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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
174/240

heartfull child 3


 体に魔力を流してその動きを確かめる……問題は無い

転生した直後に封印されるとは思ってもみなかったが…

何とか無事に体の支配権を取り戻すことができた。

知識を与えていなかったアイリスが前回と同じ道筋まで辿り着けたのは奇跡にも等しいだろう。 


 目の前には、私を封印できたと思っているカイルとイングリッドがいる…特にイングリッドめ…そんな蕩けた目で私のカイルを見るんじゃない!


 魔力を瞬間的に放出し、結界を破壊すると目の前の二人は驚いている。

それはそうだろう。アイリスの魔力ではこの結界は破壊出来ないだろうからな。

殺意を込めた魔力はカイルにより防がれた……ふむ…イングリッドには逃げられたか……

カイルは私と戦う気でいる様だ…

アネモネとルミナスの意識を接続し、三属性での包囲を始める。

さあ!カイル・アルヴァレル!あがいて見せろ!




















 闇の中で目覚めた。

目の前には水晶の中に閉じ込められた私の体があった。

私の精神体と体を分離し隔離されたようだ…力を失った私は再び幼女の姿になっていた。


 目の前に外の光景が浮かび上がる…

カイルとの戦闘に突入したオルタだがいつの間にかイリュや紫音、姉様達との戦闘になっていた。

アイスロッドを取り込み魔力を増幅されたオルタは紫音を人質にして氷の塔を作り出しその最上階へと逃げ延びた。

力を取り戻す為に時間を稼ぐつもりだ…!


 今の私にはこの結界を抜け出る術も力も無い……

いや…諦めては駄目だ!あんな小さなテルピーでさえ最後まで戦ったのだ!

目に浮かんだ涙をに拭うとこの空間を調べる事にした。

 ここはオルタが作り出した精神世界の結界だった。

魔力と気力だけが力を持つ世界だ……

私の周囲に黒い影の私が幾つも浮かび上がり私に向けて言葉を投げかける……精神を疲弊させてから同化するつもりらしい。

『無能』『母親殺し』『感情の無い人形』ー

心無い言葉が休む間もなく投げかかられる……


 そうね…このままでは私は本当の無能だわ。

でもねオルタ…貴女も勘違いをしているのよ?

私は以前のアイリスでは無いのだから。





『この無能めっ!』

「そうね…だから何?貴女も私と同じ無能ではなくて?」

『母親殺し!』

「それは違うわ…お母さんは私を命懸けで産んでくれたのよ?見当違いね」

『感情の無い人形め…』

「それは貴女達のせいでしょ?さっさと出ていってくれたら私は感情を取り戻せるもの」


 オルタの放った影達を論破していた。

思った通り…オルタこそが精神が子供のままの状態なのだ。

私を守ろうとした幼い日の『弱さ』が使徒につけ込まれた結果、誕生した歪な私……


「くだらないわね…貴女達こそ人を貶める事しか出来ないの?そんな形で幸せになれるとでも?全く…同じ私でも情けないわね…目を覚ましなさい…人を馬鹿にする…見下す…そんな自分こそが一番人としての弱い存在だと!」

『!!』

  私の宣言に数体の影が消滅した…まだ罪の意識を残して居たから浄化出来たのだ…彼女達は私の中に取り込まれ私は少し成長する。

「羨望」「妬み」「嫉妬」…負の感情である彼女達はオルタの思考に真っ先に引き摺られたのだろう。

だがそれも人として誰もが持ち得る感情だ…


「貴女達も私の一部なのよ…」

それを理解した時…彼女達の感情は私の感情でもある事に気がついた……無能な自分…母を殺した大罪……人との意思疎通の欠落…

過去、幾度となく感じていた感情だ。

……それでもそれが自分なのだ。

それを自覚したアイリスに勝てる存在はこの精神世界には存在しなかった。


『…不思議な娘だね…そこまでの強さを持っていたとは思わなかったけど?』

「…貴女はヘブラスカ?」

『いかにも…時間がない…お前も私の駒の一つになってもらおう…』

「それは出来ないかな?」






 精神世界でアイリスとヘブラスカの戦闘が始まった。

それを他人事のように眺めながらオルタは思考する。

何故だ?前回までアイリスはあんな強い心を持っていなかった…まるで別の人生を歩んだ別人ではないか……


『別人……』


 自分の言葉に引っ掛かりを覚えた。

そうだ…あれは別人だ…それでは何故?今回と前回で違うのはなんだ?

