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魔眼の使徒  作者: vata
第二章 暗き森の魔女
155/241

開幕

「お姉ちゃんどこ行くの?」


 下の妹***に見つかり声をかけられた……

さっきまで遊んでいた癖にめざとい……


「今日はお姉様の結婚式でしょ?花嫁になるお姉様に私は森の花束を贈りたいの…だから森へ…」

「私も一緒に行くっ!」

「だめよあんた絶対帰りに歩けないって言うでしょ」

「ちゃんと歩くもん!私も行きたいもん!」

「はははじゃあ***は僕と木苺を取りに行こうか?」

「行く!※※と一緒にいく!」


 助け舟を出してくれたのは隣に住む幼なじみの**だった。

我が妹ながら現金な奴め…木苺たらふく食べる気だな……じゅるり


「ごめんね**……全く***ったら…」

「大丈夫だよ…それこそ…君の方こそ気をつけてね間違っても魔法なんか使わない様に……」

「当然よ…最近は帝国の奴らもうろついてるって聞くし…」


 この時代、女性が魔法を使うことは禁忌とされていた。

許されていたのは治癒の奇跡と守りの法術を使う僧侶のみとされていた。

女性の方が魔力も質も男性より高く、魔女は男を滅ぼす存在と言われていた……その為攻撃魔法を使用する魔女は討伐対象とされており

帝国全土で魔女狩りがおこなわれていた。

 ここは魔界の辺境の地の村…魔女達の隠れ里とも言える場所だった。

魔女と言っても釜に火種を起こしたり水瓶に水を溜める…風を起こし洗濯物を乾燥させるなど攻撃に程遠いものばかりだった。



私以外は




「これだけあれば大丈夫かな?」


カゴの中一杯の花を見てそろそろ村に帰ろうと歩き出した。

そこに木々を押し分けるように巨大な熊が現れた。


「グアアアアア!」


威嚇の咆哮をあげる…

普段この辺に出てくるような答えでは無いのだけど

私は指の先に魔力を集めるとクマに向けて振り下ろした


「うるさい……『弾丸(バレット)』」


 それは熊の脳天を貫き,即座にその命を奪い去った……

熊はゆらりとその巨体を揺らすと大きな音を立てて倒れこんだ。


「思わぬところで食材もゲットしちゃった」


 そのまま熊を異次元収納に収めこむ。


「それにしても今日は森がざわついているわね……?」


 木々の間から何か焼ける匂いがする…火事?

進むにつれてその匂いは強くなる……木々の焼ける匂いに混じり……生き物の焼ける匂い…この方角は……


「村だ!!」


 私は籠を放り出し走り出した。

枝があちこちに当たり傷になるのも構わずに村の見える丘まで出た。

村から火の手が上がっている…一つや二つではない


鷹の目(ホークアイ)


 燕子の魔法で村を見る……逃げ惑う村人達と鎧を着た兵士達がそれを追いかけて……その手の剣を振り下ろした。


「!!」


 それを見た瞬間,目の前が真っ赤に染まり怒りの感情に飲み込まれた。

飛行の魔法を使うとすぐさま村に向かって飛び立った。


蒼穹(ファフナー)


 その手から光の矢が放たれ兵士達を撃ち抜く。

やがて私に気づいた兵士達がこちらに向かって叫びを上げた


「魔女だ!魔女が出たぞ!」


 私は村の中心に降り立つとその周囲を兵士たちが取り囲んだ

彼らから放たれた弓は防御壁が弾き飛ばした。


「よくも皆んなを……」


 殺意に満ちた魔力を練り上げた時、その声が聞こえた。


「お姉ちゃん!」


 その声にハッとする。

そこには妹と幼なじみ…姉様達家族が囚われていた。


捕縛(バインド)


 その隙をつかれて魔力鎖により捉えられてしまいその場に転がった。

あの魔術師…後で殺す…


「魔女を匿うとは…重罪だな!」


 司令官らしきエラそうな男が前に出てきて私の頭を踏みつけた。

この司令官…絶対殺す。


「!やめて!私の妹を放して!!」

「ぐぐ…姉様……」

「ほう…お前達は姉妹か……成程成程……ならば貴様も魔女だな」


 私たちの前に飛び出した姉様を司令官の男が値踏みする様な目で見ると姉様に剣を振り下ろした。


「え……」


 私は目の前の光景が信じられなかった……

純白のドレスを着た姉様が真っ赤な鮮血の華を咲かせて地面へと倒れ込んだ。


「やれ!魔女の一族は皆殺しだ」


 その声と同時に周囲の兵士たちが一斉に剣を振り下ろした。

村長さん……

猟師のおじさん……

薬屋のおばさん……

お父さん…お母さん……

私の妹***……


「やめて……やめてええええ!!」

「お前もすぐに仲間入りだ!」


 司令官の男に蹴り飛ばされた私は姉様の隣へと転がった……


「がはっ!…!姉様!!」

「……ヘラ……貴女は…逃げなさい……出来るでしょ?……」

「姉様喋らないで!血が!血が!」

「…貴女は…逃げて……皆んなの…『フクシュウヲハタスノダ』…ってね……」


姉様はその目を閉じて動かなくなった。


「姉様…!姉様……」

『サア…フクシュウダ!ミナノカタキヲウツノダ!』

「復讐……そうね…姉様の遺言だもの」

『ソウダ!フクシュウダ!』


体から悍ましい黒い魔力が溢れた。
















「……」


 気がついた時には全て焼け落ちた村の残骸があるだけだった……


「皆んなは……そうだ!…」


 彼女の妹を庇い兵士に斬りつけられた……どうやら気を失っていた様だ…

傷を庇いながら村の中心へと歩いてゆく…途中で見かけた村の知り合いはみんな死んでいた。


「!!ヘラ!」


 村の中央には帝国の騎士の死体が散乱していた……正確には帝国の騎士だったモノが……だ。

その中心に血に塗れた彼女が居た。

駆け寄りその身を案ずるが返り血のようだ………返り血?


「ヘラ…これは…君が……」

「レイ……『魔女』って悪い存在なのかな?私達はただみんなで楽しく生活していただけなのに……姉様が言ったの……『皆んなの復讐を果たしなさい』って」


 僕はかける言葉を見失った……彼女の優しい姉がその様な事を……いや…この有様を見ればそう言ったとしてもおかしくは無い……もう何が正しいのかわからない。


「ねえ…レイ…私決めたの…『魔女』を認めない帝国の奴らに…『魔女』の恐ろしさを教えてやるの!」

「ヘラ……うん……そうだね…わかったよ…僕も手伝うよ」


 わからない…でも…僕の好きな彼女だけは失いたくないから……彼女のすることを手伝おう……

僕は近くに転がる騎士の剣を手に取ると彼女の前に膝を付き剣を額に当て、昔母の言っていた言葉を思い出しながら宣言した。


「『魔女』ヘブラスカよ!我が名は『レイナーヴェルン』魔女の騎士として我が真名を捧げる」

「レイヴン……貴方も手伝ってくれるの?」






 その日、ひとつの村が消えた。

その五年後、『魔女』ヘブラスカが帝国皇帝を討ち取り魔女の至上国家が誕生する。

その歴史は血と殺戮に満ちており彼女が討伐されるまで三百年間 地獄の時代の始まりだった。




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