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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
159/240

魔女の宴 4


位置交換(シフト・チェンジ)


ニャオンから合図に紫音は眷属との位置を入れ替える固有スキルを発動した。

目の前に現れた紫音にマトリーシェは驚きに目を見開いた。


「貴女……一体……」

「ええっと……」


 なんで私は抱き抱えられているのでしょうか。













「紫音ちゃん…多分貴方達は足止めされるわ……彼女の元には辿り着けない」


 移動中に突然イヴが真面目な話をし始めた……どこかぶつけた?


「んっ!至って真面目な話よ!貴方は『見た』のよね?その力で……マトリーシェの記憶の中を」


 きっとあの月明かりの中でカミュが真名を告げる場面の事だ。

その前後の内容に付いては黙秘します。


「その事実を彼女が思い出せば『魔女の騎士』としてあの二人は戦える……ヘブラスカはそれをきっと邪魔するはずよ…その記憶に封印がかけられている事からも明らかね」

「でも……あの騎士がそこまで考えるかな……」

「それは見せかけよ…それに今回の黒幕はレイヴンではないわ……全ての元凶はあのヘブラスカよ」

「……どうすれば?」


 こちらを見たイヴはとても良い笑顔を浮かべた。


「貴女の猫ちゃん…影の中を移動出来るわよね?私が道を作るからそれを使ってマトリーシェの所に行かせて?」



 宣言通りにイヴは岩を殴り地面に道を作った……大層な名称の攻撃だったが……投石だった。

しかし攻撃と揺動を合わせたかなり有効な手法である事は否定はできない。

これが脳筋と言うやつだろうか?

隙を見てニャオンをマトリーシェの元へ向かわせた。


「ニャオン…気をつけてね…着いたら念話で合図を…」

「任せるにゃん!」


私の影の中から現れたニャオンは元気に岩の影へと飛び移って行った……











 魔女の騎士として覚醒したレイヴンは前とは比べ物にならない程強くなった…特に魔力が膨れ上がり、カミュの剣技でもマトリーシェの魔法でもその障壁を破る事ができなかった。


「やばいわね…」

 

 マトリーシェはいくつかの魔法を候補に考えるがどれもその障壁を破る事ができても本体にダメージを与える事が出来ない可能性がある……

カミュも同様に同じ答えに行き着いた……ならば取る方法は一つ…互いに視線を交差させると行動を開始した。

 カミュは剣を鞘に戻すと気を研ぎ澄ました……体内に「剣気」を練り上げるのだ。


蠢く螺旋岩(ストーンセンチネル)

 

 マトリーシェの詠唱に呼応して魔力が強固な岩の塊を形成する…それが高速回転を始め魔力を帯びさらに研ぎ澄まされ細い槍状のへと変質する。


「穿て!!」


 号令と共に六つ岩の槍がレイヴンへと殺到する。

しかしその障壁に阻まれ表面で火花を上げる……やがて赤い火花が黒い火花へと変色した。

障壁の魔力を削りとっている証拠だった……しかしマトリーシェの作り出した岩も同様に削られ魔力へと変換されていた。

やがて周囲に高音が響き始める……


「これはっ!?」


それぞれの岩の回転摩擦により同一の周波数帯が生み出され共振を起こしたのだった。


粉砕(クラッシュ)


マトリーシェの掛け声に岩が一斉に爆破された…共振によりその衝撃はさらに上乗せされ、強化された魔法障壁といえど無事では済まなかった。

その衝撃によりレイヴンの魔法障壁に歪みが生じた。


「今よ!」


 その声に反応し、意識をカミュに向けるとすでに目の前まで迫っていた


「絶剣!」


 至近距離からの高速の居合いだった。

通常であればそれは障壁で遮られる筈だが……彼はそのまま遮られる事なく振り抜いた。


「マリー!」


 彼の声に再びマトリーシェが動き出す。


「隠蔽解除!『完全なる(パーフェクト)不可視化(インビジブル)


 その背後から長い立体魔法陣が姿を現した…一言で表すなら「砲門」であった。

中心にある長方体の立体魔法陣には「真空化」の魔法が施されておりその周囲を高速回転している物体は

磁力・加算(プラス・マグネア)」と「磁力減算(マイナ・マグネア)」である。

それらが高速回転する中心に生み出された力場に集中した力は高威力を保っていた。


(あれはマズイ!!)


