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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
172/240

heartfull child



「あぁ…私の子……」

「見て!姉様!元気な女の子よ」

「あぁ…ティルシア…君によく似て可愛い子だよ…」

「女の子……この子の名前は……アイリス…」


眩しい光に包まれた。

微かに見える視界には二人の男女とベットに横たわる女性が見えた。

周囲には様々な気配を感じる…助産婦とか…メイドさんとか…

どうやら最後の転生は無事に出来た様だ。

今までの記憶と違うのは周囲がよく見えている事だ。

私を見るのは現在の両親……

ベットの女性は私を産んだお母さん………


「泣かないなぁ」

「そうね」


 おっと…いけないいけない……最初の仕事をしなくては……

私は息を大きく吸い込むと,とびきりの産声を上げた。







『…なんだこの記憶は?幻術?…』

『オルタ…これが正しい過去の記憶なのよ…貴女はこの瞬間に重要性を感じていなかったから曖昧な記憶として認識していたのでしょう?ここは私の始まりの原点なのよ』

『…そうか…だが…それでも私が代わろう…アイリス…お前には無理だ!』

『決めつけるには早いのではなくて?…』


 封印されてはいるがオルタは鏡の向こうでこちらを見ている様な状態だ…私の歩む姿を見せてあげたい。

私は大丈夫だと理解してもらうために………

 それ以降オルタは喋らなくなったが結界に対する侵食を確認した…あくまでも素直には譲る気がないってことね……










「とても元気ね……姉様?ティルシア姉様!!」

「医師を呼べ!急げ!」


 私の母であるティルシアが容体を悪化させた為すぐに医療チームが呼ばれ懸命の手当てが続けられた。

ティルシアは私と同じ魔力枯渇症候群の保持者であり既にその体は限界にまで来ていたのだ……

私が誕生したことが奇跡と言っても過言ではない状況だった。







「……自分の体だもの…もう長くないの判るわ……」

「姉様……」


 今,この部屋にはベッドに横たわる母とそれにつき従う双子の妹のルシリア……そして母の横でスヤスヤと眠る私の三人だけであった……眠っているのは体だけであって意識はちゃんと聞き耳を立てている。


「ルシリア……貴女には苦労をかけました…こんな情けない姉の願いを聞いてくれてありがとう……」

「いいえ…そんな事は無いわ姉様…病気さえなければ……本来あの人の隣に立っていたのは姉様だもの」

「それでもよ……私のこんな無茶なお願い断ってくれてもよかったのに……でも受けてくれてありがとう」


 話の流れから察するに本来父と結婚するのは母であるティルシアであったようだ……魔力枯渇の病のせいで闘病を余儀なくされた母は、その座を妹のルシリアへ譲った様のだった。

事態が大きく動いたのは、母の余命宣告がされ,それを聞いた母はある決意をする


『断ってくれても構わないわ……私は私の生きた証として子供を残したいの……できれば…あの人との……』


 その話を聞いて父は困惑したらしいが、ルシリアは二つ返事で即答した。

戸惑いを隠せない父あったが、受けてくれないのなら離婚するとまで言われては頷くしか無かった様だ。


「私の願いも無茶だけど……あなたも相当無茶よね」

「仕方がありません…だって双子の姉妹ですもの」

「ふふ……でも…尚更,貴女達に全てを押し付ける形になってしまって申し訳ないわ……」

「大丈夫よ!安心して!何があっても…この子は私達が守るわ」


 だが、それは想像絶する苦難の道であるとティルシアは気付いていたのだろうか……自分の中にある存在を……そしてそれが娘へと受け継がれた事を………今ならばわかる。

母の病気の原因は、その体の中に潜む魔女であった事が。

そしてそれが私へと受け継がれた事で、母の中の生命力が失われつつあるのだ。


「でも…ありがとう……本当に……とても幸せだったわ」


 少なくともその言葉を聞いて母が幸せな人生を送ったのだと納得できた。

こんな状況でも思いを遂げたいと願ったその心の強さも……きっと私はお母さんに似たのね。



 ティルシアは力無くその手を我が子へと伸ばした。

その指を小さな手が握り締めた……暖かなぬくもりが生命の鼓動を感じさせる。


「きっとこの子は美しく聡明な子に育つでしょう…様々な経験を積み、数多の出会いを経て運命の人と巡り会うのでしょうね……唯一の心残りは、私がそれに立ち会う事が出来ない事ね……」


 我が子の指を優しく握りしめるティルシアの瞳から涙が溢れた。


「ルシリア…旦那様ごめんなさい……そしてありがとう………どうか…この子をよろしくお願いします」

「姉様…」

「…ティルシア…後は任せてくれ……」

「……私の可愛いアイリス……いつまでも一緒よ………」


 そして母様は瞼を閉じた。












『……これが母親……』

『そう……私達のお母さんよ……オルタ』

 

