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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
175/240

混沌


「カイルを返せっ!」


 最初に動いたのはイリューシャだった。

叫びと共に神速の踏み込みでワルプルギスの懐に潜り込んだ。


「アイリス!」

「ふふっ早い者勝ちよ!」


 イリューシャの剣をワルプルギスの纏う影が刃となって防いだ。

更にイリューシャの繰り出す斬撃をも防ぎ、そのまま二人は戦闘へと突入する。


「私達も行くよっ!」

(ちょっと…あんなの私達じゃ…)


ミカイルは紫音の言葉も聞かずに二人の後を追いかけてその背後からワルプルギスに拳を打ちつけた。

しかし以前よりも魔力障壁が強化されており、逆に弾き返される始末だ。


「くそっ!なんだこの出鱈目な障壁はっ!」

(魔女三人分の魔力だものね……)


 ワルプルギスを解析する紫音の目には三色の魔力が混じり合うワルプルギスの姿が見えていた…その身に取り込んだアイリス、マトリーシェ、ヘブラスカの魔力が混ざり合い,濃厚な魔力を彼女に与えていた。


「魔力では勝ち目が無いな…」


 寧ろイリューシャが互角の戦いをしている為、ミカイルは足手まといであった。

どうしたものかと思案する彼女の視線の隅に伊織とルシリアの姿が入った。

二人の足元には横たわるアーガイルの姿があった。

自分に出来る事はないと判断したミカイルはアーガイルの下へと駆け付けた。


「どうした?…これは……」


 異変を感じたミカイルは二人に声をかけ、そのアーガイルの異常性に気が付いた。

アーガイルは何かに耐える様に地面に激しく爪を立て苦しんでいた。


「先程からこの状態で……」

「おい…大丈夫なのかよ…」


困惑する二人と共にミカイルは驚愕した。


「なんだこの魔力の減り方は?!…おいっ!アーガイル!」

「…あぁ…ミカイルか…早く…カイルを…」


 今まで見た事が無いほどの憔悴したアーガイルの姿にミカイルは動揺を隠せないでいた。


(……なんなのこれ?)


 紫音は目の前のアーガイルの鑑定結果に目を疑った。

身体能力を表す数値はほぼ文字化けしており読み解く事は出来ない……スキルも同様だ。

唯一読み取れるのは『アーガイル』という名前と 追記の部分に『女好き』とだけ書いてる事だった。


『いらない情報ですね』


 派遣賢者は吐き捨てるように言った……仲悪いのかな……?

しかし能力を表す数値も同様に文字化けしているが桁数だけは把握出来た………

魔力を示す数値は十二桁以上ある……

自分は三桁、イリューシャですら四桁だ、それが十二……それが凄まじい勢いで減少していた。


「桁の数からしておかしく無い?」

『ふむ…カイル様の使用された結界魔法の代償を支払われている様ですね…これは恐ろしい…』


派遣賢者がそれを見てそう呟いた。


「結界?」

『ええ…レイヴンとかいう騎士と戦った後に使用されましたが……それよりも問題は予想よりも消費が激しい事ですね…このままでは封印の維持に支障をきたしますね』

「封印?…何の?」

『……すみません今の私にはお答え出来る発言権がありません』


 賢者さんは「しまった!」みたいな顔をして視線を逸らした……


「ええと…賢者さん?それでこれはどうすれば……」

『No.2106番です紫音様…この場合は一刻も早くカイル様をあの体に戻すのが先決ですね』

「でも……どうやって…」


 カイルはあのワルプルギスの中にいるのだ…助け出す事ができるだろうか?……

何か手掛かりが………?…あれはなんだろう?


「あの胸の所……あの光に関係あるのかな?」

『光……紫音様は見えるのですか?』

「え?見えないの?」

『私には何も……結界破りの効果でしょうか?…失礼します』


賢者が私の手をそっと握った。


「!!」


シロン…そんなに睨まないで…


『これは…成程…素晴らしいお力ですね紫音様…あの光よりカイル様の魔力の片鱗を感じますね』

「じゃあ!」

『しかし…ワルプルギスの魔力に覆われて身動きできない状態の様ですね…』

「ちょっと!紫音!何手を繋いでるのよっ!ズルい!」

「いや…これは賢者さんが勝手に…」

「私にも賢者様成分を頂戴!」


シロンが私に抱きついて来た…


「賢者様に抱き付けばいいじゃ無いの…」

「…だって…恥ずかしいんだもの…」


なんだこの可愛い生き物は……乙女か!!