今回はアイリスが異常なまでの成長した強さを見せた。

前回には無かった事だ。

今までには無く、前回だけで起こった事はなんだ?


「……カイルを取り込んだ…」


そうか…カイルが何かしらアイリスに影響を与えたのだ!

現実世界の戦闘では紫音の洗脳が解かれてしまった……二人の行く先はアイリスの精神世界だ。

今二人を合わせる訳にはいかない!

現在もアイリスと戦闘中の魂割により分けられたヘブラスカの分体の一つへと意識を繋げアイリスの元へと向かった。


『アイリス…』

「…?。オルタね?」

『これ以上の争いに意味はないやめよう…私もあの魔女に支配されているんだ…二人で力を合わせればこの呪縛から抜け出せる筈だ!』

「そうだったの…オルタ…どうすればいいの?」


 相変わらずの甘ちゃんだ…疑う事を知らない。哀れな娘だ……


『私と一つに……』

「はい!アウト!」


 差し出した私の手を掴むとアイリスは体を捻り私を投げ飛ばした……そしてそのまま押さえ込まれる。


『ちょ!アイリスなにを!』

「そうやってまた私を取り込もうとしても駄目よオルタ」

『私はそんな事!!』

「……オルタ…貴女気づいてないの?貴女……」


 一瞬力が緩んだ隙に抜け出した…

そんな私に新たな衝撃が襲った。


「アイリスから離れろ!」

『ぐはっ!』


 突然の衝撃にその場から吹き飛ばされた……そこには幼い姿のカイルと紫音が居た。

 この精神深層世界で私に触れることができるのはアイリスだけだ。

その法則を無視して殴りかかってくる紫音は特異な存在だ。

不利と判断した私はヘブラスカとの接続を切り離した。


 その後カイル達によってヘブラスカの魂の一つは消滅させられた……

せっかく閉じ込めたアイリスを再び現世に逃してしまったのだ。

紫音…あの結界破りの能力は馬鹿に出来ない…要注意だ……















 カイル達に助け出された私は現実世界へと帰還した。

体の主導権も取り戻し再び私の戦いへと復帰出来る。

しかし想定以上にオルタに魔力が奪われており回復には時間を必要とした…紫音に支えられて降り立った場所は塔の最上階だった。

 そこにはルミナス姉様も居た……結局みんな巻き込んでしまった……しかしその反面みんなの助けを嬉しくも思った。

今回はマトリーシェも別行動中のイリューシャ達が保護したらしい…

彼女が探し求めていたカミュなる人物はカイルの中に存在しており、無事に再会を果たすことが出来た様だ……







 ついにヘブラスカが動き始めた。

カイルの中の存在…ミカイルが私と紫音を守る為に来てくれたのだが……イリュと二人がかりでも決定打に欠けていた。

騎士契約でパワーアップしたレイヴンも同じく騎士契約を行ったカミュとマトリーシェ達との戦闘に突入した。

自身の中の魔剣との融合を果たしたイリュも強力な力を手に入れた。

それでも決着はつかない……

改めて魔女という存在への畏怖の念を感じ得ない。


ヘブラスカの話は正直正しいとも感じる。

突然の悪意に平穏な日常を奪われる……とても恐ろしい事だと感じる。

だから彼女の怒りにも共感は出来る部分はある。

以前の私はこの心に湧き上がった感情に戸惑い彼女に心を開いていたかも知れない……

でも今の私は違う…この感情を知っている。

 愛しい者を失った悲しみを…自分の無力さを…やり場のない怒りを……

同時にこの世界の優しさも知っている。

生命の誕生の喜びを…友の差し伸べる手の温かさを…愛する者と触れ合う温もりを……

だから私がワルプルギスを解放する事はない。

この世界に悲観していないのだから。


  ヘブラスカの思惑に気づいたマトリーシェが紫音と共に駆けつけてくれたのだが……カミュとレイヴンの戦いの影響で互いに傷を負った……ヘブラスカは見るからに致命傷であった。

