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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
158/241

魔女の宴 3


「!!リット!四番の結界に魔力を!アネモネ!二十番から二十五番まで魔力を遮断して!ネル!もう少し魔力を上げて!」


 結界の外はそこも戦場であった。

幾ら強力な結界とはいえど、破れないわけではない。

破られない様にしているのだ、内部での戦闘の余波を受け、破損した箇所を瞬時に修復し、内部の魔力の流れを読み取り次に戦闘でダメージを受けそうな場所を先読みして魔力により補強していたのだ。

それらの演算を一人で請け負うルミナスの負担は凄まじいものだった……以前の彼女ならば決して出来なかっただろう……

しかし新たなスキルを得た今の彼女には可能だった。

並列思考スキル「ルミナリス」

かつては敵として対峙した存在だが、アイリスの中に取り込まれた自分の魔力が姉としての役目を果たしていた事にある種の感動を覚えていた。

そんな彼女ともう話す事も出来ないと思うと心が痛んだ。


(お姉様…何を言っているのですか?)

「ふわっ?!…ルミナリス?」

(はい、貴女の忠実な犬、ルミナリスでございます)


 ルミナスは困惑した…つい先ほどその肉体を維持できずに私の中に魔力なって消えていった筈なのに……


(どうやらお嬢様の中でスキルとして再就職できたようです)

「!!ならばまた……」

(いいえ、私はすでにスキルとしての存在であり再び肉体を持つことはできません…お姉さまの中でしか存在できない存在なのです)

「そう……でも心強いわ!頼むわよ!」

(はい、お任せください!)


 正面のアネモネに視線を向けると嬉しい様な…複雑な顔をしていた……私同様、彼女の中にもモネリスがなんらかの形で存在出来たことは容易に想像できた。


「さあみんな!ここが女の見せ所よ!!」














 閃光と轟音が収まり辺りには土煙が立ち込めていた……私たちはイヴの残した結界とに守られていた。

ヘブラスカのいた場所にはボロボロの黒い残骸が残っており、

何かの衝撃でそれは崩れ去った……イヴの姿も無い…どうやら星になった様だ。


「倒した…?」

「紫音…フラグを立てるなよ…」


 紫音の呟きに隣のイリュがツッコミを入れた。

彼女のその腕には伊織が抱き上げられており詩音の側にゆっくりと寝かせた……紫音が直ぐに治癒魔法で治療を始めたのを確認するとその視線を前に向けた……


『ふぅ…恐ろしい奴だったわ…私がここまで苦戦するなんて』


 詩音の隣でイヴの声がした…無事だった様だ。


「……自分から突撃していった様に見えたけど…」

『まっまままままさかっ!!そんな訳……』

「どんだけ動揺してるんですか……」


 呆れ顔で隣を向くとイヴではなくアイリスとイリューシャが呆然とこちらを見ていた。


『だ…だってアイリスたんと握手したんだよ?生アイリスたんだよ?』

「…………」


 この声はどこから聴こえて来るのだろうか……

恐る恐るアイリス達の視線の先の私の右肩に視線を向けた。

そこにはつぶらな瞳がうるうると何かを訴えていた………イヴの魔導魔眼だ。


「な…なんでイヴさんの眼がこんな所に……」

『いやー危なかったー!もうちょっとで消滅しちゃうとこだったよ!』

「おい変態…早く紫音から離れろ」

『イリュちゃん…そんなこと言わないでよ!今はまだカイルの所にはまだ戻れないから…暫く保護してよー』

「お前のような変態と一緒にいると紫音が汚れる」


 どうやらイヴさんはイリューシャからの評価はすこぶる悪いらしい。


『そんな事言っていいのかしら?イリュちゃんも覚醒状態になったとは言えこの相手は骨が折れるわよ?紫音ちゃんもちゃんと守っておかないと後でカイルに叱られちゃうし』

「むっ…」

『それにそろそろ紫音ちゃんの準備も終わるし…』

「ちっ……わかったよ…今回だけだぞ!ちゃんと紫音を守れよな!」


 どうやら交渉は成立したようだ……私の意見を除いて………




 視線の先…残骸のその後ろで地面が蠢きヘブラスカがゆっくりと立ち上がった…その姿は先ほどの竜人種の様な歪な姿ではない…千年前、カミュ達の前に蘇った時の美しい姿だった。