 レイヴンは本能的に危険を察知した。

咄嗟に回避行動を取ろうとして……体の異変に気づいた。


「!!がっ!!……これはっ!!」


 そこで自身が切られている事に気付いた。

先ほどのマトリーシェの魔法により結界の一部が弱体化した箇所を狙って剣戟を叩き込まれたようだ……


やがて遅れて周囲を囲む結界が音を立てて砕け散った……あまりの高速の剣尖に結界が破壊された事を認識するのに時間が有した様だ。




極限臨界電磁砲(マグネアレールガン)



 魔力が臨界を迎え、圧縮された高密度のエネルギーがレイヴンに向けて発射された。

 その場から逃げる事が出来ないと判断したレイヴンは両手に魔力を集中させて局所的に強固な結界を作り出した………そして光の奔流に飲まれた。


「やったか?!」


 お決まりの台詞を口にした後、煙の中にうごめく姿を見て二人はうんざりとした表情を浮かべた。


「あいつほんとにしぶといな!」

「まったくだにゃ!」


 自分の呟きにすぐ隣で返事をする存在がいた。

マトリーシェは視線を向けると自分の隣で黒い生き物がこちらを見ていた。


「ネアト?」

「紫音の使い魔のニャオンだにゃ!」


 黒猫が飛びついてきた……反射的に受け止めて気がつけばその頭を撫でていた……ああ…ネアトは触らせてくれなかったけど……やはりモフモフは正義ね。

 ニャオン気持ち良さそうに喉を鳴らしていたが急に何かを思い出した様に指を当てて念話を始めた。


位置交換(シフトチェンジ)

「えっ?えっ?」


 マトリーシェは突然の出来事に慌てた……先程まで腕の中に居た筈の猫が紫音へと姿を変えた……変身ではない……転移?位置交換?

確か…過去の記憶ではネアトと契約したカミュが召喚という形でネアトを呼び出していた……アレに近いものだろうか?


(お互いの位置を入れ替えるなど……聞いた事が無いが……)

「ちょ…もういいですかね?」

 

 おっと……いかんいかん…混乱の為かそのまま紫音の頭を撫でていた……意外にこの娘も触り心地が……そう思いながら足元に降ろした。

紫音は立ち上がると私の両肩を掴んだ。


「マ、マトリーシェ!あの夜の記憶を…思い出しちぇ!!」


 噛んだ……なぜか耳まで真っ赤にして……涙目だった……


(あの夜……?どの夜だ?……この娘との夜………と、言うことでは無さそうだけど……このタイミングではカミュに関係する事か…………!!まさか…彼と食事していた時に水のコップをすり替えた事?……それともカミュが寝た後に明日洗うと言って放置して置いたスプーンをぺろぺろした事?!…さては戦場に行った後寂しくて保存して置いた彼のシャツの匂いを嗅いだ事?!……どれだ?心当たりがありすぎる!!)

「多分……それは違うと思う」


 血の気の引いた顔で震える彼女を見てなんとなく違うことを想像しているように思えた。


「彼の真名を聞いた時の話だよっ!」

「しんめい?」







 マトリーシェの脳内に緊急チャットルームが開設された。

参加メンバーはマトリーシェ・マリファ・マリータ・ガンマトリーシェである。


「はーい今回の議題はカミュの真名についてです……心当たりのある方は挙手!」


 全員がむむむ…と考え込む……誰も知らないらしい。


「どうやら夜の出来事らしいです」

「夜…と言う事はカミュが一緒にいた時期限定だよね?」

「そうだな……真名と言えば…かなり大事な事だ…大事な夜…?大事な夜……!!」


 その単語にマリファ、マリータ、ガンマリーの三人は何かに思い至り、耳まで赤くなった。


「えっ?何?どしたの?」

「えっと…通信が繋がらない夜があってね……カミュが戦場から帰ってきた時……その…二人が…一線を超えた夜を過ごしてて…」

「そうそう……二人の影が一つになる〜みたいな」


んん?なんとなく表現が古くさくてわかりにくいな…

一線を越える?……反復横跳び?……影が重なる?……影絵かな?

考えを纏めるためにお茶を口に運ぶ……

他の二人は『暑いね〜』とか『若さよね〜』とか言いながらぎこちなくお茶を口に運ぶ。


「ガンマリーは何か知ってる?あの時はまだ私と一緒にいたよね?」


 私の問いかけに寡黙な存在のガンマリーがびくりと反応した……耳まで真っ赤だな。


「……あぁ確かにあの時はまだマリーの中に存在していたな……しかし私は負の感情を集める存在だったので……それ以外の感情は……あまり覚えていない」

「そうか……」

「でも……あの夜は確か交尾していたな」


 彼女以外の三人が盛大に口に含んだお茶を噴いた。


「ちょっと!ガンマリー!!言い方!」

「そうだよ!マリーはまだ耐性が低いんだから!」

「こここここここっ交尾?えっ……交尾!?交尾ってあの?あれを!あれして!あれする?あれのこと?!」

「「「……肯定」」」

 

