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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
165/241

ワルプルギスの夜 3

時間遡行(タイムリープ)


 カイルの姿は光となってその場から消えた…自分とルミナス、伊織から譲渡された膨大な魔力を消費して刹那の瞬間、過去へと時間を遡った。

 一瞬、世界にノイズが走った様な感覚の後にアイリスがゆっくりと立ち上がった。


「あはっ…あはははははは」


 そして空を仰ぎ笑い声を上げた。

そして背後では音を立ててカイルが空中から投げ出された。


「カイル」

「くそっ!罠だっ…カイルを奪われた!」


 見た目はカイルそのものだが,その中身はアーガイルだった…


「やっと…やっと彼を手に入れたわ!長かった…本当に長かったわ!」


 アイリスが自分の体を抱きしめて恍惚とした表情でそう叫んだ。


『何が起こってるの?』

「騙されたぜ…今回の騒動はヘブラスカやマトリーシェが原因ではなかったんだ…」

『まさか…』

「そうだ…全てはアイリスが黒幕だ」


















「絶命スキル! 『スキルトリ『スキルブレイク』…?!」


 ヘブラスカがスキルを発動しアイリスのスキル、ワルプルギスを発動しようとした瞬間…カイルはその場に突如現れた。

「スキルブレイク」その名の通り相手のスキル効果を破壊するスキルだ。

 結果ヘブラスカの背後に浮かび上がったスキルエンブレムは破壊され発動は失敗に終わった。

 時間遡行の先はヘプラスカのスキル発動の瞬間だった……彼女のスキルを破壊してワルプルギスの発動を阻止したのだった…これでヘブラスカのスキルは効果を失ったことになる…と同時にその発動もすぐには行えない。

黒い魔力から解放されたアイリスとマトリーシェは地面に投げ出され大きく息を吸い込んだ。

カイルはアイリスの前に立ち、ヘブラスカと対峙した。


「貴様…!何故ここに…」

「…企業秘密だよ……さて,大丈夫か?アイリス」

「ああ…カイル……」

「アイリス!大丈……」


 マトリーシェが駆け寄りアイリスに寄り添った…がそれを振り払いゆっくりとカイルの足に手を伸ばし縋りながら立ち上がるとその背中にしがみついた。


「捕まえた」

「?!」

「スキルトリガー「強制分離」」


アイリスの宣言により、彼女から凄まじい魔力が迸り,カイルの体からアーガイルが弾き飛ばされた……

同様に彼女の側に居たマトリーシェも弾き飛ばされた……残されたカイルはアイリスが抱きしめていた。


「きっとここに来ると思っていたわ……いつもアーガイルが貴方の周囲を警戒していたから…こんなチャンス見逃せないわ」

「アイリス…お前…何故そのスキルを」


 ヘブラスカが信じられない様な目で見ていた……そのスキルは彼女がこの時の為に改良を加えた固有のスキルだ……しかも自分の計画が順調に進んでいると思ったら突然全てが覆されたのだ。


「うふふ…驚いた?最初から全部わかってたのよ?ヘブラスカ……貴女が面白そうな事をやっていたから何をするのかずっと見ていたの…このスキルも便利そうだからこの時のために最適化して私の物にしたのよ?それに……今の私にとっては家族や世界なんてどうだっていいのよ?」

「アイリス……」

「紫音…私はね…何故自分ばかりが不遇な状況なのかずっと考えていたの…私よりも不遇な人もいるわ…それでも諦めず前を向く人たちを見てきた……それはね…愛する人が居たからよ…恋人、家族、なんだっていいのその人の心の支えになる存在ならね……でも私には居なかった…だから…貴方なのよ…カイルさえ居てくれれば良いの…貴方が手に入ればそれで満足なのよ」


