるのオルタ!貴女も(アイリス)だからに決まっているじゃない!」


 アイリスの言葉にオルタの瞳から涙が溢れた。

こんな私を…まだ受け入れてくれると言うのか……こんな私を娘だと言ってくれるのか…私が守ると言いながらこんなにも守られていたのか!

ティルシアの視線はアイリスに向いた……それに気づいたアイリスは笑顔で頷いた。


「大丈夫よお母さん…大事な物はもう一杯貰っているから……オルタも居るしね」

「……アイリスぅ…うぅっ…」


 そんな二人を見てティルシアは満足そうに微笑みを浮かべた。

本来消えゆく魂の力を無理やり現世に縛り付け娘の行き先を見届ける為に存在していたティルシアにもやがて限界がやって来た。


『アイリス…私の可愛い娘達…貴女の未来が光溢れる事を願うわ……幸せにね』

「「お母さん」」


 ティルシアが眩い光を放ちあたりは閃光に包まれた。

三人を光が飲み込みその眩しさにカイルは手で視界を遮った。










 真っ白い空間の中でアイリスとオルタは向かい合っていた…


「アイリス…御免なさい」


 オルタがその頭を下げた。


「私を心配してくれての事だから…って理解はしているけど……やりすぎよね?」

「うっ…本当に御免なさい」

「…いいわ……」

「こんなこと誤って許して……え?」

「許すも何も……貴女も『アイリス』じゃない」

「…でも…私は……」

「ああっ!もう!」


 アイリスは身を乗り出しオルタの両頬を摘み上げた。


「いひゃい!いひゃい!

「済んだことはもういいの!これからが大変なんだから!悪いと思ってるのならちゃんと協力してよね!」


 解放されたオルタはその場に座り込み涙目で両頬をさすりながら困惑の表情を向けた。


「……何よ?その目は…まさかお母さんと一緒に消えて無くなろうとか思ってるわけ?そんなの許される訳無いじゃ無い!」

「そ…そうよね…罪滅し…」

「は?何言ってるの?私はね貴女の『生き返り』は見て来たけど私はこの人生が初めてなんだからね!余計な知識がありすぎて不安でしょうがないんだから…!!カイルだって仲間を増やす為とは言え周りは女性ばっかりになっちゃたし!出遅れてるんだからね!私達は!オルタも私なんだから少しは協力してよね!」


 そう言ってアイリスは後ろを向いた……その後ろ姿はまだまだ小さく見えた……耳が真っ赤だ…彼女なりに勇気を出して私に気を遣ってくれたのかもしれない……ならば…その彼女の気持ちに応えたいと思った。


 オルタは立ち上がるとアイリスを背後からそっと抱きしめた。

彼女の温もりが…懐かしい……


「ありがとう…アイリス……私に何処まで出来るかわからないが…少しでも役に立てるなら……」

「…役に立つに決まってるでしょ!」

「…ありがとう」













やがて光が収まり静寂が訪れた。

カイルが視線を戻すとそこには一人の少女……アイリスが居た。


「アイリス」

「……カイル…ありがとう……」


 振り返った彼女は涙を流していた。

見た目はどこも変わりなく、ただ彼女の美しい蒼白金色の髪の一部に黒い一房が混じっていた…まるでオルタという存在が居た証を刻むように。

 その内包する魔力も以前の彼女からは信じられない程の魔力量へと変化していた。

オルタとイリスが正しくアイリスと一つになった事を告げていた。


「もういいのか?」

「ええ…ありがとう…」


 彼の隣に立った彼女がその手を絡ませて来た……


「それで…これからどうするの?」

「…そろそろお迎えが来る頃だろ……ほらね」


 二人の周囲の景色に衝撃が走り、ガラスが割れるように亀裂が走った。

その亀裂は次第に大きくなりやがて硝子が割れる様に世界が崩壊した。


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