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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
169/240

heartless child 2


「ア、アイリス…私はお手洗いに行ってくるわ!」


 挙動不審な感じでアネモネがそう言い切った。

いつもならここで

『お姉さま行かないで寂しいわ……』

と引き止めていたところだが今回は素直に見送った。

姉は何度も振り返っては私の様子を確かめている……

そして一目散に走り出し見えなくなった………

そして姉は…………帰ってこなかった。










 今回、目を覚ましたとき不思議な事が何点かあった。

まず一つは前回の結末を覚えていなかった……

 何か衝撃的な出来事があった様な気がするのだが…記憶が曖昧で思い出せない。

しかしいつもの様な飢餓感や焦燥感が感じられなかった……

穏やかで心が満たされていたのだ。

二つ目にイリスと一緒にワルプルギスと名乗る存在がいた。

身に覚えがないのだが……非常に戦闘特化している存在で扱いに困っている。

なのでイリスよりも更に強固な隠蔽空間に押し込めておいた。

三つ目に乳幼児期に得られる母乳からの魔力量が増えていた……

前回までへブラスカが全て奪い取っていたがある程度こちらに融通してくれているようだ…

 その結果,幼い段階で他者の魔力供給により私の魔力を回復させる事が発覚し,他者からの魔力にる治療が模索された。

母から供給を行ってもらった結果,元気になるワルプルギスを見てこれは母の魔力を基にして生まれた存在だと気づいた。

 やがて二人の姉からも供給を受ける様になり同様に私の中で何かが生み出せそうな予感がした……いや,必要ないけど。

最後は私の中のヘブラスカが私に対して警戒心を持っていた……前回の結末は誰も覚えていない筈なのに……何かやらかしてしまったのだろうか?

今までその存在をずっと隠してきた彼女は今回はマトリーシェを使って接触してきたのだった。


(はじめまして私はマトリーシェ……あなたの中に宿ったもう一つの魂よ)


 どうやらそういう設定らしい…あくまでもヘブラスカ自身はその存在は隠したいらしい。

なので私も年相応な感じで返答する


「だーれ?どこにいるの?」

(大丈夫よアイリス……私はあなたの中にいるのよ)

「私の中?」

(そうよ…私があなたを守ってあげるわ)


 どうやら私を懐柔して,円満にこの体を乗っ取る計画みたいだ…

意外な事にマトリーシェは意外と知識と常識があり私に対して無理強いや不利になるような指示はしない……優しい親戚のお姉さんの様な存在だった。

それがヘブラスカによる指示なのか…はたまた彼女の性格なのかは判断が難しいが……

その後,ある程度交流を重ね,現時点では害意が無い事を理解した……油断も信用もできないが。

今のところ人間界へ治療に行く流れに誘導している様なので大人しく従っておいた。


そして冒頭に至る。













「姉様帰ってこないね……」


 私のセリフを聞いた家のメイドが青い顔で慌てて探しに行った。


 今回は何故かアネモネを側に置かずに自由にさせてみる……そんな気分になった。

その結果、思いがけない自由時間を得た事で以前から行く機会の無かった医療施設の中央にある中庭を目指してみた。






 そこには一人の少年がいた……少年いや…多分少年……何処かで会った?いや……思い違いだろうか?

光を取り入れるために作られたガラス張りの天窓から差し込む光がスポットライトの様に彼を一際照らし出している…

その光が彼の銀色の髪を一層鮮やかに見せていた……その姿が一層幻想的に見えた。

彼はこの病院の患者服を纏っておりこの病院の患者であると思えた。

その瞬間、彼と目が合った


「トゥンク」


 口から変な声が出た…なんだ今のは…

彼は微笑みを浮かべてこちらを見ていた。

彼を見ていると今まで感じたことの無い高揚感を覚える……


「こっちにおいでよ…今日は天気が良いから気持ちいいよ?」


 言われるがままに彼の近くにやって来るとその儚い美しさが一際心に響いた……


(やはりどこかで……?)