 しばらく放心していたマトリーシェの頭から「ボムッ」と桃色の煙が立ち上った。

そのまま椅子ごと後ろに倒れた。


「「マリー!!」」

「しっかりしてマリー!!」


 三人が慌てて介抱を始めた。









「こここここここここ交尾!!えっ!?いつ?私とカミュが!?」


 突然声を上げるマトリーシェに紫音と近くに来ていたカミュはびくりと体を震わせた。


「マリー大丈夫……え?交尾?覚えて…いない…?」

「えっとその…その後!その後の話!」


 今だに思い出せないでいる彼女の横でカミュに説明をした。

恥ずかしそうにしている彼だが記憶が無いと聞くと何とも言えない微妙な表情を浮かべた。


「……そうか…ヘブラスカに封印されているのか…僕からはもう告げられないから思い出してもらうしか……」

「……ソウデスネ」


 なぜ私はこんな所でカップルの性事情について話し合っているのでしょうか……


「何故そんな大事な事を憶えていないの?カミュ!私ちゃんと出来てた?!変じゃなかった!?」

「いや肝心なのはそこじゃなくて!その後の出来事だからね!!」


半泣きで喚く女と必死に慰める男……


「なんだ……この修羅場は……」


 頭を抱える紫音は立ち上がるとマトリーシェに近づいてその頭にチョップをかました。


「落ち着いてチョップ!」

「あ」


 彼女の頭からガラスが砕ける様なエフェクトが現れて消えた……「結界破壊(シェルブレイク)」が発動した。




(あれ……ここは……)


 チャットルームで気絶した後…混濁した意識が流れ込んできた。

安定しない浮遊感に身を委ねているとどこからか声が聞こえてきた。



『……マリー……私は貴女には感謝しています……奴隷である私を解放し……感謝しても仕切れません……魔剣王は私が説得します……だから私を信じて待っていてください……』

『…うん…』

『……よく聞いてください……『カミューリア・ウェルディアス・アルヴァレル』私の『真名』です』

『?!真名……あなたなんて事を!!』


(ああ……そうだった……カミュと結ばれて…カミュから真名を聞いた……だから私は『魔猫の咆哮』を教えて……そうか……カミュは妹を助ける為に…全部…あいつらの仕業だったのか……)


全ての記憶が彼女の中で繋がった……








 私を呼ぶ声に目を開けた。


「マリー!」


 目の前には愛しいカミュが真っ直ぐな視線を向けていた……貴方は出会った時からそう……ずっと私を見てくれていたものね……


「ありがとう…カミュ……カミューリア…」

「!!マリー記憶が……」

「ええ……思い出したわ……ありがとう紫音」


 マトリーシェはゆっくり起き上がる……レイヴンに視線を向けると先ほどの傷がほぼ回復しつつあった……


「もう終わらせましょう……紫音…お願いがあるのだけど……」













「ぐうううっ……」


 恐ろしいまでの魔法だった……ほぼ全て魔力で障壁を展開しなかったら消し飛んでいたかもしれない……


(わが主ヘブラスカよ…我に魔力を…)


 彼女に願いを送り、魔力が供給された。

立ち上がり目の前を見るとマトリーシェとカミュが手を繋ぎ立っていた。


「全く貴女は恐ろしい程の魔法の使い手ですね…この状態でここまでのダメージを受けるとは思いませんでしたよ」

「貴方もうんざりするぐらいのしぶとさね…でも……終わりにしましょう」


 彼女の言葉に何か決意めいたものを感じた……そうか…『思い出して』しまったのか……

過去にも魔女の騎士と戦った事はある…互いに主人からの魔力を得た騎士は格段に強化される……

だがヘブラスカを超える魔力を持つ魔女は存在しなかった為、その魔力を共有するレイヴンは敗北した事はなかった。

だが…この娘の魔力は底が知れない……その騎士となるカミュの力もまだ未知数だ……

久しぶりに命をかけた戦いにレイヴンの心は踊った。







「……カミュ……ありがとう……こんな私について来てくれて……面倒な女でしょ?」

「こちらこそだよ……そんな君だからこそ…愛しているんだ…」

「…私も…愛してる……」

「……………」


 戦闘が始まるのかと思えば突然の桃色空間な状況に、咳払いの一つでもすればいいのかと考えたが……ここは空気に徹するのが最適解ですね………私は空気読める系女子ですから……

ふと、先ほどからイヴが静かなのが気になった……絶対こんなシーンは大好物だと思うのですが……

意識をチャットルームに向けて……切り離した。

ああ……シロン…クロン……貴女達の犠牲は無駄にはしないわ……


(犠牲ちゃうわ!てか、この女なんとかしろよ!ちょ…どこ触って……)

(紫音!早くこの女どうにか……やッ…やめ……)


………もう一度言おう……貴女達の犠牲は無駄にしないわ……



「『我が騎士カミューリア』に命ずる汝は我が剣…汝は我が盾…汝は我が半身……」


 マトリーシェによる『騎士の宣誓』が始まった。




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