 

「やっと本性を表したって事か……」

「正直…貴女達にこの姿を引き出せると思って無かったわ…」


 ヘブラスカはゆっくりと立ち上がるとサッと手を振る…魔力が体に纏わり付き、黒いドレスとなった。


「あらっ?…レイヴン…苦戦している様ね?」

(申し訳ありません…ヘブラスカ様…)


ヘブラスカがこめかみに指を当てると何処からかレイヴンの声が響いた……


「その子達は強いもの…だから本気で相手をしてあげなくてはね…『我が騎士「レイナーヴェルン」に命ずる!その力を示せ!』

(仰せのままに……)














「仰せのままに……」


レイヴンが何かを呟くとその体から今までとは比べ物にならない程の魔力が噴き出した。


「!!」


 マトリーシェの魔力の拘束具が一瞬で破壊され,その姿は掻き消えた,

次の瞬間カミュの背後に現れたレイヴンはその腕を振り下ろし,咄嗟に構えたカミュを弾き飛ばした。


「カミュ!!」

「おや…反応できるとは思いませんでしたよ……」


 先ほどと変わらぬ態度で語るレイヴンの姿に警戒の色を強めた……


「ああ…先ほどの話の続きですが……私は何も企んでなどいませんよ?私は全て我が主人へブラスカ様の為に働く忠実な僕ですので……」

「……全て…予想通りだと言いたいの?」

「いえいえ…想定外の事だらけですよ……」


 まるでお前達など脅威にならないとでも言う様に余裕を見せ、レイヴンは語り始めた。


「本来貴女はあの森で悪しき魔女として生涯を終える予定でした……その過程でヘブラスカ様が徐々に侵食しその身体を乗っ取り転生を果たす筈でした……それがそこの小僧が現れて……貴女の妹も巻き込んでしまいましたが……予定通り戦争は起こり、貴女は悪しき魔女として打ち取られた……あの『使徒』達の邪魔も予定外でしたが……私も一度殺されてしまいましたし……時間はかかりましたが今こうしてヘブラスカ様は転生し最後の仕上げの段階ですよ」

「…最後の仕上げ?」

「…アイリスを取り込むつもりだ……」


 よろよろとカミュがマトリーシェの側に来るとそう告げた。


「ええ…あの『使徒』達のお陰で…素晴らしい存在を見つけましたよ…千年待った甲斐があると言うものですよ」

「貴女達は何をしようとしているの?」

「ふふふふ……楽しい魔女の宴ですよ」












「…さて…向こうは私の騎士が始末してくれるわ…次は貴女達の番よ」


 ヘブラスカが向き直る……それを正面からイリューシャが睨み返す。


「そう簡単に出来ると?」

「さあ?どうかしらね」


 睨み合いが続いたかと思うと一瞬で二人の姿が掻き消えた。

周囲から何かがぶつかる音,火花,魔法の残滓,戦闘音だけが響き渡っている。

紫音達はイリューシャの『白炎』の結界により護られてはいるが……


「一体何が……?アイリス?」


 そういえば先程からアイリスの反応が薄い……気になった紫音は隣の彼女の様子を見る……顔を青くし彼女が震えている。


「アイリス!大丈夫?!」

「……紫音……わ,わた,私……こ,怖い……」


 彼女の手がシオンの腕を掴む……余りの力の入れ様に紫音を顔をしかめた。


「っ!……大丈夫よアイリス!……イリューシャが守ってくれているから……」

「…違う!違うの!!紫音!私……怖い!!」


 一体何に怯えているのだろうか?紫音は成す術も無くただ彼女の背中を優しく撫でるだけだった。










黒蛇ノ牙(スネイクバイト)