 その姿はアイリスとは思えない程感情が溢れていた。

その笑顔もその妖艶な喜びも今までのアイリスと結びつかなかった。


「アイリス馬鹿な事はやめ……!!」

「さぁ…カイル…一つになろう?」


 カイルを抱き締める彼女の手から魔力が溢れ,カイルの体が光の粒子となってアイリスの中へと消えていった。

全員がただ見ている事しかできなかった。


「嘘……」

「貴方だけ…貴方だけがアイリスと向き合ってくれたのよ…だから君以外は何も要らないの」

 

世界が歪な音を上げて軋み始めた。


「あら?…カイルが過去に遡行した事で修正の強制力が働き始めたみたいね……この世界の未来はアイリスにとってはあまり良いものでは無いから…カイルが来た世界に寄せて修正しましょう……えーっと確か……スキル発動『ワルプルギスの夜』」


 アイリスの背後に開かれた扉が現れ、中から黒い腕が伸びるとヘプラスカとマトリーシェを掴み再び中へと消えていった……一瞬の出来事に誰もが動けないでいた。

同時に世界に向け赤黒い輪が波紋の様に広がった……まるで何度も経験したかの様に手順をなぞり歴史を繰り返す。


「『選別(セレクト)』」


 イリューシャの頭上に花の様なエンブレムが回り始めた……彼女には変化はない……しかしそのタイミングでアーガイルの姿が消えた……


「ふむ……成功かな?」

「何がどうなっている?」

「え?カイル?」


 その場にこの時間に存在するカイルが現れた。

その姿を見て何が起きているのか理解できない紫音は困惑した。


「貴方…今アイリスに……」

「揃ったわね……さあ……準備は良い?『前奏曲(プレリュード)』」


 赤黒い輪がアイリスの頭上からその体に沿って降りてくると再び周囲に向けて広がった。

再び世界に魔女の刻印が広がっていった。


「これ以上好きにさせるかよ!」


 イリュがその場から加速して飛び出した。

直前で踏み込みを加え,ドリルの様に回転をかけた刺突を繰り出した。


『牙流突』


 その剣がアイリスに届く瞬間,背後から黒い腕が盾となってその剣を防いだ。


「!?ならこれはどうよ!」


 イリュはその場で体を捻ると回転を加えて下からの袈裟斬りを繰り出した。


『昇竜斬』


 魔力を纏った斬撃が高速で切り上げられた。

その黒い魔力を切り裂いた……かに見えたがそこに既にアイリスの姿はなかった。


「危ないわね…イリュ…友達に向ける剣技では無いわよ?」

「…ならこんな事はやめろ!」

「ふふ…それは出来ない相談だわ 交響曲(シンフォニア)


 扉から現れた黒い女はアイリスの元まで来ると重なるように一体化……ワルプルギスと化した……

全身黒いドレスを纏い背中には対の黒翼,両手付近で自律浮遊していた筈の手甲は剣と一体化した凶悪な物になっていた。


「紫音…何があった?」


 近くに来たカイルに先程の出来事を伝える。


「…そうか…俺が狙いなのか……じゃあ始めるか」

「!?アンタ何を聞いていたの?失敗するのよ!」

「問題ない……それでいいんだよ」

「一体何を考えてるのよ……」

「…知りたいか?じゃあ紫音…君の力を貸してもらいたいかな?」


 ここまで来たらもう後には引き返せないよね……








「じゃあ紫音ちゃん!私たちの初めての共同作業よ!頑張りましょう!」

『はいはい』

 

 私の中に一時避難していたイヴと同化し憑依状態で闘いへと駆り出された。


「共に戦うなんて紫音ちゃんは最早戦友…いえ魂の相棒よ…そんな貴女には私の真の秘密を告げておきたいの……」

『……ミカイルでしょ?名前』

「ふぇ?……な,なんで…にゃんで知ってるの!!」

『だって…アーガイルがそう呼んでたし……多分みんな知ってるよ?』

「えええ……そんな……」

『それはさておき…私たちの仕事をしましょう』


 その後イリュと合流し,二人でアイリスの足止めに専念した。

準備の整ったカイルは時間を遡行した。


時間遡行(タイムリープ)


