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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女

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ワルプルギスの夜 4


 紫音達の校舎のある高等学区を中心に中央棟と学区に隣接する商業特区の一部が光に包まれた。

直後、凄まじい轟音と共に巨大な火柱が天を焦がした。

美しい街並みは見るも無惨に破壊され多くの人々で賑わった繁華街も跡形もなく消え失せていた。


『学園がっ!!』

「なんて事……」

「ふははははは!お前達の帰る場所は永遠に失われた!哀れな羊達の魂は我が神のへの贄となるだろう」


 その破壊された規模としては、数千……いや数万の命が炎とともに消えていったと思われる。

地上からは、まるで怨みの叫びにも聞こえるような轟音が響いて来る。


「ぐっ……あいつ…なんてものを……!!」

「アーガイル様!」


突然苦しみ始めたアーガイルにルシリアとミカイルが寄り添う…

イリューシャはワルプルギスを警戒していた。


「さぁ最初のラッパは吹き鳴らされた!七つの大罪の贖罪の時が訪れたのだ!残り六つの聖痕は何処に刻んでやろうか!」

 

ワルプルギスのその言葉に全員が戦慄した…こんな物を後六つも行使するというのか?


「これ以上その姿で好き勝手させるかよ!アイリスを返せ!」


 イリューシャが怒りを顕に立ち上がった。


「これは流石に…やり過ぎよ!」


ミカイルとイリューシャが共にワルプルギスに向かって駆け出した。


「返して?…これはおかしなことを言う……あれはお前の知るアイリスではない……アイリスにも成れなかった紛い物……我が力により生み出された心なき器……『魔女の願い』と言う呪いに縛られた哀れな操り人形だ」

「そんなこと知るかよ…アイリスはアイリスだ!」

「いいだろう…お前達も我が神の捧げ物として葬ってやろう!」


 先ほどのアイリスの時とは比べ物にならない程の魔力を解放し、ワルプルギスがその両手を広げた。


濁流大瀑布(タイダルウェイブ)


 ワルプルギスの足元から轟々と音を立てて水が噴き出した……瞬く間にこの塔の最上階の室内を渦巻く濁流が飲み込んだ…溢れた水は滝の様に壁を突き破り地上へと降り注いだ。


「アーガイル様!此方に!」

「立てよ!飲み込まれちまうぞ!」

「ハアハア…アーガイル様の匂い…」


 依然として苦しむアーガイルをルミナスとルシリア、伊織の三人で室外へと運び出した。

ルミナスだけは目的が違う様だが……結果としては彼を正面から抱きしめて持ち上げた……前を見ていなかったので残りの二人が先導して連れ出した……

律儀に屋上部分への階段も用意されておりその先で丈夫そうな場所を見つけた。


「貴女はアーガイル様の介助を……ルミナス……は……ダメねこれは」

「…っ……えへ………♡」


 見ればルミナスは気絶しており時折ビクビクと体が震えている。

この後に及んで……幸せそうだ。


「…娘なんだろ?……これ……いいのか?」

「……何も言わないでもらえると助かるわ」

「……あんたも大変だな」


 幼い頃に母親を失っている伊織にはルミナスが非常に母性に溢れた女性だと感じられた。

娘を気遣う仕草やその笑みに朧げな母の面影を見ていた。


「アーガイル様はどう?」

「…ああ…息はしているが苦しそうだ…こいつ……カイルじゃないのか?」

「ああ…その辺の事情も話されていないのねその方はカイル様でもありアーガイル様でもあるの…二つ目の人格……と言ったところかしらね?」


 ルシリアは伊織の言葉に返事をしながらも周囲の警戒は怠らない……依然として地鳴りの様な音と振動が絶えず響いていた。











「鬼神剣 ー 凪流星」


 イリューシャの放った強力な横薙ぎはワルプルギスを側面から強打した……手甲による防御があったとしてもその威力は無視出来ないものだった。

既にこの状況ではアイリスの体を無傷で……との考えは最早不可能だとイリューシャは判断を下した。

既にその思考はカイルの奪還へと変化しつつあった。

その反対側からは、ミカエルが飛び出し

一撃を見舞う体制となっていた

しかしそれは既に予測されており、防御のための体制がとられつつあった。


「当然、こっちから来ると予測するよね紫音ちゃん!」


その声に反応して、ワルプルギスの周囲に空間の歪みが生じた


衝撃音波(ソナーウェイヴ)


ワルプルギスの側面六箇所から高周波が放たれた。

防御のために三つの手甲が盾の様に組み合わさったが、この魔法の効果は音波ゆえに防御する事は出来無かった。

それは彼女を中心に特殊な力場を生じさせた。


衝撃(インパクト)