 心に何か引っかかりを覚えるが……彼と会った記憶はない……ただ、胸のざわめきだけが残された。


「僕はカイル…君は?」

「…私は…アイリス」

「ふむ……いい名前だね……何をしていたの?」

「姉さまを探していたの……」


 何故か彼の言葉は心地よく,私の心に染み込んできた…不思議となんの疑いもなく聞かれたことに答えていた。




「私は魔力が自分で作れなくて……お母様達から分けてもらっているの……そうしないと死んでしまうから……お母様の家族も同じ病気で亡くなった人がいるって聞いたから……この病院で検査してもらっているの……」


 私は自分の病気の話をした。

私の中に潜む魔女達の監視の下では、迂闊な事はしゃべれない。


「頑張ったね」

「え?」

「君は大事なモノを守るためにこれまで一人で頑張って来たんでしょ?」

「なんで……」

「綺麗な魔力をしているからね…家族が君を助けたい気持ちと……その家族を守りたいと願う……君の心そのものだよ」


不意に一筋……涙が溢れた。


「…?なに…これは?…」


 戸惑う私の頭にカイルの手が乗せられ優しく撫でられた。


「君の心が悲鳴をあげているんだ……良く頑張ったね」


その言葉に私の目から溢れる涙が止まらなくなった。

精神のリンクはつながっているが、今の主人格はイリスがベースとなっているため、喜怒哀楽の感情は表に出ないはずなのだ……それなのに、この心の中に渦巻く感情は何なのだろうか?

これは私の涙だろうか?それとも?

その日、私は嬉しくても涙が出る事を知った。

今回のルートは正解だ!だって彼に会う事が出来たのだから……

もしも今回死ぬ事になってもこの場所から始める事が出来たら良いのに……



(『創造魔法(クリエイトマジック)仮設再開地点(リスポーンセーブ)を設定しました。)

いきなり脳内にアナウンスが聞こえた……

この魔法は指定地点から開始できたり進むべき道を示す「しおり」の様な魔法だ……便利!


遠くで姉様の私を呼ぶ声が聞こえる……どうやら無事に発見されたようだ。

しかしこのままでは私が迷子という事になってしまう。


「そろそろ行かないと……っ」


 立ち上がりかけて眩暈に足元がふらついた……魔力枯渇の症状だ……


「大丈夫かい?結構魔力を消費したみたいだね…」


 彼は目を閉じると私の両手を掴み『じっとしていてね』と言った……何が起こるの?


 周囲に淡い魔素の残滓が漂った……やがてそれは一つの流れとなって彼と私を繋いだ……

暖かい魔力が流れ込んで来る。


「えっ?これって…」


 間違いなく彼から私に最適化された魔力が流れ込んできている……

その純度は一番私に近いと言われる姉様達の魔力を遥かに凌ぐ純度だった。

 過去ここまで純度の高い魔素は初めて触れた……魔界でもこれほどの純度を保てる人材はそう多く無い……

現魔王様ですらもう少し雑味を含んでいると言うのに……


「あっ……」


そっとその手が離れ…アイリスは思わず声を上げた。


「大丈夫かな?」

「…ありがとう……凄い……」


 そんな二人の間に何かが飛び込んできた。


「アイリスー!!!誰だお前は!」


 アネモネが声を上げてアイリスを後ろに庇いカイルに対し警戒をあらわにした。


「こんにちは…僕の名前はカイル…さっきアイリスの友達になったんだ」

「ん?アイリスの友達か!私の名前はアネモネ……アイリスのお姉さんだ!アイリスの友達なら私の友達だな!それよりもアイリスそろそろ先生のところに行かないと魔力が……あれ?」


 そこでアネモネはアイリスの状態に気がつく………


「どうなってるの?これ」


 そこからは大騒ぎだった。

カイルと共に先生の前に連れて行かれ色々な検査を受ける羽目になった。

原因とか因果関係とか全くわからなかったが…その彼の技術は理論としては確立できているが実際に行使できる人物は今のところ存在していなかったのだ……彼がその様な技術を持っている事だけが理解できた。

しかもカイルは定期的に私への魔力供給を行ってくれる約束をした。


(今回は当たりだったな……)