 お母さんの心情と生き様をみてオルタも何か思うところがあったのかもしれない……あったと信じたい。

瞬間,私の胸から光が飛び出しオルタの周囲を飛び回った。


『!?…なんだ!これはっ!?』

『あぁ…紹介するわ…オルタ…私の友達…テルピーよ』

『テルピー?…精霊?いつの間に?』


周囲を飛び回るテルピーにオルタは困惑の表情を隠せないでいた。

過去の数百数千における転生の中で初めて目撃する現象なのだから。














「なんて事なの…遺伝しているなんて…」

「…まだ症状は軽い……ティルシアの治療の技術が応用できる…」

「そうね……私たちで守りましょう……」


 正確には受け継いだものは病では無く魔女ヘブラスカであった。

しかし母に対して行われた治療は私にとっても有効であったが魔力を作り出せない体は生活において苦労の連続だった。

……魔力の譲渡は体が出来上がっていない為、母親の母乳から摂取する形となってしまう……なので今は基礎となる体を育てあげるのが優先だ。

今はオルタをはじめ魔女連中も封印中なので魔力は搾取される事なく全て私が管理している。

とにかく来たるべき日に備えて準備は怠らない。


 私に協力してくれるのは家族だけでは無い……屋敷に使える者たちもとても親切に私の世話をしてくれた。

なので、私は感謝の言葉を忘れない……この身に抱えているものが大きすぎて感情は最低限度しか表せないのだ。

だから、私は言葉で伝える以外に感情を伝える方法がないのだ。






「お嬢様できましたよ」

「…ありがとう…凄く綺麗」

「はぅっ!!……お気に召した様で良かったです…」


 侍女のマーサがドレスを着せて髪を結ってくれた。

何か変な声が出ていたけど大丈夫かしら…?

マーサをはじめこの家に使えるもの達は皆優しい。

私の感謝の言葉にいつも変な声を出すのはよくわからないけど……


『アイリスは可愛いから当然の反応だな』


オルタは理解しているみたいだけれど…人との交流って難しいわ……


七歳となった私は魔界の社交界にデビューとなる。

こちらの世界でいう小学校の様なものだ。

入学式みたいな披露目のお祝いのパーティーで子供たちが顔合わせをして友情を育んでいくと言うものだ。


「アイリス…緊張している?」

「…はい姉様…」



私の隣には先輩であるアネモネ姉様がいる……侍女の服を着た

おまけにメガネまでかけて魔法で髪の色を変えている……


「大丈夫よ…私達がついているわ」


その反対側にはルミナスお姉様もいる…

当然、侍女の服を着た……本日は大学院で試験があるとか言ってなかったかしら?


『そうだぞ…少しでも不快に思ったら、すぐにこの結界を解除するんだ!私が一族諸共血祭りにあげてやるからな!』


オルタは相変わらず物騒な発言をしながらも、相変わらずな過保護主義だった。









「次女が侍女だなんて…ふふっ」

「…おもしろい…」

「ちょ…長女がメイドだなんて…」

「…座布団没収」


立場上、父と母はいろんな方面に顔を出さないといけないのでこの二人が私の保護者代わりとして一緒に来てくれたのだ。

二人とも私の緊張をほぐしてくれているけど……こんな沢山の人の前だと緊張してしまう。

私の胸から小さな光が飛び出した。


「テルピー…」


テルピーは大丈夫と言わんばかりに私の周囲を飛び回った……

姉二人には見えていないけれど一緒に祝ってくれている様に見えた。

「ありがとう…大丈夫よ…沢山友達を作ってみせるわ」











「ごめんなさい…アイリス…私は貴女の安全の為に…」

「…反省して」

「そうだぞ……私達はお前をいやらしい目で見てくるゴミムシから守りたかったんだ!」

「…反省して」

『そうだぞアイリス!あんなクソガキどもお前の友達のには相応しくない!』

『オルタ…あなたも反省して』


 結論として私と繋がりを持ちたい家の子供達は挨拶をしようと殺到したがメイドという名の姉2人の面接に阻まれ

私を守ろうといつも以上に結界から脱出しようとするオルタとの攻防に魔力を使い切った私は途中退席する事となった。

 

「……友達一人もできなかった……」

「……あれだ…アイリス…友達だけが全てじゃ無いぞ!」

「そ…そうよ!お父様の名前を出せばみんなお友達よ!」

「……それ…友達じゃ無いから……」


 その後,無事に学園に入学した………しかし大半の子供達は私に対して何か恐れを抱いているようだ。

……私、何もしていないのに……

なので今,正座させた姉二人に説教の真っ最中だ。


『やはりお前には荷が重い……私と変わるんだ』

「彼らが恐れているのは貴女との攻防で漏れ出した魔力のせいだからね?」


 


 それからは苦労の末、なんとか学園での生活にも馴染んだ……

少ないながらも友達もできた……私の境遇を理解した上で私と共に過ごしてくれる数少ない友達である。

私と成長と同時に私の中の魔女も成長をしていた。

魔力枯渇の症状は一向に改善はされていなかった。

 


