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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
168/240

heartless child


『私の可愛い娘…いつまでも一緒よ……』






 眩い光に包まれた


(見て…あなた元気な女の子よ)

(君によく似て可愛い子だ)


うっすらと目を開けるがまだ視界はクリアになっていない……ぼんやりと大人の男女が見える。


(泣かないなぁ)

(そうね)


なく?なくとはなんだろうか?


「あーうあー」


 彼らの真似をして口を動かしてみた……何か変な音が出た。

それを見た彼らは笑顔になった……現時点での意思の疎通は不可能のようだ

 どうしたものかと考えていると急に眠気が襲ってきた……

何も考えられない……


(あらもう寝ちゃったわ)

(寝顔もかわいいね)


そんな2人の会話だけが耳に残っていた。










(母様……アイリスまだ寝てる)


そんな声で目が覚めた……あれから数ヶ月が経ち身の回りの情報をなんとか理解できた……私の名前は「アイリス」どうやら私には2人の姉がいたようだ


目を開けるとルミナスと呼ばれる長女と目があった。


(あ…起きた!おはようアイリス)

(ルミナスが起こしたんじゃ無いの?)

(「母様!私そんなことしないよぅ!)


 自慢ではないが姉様は可愛い。


(あーうあー)


 何か胃の辺りがキリキリするので訴える為に声を上げた……これは空腹という現象らしい。


(お腹がすいたのかな?……はい)


 ルミナスが自前のちっぱいを差し出してきた……

これは一体どうすれば良いのだろうか私的にはぺろぺろご馳走様案件だが空腹が満たされるとは思えなかった。


(あらあら……ルミナスあなたにはまだ早いわ)


 母様が現れ姉とは比べ物にならないほどの巨大なミルクタンクを差し出してきた……いただきます本日もとても美味です。


『この母親の母乳に含まれる魔力はなかなかのものだな』


 私の中のもう一人がそんな評価を下します。

そうなのです…実は私の中にはもう一人の存在が居るのです……感覚的にあまりよろしく無い存在に感じます…

向こうも私の事を乳児だとおもっているので今のところは気づかないフリをして放置して居るのですが……こんな思考をしている時点で乳児とはかけ離れていますけどね……

 実はこの存在は母乳に含まれる魔力を全部吸ってしまうのです……おかげで私は空腹は満たされるのですが生命を維持する為に必要な量だけの魔力しか吸収する事ができません。

 これは搾取だ…私の魔力の成長を妨げるのが目的だ…

このままでは私になり代わりこの存在がこの体を支配してしまうだろう……そんな未来を予測しています。




 やがて私の懸念通りに彼女は私の体を乗っ取った。

その日は私の6歳の誕生日……祝ってくれる私の家族をなんの躊躇いもなく殺害した。

そして協力者であるレイヴンと名乗る男と合流し魔界の各地で殺戮の限りを尽くした。

やがて私は討伐される…その男は長い黒髪の男だった。


それが私の最初の人生









『私の可愛い娘……いつまでも一緒よ……』





(見て…あなた元気な女の子よ)

(君によく似て可愛い子だ)


 気がつくと再び私は生まれた瞬間に意識が戻った。


『失敗か…あの男は要注意だな』


 私の中の存在も相変わらず一緒だ……むしろこの現象はこの存在が起こしているに違いない。


私の意識が覚醒して二度目の人生は三年で終わった。

中の存在は焦ったのか家族を始め周囲の人達から魔力を無理やり吸い上げた。

その結果体が耐えられずに爆散した。







『私の可愛い娘……いつまでも一緒よ……』






(見て…あなた元気な女の子よ)

(君によく似て可愛い子だ)


 間違いない…「死に戻り」をしている……


三度目の人生は割と慎重だった。

18歳を迎えた瞬間に体が乗っ取られた。

最初の時と同様にレイヴンが現れ魔界の各地で殺戮を行った。

やはり最後は黒髪の男により討伐された。


 最初は困惑したが同じ現象が何度も続くとだんだんと理解ができた

これは私の中にいる存在の使う魔法である。

生命回帰(ライフリフレイン)』と呼ばれる代物だ……おそらく伝説級の魔法だ。

例の存在が一体何の目的で行っているかわからないが…過去の行動を見てもこの世界自体を憎んでいるようだ。

さらに回数を重ねるごとに私の精神年齢はリセットされていない事に気づいた……いやある程度の年齢に達したので記憶の認識があるのでは無いかと予測できた……私が初めての人生と思っている人生は何度目だったのだろうか?

 同様に基礎魔力も少しだが上がっている……さらに前世で覚えた魔法も記憶している…不思議な事に例の存在は死ぬと初期数値にリセットされる様だ……私の体だからだろうか?