 私の中のへブラス化の呟きが聞こえた。



 その後も何度かは命を落とすことがあったが仮設再開地点(リスポーンセーブ)のおかげでカイルと出会うルートは確実に辿れる様になった。

 問題は私が誘拐される事であろうか…

日時や場所のズレはあるが毎回人間界に来訪した時に起こる。

中でもガルムという男は厄介で私単体の力では撃退は難しい……

イリスの魔力を使えば容易いが、まだヘブラスカに私の力を知られる訳にはいかない……

 とりあえず、内部情報が漏れている事にが問題だな……こっそり調査した結果、メイドの一人が内通者であることを特定した。

なので、ある程度イベントの発生時期をコントロールすることができる…適当な情報を与えてやればいいからね。

作戦としては……私が1人でいる事、ヘブラスカが覚醒状態である事、この条件が揃う事でヘブラスカがこの男達を始末してくれる事を発見した。

後はタイミングの問題だ…

 もう一つはカイルと病院で出会った以降の彼と再開するタイミングが非常に不安定なのである…


 私の懸念は的中し、ヘブラスカ達が休眠状態の時に例の誘拐騒ぎが起きてしまい今回はその場にカイルが現れたのだ。

アネモネと一緒だったが彼は私たち二人を守る為に戦ってくれた……やだ…格好いい……

しかし、ガルムによりカイルは破れてしまいガルムはとどめをさそうとするが……そんな事はさせない。

アイリスは魔力を解放するとワルプルギスと同化した……そして周囲の男たちを魔力の刃で瞬時に殺害した


「ア…アイリス……」


 それを見たアネモネが驚愕の表情を浮かべた…大丈夫…姉様も守ってあげるわ。


 結論から言うとカイルを守る事が出来た。

しかし、あの男は予想以上に強く、予想以上に手間取った……おまけに街も半径3キロ以内は壊滅してしまった。


「アイリス!アネモネ!」


 声の方を向くと母ルシリアが来ていた。

母の姿を見るとアネモネは涙を流して飛びついた……怖かったわね…もう大丈夫よ……


「母様」

「!!……アイリス?なの?その姿は…まるで………これは…貴女が……」


 ああ…ワルプルギスの姿でも娘だとわかるなんて……でも流石にこの光景は衝撃的ね……

周囲は崩壊………男達は血の海……そこに立ち尽くす少女……事件の匂いしかしないわね……

ふとその地面の血溜まりに高濃度の魔力を感じた……この男達、魔族の…それも高位の悪魔だ……


血の恩恵(ブラッドドレイン)

 

 いつもヘブラスカがやっている様にその血液から魔素を抽出し体内へ吸収した。


「!!アイリスあなた……その魔術をどこで……」


 母が目の前にいた事を忘れていた…どうにも戦闘後だからかしら…気分が昂っていけないわ……


「これではまるで……ティルシア姉様……」

「……ああ……成程……」


 ティルシアとは母の亡くなった姉の事だ…姿絵で見た事があるが母によく似ている……私とも……当然このワルプルギスも似ているのだろう………

 私は二人の姉にあまり似ていない…姉は父の影響が強いなんて言われていたが……そこまで父にも似ていない。

そうか…私だけ母親が違うのか……確証はなかったがイリスの集めた情報でその可能性も考えなくは無かったが……いや……自分がそう思いたく無かったのかもしれない。

今まで心の奥底に押し込めていた疑問が一気に解消した……

何故私だけ魔力の作れない体なのか…体内に魔女を宿しているのか……

過去に一度聞いた事があった……私と同じ病気だったと……

つまり……遺伝だ……体内の魔女も継承されたと思えば納得がいく……

なんとも厄介な置き土産だ……


「そうか……私はティルシア叔母様の子供だったのか……」

「…違っ…アイリス…私は……」

 

 まさかこんな状況でこの秘密がバレるとは思っても見なかったのだろう……母はひどく狼狽していた。

なんだろう。今回はとても疲れた。

これ以上推し進めてもうまくやれる自信がない。


 不意に、私の頬を一筋の涙が伝って落ちた……

なんだ。これは心がえらく冷え込んでいくな……もういい今回はやめだ。


私が選んだのは自死あった。





 『前回の仮説再会地点より再会ができますがどうしますか?』


 脳内でそんなアナウンスが流れた……『仮設再開地点(リスポーンセーブ)』の力により病院での出会いから再開ができるのであるが……今回は確かめたい事があるので最初からやり直しを選んだ。

