そしてこれも私の思考の一部だと気が付いて顔が熱くなるのを感じた。


『成程…これは良いですね…』


賢者様がシロンの手を取った。

え?こいつ百合信者?


「ふわっ!賢者様が私の手を……もうこれは求婚では?」

「ちょっと黙ってろよシロン…何が良いんだ?賢者さんよ」


クロンの問いかけに思案顔の賢者が顔を上げた。


『確率は低いですが……カイル様を救い出してみませんか?』


私達は賢者からその方法を聞く……


「……あの戦いの場に…辿り着けるのかな…?」

『それなら今の状態は最適かもしれませんね』

「そうね……適任者に任せますか…」


(ねぇミカイルさん)

「なぁに?紫音ちゃん」

(アイリスを抱き締めたいって思いません?)


 




「イリューシャいい加減諦めなさい…今なら貴女も悪いようにはしないわよ?」

「うるさい!お前こそさっさと目を覚ませ!」


イリューシャの剣がワルプルギスに迫るが、その足元から伸びた影が剣のようにそれら全てを防いでしまう。


「くそっ…厄介だな!」

『相棒!仕掛けるか?』

「そうだな…一度あの魔力をどうにかしないと…」


 イリューシャは距離をとって構え直す。

アグシャナに魔力を通わせるとその刀身が赤く輝いた。


「私の必殺技……」


 一瞬の溜めの後、その刀身が輝きを放ちながらワルプルギス目掛けて矢のように飛び出した。


「!!」


流石のワルプルギスも想定外の攻撃に全ての影を集中させて防いだ。


「まさかこんな荒技を……?!」


 防いだと油断したワルプルギスが見たのは更に構えるイリューシャだった。


「必殺技パート2!!」


今度はイリューシャがアグシャナに引き寄せられる様に飛び出しその手にある柄の部分と刀身が再び合体した……その衝撃でワルプルギスの障壁を突き破った。


「なにぃっ?!」

『くらえっ!バースト!』


 アグシャナの刀身が光を放ち爆裂の魔法を放った。

至近距離からの攻撃にワルプルギスも魔力、防壁を失い、後方へと吹き飛ばされた。


「くっ…まさかそんな出鱈目な技を使うとは……」


 ワルプルギスがフラフラと立ち上がった…決定的とは言えないが、それなりのダメージを与えられたようだ。

しかし、同時にイリューシャに対してカウンター的に攻撃を行い同様にイリューシャも後方へと干き飛ばされた。


「あのタイミングで……くそっ」


イリューシャのダメージも無視できないものであった


「今のうちに回復を……?!」

「あいりすたーん!!」


 突然後ろから柔らかいものがまとわりついて来た……

振り返ればミカイルが抱きついていた。


「はぁはぁ…アイリスたんのにおい!」

「なんだ!これはっ!はなせっ!」


 背後からミカイルに抱きしめられたワルプルギスは慌てた。


(魔力障壁がある為私に対する攻撃は不可能な筈……攻撃?これは攻撃なのか?)

『いや…これは仕方ないわね…これで冷静な方がおかしいわ』


 彼女の困惑を的確に紫音が代弁した。

 ワルプルギスの展開する魔法障壁は敵意ある存在からは身を守るものだ…イリューシャの攻撃でその防御が低下していたとはいえここまで接近を許す事はないはずだ……それもそのはず、今のミカイルに敵意はない。