 ヘブラスカの手から放たれた黒い雷の様な閃光は蛇の形となりイリューシャに殺到した。

追尾型の魔法な為かどこまでもイリューシャを追いかけて来た。

内心,舌打ちするとイリューシャはその手を横に払った。


「白炎・捕縛焔」


 空中に白い炎が走りその場でヘブラスカの蛇を捕縛し,その炎で焼き尽くした。


「黒炎・点穴爆」


 イリューシャが手を広げると小さな黒い粒子がヘブラスカの周囲に広がった。

それを見たヘブラスカは驚き,瞬時に防御結界を張り巡らせる。

瞬間 空間が爆ぜた。

 小さな黒い粒子が起爆し,周囲の粒子を巻き込み誘爆した。


「…お前…面白い技を使うな」

「お陰様でな」


 焔魔族に祀られ神剣としての神格を得た『アグシャナ』の使う『白炎』は想像と再生……癒しと守りに特化した魔炎術である……それは焔魔族だけが使える一族のみの固有技だ。

一方憎しみに囚われ続けた『ガンマリア』が生み出した対となる炎『黒炎』は破壊と混沌……攻撃に特化した技である。


「これはこれは楽しい戦いになりそうだな…おっと!その前に……」


ヘブラスカが指を鳴らすとアイリス達を包むの結界の周囲に黒い柱が突き立てられた。


混沌結界(ケイオスゲージ)

「貴様っ!!」


 それを見たイリューシャがヘブラスカに斬りかかるが突如眼下から現れた漆黒の壁に阻まれた。


混沌領域(ケイオスフィールド)


 ヘブラスカの次の詠唱にイリューシャの周囲が揺らぎ、彼女の四方八方から凄まじい勢いで石の柱が飛び出した。

咄嗟の判断でそれらを剣で切り崩すが、あまりの早さにやがて背後より強烈な一撃を受けてはじかれてしまった。

そしてピンボールのようにその場であちこちに端に飛ばされ最後には石の手に変化した物に掴まれてしまった。


「イリュ!!」

「全く話の最中に…躾のなっていない娘だね……さて紫音…別にお前達に危害を加えようって訳じゃないよ……ただそこから逃したくないだけさ……特に紫音……お前は見たのだろ?秘密の部屋での内容を?だからまトリーシェに会わせたくないのさ」

「秘密の……?………!!!!」


思い出して顔から湯気がでた。


「その反応で間違いないな…そうだ…あの場でカミュはマトリーシェに真名を捧げた…私も同化していたからその場の記憶はあるからな……」

「あなたも知ってるの?」

「いや……名を捧げられた魔女本人にしか聞こえていない…どんな仕組みなのかは私も知らないがね……もしかしてカミュがもう一度宣言することを期待しているかもしれないが……名を捧げた騎士も自分の真名はもう口にすることはで出来ないのさ…魔女がその名を口にして命じるしかないのさ」

「命じる?」

「我が騎士何何〜こうしろってね」


自分が絶対的優位に立った事で気分がいいのかヘブラスカは紫音の質問にすらすらと答えた。


「じゃあ……さっきのが『魔女の騎士』への命令ね……」

「そうだ……私の騎士「※※※※※※※」……真名を告げて命令したのさ…」

「どうなるの?」

「名前を捧げた騎士は魔女の恩恵を受ける……今レイヴンは私の魔力を共有しその能力も向上しているのさ」


 紫音にはレイブンの真名部分は聞こえなかった……ヘブラスカの語る魔女の恩恵は大きく3つ。

「魔力の共有化」…膨大な魔女の魔力を共有し使用できる。

「魔法効果の共有」…自身にかけた支援効果が相手にも適用される。

「互いの能力の向上」…騎士には魔法効果特性が…魔女には体力的な能力特性が向上する。


「リスクもある」

「リスク?」

「戦闘職である騎士が受けたダメージも魔女側と共有してしまうのだ…」

「じゃあ…向こうで貴方の騎士が怪我すると貴方にもダメージが?」

「ふふ…そうだ…だが今の状況ではそれはあり得ないな」

「そうか……だからカミュがマトリーシェの騎士になるのが困るわけね」

「そうだ…お前達がここにいる限りそれは無いがな」


 ヘブラスカは気分良く笑った……それに釣られて紫音も笑顔を浮かべた……その表情に違和感を覚えた。


「……紫音…何を企んでいる?」

「いろいろ教えてくれてありがと……やっぱり長く生きて居るだけあって博識だね…」


 その今だに希望を捨てていない表情にヘブラスカの心はざわめいた。


「アイリス……行って来るね……」

「…紫音…頑張って…」


 隣で今だに震える彼女にそう告げると立ち上がる。


位置交換(シフト・チェンジ)


 紫音がそう告げるとその姿は掻き消えその場にはアイリスと………

一匹の猫が取り残された。






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