しかし記憶が残っている為、気づかれない様に全力で隠蔽した。

今回も年相応に成長した為、知識を集める事が出来る様になったが……

やはりある程度力をつけると中の存在に体を奪われて黒髪の男に討伐される結末を迎えた。


 例の存在は十回目にして私の体を乗っ取るのをやめたらしい…過去数回どうやっても最後に黒髪の男に討伐されてしまうのだ。

その頃は私にも家族を守りたいと言う気持ちが湧き始めていた……四度目の転生からは私の中の存在を観察することにしたが今の私では出来る事は少ない……せめて魔力だけでも高めたいと思った。

過去の状況を見ても例の存在は幼少期は眠っている事が多い

現れるのは魔力を吸収するタイミング……授乳時間だ。

生まれてから二年間はこの状態が続き…三年目からは割と頻繁に起きているのだ……生後二年間が私にとっての活動時間だ。

 家族の会話の中で母には亡くなった姉がいた…ティリシア叔母様…姿見で見たが母によく似ていた……姉二人は父親にと言われているが……私は母親に似たのだと感じた。

その叔母様も私と同じ魔力を作り出せない病気にかかっていた……これは母方の遺伝的な病気なのだろうか…

しかし食物から摂取したり他者から魔力を供給して貰うことでなんとか生活は出来ていたらしい……根本的な治療にはならないが………私が生き残る為のヒントとなる筈だ。

私も死にたくは無い……その為には魔力を……






「あーうー」

(なぁに?アイリス…あっ…お腹すいたの?でも私には早いって母様が…)

「あーうー」


私は懸命に姉様の胸に手を伸ばす……姉様大丈夫ですよ!数年後にはとても立派な物をお持ちになっていましたから!


(じゃあ…ちょっとだけね…)


無邪気な姉の差し出したちっぱいに吸い付く…

ごめんなさい姉様…魔力を頂きます。


(うふふ…アイリス可愛い…私のおっぱいを一生懸命……吸っ……て……る……)


ルミナス姉様が意識を失いそうになってるのでここまでとする。

やがてそれに気づいたアネモネも参加して私の魔力の底上げは達成された。

五回分の人生を使って私の魔力は隠蔽できるか心配なレベルに育った。


なので私の中に蓄積された膨大な知識と魔力を使ってもう一人の私を作り出すことにした。

そう,私が持つ固有魔法『創造魔法(クリエイトマジック)』だ。


 彼女の名は「イリス」私と表裏一体、彼女は今までに得た知識と魔力をバックアップする存在だ…今までに得た情報量を処理する為、感情を司る部分にエラーが発生してしまった為今はその辺りをカットしているが……その力は既に私の中の存在すらも凌駕する域に達している……やり過ぎた……なので強力な隠蔽の術式を使い徹底的にその存在を隠した。

私は彼女を使っていろいろ調べ始めた…私自身では作り出す魔力は僅かだが、家族から集めた魔力は高濃度かつ潤沢な量が確保できる為、余剰魔力を使い使い魔を放ち情報を集めさせた。

そして私の中の存在、マトリーシェ……

そしてその影に暗躍するレイヴン、その黒幕ヘブラスカの存在を突き止めた。


 ヘブラスカは表の私しか見ていない……力のない子供だと思っている様だ……非常に好都合だ。

裏の私(イリス)」には色々と知識や情報を集めて貰った。

私の中の彼女達は私を利用し復活することを目指している様だ。

調べていく内にアイリスは何度目かの転生の途中で気づいた事だがマトリーシェは「カミュ」なる人物に固執しており彼に再会する事が目的の様だ……身体を乗っ取られても意識はある為、彼女達の言動や行動を細かく記憶し分析を行った。

 レイヴンもヘブラスカに対する感情は従者とは違う気がした。

ヘブラスカに至っては魔女の救済とか言っているが家族の復讐だ……

大層なことを言っていた割にはあくまでも個人的な欲望に正直落胆した。


(いっそのこと全部乗っ取って全部ぶち壊してやろうかしら?)


 そうしている間に私の人生が二桁の終盤に差し掛かった頃、人間界へ治療に行く展開を見せた…

毎回ルミナスに甘えて魔力を搾取していた結果、彼女も私に対しての情を高めていた様だ…人間界の医療についての話題を取り上げて訪問する事が決まったのだ。

 はじめての展開に私もヘブラスカも慎重に物事を見極めている……もう少し観察を続けてみよう。

何度か訪問を繰り返しているうちに魔素を活性化させる治療法が徐々に構築されつつある事が告られた。


『人間の可能性とは恐ろしいものだ……』


ヘブラスカはそう評価した。


 ある程度この病院にも慣れてきた頃突然私とアネモネは誘拐されてしまった…この展開も初めての出来事だ。

私もヘブラスカも事の成り行きを見守る事にした……

相手は魔界の武闘派である組織のようであった……彼らの言い分を解釈すると……

和平派の父親に対しての威嚇行動の様だ……ただの脳筋組織らしい。


 一緒に囚われたアネモネ姉様がしきりに抗議して解放を求めていたが交渉は決裂したようだ。


(子供は一人だけいればいい)


 男がそう言うとこちらを向いた……そうか……いつ倒れるかもわからない欠陥品の私にとってここが今回の死に場所のようだ。

ガルムと呼ばれる男の拳が目の前に迫った

突然衝撃が襲い私は地面を転がった……思ったよりも衝撃が少ないな?