あるのは友愛と劣情だけだ。


『それを私の身体で行なっているのが…受け入れ難いわ』


「はぁはぁ…なんて柔らかいの?とても良い匂いだし!」

「やめろ!貴様!なんのつもりだ!!離っ…どこを触っているっ!!」


突然目の前で繰り広げられる友人の痴態にイリューシャは目が点になっていた…


「いい加減にしろぉ!!」


 ワルプルギスの声と共にミカイルは魔力の波動により弾き飛ばされた…

その衝撃で憑依形態が解除された…


「ミカイルさんっ?!」


 気がつけば再び紫音の肩に魔導魔眼として存在していたがその目は閉じつつあった…


「ミカイルさん!」

『…紫音…ちゃん…最高だった……』


紫音の脳裏に盛大に親指を立てながら鼻血を噴いて倒れるミカイルの姿が浮かんだ……

これ大丈夫なやつですね、お疲れ様でした、おやすみなさい。

表情の消えた紫音は体についた埃をはらい立ち上がった。

そこにイリューシャが駆け寄った。


「紫音…その姿……」

「え?どこか破れてる?」


 そうだこの姿はミカイル専用の痴女スタイルだった……慌ててスカートの端を抑えた……「神器」と言っていただけはある…破れるどころか汚れすら見当たらなかった。


「いやそうじゃなくて……」


 と駆けつけたイリューシャが剣を横にして私の姿を刀身に映した。

その鏡のように磨かれた刀身に私の姿が映り込んだ……見れば私の髪が左右の長い前髪だけがそのままで後は根本から真っ白になっていた。


「えっ?老化?!」

『魔力の過剰摂取ですよ…ミカイル様やりすぎです』


どうやらワルプルギスの魔力を吸い取ったのは良いが必要以上に吸収してしまい紫音の見た目にまで変化が及んだようだ。



「貴様ら一体……?!」


 その時ワルプルギスの胸から光が飛び出した……それは半身が引き裂かれるような感覚と共に飛び出したそれはやがて人の姿となった。髪も,服装も,その存在すらもワルプルギスの全てを反転させたような白いワルプルギスだった。


「ありがとう……障壁を弱らせてくれたお陰で脱出できたわ」

「…?…アイリス?」

 

 その見た目はワルプルギスの様だがその雰囲気はアイリスによく似ていた。


「なんだお前は何故……」

「まだわかっていないのね…大丈夫…私が救い出してあげるわ」

「そうか!お前はルシリアの…本来のワルプルギスかっ!」

「そうよ…アイリスの為に…貴女をここで倒すわ」

「何を言っている貴様こそアイリスとカイルを返せ!」

「まだわからないのアイリスとカイルは貴女の中に残ったままよ」

「なにぃ?!」


 そこでオルタは初めて彼女が飛び出して来た自分の姿を見る…

そこで違和感に気付いた……

長い爪…全身を覆う黒い影のドレス……これが……私?私はもう一人のアイリス…その見た目も同じ存在の筈…こんな…こんな恐ろしい姿では……


「なんだ…これは?!」

「本当に気付いて無かったの?オルタ…貴女が…貴女自身がワルプルギス……貴女が使徒なのよ?」

「何を馬鹿な…私は使徒などではなく……私はアイリスのために…」


 その声は動揺に震えていた。

 彼女は気付かなかった…元は消えていく筈の一時的な感情の存在だった彼女が使徒の提案を受け入れた事により、使徒により吸収された……それは過去にも例のない例外中の例外だった。

その思いの強さ故、逆に使徒を吸収してしまい、使徒によってその存在を上書きされる筈の存在が依代の意識を残したままこの世に誕生した……存在の上書きをさらに上書きしてしまったのだ。

使徒の思考を正しい物と信じて……


「私は一体何のために……」

『……礼を言うぞ…やっと…やっとこの身体の主導権を取り戻せた……』


 オルタの意識が闇へと沈み,使徒の本性とも呼べる人格が浮かび上がってきた……


「別に貴女為にした事じゃないわ…むしろこちらも感謝しているくらいよ……」

『なんだと?』

「私の娘を散々苦しめた張本人である貴方をこれから思う存分痛めつけられるのだもの……」


 瞬間,ルシリアのワルプルギス……ルシプルギスの魔力が膨れ上がった。


『!!』


 ワルプルギスの意識が一瞬飛んだ。

気がついた時には壁の中にめり込んでいた。


『貴様……』

「まだまだよ…さっさと出てらっしゃい!」

『…ふは…ふははは!調子に乗るなよ!この下等生物が!!』


 使徒の姿が掻き消えた瞬間,ルシプルギスもその姿を消した。

周囲に一瞬だけ残像が見えたかと思えば何かが激しくぶつかる衝撃音だけが響いた。


「紫音!早くこっちに」


 イリュに連れられてルシリアと伊織と合流した。


「目で追うのがやっとだな!」

「……私……見えないんですけど……」

『紫音ちゃん…目で見てはダメ…魔力を見るのよ』

「……そんな事言われても簡単に……あっ見えた」


二人を形どる魔力の波形がその姿を描き出し、紫音の目にもはっきりと捉えられていた。

 ワルプルギスの中に少しだがカイルとアイリスに似た魔力を感じ取れた。


でも……あの中に見える光…三つあるんだけど…


カイルとアイリスと…誰?




 

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