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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
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魔女の宴 5



「『我が騎士カミューリア』に命ずる汝は我が剣…汝は我が盾…汝は我が半身……」


 頭の中に「宣誓の祝詞」が浮かんでくる。

紫音に聞いた言葉とは違うけど……すらすらとまるで知っていたかの様に言葉が出てくる。


「苦難の時も、幸福の時も、試練の時もいつ如何なる時も我が隣に並び我生涯の騎士として共に歩め!」

「…『我が魔女マトリーシェ』我は汝の剣、我は汝の盾、我は汝の半身… 苦難の時も、幸福の時も、試練の時もいつ如何なる時も汝の隣に並び我生涯の魔女として共に進む!」


 カミュも「宣誓」を始めた…ふと、紫音は疑問を感じた。


(…あれ?ヘブラスカの時もそうだったけ?もう少し短い感じがしたけど…お互いに見つめ合い両手を合わせて………結婚式かな?)


「「『魂約宣誓(エンゲージ)』」」



 二人が光に包まれた……光の中で互いの周囲に光が集まり新たな魔装に姿を変えた。

カミュは以前マトリーシェが生み出した『指輪の鎧(リングアーマー)』と同等な全身鎧に身を包み頭部は簡易な額当てのみとなっているが全体的には白を基調とし、清楚な緑のラインの装飾を施してある。

その剣も白銀の輝きを放ち鎧と同様の緑の装飾されたものに姿を変えた。

銘を『豊穣の収穫者(ハーヴェスト)』という。

 一方、マトリーシェの方は身に着けているローブが更に白く、レースの様な装飾に加えてその身体を守る為の

浮遊・甲冑(フロートガード)が生み出された。

その手に持っているロッドは森の木々を彷彿させるデザインで銘を『深緑の賢者(フォレスティア)』と呼ばれる一級品であった。

どこをどう見ても結婚式だった……ご馳走様です。


「はえ〜」


 その見事な変わり様に紫音は何とも言えない声を出した。

同様にもう一人の人物も冷静ではいられない声を出した。


「な…何だ!それは!!『魂約宣誓(エンゲージ)』だと!?」


 レイヴンは動揺を隠せない……自分達の「宣誓」とここまでの違いが出るとは予想もして居なかったのだ。

それは無理も無い、実際に魔女との契約が結べる騎士は稀な存在だ……しかも正確に伝承されている地域は少なく一種の都市伝説的な存在に成りつつあった……その原因はヘブラスカとレイヴンが魔女と騎士の多くを潰して来た事が挙げられるのだが…………

そのヘブラスカ達ですら基本的な『相互(ミーティア)』の契約を行なったのだ。

魔女の存在が禁忌とされた時代であった為、詳しく研究する者が居なかった事も原因であった。

この契約は魔女と騎士の「信頼」と「愛情」が高ければ高いほどその効果は上がってゆくのだ。

隷属(スレイブ)』『相互(ミーティア)』『親愛(ディア)』『魂約(エンゲージ)』と能力は上がっていくのだ。


「全く貴方達はいつも予想を超えてきますね!!」


 その体を完全に再生させたレイヴンが自らの魔装を新たに生み出した……

その表情にはかつての余裕は感じられない……カミュ達を最大の脅威と認識したようだ。


「一千年前の……あの時の借りを返す時が来たな」


 カミュの脳裏にあの時の森の光景が浮かんで来た……

絶体的な力でマトリーシェを目の前にしながら彼女により助けられあの時、自分の力の無さを呪った。

 彼等を倒してこそ、自分の中の時が動き始めるのだ。

そんなカミュの手にマトリーシェの指が触れた……見れば彼女も決意の篭った瞳を向けていた……

ああ…そうだ、僕は一人じゃない……彼女と一緒に未来へと進むのだ。


「『暗き森(シュヴァルツヴァルト)』」


 マトリーシェの詠唱に周囲が蠢き始めた……地面は隆起し木々が地面から凄まじい速度で成長し瞬時に昼間の明るさは失われた……地面には鬱蒼と草が生え周囲には霧が立ち込めていた……