『私の可愛い娘……いつまでも一緒よ……』






まばゆい光に包まれた


(見て…あなた元気な女の子よ)

(君によく似て可愛い子だ)


うっすらと目を開けるがまだ視界はクリアになっていないぼんやりと大人の男女が見える


(泣かないなぁ)

(そうね)


今まで両親だと思っていたが……そうか…私は他人だったのか……

「家族」に対して温かい思いを抱きつつあったが一気に冷めてしまった……


『イリス…私は少し休む…いつも通りの手順で頼む』

『はい……』


 私は再び目的を失った。

私の存在は必要とされていたのだろうか?

思った通り、私の家族に対しての気持ちが失せている…

もう私は自分を守る事だけが…いやカイルだ…カイルが私を救う鍵なのだ…なんとしてもあれを手にいれなければ……

 そんな事を考えながら生活面はイリスに任せた……今までの人生でどの様な選択で進むべきか「仮設再開地点(リスポーンセーブ)」とイリスが記憶していたおかげで苦労せず病院でカイルと再開した……その後はカイルの交流に比重を置いた。

 その後も何度か人生を繰り返すうちにカイルとアーガイルが同一人物だと言う事実に突き当たった。

例の誘拐事件では毎回カイルはガルムに負けてしまうのだが……

以前のカイルの忠告を思い出し、カイルが負けると分かっていても彼と一緒の時に誘拐事件を起こした………今回は手を出さずに成り行きを見守った。

あっさりと意識を刈り取られ、気がついた時には全てが終わっていた。

 その日の夜、私は見てはいないが……私の中のイリスは全てを見届けていた。

彼女により記憶された映像を見て、私は歓喜した。

ガルムは勿論、あれだけいた魔族の手練達をあっという間に制圧してしまったのだ!

二重人格と言うやつだろうか?アーガイルは脅威だが関係次第では頼もしくもある。

アイリスの成長にカイルの存在は必要不可欠だ。


「イリス…私はカイルが…あれが欲しい!私の持てる全てを使ってあれを手に入れたい…その逆、私が彼のものになるのもアリだな」


 いつしか、私の目的は、カイルと共にあることを選ぼうとしていた。しかし、どうしても私の中の存在の魔女たちが大きな障害となった……いっその事、この2人を吸収して……いや、この二人を取り込むと高い確率で私はアーガイルに討伐されてしまう…今の私ではまだアレに勝つことは出来ない……そこまで考えて自分が物騒な思考をしていると気がついた……もはや憧れとか恋愛とは次元が違うのだ……

そもそもこんな私が彼の隣に並び立つ資格があるのだろうか?私の手は多くの血で汚れすぎているのに…

こんな汚れた女が彼にふさわしいとでも?


「ふへへ…カイル……」

「ア…アイリス?!」

『もう…限界だな……』


私達のチャットルームに三人目のアイリスが現れた。

彼女はすぐにアイリスに駆け寄ると眠りの魔法でアイリスを眠らせた。


「この度重なる死に戻りは彼女の精神を確実に蝕んでいる……」

「貴女は…アイリスをどうするつもり?」

「私はオルタ……イリス…私はお前達に敵対するつもりはない……アイリスの防衛本能とでもいうのか……このままではアイリスの『心』が壊れてしまう…このまま続けることは限界だ……』


 彼女の提案はこうだ。

アイリス(本体)の記憶、魔力、経験を奪い「生まれたて」の状態に戻す。

その状態のアイリスをこの「裏」チャットルーム『ゆりかごの森』で来たるべき時まで保護する。

アイリスの保護と平時の行動は「イリス」が行い。

魔女の対策、戦闘、今後の計画を「オルタ」が行うというものだった。



 イリスには記憶と魔力を蓄える……その機能しか持たない…ここでオルタと戦ってもただ消されるだけだ……

それに…オルタから私とアイリスのは繋がりを感じる……その発言が嘘偽りでないことも……


「わかった……アイリスを守る為なら……」

「よろしく…イリス…アイリスを守るために」


 私たちは固く握手を交わした。




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