そんなある日私の症状を治療する為に人間界での病院に診察に行く事になった……

共にアネモネ姉様と一緒に数人の侍女達とやって来た人間界は初めて見るものがとても新鮮で見る物全てが初めての経験の連続だった。  




『アイリス!すぐに私と代わるんだ!まだ今なら間に合う!』


 オルタが激しく動揺する……この場所に重要な鍵が隠されている………


 アネモネ姉様が迷子になり,侍女達が慌ただしく捜索を始めた……私も病院内を彷徨う中でテルピーが急に飛び出しその後を追いかけた。

そこで私はカイルと出会った……おそらく彼が鍵だ。

彼は魔力を私の波長に合わせて供給する技術を知っていた。

 その後、彼の協力で家族から供給してもらう方法にも改善が見られ、随分と過ごしやすくなった。


 そんなある日アネモネ姉様と一緒に誘拐されてしまった。

相手はお父様の派閥に対抗する組織で恐ろしい殺し屋のガルムが率いる一団だった。

その場にカイルが助けに来てくれたのだが、ガルムに負けてしまい私達も意識を失った。

次に気がついたときには全てが終わっていた。

一体何があったんだろう?あの事件以来、オルタがあまり私に話しかけなくなった。

おそらくあの場で起きた事を彼女を見てしまったのだ……一体何を見たのだろうか……彼女が一段とカイルに対して固執する様子を見せ始めた。

アネモネ姉様も思うところがあったのか……あれほど渋っていた軍隊型の学園の進学を決めた。


 その後その病院では、謎の火災が発生し、多くの被害を出してしまった。

その中でカイルは行方不明になってしまったのだ。


しかし両親はその辺りの詳細を掴んでおりカイルの安否だけは確認出来ていた様だがそれは再会するまで内容は伏せられていた……それほどの機密事項だったのだ。


『アイリス…私と代わるんだ……』


オルタは数週間に一度、私に交代をするように話しかけてくるが

やはりカイルの事がショックなのだろうか?……あまり元気がない。

再開するまでの一年間は結界から出てくるそぶりを見せなかった為逆に心配になってこちらから安否確認をするほどだった。


 人界界でも覇権争いが激化しておりその原因の一つとしてカイルの強奪を計画した国が行動を起こしたのがあの病院襲撃事件らしい。

この騒ぎに巻き込まれた、一般の人たちを守るためにカイルは戦い負傷したと聞いているが詳細は不明だが、生命を脅かすほどではない…との事であった。

騒ぎを鎮静化するまでの間、彼は異世界、イヴァリースへと身を寄せることになった。


一年程してこちらに戻る事になり彼は直ぐに私の名を聞いて魔素の補充を提案してくれたのだった。


 一年ぶりに再会カイルは身長も伸びていたが、何より、その見た目の変化に驚いた……髪の毛の色が銀色に変化していた。

理由を聞いても『いろいろあったんだ』と,あまり触れて欲しくない様な雰囲気だったので,きれいだねと流しておいた。

 

 また一年ぶりに施してもらった魔素の変換譲渡は最高でした。

髪の毛の先から足の爪先まで老廃物が押し流される様な感覚で身体が活性化するのが感じられた。

暫くはこちらに滞在するとの事なので今から私とカイルの甘くてラヴラヴな日々が送られ………………なかった。


 彼の隣には赤髪の炎魔族の少女がいた……その名はイリューシャ。

ほぼ私達と同年代であろう彼女がカイルにぴったりといつでもどこでも四六時中纏わりついていたのだ。


 聞けば彼女が一年前の襲撃事件のカイルを襲った当事者本人だったのだ。

彼女は故郷を失い、彷徨っている所をガルムの組織に拾われ衣食住の代わりに、その活動に手を貸していたと言う………内容を知りもしないで……


 人間界に行ったまま組織の連中が帰らなくなったので、残りの連中と人間界にやってきた。

そこで某国に雇われ襲撃に加担してカイルと戦闘になったらしい。

イリュの素質を見抜いたカイルが餌付けする事でこちらに引き込んだらしい。


彼女はあまり喋らないのだが、視線を常に感じる……悪意は感じないのだが……

私が自分にとって敵か味方かを判断しているのだと思われる。

彼と共にいると言う事は交流を持っていて損はないと思った。


「私はアイリス…よろしく……」


 私の差し出した……手を注意深く見つめた……そしてゆっくりとその手に触れた………瞬間、火花が散ったように感じられた。

互いに驚いて、手を引っ込めたが……その瞬間に理解してしまった。

私たちは何処となく似ている…その体の中に身の丈に合わないものを抱え込んでいるのだ。

 

「……アイリス……よろしく……」


 恐る恐る手を差し出したイリューシャは私の手をしっかりと握り返した。 

これが私とイリューシャのはじめての出会いであった。





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