 そこ目掛けてミカエルの一撃が放たれた。

紫音が放った魔法により共振現象が引き起こされ、一点に集中し死角となり得る力場を創り出した………ミカエルの一撃はその部分を的確に打ち抜いた。

結果、その手甲は破壊されその衝撃はワルプルギス本体にも影響を及ぼした。


「ちぃ!小賢しい真似を!」


 ワルプルギスが失った手甲を作り出そうと手をかざした。


「させるかよ!」


 イリューシャがその場で剣を鞘に戻し構えた。


「東方剣術・閃光」


 高速の抜刀術による居合い切りであった。

ワルプルギスの残りの手甲では防御が間に合わず粉砕された。


三属性拘束(トリオンバインド)!』


 さらに紫音が唱えた拘束魔法によりその身体を拘束された……

三種類の属性による拘束は確実にワルプルギスを締め上げた。


「…ただの脳筋かと思っていたが…魔法は使えないのでは無かったのか?」

「私は今は使わないけどね……この『体』の持ち主が使えないとは言っていないよ」

「ふむ…お前達の評価を改めなければならないな…良かろう…我が試練を受ける資格を認めよう」

「何を偉そう……に…」

(しもべ)よ顕現せよ」


 その宣言を受けて周囲の濁流が動きを止めた。

流れ落ちる水が逆戻りするように下から上へと流れ、うずまき、やがて巨大な球体となった。


「行け ハイドラ」


 巨大な水の球体から一匹の龍がその長い体を現した。

水の龍が咆哮を上げ、その魔力を体内に練り上げその口から魔力を纏った高圧の水のブレスが吐き出した……『高圧水流(ハイパースプレッサ)』である。

その威力は魔女を拘束する紫音の魔法を鋭利な刃物で切断する様に最も簡単に切断した。

ワルプルギスの拘束は解かれ優雅に地面に着地した……龍の波動は周囲の彼女達を襲った。


 イリューシャとミカイルは咄嗟にその身を移動させると、水浸しの床を滑るように回避した。

その水圧は壁を…床を貫き、眼下の都市にもその一閃を刻み込んだ。

瞬間爆音と共に炎の壁が立ち上った。

 

「ふむ…よくぞ躱したな……見事我が僕を打ち倒してみよ

「こんな水蛇…」


 直ぐに反撃に転じたイリューシャがその胴体を真っ二つに切り裂いたと同時に、魔剣の放つ炎とハイドラの体が接触した瞬間、大量の水蒸気が周囲に立ち込めた。


「熱っちちっ!」

「馬鹿ねーそんな事したらそうなる事ぐらいわかるでしょ?……でもこのまま続けたら蒸発して消えて無くならないかしら?」


 そんなやり取りをしている間にワルプルギスから魔力の供給を受けたハイドラは再びその強靭な体を取り戻しつつあった。


「このままでは終わりが見えないわね……イリュちゃん手を変えましょう」

「何か手があるのか?」

「………そうね期間限定の特別メニューなんて好きでしょ?どうかしら?」

「いいぜ……面白そうだな」

「じゃあ……紫音ちゃんにも協力してもらわないとね」

『え……また私?』


 そうと決まれば二人の行動は早かった。

イリュは渾身の一撃をハイドラの胴体に食らわせるとミカエルと二人、塔の窓から飛び出し、眼下の都市跡へと消えて行った。

 ハイドラは感情があるのか、先ほど自分と敵対していたイリューシャに狙いを定め、二人を追跡しその巨体を踊らせると追跡を始めた。


「でかい図体の癖に意外と素早いなっと…!」


 イリューシャはその恐ろしいまでの突進も余裕でかわすと再びその身体を抜刀術で斬りつけた……が、すぐに水で傷は塞がれ正直ダメージが入っているのかも怪しい状態だった。


「しかも何気に強化されて前より硬くなってるじゃんか!」


 先程までその巨体に傷を与えていたイリューシャの斬撃も強固な個体を弾くような手応えへと変化していた。


「ミカイル!まだかよ!」

「紫音ちゃんどう?」

『待って!まだ化学式が……』


 紫音はチャットルーム内でシロンとクロンと共にキーボードを凄まじい速さで叩いていた。

必要な術式を新たに創造するための方法の一つがこの『魔術式構成入力』……簡単に言うとプログラミングだ。

こんな事なら普段からしっかり勉強しておけばよかったと後悔した。


『クロンこれでいいのかなぁ?』

『俺に聞くなシロン…とりあえずこちらは終わったぜ紫音!』

『ありがと……あとはここだけ……』


 シロンとクロンの二人は私のナビゲート役ではあるが、基本的に私と同じ思考なので、頭の良さも一緒だ……


「お嬢様方、それは危ないですよ……混ぜてはいけません」


突然、男の声が響いたかと思うと直ぐ横に紅茶が差し出された…え?誰?誰か宅配頼んだ?

直ぐ横の人物に視線を向けると……再び理解が追いつかなくなった。


「………カイル?」


そこに居たのは黒の燕尾服に身を包んだ執事スタイルのカイルであった。


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