 カイルの姿は光となってその場から消えた…自身とルミナス、伊織から譲渡された膨大な魔力を消費して刹那の瞬間、過去へと時間を遡った。

 一瞬、世界にノイズが走った様な感覚の後にアイリスが膝を突き、そしてゆっくりと立ち上がった。


「あはっ…あはははははは」


 そして空を仰ぎ笑い声を上げた。

そして背後では音を立ててカイルが空中から投げ出された。


「カイル」

「くそっ!罠だっ…カイルを奪われた!」


 見た目はカイルだがその中身はアーガイルだった…


「やっと…やっとカイルを手に入れたわ!長かった…本当に長かったわ!」


 アイリスが自分の体を抱きしめて恍惚とした表情でそう叫んだ。


『何が起こってるの?』

「騙されたぜ…今回の騒動はヘプラスカやマトリーシェが原因ではなかったんだ…」

『まさか…』

「そうだ…全てはアイリスが黒幕だ』

「ふふふ正解よ!」


 ここまでの流れを紫音は理解した。

過去に戻りヘブラスカとの融合を阻止したカイルは逆にアイリスに取り込まれてしまった。

ヘブラスカとマトリーシェもアイリスに取り込まれ『ワルプルギス』へと変化した。

カイルの体に残されたアーガイルだけが現実世界に残されたのだ。 


『どうするのよ!』

「あ?だからカイルが言っただろ『これで正解』なんだよ」

『正解って…こんなの……どこが?!』

「いいか合図があるまで持ち堪えろ!!」


 アーガイルが全員に強化魔法を使うとその腕に白い腕輪が嵌められた。


「制約の枷…!!」

『制約の枷?』


 ミカイルの絶句に紫音は問いかけた。


「アーガイルの魔力の純度が高すぎて…このままではカイルの体を魔力汚染してしまうのよ……このままアーガイルが魔法を使い続ければその体を縛る枷が増えてゆくわ…そうしないとカイル自身戻れなくなってしまうわ」

『魔力汚染……?』

「分かりやすく言うと強力な魔人が一人出来あがっちゃう感じかな…」


 それを防ぐ為の枷が増えるごとにアーガイルの魔力が弱まっていく…カイルを守る為にアーガイルの力を封印するための安全装置なのだ。


「抑圧された状態は大変だろう?その気持ちはよくわかるぞ」

「それはご丁寧にどうも」


 イリューシャとミカイルの攻撃をものともせず、アーガイルの魔法とも正面からやり合うアイリスは最早最強ではなかろうか?