そう思いながら体を起こすと目の前に何かが転がってきた……どことなくアネモネお姉さまに似ていた……

というかアネモネの首だった。

見上げると首のない体が糸の切れた人形のように倒れこむとおびただしい血が吹き出した。

さっきまで私の隣にいた姉が一瞬にして物言わぬ屍になってしまった。


「……な…なんで……」


 思わず声が震えた……彼女は私を庇ったのだ。


「ふん,まあ良い……良いお姉ちゃんで良かったな」


庇った?私を?殺されてもまた繰り返すだけなのに…庇う価値なんて無いのに…

私の中で何かが壊れる音が聞こえた。


 私は雄叫びをあげるとイリスの魔力を私にシフトすると私の中にいるマトリーシェとへブラスカを瞬時に取り込んだ…ヘブラスカが溜め込んでいた母様の魔力を吸収するとイリスとは違う存在を創り出した……それが娘を守る存在……ワルプルギス。

 現代ではみんなこれがスキルと思っている様だがこれは意志のある依代である。

アイリスをコアとして憑依する事でその役割を演じる為の衣装なのである。


 目の前のガルムを魔力をまとった腕で横凪に切り裂いた……

むっ、腕を切り落としただけで取り逃してしまった…

その後も周囲の連中に片付けるのにも手間取った……


業を煮やした私は周囲の都市ごと都市攻略規模の禁呪で全て灰燼に帰した……

慎重にここまでやって来たのにここに来てこの失態は………

ああ…そうか…アネモネを殺されて冷静でいられなかったのか……

私が知らない間に私の中の家族の存在は大きくなっていたのか……

家族のために復讐を誓うヘブラスカに少しだけ共感を覚えた。


(おやおや…これは随分と派手にやったみたいだね……)


背後の声にやっと来たかと安堵のため息を吐いた……


「遅かったな……」


 振り向いたその先にはいつもの無愛想な黒髪の男ではなかった

流れるような金髪の柔らかい微笑を浮かべる少年だった


「アーガイルじゃなくてごめんね」

「アーガイル?いや…奴の知り合いか?」

「まぁそんなものかな」

「………」


全てを私に話すつもりは無いらしい……


「お前が今回の私の死なのか?」

「そうだね」


 虫も殺さなそうな顔をしていながら彼の目の前に立っているだけで限界だった。

この姿になったアイリスですらどうやっても勝ち目はなかった。


「今回は惜しかったね」


 その言葉にハッとするこの男は私の繰り返しを知っている?


「私は何を間違った…?」

「少しヒントをあげようか……君はこの展開は初めてだと思っている様だけど実は三回目なんだよ」

「なっ…」

「自分の姉が無残に死ぬところなんて覚えていたくないでしょ?無意識のうちに記憶を封じていたようだね」

「こんな事が…三度も……」

「だからヒントあげようと思うんだ」


その言葉にハッとする


「君のお姉さん……アネモネはずいぶんと活発なお嬢さんだよね?だから初めて見るもの…初めて来る場所に好奇心は抑えられないと思うんだよ……縛り付けるなんで無理じゃ無いかな?……君は責任感も強い子だから…自分で抱え込んでしまうタイプだよね?でも人を頼ることも大事だよ」


 そうか……何があるか分からないからアネモネをずっとそばに置いていたのがいけなかったのか。


「ありがとう…できれば一思いに頼む」

「どういたしまして……もう時間だ……今回は聞き分けが良くて安心したよ」


前の二回で私がどんな最期を迎えたのか聞くのが怖い……


「…貴方の…名前を…教えて欲しい…」

「…………カイルだ…」


 彼はしばらく考え込むそぶりを見せたが…その名を告げた……その結果がどんな形になるのか想像もしないままに…

 

(カイル…カイル…ああ…なんて甘美な響き……)


その名は彼女の心の奥底にまで深く染み込んだ…

砂漠に突如現れたオアシスの様に乾いた彼女の心を潤したのだった。



「じゃぁ頑張って……『安らかな死を『絶死(デス)』」


私の意識は一瞬で闇へと落ちていった。

甘く、痺れる様な満ち足りた感情と共に……



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