彼女の「絶命スキル」により強制的に私の中のワルプルギスが発動してしまった………


 残り少ない魔力から大量の魔力が奪い取られた……ワルプルギスが現世に現れたのだ……

その場に座り込んでしまい背後から来るワルプルギスから逃げられなかった………


 私はマトリーシェと共にワルプルギスに取り込まれてしまい,二人の魔力を吸収したワルプルギスを起動させたオルタが動きはじめた。


『もうすぐだ!待っていろ!アイリス!』


 そしてそれを阻止するためにカイルが過去へと跳躍し………カイル取り込まれてしまった。



(カイル…ごめんなさい…)


 目の前には半透明なカイルが漂っていた……精神体として取り込まれた彼は実態を持っていなかった。

オルタの中にカイルが取り込まれた事で私はチャットルームで彼と再会する事が出来た為情報の共有を行う事が出来た……その為,アイリスも全てを思い出す。


(これで良いんだよ…取り込まれた事実を残さないと今までの時間が無駄になってしまうからね)


 彼が私に触れると私の中から小さな光がゆっくりと現れた。


(…おかえり…カイル…統合を始めようか)


 その言葉に反応して光がカイルの姿を形取った…前世でオルタに取り込まれたカイルは私の中で共に転生の時間を過ごしていたらしい……二人のカイルが重なり一つとなる…


「……私の中に…」


色々と連想してしまい顔が熱くなった。


(本体から切り離されてしまったからね…魔力を大きく消費した状態だったから…今世で吸収される自分と合流するまで眠りについていたんだ)


「今からでもオルタを止めないと……」

(アイリス…君もわかっているんだろ?…あの娘はー)

「それでも…!それでも私は…助けたいの!」

(…全く…仕方ないなぁ……)


 私の答えを判っていたかの様にカイルは私の隣に来ると手を取った。


(でも俺もこの有様だからね…彼女を止めるのは君の役目だよ)

「…私が……」

(出来るかい?)

「…やってみないとわからないけど…負ける訳にはいかないもの…」

(強くなったね…まずは君の体も取り返さないとね)


ワルプルギスに取り込まれたアイリス、マトリーシェ、ヘブラスカの体はこの部屋で結晶に閉じ込められワルプルギスの核として使用されている。


『私を使うといい』


 声の方向に振り返るとワルプルギスが居た。……えつ?ワルプルギス?!ただしその見た目は髪も真っ白でその衣装も白く白で統一されたワルプルギスだった。

その時ワルプルギスから小さな光が飛び出してきた。


「テルピー!良かった!無事だったのね!」

『その…光のお陰で自我を取り戻す事ができた…』

(ふむ……君が本来のルシリアから生まれた存在だね?)


 言われてみれば、どこかお母様の面影を残していた。


『私を纏う事でアイリスは実態を得る事が出来る……その間に本来の体を取り戻すのだ』

(じゃあその役目は俺が引き受けよう…時間はかかるかもしれないが、その時が来たら合図を送る)


 母様のワルプルギス…ルシプルギスが私の背後から抱き付いてきた……

暖かい…母様に抱きしめられているみたい……これが母性か……


『ふふっ…いきましょう…アイリス』


 二人の姿が重なって、この世界から消えていった……

実体を得た為、現実世界へと顕現するのだ。


(君は良かったのかい?)


 カイルは自分の隣に浮かぶ小さな光に声をかけた。

小さな光は返事をするように小さな点滅を繰り返した


(そうかな?そんな事はないと思うけど…じゃあこっちを手伝ってもらおうかな?)


カイルはテルピーを伴って結晶に閉じ込められたアイリスへと向き直った。





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