一千年前と同じ、あの暗き森が再現された。


「…ここは…」

「懐かしいでしょう?…貴女が私を殺したあの森よ……さああの時の戦いの続きをしましょう……」

「この様な子供騙し……」

「ふふ……貴女は知っているかしら?暗き森に迷い込んだ者は魔女に食われてしまうのよ?」

「うるさいっ!」


 レイヴンは動揺していた……目の前のマトリーシェは今までの彼女とは別人の様な落ち着きでその振る舞いも洗練されていた。

その隣に付き従うカミュもまた、彼女を守るべく堂々とした佇まいでこちらを威圧していた。

過去にレイヴン達に対峙してきた魔女達の中で間違いなく一番の実力と風格を兼ね備えていた。


「ふふ……楽しんで頂戴ね『深淵の森(ディープフォレスト)』」


 更に彼女の詠唱により木々の間から雲のように霧が押し寄せあっという間に周囲を濃厚な霧が多い視界がほぼ塞がれた。

一瞬にしてカミュとマトリーシェの姿を見失った……レイヴンは神経を研ぎ澄まして僅かな物音にも反応できるように

気配を探った。


「そこか!『剣圧波(サイファー)』!!」


 彼が背後に向けて剣を振るうと数メートル先までその剣先が伸び、その場にあった大木を切り落とした。

今度は隣で物音が聞こえた。


「そっちか!」


 振り返り様に再び剣をふるい、そこにあった巨木を切り倒した。

それを延々と繰り返す……まるで何かに取り憑かれたかの様に…


 やがて、どこからか子供の歌声が聞こえ始めた……


(ー暗き森に迷いこんだ哀れな子ヤギ 早く逃げないと魔女が見てる、そこの木の影から そこの岩陰から、魔女が手招きしているよ、早く逃げないと追いつかれる でもこの森からは逃げられない だってここは魔女の森ー)


それは周辺の町や村に伝わる子供達に広がった童話の一説……都市伝説とも呼べるその内容は……自分達が行なった結果「暗き森の魔女」として魔界の住民に広まった昔話……レイヴンはその呪いを初めて体験する被害者となっているのだ。


「うるさい!うるさい!うるさい!」


背後に気配を感じた例文は振り向きざまに鍵を横なぎに振り向いた

しかしそれは盾によって受け止められる。


「流石ですね…しかしこんな小細工……を……」


 レイヴンは驚きに目を見開く、相手はカミュでもなくマトリーシェでも無かった。


「レイヴン様…酷いですよ…魔女を無力化出来るから……簡単な仕事だって言ってたじゃ無いですか……」

「お前は……」

 

 千年前、マトリーシェを狩るために派遣された魔剣王の国の兵士だった。


「そうですよ…俺達…まだ報酬も貰ってないですよ…」


 更に背後からも一人二人とその数は増えてゆく…

兵士、傭兵とその数は増えてゆく…その全てがレイヴンに呪言を口にしながら。


「くっこれは何だ?幻術か?!」


 しかし兵士達から繰り出される攻撃は本物としか思えない。

しかもこの兵士達、そこまでの実力は無い連中だと記憶していたが、剣を交える事で彼等は自分と同等の力を持って居る様に感じ取れた。

 しかし、レイヴンはへヴラスカの騎士として負ける事は許されない。


「いいだろう!お前達!私を倒せるものならやってみるがいい!」


 レイヴンは自身の魔力を解放し目の前の兵士を力任せに両断した。

雄叫びを上げながら次々と現れる過去の亡霊達を切り伏せた。

そんな戦いが続き、全員を倒し切った。


「意外だな……」


 その声に振り返るとカミュが立っていた。


「こんな子供騙し…」

「いや…大した物だよ」


 皮肉かと思ったが、カミュは真剣に感心している様子だった。


「……何をした?」

「この魔法……『暗き森』ってのは……己の心の中の写し鏡だ……自分の中の仄暗い気持ちを増幅させて見せるんだ……お前はこの森からあの兵士達を心に生み出した…あれはアンタが生み出した心の中の贖罪の形だ」

「…贖罪?…私が?あの連中に?」

「ずっと不思議だったんだ……レイヴン…お前ほどの力があるのに……何故こんな回りくどいやり方を?」

「………」

「マリーが狙いだったにしても俺達が力をつける前に全てやり遂げる事が出来た筈だ」


 カミュを戦場に送り英雄になどする必要など何処にも無い…ただカミュが経験を積んで強くなっただけだ。

マリーもポーションを作り魔術の知識を高めただけである。

更には互いが心を通わせ、魔女の騎士に至るほどである。

それこそ、初めて森に来た段階でマリーを連れ去って仕舞えばその後の障害は何も無かった筈だ。


「…止めて欲しかったのか?」

「はははは……何を言い出すかと思えば……貴方の言う様にそう出来ていればどんなに楽だったでしょう、ただこちらの準備が出来ていなかっただけですよ……」


 レイブンが周囲に視線を向けた……微かに魔力の動きを感じる……このまま戦ってもマトリーシェの魔法が最大の脅威となる……結果が見えている戦いだった。


「カミュ…ここで決着をつけましょう……私はお前を切り伏せた後、お前の魔女を殺す……お前達を倒さないと、私の最愛が殺されてしまうからな……」

「……そうか…ならば互いの惚れた女を守る為に戦う……お前を斬る為に十分すぎる理由だ」


 レイブンは中段に構え、カミュは剣を鞘に戻した……居合の構えだ。 

互いの体に剣気が満たされてゆく……次に放たれるのは互いの持つ最大最強の技だ。



「今は無き魔女帝国ヘヴラツィカ女帝ヘブラスカ付き守護騎士レイヴン」

「暗き森の魔女マトリーシェの守護騎士カミュ」


「「参る!!」」



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