「くっ!!」


 アーガイルの左腕がほぼ枷によりその動きを封じられた。

苦悶に歪んだ彼の顔を見てアイリスは理解した。


「そうか!…この世界に干渉するには制限があるのだな!」


 アイリスが防御から一転し攻勢に出た。

それを防ぐ為に力を使うアーガイルの体が枷によりその動きを封じられて行く。


「させるかよ!」

「イリュ!待ちなさい!」


 飛び出したイリューシャを追ってミカイルも同じく飛び出した。

しかし二人の攻撃は簡単に防がれ逆に強烈な一撃を見舞われ地面へと叩き落とされた。


「そこで、大人しく事の成り行きでも眺めてろ!さあお別れだ!アーガイル!」


 一瞬の隙を突き、ワルプルギスの自律手甲がアーガイル目がけて振り下ろされた。


『間に合わない!!』


 イリューシャとミカエルが慌てて向かおうとするがこの距離ではどうする事も出来なかった…………が

それを受け止めたのは意外な人物であった。


「アーガイル様遅くなり申し訳ありません」

「ルシリア…」


 アイリスの母,ルシリアであった。 

軽微な鎧を身に纏いその手には巨大な盾を装備していた。


「アイリス…もうこんな事はやめなさい!」

「母様……今更何の用だ…本当に今更だよ」

「アイリス……もうやめて……」


 ルミナスが起き上がりながら声を上げた…

怪我はしていないが魔力枯渇と疲労の蓄積で立っているのがやっとの状態だ。


「もう家族ごっこはおしまいだ……ずっと目障りだったのだろう?」

「何を言っているの?アイリスお願い目を覚まして!」

「ああ…すまない…母様といえども流石に本人に『お前は実の子供ではない』などとは言えないものな」


その衝撃の告白にルミナスは言葉を失う……


「!!なんで……いいえ…たとえ血の繋がりが無くても、あなたは私の娘に違いはないわ」

「…ふふ…あはははは!それは詭弁だ!厄介な疫病神だと思っていたのだろう!その証拠にカイルという便利な魔力の供給先を見つけた途端に人間界に送り出したものな!」

「!それは…誤解よ!貴女の為を思って……」

「はあ……実際もうどうでもいいんだ…欲しいものは手に入ったし……ここにはもう用は……」

『何を馬鹿な事を…奴らを始末する好機ではないか?』


突然アイリスから低い別人の響いた。


「ぐっ…お前…何を…」

『先程から随分動揺しているな?お前が出来ないなら我が始末してやろう』

「やめろ…」

『お前の「カイルを手に入れる」という願いは叶ったのだろう?ならば今度は私の願いを叶えてもらおう』


 一体何が起こっているのだろうか?苦悶の表情を浮かべるアイリスから感情の無い言葉が紡がれる。


「何が起きてる?」

『……!!アイリスの魔力が変質している…!』


チャットルームからアイリスを監視していた紫音はいち早くその変化に気がついた…色で例えるなら白い彼女の魔力が黒に染まってゆく様な印象だった。


「使徒か…」

「はははは…我をあんな下賤な者たちと一緒に考えられては困るな…確かにこの身体はアイリスだが中身は……差し当たってワルプルギスと名乗っておこう」

「理性を持った上に意志までも…神官……いや司祭クラスか」

「さて、アーガイル…その惨めな姿は貴様によく似合っているな」

「しかも性格は最悪ときたか…」



 ワルプルギスから凄まじい魔力の波動が渦巻き全員がその場に釘付けとなった。


「……ヘブラスカ…次はお前の願いを叶えてやろう…」


ワルプルギスが両手を広げて詠唱を始める。


「世界に響け滅びの詩『鎮魂歌(レクイエム)』」

「……何?」

「…何も起きないな…」

「ふふふ…時は来たもう誰にも止められない…終末スキル『世界の終焉(ワールドエンド)


 ………何も起きなかった……この場では、異変は地上で起きていた。








「我は紡ぐ…滅びの詩」


 虚な表情の生徒がゆっくりとした足取りで列を成して集まっていた…


「何が始まるんだ…」


 マードックが物陰から顔を覗かせた…

先程まで暴れていた者達が急に大人しくなり、列を成して集まっているのだ…ここからではその一部しか見えないが都市を囲むように円陣を形成してると思われた。

何処からともなく歌声が聞こえてきた…やがてそれはその場全員の合唱へと変わる


「レクイエム…これは魔界の鎮魂歌だ」


 一緒に付いて来たベルシュレーヌがそう言った。


「うちは結構名のある家だから…葬祭の時には必ず歌われるんだよね」

「でもなんでそれが?」

「待て…様子が変だ」


観察を続けるマードックが異変に気づいた…魔力の出力が異常なまでに高まっていた。


「いかん!!離れろ!あの魔女…!なんてものを!!」


 マードックは隣のベルシュレーヌを小脇に抱えるとキースと共に駆け出した。


「離して!ベラがまだあそこに!!」

「諦めろ!あれは魔法陣の触媒だ!歌に魔力を乗せて展開される『歌唱型構築広範囲魔法陣』…この都市ごと吹き飛ばすつもりだ!」

「マジかよ!」

「なんて事!ベラ!!」


三人の背後から光が溢れやがて飲み込まれた。

学園を巨大な魔法陣が包み、巨大な火柱が上がった。




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